連載
多くの日本人にとってアイルランドは,必ずしもまとまったイメージを持てない国のように思える。ミリタリー好きならリーアム・デブリン,神話好きにはクー・フーリン,音楽ならエンヤ,ベトナム好き(?)ならJFK,歴史好きならジャガイモ飢饉,酒飲みならウィスキーとギネス。日本人の琴線に触れるエントリは何かと多いわりに,イメージそのものはバラバラだ。
そこには理由がある。中世以後,アイルランドがたどったのは苦難の歴史であり,それは常に離散と迫害,そして望郷の念をまとっていた。我々が漠然と抱く,頑固で誇り高いアイルランド人のイメージ――「アイルランド以外の土地で出されるギネスは馬の小便だ。アイルランドで出されるギネスは神の飲み物だ」といったセリフに代表されるような──には,そういった背景がある。
アイルランドの歴史でとりわけ大きな悲劇は,19世紀中葉に発生した通称「ジャガイモ飢饉」である。「南アメリカ産の作物が,北アメリカ由来の病原菌によって壊滅する」という,実に冒険小説ライクな悲劇に端を発したこの飢饉は,イギリス人地主の横暴に,当時アイルランドを支配していたイギリス政府の無策が重なり,たった10年でそれぞれ100万人近い死者と移民(数字はともに推定)を出す結果になった。時代は19世紀半ばにもなっていたというのに,アイルランド人の5人に1人が,10年のうちに死ぬか移住を余儀なくされるかしたのである。
当時のアイルランド農民が食糧をジャガイモに大きく依存していたのは,イギリス人地主によって小麦のほとんどを収奪されていたからだ。これを筆頭とする数々の悲劇の背景には,イギリスによる植民地化という歴史がある。ローマン・ケルトを僻地に追いやったアングル人とサクソン人,中世イングランドによる圧迫,オリバー・クロムウェルによる虐殺など,アイルランドはイングランドにとっての草刈り場であり続けた。
やがてアイルランドで高まる独立への動きと,そこで発露するイギリスへの不信(あるいは憎悪)は,その倫理的正当性はともあれ,理由のないものではないのだ。
……このように,アイルランドの視点に立つと,どうしたってイギリス憎しにならざるを得ないのだが,その憎悪のままに行動したところで,そこに発展的な未来が開けるとは限らない。望ましいのは,現在もなお渦巻く愛英間の因縁をこじらせないことであり,もっといえばそもそもそんな因縁など,作らなければよい。
というわけで,今回はアイルランドを使って,ヨーロッパ北西部に明るい未来を建設しよう。そうしよう。
といっても1453年の段階では,アイルランドなどという国は存在しない。アイルランドは,マンスター,レンスター,コノート,アルスターの四つに分断されており,またミースは英領になっている。アイルランドでプレイするためには,まず統一アイルランドを建国しなくてはならない。当然なのだが,これが実に開幕早々の泥仕合である。
まず決定的な問題は,呆れ返るほど予算が小さいこと。そして予算が小さい=人頭税収入が少ない=人口が少ないと,遡って考えれば明らかなように,兵役人口も小さい。ああ,そりゃまあ琉球よりゃマシですがね。でも琉球は交易国家としてやっていける素地があるし,大明帝国の保護もあるが,こっちにはそんなもの何一つありゃしない。むしろ虎視眈々とこちらを狙っているイングランドがいるだけだ。
そのうえで,さてどうするかと悩んでいると,独立小国プレイではおなじみの悲劇ともいえる開幕ラッシュに遭遇する。アイルランドの小国同士が手を結び,二対一での征服戦争を仕掛けてくるのだ。なんともはや,君達,もうちょっとアイルランド全体のことを考えようよ……。
とはいえ,アイルランド全体のことを考えて何をなすべきかといえば,自分がアイルランド全体になってしまう方向に邁進するのである。まあ,彼らと同じ程度の倫理的な立ち位置だわな。
思想的な方針が定まったところで,プレイを始める前に初動の数手をじっくり考える。避けたいことの筆頭に挙がるのは,イギリスとの戦争である。どこかで戦争しなくてはミースを奪還できないとはいえ,いきなりイギリス相手はきつい。
そのうえで同じくらい避けたいのは,複数回の戦争を行うことだ。アイルランド統一事業を成し遂げるには,イギリスを除いて対戦相手が3か国あるが,3回宣戦布告するとなると,つまり3回にわたって「宣戦理由なし」「同一宗教グループ相手」のペナルティを負うわけで,いくら小国で安定度回復が早いからって,それは無茶だろう。
同様に,小国を何度も何度も戦争併合するようなムーブも避けたい。戦争による併合は,併合時のメッセージにもあるように,同一宗教社会で大いなる悪評を買う(いわゆる悪評だけでなく,外交関係も悪化する)。これを3回も繰り返していては,アイルランドを統一した後があまりにも大変すぎる。ぶっちゃけ,アイルランド統一といったところで,いま自分が見ているこの貧しい国家五つ分が合算されるにすぎないわけで,それはつまり「とても貧しい」が「割と貧しい」に格上げされる程度でしかないのだ。何か凄まじい超国家が出現して,周囲の文明国を粉砕していけるわけでは,決してない。
で,いったいこんなムシの良いプレイングが,いったいどうやったら可能になるというのか?
