レビュー
DirectX 10.1に対応した世界初のチップセットには,どれだけ期待が持てるか
ASUS M4A785TD-V EVO
» AMDの新しいグラフィックス機能統合型チップセットを,宮崎真一氏が検証する。モデルナンバーは「785」で,「AMD 790GX」と「AMD 780G」の間,といった雰囲気が濃厚だが,実際はどうだろうか。
「AMD 790GX」のテストレポート時に述べたとおり,AMDのグラフィックス機能統合型チップセットは,Intelのそれと比べて3Dグラフィックス描画に長けており,市場でも好評を博しているが,最新モデルには,どれだけ期待が持てるだろうか。今回4Gamerでは,ASUSTeK Computer(以下,ASUS)より,搭載マザーボード「M4A785TD-V EVO」を入手したので,さっそく検証してみたい。
AMD 785G=AMD 780G+DirectX 10.1?
M4A785TD-V EVOはミドルハイ仕様
グラフィックス機能の詳細は表1のとおりで,表には,比較対象として搭載マザーボードやグラフィックスカードを用意した「AMD 790GX」と「AMD 780G」,「ATI Radeon HD 4350」(以下,HD 4350)「ATI Radeon HD 3450」(以下,HD 3450)の主なスペックも併せて掲載しているが,これを見るに,AMD 785Gというのは,“AMD 780GのDirectX 10.1対応版”という位置づけが妥当なように思われる。もっといえば,3D性能でAMD 790GXに敵わない可能性が高そうだ。
マザーボードの根幹をなすチップセットとして,AMD 785GとAMD 790GX,AMD 780Gを比較したのが表2である。ATI Radeon HD 4000シリーズの型番を持つグラフィックス機能のおかげで,UVDやHDMIサポート周りに機能拡張があるものの,チップセットとしての基本機能は,AMD 790GXの下位モデル然とした印象を受ける。
AMD 790GXマザーボードと同様,専用のグラフィックスメモリ(=LFB,Local Frame Buffer)である「SidePort Memory」を搭載するのが大きな特徴で,試用した個体では,1333MHz駆動のNanya Technology製DDR3「NT5CB64M16AP-C6」チップを搭載し,容量128MBを実現していた。同時に,UMA(Unified Memory Architecture)もサポートされており,BIOSメニューから,システムメモリの最大512MBをグラフィックスメモリに割り当てることもできる。
もう少しマザーボードを掘り下げてみよう。
M4A785TD-V EVOは,従来なら「-E」という名前が与えられていた,ミドルハイクラスに位置づけられる製品で,ASUS独自の品質規格「Xtreme Design」準拠とされている。ASUSによると,Xtreme Designは,8フェーズを超えるCPU電源回路と,EMIシールド,静電気対策チップ,そして2オンス銅箔層を採用して電気抵抗を減らし,放熱性を高める「2oz Copper PCB」を採用した冷却機構「Stack Cool 3+」という要件をすべて満たしたマザーボードのみで謳われるとのことだ。
拡張スロットはPCI Express x16×2,PCI Express x1×1,PCI×3。2本用意されたPCI Express x16スロットは,水色が16レーン,白色が4レーン動作といった具合にレーン数が異なるものの,ATI CrossFireX動作をサポートする。加えて,ノースブリッジ側のグラフィックス機能と単体のHD 3450カードとを組み合わせたHybrid Graphicsにも対応している。
AMD 790GXおよびAMD 780Gとの性能差を検証
ATI Radeon HD 4350/3450との比較も
また,単体GPU搭載グラフィックスカードは,HD 4350がASUS「EAH4350 SILENT/DI/512MD2」,HD 4350がSapphire Technology「SAPPHIRE HD 3450 512MB DDR2 PCIE」を用意している。AMD 790GXがHD 3450を超えるパフォーマンスであることは過去のテストで明らかになっているが,AMD 785Gだとどうなのかを,(現行製品ではないが)HD 3450と比較することでチェックしておこう,というわけである。
なお,グラフィックスドライバはマザーボードとグラフィックスカードで異なるが,これは,AMD 785Gのレビューに当たってAMDから全世界のレビュワーに配布されたドライバで,「ATI Catalyst 9.7」をベースに拡張された「8.634-090717a-085165E-ATI」が,ほかのグラフィックスカードに適用できなかったためだ。
また,グラフィックス機能統合型チップセット用のドライバには,4Gamerのレギュレーションで規定される1680×1050ドット解像度が用意されていなかったため,今回はレジストリを一部変更して対処したことと,2枚のグラフィックスカードはAMD 785Gマザーボードに差して動作させること,レギュレーション8.0に含まれる「Race Driver: GRID」は,AMD 785Gで正常な動作をせず,コマ送りのようになってしまっため,今回はテスト対象から外すこと,そして,以下グラフ中では,チップセット名の「AMD」を省略することは,併せてお断りしておきたい。
EAH4350 SILENT/DI/512MD2 ファンレスのHD 4350カード メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:5000〜6000円(※2009年8月4日現在) |
SAPPHIRE HD 3450 512MB DDR2 PCIE 販売終了製品となったファンレスのHD 3450。販売代理店であるアスクの厚意により,今回,テストに使うことができた メーカー:Sapphire Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp |
