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男色ディーノのゲイムヒヒョー:其の五拾参「嘘つきはエンターティナーの始まり」
エンターテインメントの質は「いかにうまく嘘をつくか」がポイント。となると,一流のエンターテイナーは大嘘つきでもあるわけですよね。って,そう思って一流とされるプロレスラー数名の顔を思い浮かべた瞬間,思わず納得。まあそんなことはさておき,今週は男色ディーノ的エンターテインメント論を,「インフィニット・ループ 〜古城が見せた夢〜」に絡めてお届けします。
最近凶悪犯罪が多いじゃない? 私はゲイム好きだから,そういう犯罪をゲイムのせいにするような論調には個人的に賛成できないんだけど,実際に道行く人々を理不尽に殺傷できるゲイムが存在しているのは紛れもない事実。
では,そのようなゲイム,もしくはゲイムを作る人達が世間に影響を与えているのか,という問いには私は「NO」……と言いたいところだけどあえて「YES」と答えるわ。
……おっと早まるな。話はここから。同じエンターテインメントの職業につく私にしてみれば,エンターテインメントなんてものは,どれだけ説得力のある嘘を吐けるか,もしくは馬鹿馬鹿しい嘘を吐けるかで,その質が決まるといっても過言じゃないわ。そして,我々はいつも「どうやったら人々の印象に残る作品が作れるか」を考えながらモノを作っている。人の心に残ってナンボ,そういうモノを目指しているの。
「感動して泣いた」「腹抱えて笑った」「あのキャラにムカついた」なんて感想をお客さんから得られたら,作り手冥利に尽きるし,齢31にして本格的な痔になるほど嬉しいわ。でも,ここからが大事な話でテストにも出るんだけども,我々が作って売っているのはあくまで嘘なのよ。身も蓋もない言い方をすれば,感動して泣いたのも腹抱えて笑ったのも全部我々が作り出した嘘で感情を揺さぶられてるわけ。もちろん,全部が全部嘘ではないんだけどね。
例えばサッカーゲイムだったら,サッカーという部分はホントだし,出てくる選手だって人間のできそうな動きがベースになっている。でも,やっぱりゲイムはゲイムなのよ。リアリティを出すために実名選手を出したりしてるけど,ゲイムはゲイム。残酷なゲイムをプレイしているうちに,ゲイムと現実の境目がなくなって犯罪を犯す……そんなゲイムがあったら逆にすごいわ。
だから,もし本当にゲイムが人の心に影響を与えるのだとしたら,そういう意味では,やはりゲイムは,それをプレイした犯罪者にさえ影響を与えていると思う。犯罪者だって「人」だしね。でも,そういう人達を「ゲイムをゲイムだと思わなくなる」ように育てたのは決してゲイムではない,ということは忘れちゃいけないわね。
このゲイムのジャケットを見てると,アニメーション部分や「会話でキャラが動く! 動く!」みたいなアプローチを少なからずしてるんだけども,ぶっちゃけアニメはどうでもいい派の私の意見としては,アニメアニメしすぎて損してる気がしないでもないわね。まあ,アニメ好きをターゲットにしているみたいだからそれも仕方がないのかもしれないけど。
だが,あえて言おう。このゲイムの良さはアニメにはない! と(ギレン風)。イヤ,アニメもいいのかもしれないけど,正直いいのかどうなのか分かんない。ギレン風に表現した私が言うのもなんだけど。
でも,そんな私でも,このゲイムがアドベンチャー的に非常に完成されていることはよく分かるわ。まず,世界観がしっかりしている。ゲイムの舞台は中世ヨーロッパなんだけど,歴史上決してこんな国はないのね。でも,実際には存在しない国なんだけど,設定に無理がないからこういう国があってもおかしくない気にさせられる。これが上記でいうところの巧妙な嘘なわけ。ない国をあるかのように見せているわけだから。
キャラクターもそう。アニメチックなキャラクターも,普通なら「こんな奴いねえよ!」と思うであろうところが,まったく気にならない。ここでもしれっとうまく嘘を吐いているのよ。そして,このゲイム最大の売り,時間を遡る「物語の無限ループ」。これなんて明らかに現実にはない,ゲイムならではの嘘なんだけど,プレイしてて違和感がないのよ。
こうやって,知らず知らずのうちにプレイヤーが制作者の嘘を受け入れさせられてしまっているのね。で,結局のところ嘘が通ってしまっているわけ。これだけプレイヤーを騙せるんだから,この作品はエンターテインメントとして上質だといわざるを得ないわ。
だからこそ,なるべく多くの人にプレイしてほしい。過去の作品と比べるならば,例えば「街」が好きな人はほぼ間違いなくこれも好きになれるはず。だって街なんて,渋谷のスクランブル交差点っていうこの上ないリアリティの上に嘘の物語を重ねていってるわけじゃない? 嘘の吐き方としては,この作品も街も似ているんだもん。ただインフィニット・ループの場合は,舞台すらも嘘ついてるんだけどね。
まあそんな感じで,アドベンチャーゲイム好きには迷わずオススメできるわ。っつーか逆に,アドベンチャーあんまり好きじゃない人がこれをやってあんまり面白く感じないならば,もう現時点でアドベンチャーゲイムに手を出すべきではないとすら思う。そういった確認の意味を込めて,このゲイムはアドベンチャー好きのみならず,すべてのゲイム好きにオススメしてみる。……と,ここまで書いて,ベタ褒めした内容が全部嘘だったら……どうします? クククククク……。おっと時間だわ。プレイするもしないも,すべてはあなた次第。それでは,また来週! ククククク
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インフィニット・ループ
〜古城が見せた夢〜
対応機種:PSPメーカー:日本一ソフトウェア
発売日:2008年7月24日
価格:5040円(税込)
CEROレーティング:B
公式サイト:http://nippon1.jp/consumer/infiniteloop/
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インフィニットループ 〜古城が見せた夢〜
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