まずレンスターと同盟を結ぶ。コノートはアルスターと組んでこちらに宣戦布告してくるわけだが,コノート・アルスター同盟をアルスター側から見ると,南の二国が組んだのでやむなく結んだ同盟であり,一方コノート側から見ると南部2州を併呑するための同盟と,明らかに温度差がある。そのため,コノートの宣戦と同時にアルスターは同盟から離脱,コノートはマンスター・レンスター連合軍に叩きのめされることになる。
コノートを占領したら,属国化で和平を結ぶ。コノートは収益の最も小さな土地であるため,併合しても旨味は小さく,むしろ悪評と反乱対策コストが足を引っ張る。ここは後日外交併合すれば十分だ。
続いて,巨大インフレを覚悟で貨幣を大量鋳造,活動資金を得たのちアルスターに宣戦する。このとき,あえて軍備は増強しない。こちらの同盟相手であるレンスターは,そもそもこれがただの侵略戦争であること,またこちらの軍備が不完全なことなどを見て,同盟義務の履行を蹴ってきた。読みどおりである。
蓄積しておいた資金で即座に傭兵を動員する。アルスターと我が国の間には忠実なる属国コノートがあり,アルスターはまずコノート軍を撃破しなくては我が国まで届かない。コノート軍の奮戦の甲斐あって,雇われたばかりの傭兵軍が,戦闘に足る指揮系統を確立するための時間が確保された。
いまこそ非道なるアルスターによって蹂躙されたコノート戦士1000名の恨みを晴らす時が来た,ということで,傭兵3000に正規兵1000という,どう見てもゴロツキ成分が多すぎるマンスター軍が北上する。金にあかせて指揮官も雇ってあるので,半数に満たないアルスター軍など敵ではなく,アルスターは陥落。経済的に豊かな土地なので,悪評そのほかは気にせず併合。アイルランド統一に向けて一歩前進である。
だがここで休んではいられない。おおそういえば,さきほど我が国との軍事同盟を反故にして参戦しなかった不埒な国が,ちょうど隣にいるではないか。同盟義務の不履行は正当な開戦の口実になるので,レンスターに宣戦。さきほどの戦争で雇った傭兵もいることだし,数を頼みにレンスター軍を粉砕し,レンスターも併合する。
この電撃戦では不当な宣戦布告1回だけで,実質3州を得た。武力併合は2回だが,これはやむを得まい。外交併合でゆっくり話を進められない事情があるのだ。
さて,これまでも何度か言及してきたが,軍事的な併合地では,長期にわたって反乱の可能性が残る。最短でも30年程度が,その土地を鎮めるために必要な時間となる。反乱軍の規模は,おおむねその土地の人口に比例する。なので豊かな州では大規模な反乱が起き,貧しい州ではちっぽけな反乱しか起きない。
マンスターは,アイルランドのなかでも屈指の豊かさを持つアルスターとレンスターを支配下に置いた。そして当然ながら,そこでは反乱が起こる。しかも6000人規模の大反乱が。これを撲滅するには,これらの国を滅ぼした程度の軍隊が必須となる。
かように御しがたい反乱だが,今回ばかりは,起こってもらわねば困る。
反乱軍は,いずれの国にも属さない独立勢力である。彼らは宣戦布告の必要なく,自由に国境を越え,プロヴィンスを占領していく。したがって,アイルランドにある唯一のイングランド領プロヴィンスであるミースも見逃さないし,侵入を臆したりもしない。
果たして,しばらくするとレンスターで6000人規模の反乱が発生した。反乱軍はアイルランド全土を荒らしていくが,こちらとしてはその6000との正面対決は避け,彼らが占領した土地を再度回収することにのみ全力を注ぐ……そして,ついに反乱軍はミースに入った! 英軍守備隊1000は一瞬で壊滅し,ミースは反乱軍の支配地となる。
こうなってしまえば反乱軍の仕事は終了だ。マンスターは再び傭兵を積み上げると,決死の戦いを繰り返してついに反乱軍を討伐。アイルランドに平和が戻った。唯一,ミースを除いて。