AMD 780Gに対する
性能面のアドバンテージは小さい
さっそく,「3DMark06」(Build 1.1.0)の結果から見ていこう。
グラフ1は総合スコア「3DMark Score」をまとめたもので,“主役”のAMD 785Gが一番上にない点は注意してほしいが,AMD 785Gのスコアは,端的に述べてHD 3450とほぼ同じ。SidePort Memory=LFBが有利に働いたこともあって,AMD 780Gのスコアは安定的に上回っているものの,AMD 790GXには大きな差を付けられている。
グラフ2〜4は,3DMark06のFeature Testから,順にFill Rate(フィルレート),Pixel Shader(ピクセルシェーダ),Vertex Shader(頂点シェーダ)のテスト結果となる。
メモリパフォーマンスが影響しやすいPixel Shaderや,Vertex ShaderのComplexでは,LFBの恩恵が見て取れるが,それ以外だと,シェーダプロセッサ数とレンダーバックエンド数,コアクロックが同じAMD 785GとAMD 780Gの違いはないと断じていいレベル。やはり,AMD 785Gは,AMD 780Gの性能を踏襲したものと考えてよさそうだ。
実際のゲームアプリケーションではどうなのか。FPS「Crysis Warhead」を「エントリー設定」で実行した結果がグラフ5である。エントリー設定では,DirectX 9 APIを用い,さらにグラフィックスオプションもmediumに落としているが,それでもこのクラスのグラフィックス機能では,Crysis Warheadをプレイするのは厳しい印象だ。
グラフを見てみると,AMD 785GのスコアはAMD 780Gとほとんど同じ。負荷が大きすぎて,LFBのメリットはほとんど見られない。
続いてグラフ6は,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)の結果となる。ここでは,LFBの効果で,AMD 780Gを多少上回るスコアが得られているが,一方でAMD 790GXとの差は大きい。
この傾向は,「Left 4 Dead」でも同じ(グラフ7)。AMD 785Gの素顔は,HD 3450とAMD 780Gとの間という位置に収まっている。
ベンチマークレギュレーション8.0で導入した「バイオハザード5」のスコアを示したのがグラフ8となる。HD 4350のスコアが飛びぬけていることからすると,少なくともエントリー設定では,シェーダプロセッサ数がスコアに大きな影響を与える傾向がありそうだ。
いずれにせよ,ここでもAMD 785Gのスコアは“AMD 780プラスアルファ”という定位置に収まった。
グラフ9は,RPG「ラスト レムナント」のテスト結果。レギュレーション8.0の設定だと,エントリークラスのグラフィックス機能には厳しいため,スコアは全体的に低いが,AMD 785GがHD 3450と同等レベルのスコアを示している点は興味深い。LFBを中心としたグラフィックスメモリ周りの性能が,AMD 785G(やAMD 790GX)有利に働いているものと考えられる。
消費電力計測には,ログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用。OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時として,その結果をまとめたのがグラフ10である。
AMD 785Gのスコアは,AMD 780Gより全体としてわずかに高めだが,その値はアプリケーション実行時でも数W。このくらいは,マザーボードの設計いかんでいくらでも変わるレベルなので,AMD 785GとAMD 780Gの消費電力はほぼ同じレベルとまとめるべきだろう。当然のことながら,HD 4350やHD 3450と比べると,グラフィックスカードが差さっていない分,消費電力面では有利だ。
なお,CPUID製の「HWMonitor Pro」(Version 1.06)やTechPowerUp製の「GPU-Z」(Version 0.3.4)では,AMD 785Gのコア温度を取得できなかったため,今回は温度測定を見送っている。
ゲームをプレイするためには
割り切った設定が必要
AMD 785はどちらかというと,Intel製のグラフィックス機能統合型チップセット搭載マザーボードを使って,Windows XPを使い続けてきたようなユーザーに向けた,Windows 7環境への乗り換えアップグレードパスと認識されるべき製品といえる。
LFBとして機能するSidePort Memoryや,DDR3 SDRAMの採用によって,AMD 780Gからの上積みは確かにある。しかし,“AMD 780Gの登場から1年経ったことで期待される性能向上”までは望み薄で,ゲームにおけるDirectX 10.1のメリットは大きくない事実も踏まえると,ゲーム用途を前提とした場合に,2009年夏の時点の選択肢として,AMD 785Gのパフォーマンスには不満が残ると言わざるを得ない。
ゲームにも使えるグラフィックス機能統合型チップセットとしてAMD 785Gを捉える場合は,グラフィックス設定を思い切って下げる,プレイするタイトルをカジュアルなものに限るといった,ユーザー側の“割り切り”が必要になってくるのではなかろうか。
※DirectX 9.x/10.0世代のGPUやグラフィックス機能が搭載されたPCでは,“足りない部分”をCPUによるソフトウェアエミュレーションで補って,DirectX 9.x/10.0世代のGPUを搭載した環境でも,Aeroデスクトップを利用できる。そのため,要件を満たしたグラフィックス機能を搭載した環境でないと,Aeroを利用できなかったWindows Vista時代のようなことにはならないが,DirectX 10.1対応製品を使ったほうが理論的に有利なのは確かだ。
- 関連タイトル:
AMD 7
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