やがて,長期にわたって反乱軍に占領されたままだったミース(イギリスはフランスとかスコットランドとかとの戦争に忙しかった)は,隣国であるマンスターの一部となることを選んだ。こちらとしては,独立したら即座に叩き潰して併合しようと思っていたのだが,平和的解決とは実に素晴らしい。アイルランド統一における最大の障害であるミース解放は,イングランドと一度も戦火を交えぬままに達成されたのである。
こうなれば,あとはデザートのようなものだ。国策に中央銀行を選択してインフレ対策を行いつつ,宮廷顧問に悪評を引き下げる効果のある外交官を雇い入れ,国家としての体裁を整え直す間に,コノートはマンスターに吸収合併されることに同意した。ここに,マンスターの手によるアイルランドの統一が達成されたのである。
アイルランド統一が成ったいま,アイルランドはこれからどのようにして生きて行くべきかを考える段階が訪れた。
統一アイルランドの弱点は,経済的に弱く,人的資源にも欠けることだ。これを解決する手段は二つ考えられる。交易国家としての未来を描くか,植民地を展開するか,である。
交易国家としての道は,なかなか魅力的な方策だ。交易国家がいかに大きな経済を扱えるかは琉球を見てのとおりだし,実際ヨーロッパにはヴェネツィアそのほか,交易国家がいくつもある。四方を海に囲まれた絶好のポジションにあって,交易国家という選択は実に素晴らしいではないか。
いやでも,待っていただきたい。そもそもヨーロッパの交易国家のうち,19世紀を生き延びた国がどれくらいあるだろうか? 交易から上がる莫大な富を背景にすれば,イングランドとの関係を回復させ,ヨーロッパの海を二国で支配することも夢ではないだろう。では,イングランドが凋落したら? そのときは,一緒に海の底に沈むしかない。
しかも琉球と異なり,ヨーロッパでは海千山千の超大型交易国家と戦っていかねばならない。その対戦相手は,ヴェネツィアやジェノバといった古強者から,カスティーリャやポルトガルといった植民地経営と交易を並行する新機軸まで実に多彩。そして交易国家を目指すということは,それらの国に交易収入で後れをとったら,取り返しがつかないということだ。交易2位を確保して満足してしまえば,交易1位の相手との差は永遠に埋まらない。
となると,植民という方向性しか残らない。幸い,まだバミューダ島が手つかずで残っているため,そこを踏み台にすれば新大陸への植民は十分可能な範囲にある。北米だろうがカリブ海だろうが,ギネスビールとアイリッシュウィスキーの素晴らしさを世界に伝道可能というわけだ。
地図をじっくりと見,交易の中心地に関する情報も確認したうえで,結局,今回は植民に国運を託すことにした。いわゆる超大国は新大陸に植民するや否や本国のほうで戦争が多発したため,新大陸の開拓状況,とくにカリブ海への植民が遅れているのだ。つけ込むなら今しかない。
まずは海軍技術を伸ばし,植民可能距離を広げたうえで,国策として「新大陸の探索」を選択。植民可能距離が+50%されるので,バミューダに手が届くようになった。
国策としての国立銀行は維持しており,植民費用は銀行経由で稼ぎ出す。商人と違って植民には非常に時間がかかるので,多方面に同時に植民者を出さない限り,国庫が破綻してしまうようなことはまずない。
バミューダへの植民が完了したら,次はキューバに乗り込む。キューバは先住民の好戦度が低く,植民先としてはうってつけなのだ。植民距離は,最も近くの港からの距離で計算されるので,バミューダを起点に計算すればカリブ海はアイルランド人の渡航先として余裕で手が届く。
植民は,費用対効果でいうと,回収までに非常に時間のかかる方法であるといってよい。だが交易と違って,戦争でもない限り回収額は確定しており,また維持費も低い。キューバ全島に植民し,ジャマイカにまで進出したアイルランドの経済は,以前とは比較にもならないくらい潤ってきた。
だが……だが,これでは足りない。足りないのだ。植民という方法は,だいたい7〜8年を投じて一つのプロヴィンスを確保するという,たいへん気の長い手法である。しかも植民した先に先住民が少なければ,そこに出来るのはせいぜいが人口2000名に満たない小都市である。収益としては小さい。
かといって,キューバとジャマイカを所領としたアイルランドが,仁義無用の植民地レースに参加しているという事実は変わらない。植民地の支配権をめぐって,いつ大国と戦争になるか──可能性はまだ低いが,無視できるレベルではない。というか,このままこのペースで進めれば,アイルランドはほかの巨大植民地主義国家にとって「食べ頃のサイズの国」になってしまうだろう。これは非常にまずい。
とはいえ,北米にはイングランドとポルトガルが競って植民を進めている。ポルトガルとの同盟は成ったが,こうなると今度はへたに北米に噛んだ場合,イングランドとの戦争に巻き込まれる怖れがある。ポルトガルから見ればイングランドは遠い国だが,こちらにとってはお隣である。よろしくない。
では南米はといえば,カスティーリャとアラゴンがしのぎを削っている。どちらの国とも,お世辞にも仲が良いとはいえない(−200〜−150くらい)ので,そんな人達の隣人になるのは御免蒙る。
ああ,何か方法はないのか。遅れを一気に解消できるような素早い植民を可能にし,かつ,そこから一気に大量の収益が上がるような,そんな奇蹟の手が。
ある。あるね。あるが……
そういえば,確か今回の目標は「ヨーロッパ北西部に明るい未来を建設してみよう」だっけ。じゃあもう僕は,ヨーロッパの明るい未来のことしか考えないよ,パトラッシュ。
方針が決まったので,まずはパナマの近くに植民都市を建設する。建築物も合わせると10年くらいかかったが,これはまあ,そんなものなのでかまわない。しかるにその間,陸軍技術の研究に邁進する。また歩兵と輸送船を増産し,合計で1万を越える歩兵が中南米に集結した。
そして,待ちに待った時が来た。新たな国策が選択できるようになったのだ。というわけで,迷わず「神の御心のままに!」を選ぶ。
ここまでくればやることは一つ,すかさずマヤに宣戦布告。マヤは黄金を持っていないが,金山を大量に抱えたアステカと同盟している。非常にタクティカルな話だが,アステカを攻略する場合,先にマヤを叩いてから北上して行ったほうが,地形的に(地形効果ではなく,プロヴィンスの切り方のため)戦いやすいのだ。
マヤ・アステカ連合軍とは,どこまでもどこまでも泥沼の戦いとなり,一時は厭戦気運が高まりすぎて,アイルランド本国に反乱発生確率まで出てしまったが,それでも負ける要素はなかった。まずマヤを事実上滅ぼすと,マヤの各地に防御拠点を建設しつつ治安の安定を待ち,ある程度まで安定化したところでアステカに踏み込む。
アステカは非常にタフな相手で,地形効果と兵士の数を頼りに抵抗を続けるが,兵数依存である以上,持久戦で先に倒れるのは向こうだ。アイルランドのコンクェスター達はアステカの金山地帯を蹂躙,次々に支配下に収めると,ついにメキシコも陥落させた。
……ここで,筆者はふと悪いことを考えた。首都メキシコは陥落,戦勝点は100%。併合ボタンを押せばアステカの歴史は終わる。ところで,アステカは黄金の国。ここで併合や属国化といった領土的野心に訴える手段でなく,「アステカの皇帝陛下は,自身のお命を,いったいどれくらいの量の黄金で購えると思われますか?」と聞いてみるのはどうだろう。
試みに和平交渉で「賠償を請求」を選択してみると,これが実に天井知らずな金額にまで伸びていく。ああ,ここは,まちがいなく黄金の国なのだ。
とりあえず皇帝に部屋いっぱいの黄金を積み上げさせたところで講和条約を締結。その場で殺さなかっただけ,良かったんじゃないだろうか。良かったということにしましょう。
獲得した莫大な収入で,すぐさまアイルランドの首都マンスターに大学を建設する。なんだかいろんな良心がチクチクと痛むが,ほら,その,あれだ,だいぶ追いついたよ?
その後,メキシコ1プロヴィンスだけになっているアステカにもう一度宣戦布告,即座に占領してもう一度大量の金塊を賠償金として巻き上げ,大学を建設。大学は5年で建設されるのだが,この5年という時間は奇しくも講和条約が失効する年月とイコールだ。大学が建ったところでもう一度宣戦し,占領し,賠償を要求したら,今度は皇帝陛下の所持金では大学が建たないことが分かったので,併合ボタンをぽちっとな。
かくして中南米に高度な文化を築いたマヤ・アステカ文明の遺産は,そのすべてが二つの大学になって消えた。まあ,これらの大学の学統に取り入れられたと信じたいが。
アステカの金山を手に入れ,中米の人的資源も将来的な視野に入ってきたアイルランドが次に目をつけたのは,いまだ健在なインカであった。アイルランドはまだまだ弱い国である。戦争をするならば,さらに弱い国とのみ戦うべきだ。しかもその相手がお金持ちとくれば,そりゃあなた。
というわけで,インカ隣接地には早いうちから目をつけて,将来的な進出拠点とすべく植民しておいた。途中でいきなりアラゴンに宣戦布告されたので,1000ダカットほど包んでお帰りいただいたこともあった(1000ダカットは,アイルランドが自由に使えるお金の4年分くらい。安いものだ)。中米の金山を占領しているいま,金でカタがつくものはそれで済ませたい。
ちなみにこの間に探検隊を北上させ,北アメリカの太平洋沿岸を探索。金鉱を二つ見つけ,素早く植民させていった。と,これが「ゴールドラッシュ」イベントの引き金となり,アイルランド人はこの知らせに大いに沸くことになる。なんともいえないヒストリカルネスである。
さて,インカはすでにポルトガルの蚕食を受けており,さらにアイルランドという新しい侵略者を迎えたことで,その破滅は確定した。クスコは1度陥落し,大学1軒分の黄金で解放され,その5年後に併合された。もう1軒くらいいけたのだが,それをしなかったのは金山でもありCoTでもあるクスコを,ポルトガルに取られるのを避けたかった,それだけである。
かくして,南米産のジャガイモならぬ黄金を載せた船が,意気揚々と大西洋をヨーロッパに向けて帰って行く。
そしてここに至り,ついに列強はアイルランドの実力を認め始めた。アラゴンからの宣戦はフロックのようなものだったが,ついにカスティーリャやフランスといった国との戦争に巻き込まれるようになったのだ。
もはや,アイルランドは「ヨーロッパの貧乏国」ではない。すべての考え方を改める必要があった。
同盟者であるポルトガルは,新大陸ではスーパーパワーだが,いかんせんヨーロッパでは滅亡寸前である。すでに首都を北米に移したほどだ。新大陸で戦う限り最強の国といってよいが,アイルランドのホームランドはヨーロッパにある。これでは盟友としていささか頼りにならない。
カスティーリャは世界に広く浅く植民地を持ち,その規模はほぼ世界最大といってよい。南米ではポルトガルに次ぐ実力者だが,北米にはまったく手が伸びておらず,領土拡張という点では行き詰まっている。
アラゴンは,どうやら「幸運」持ちらしいが,すでにヨーロッパの領土は失われている。また中米と北米のメキシコ近くという形で,領土が二分されているのが痛い。
今回のイングランドは,ぶっちゃけるとダメな子である。北米にそこそこの拠点を持っているが,全体に貧しい州が多い。技術的にもアイルランドと同程度。はっきりいってアイルランドのほうが経済規模は大きい。
フランスは,世界のあちこちに植民地を持っているが,ブルゴーニュに押されて凋落気味。だがヨーロッパにおけるスーパーパワーなのは事実で,ブルゴーニュが関与しない限り,フランスに単体で勝てる国はない。
ブルゴーニュは,海外経営こそいま一つだが,ヨーロッパに燦然と輝く最強の陸軍を持っている。もっとも,それだけだろ? と言われば,まったくもってそれだけである。
ヨーロッパ世界のメジャープレイヤーはだいたいこんなものだ。ここにおいて,どのような未来を描くか。
ここから先は,正直言って趣味の問題も大きく絡んでくる範囲だろう。すでに時代は18世紀中葉,ゲームも終わりかかっている。
とりあえず今回は,ポルトガルと手を切り,カスティーリャに接近する方向で外交を進めることにした。ポルトガルはヨーロッパ外交で孤立しており,ポルトガルとの同盟を守るために戦争に参加したら,ものすごい欧州大戦争に巻き込まれたという経験による判断だ。
もっともカスティーリャと手を組むと,アラゴンが敵に回る。新大陸でアラゴンと国境を接しているアイルランドとしては,あまりよろしくない。
というわけで,アラゴンも仲間に引き込む。双務契約でこそないが,最大の仮想敵国(しかもこの場合,アラゴンは一方的な被害者)であるカスティーリャが参加する同盟の傘の下に入れば,国家の安全がより確保できるのではないかと考えるのは,自然なことだ。
そのうえでイングランドとブルゴーニュの頬を金でひっぱたいて,同盟に加入させる。イングランドに求めるのは北米における対ポルトガル戦の支援,ブルゴーニュについてはカスティーリャの背後をフランスが突いたら,そのフランスの背後をブルゴーニュが突くという図式を構築するためだ。
これによってフランスとポルトガルは外交的に完全に孤立し,ゆっくりと衰退期に入っていった。イングランドは誰がどう見ても「アイルランドの番犬」であり,しかもしばしば同盟義務を果たさない,役立たずな番犬であった(それでいて次の日には同盟への参加を打診してくるあたりが,本当に喧嘩に弱い犬そっくりで切ない)。
ちなみにイングランドだが,アイルランド国内にCoTを置いたところ,イングランド商人の50%以上はそのCoTの所属となった。経済的にも,政治的にも,どちらが主人であるかは議論の余地もない。
ヨーロッパの秩序を書き換える間も,アイルランドは拡張の努力を怠らず,インドネシアでは香辛料の産地に植民。またディエゴガルシア島を基地として,セイロン島の軍事的占領に成功している。ヨーロッパで軍事的スタンドオフが成立しているいま,今後アイルランド軍はインドを目指すことになるだろう。そしてそこで確保された人的資源は,アイルランドの発言力を大きく向上させるに違いない。
日の沈まない帝国,アイルランドの歴史は,いま始まったばかりである。
今回とりあえず言えるのは,アイルランドが戦乱相次ぐ不毛のヨーロッパに,平和をもたらすのに成功したということだ。だが,そのためにヨーロッパ以外の土地で,ヨーロッパ人以外の血がどれくらい流され,そこにおいてどの程度アイルランドに倫理的責任があるか。史実においてスペインとポルトガルが為したことを,今回のアイルランドはかなり容赦なく,いわばヨーロッパ代表としてなぞっている。
史実におけるアイルランドがどうであれ,「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII」におけるヨーロッパ役を果たしおおせれば,結果はこうなのだ。累々たる屍を祭壇に捧げて,ヨーロッパの近代は召喚される。それがたとえ,出来の悪い魔法使いの弟子には使いこなせない魔物であっても,もはや誰にも止められない。そういうことなのだ。
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