連載
Fallout 3 連載 荒野に咲いた一輪の花 / 第7回:パラダイスフォールズ
もう,メガトンの町が爆発するイメージが頭の中をぐるぐると回るようなことはなくなった。あたしにしては非常に珍しく(っていうか今でもアリエナイって思うんだけど),人前で正体がなくなるほど取り乱してしまったあの一件は,あたしの頭から爆弾への妄執をぬぐい去り,あたしに別なことを考えさせていた。
あの子供,Bryanと交わした言葉はそんなに多くはなかったけど,最後のほうで,こんなことを言っていたのを覚えている。
「もっと前にあなたと出会えていたら,ひょっとしたら,父は死なずにすんでいたのかもしれません」
まったく,何にもまして「ケーッ!」と言いたくなる。もし前にあたしと会ってたら,現在は違っていたかもしれないかい。じゃあ,あたしが何かをすることで,このイカれた世界が,少しはましな場所になったりするのだろう……。そのために,あたしは,あたしはどうすればいいんだろう? そもそも,あたしは,どうなりたいんだろう?
……アーッ! もうシラネ。知らないわマジで。
ともかく,ただ救われたいだけで父親を探したり,誰かにしがみついたりすることは,もうしない。そう決めた。そういうのは……そう,あんまり“格好よくない”と思ったのよ。
もう,この話は,これで終わり。
あたしはメガトンの町を離れて,父親を探す旅を再開した。情報を求めて,あちらへこちらへと足を伸ばしていく。その道すがら,あたしは「リトルランプライト」という名前の町に着いた。
リトルランプライトは奇妙な場所だ。天然の岩肌が露出する洞窟の中が小さな町になっているのだけど,どうやらこの町には大人が一人もいないみたい。子供だけが集まって生活をしている。彼らは大人をまったく信用していない。
あたしが初めてこの町にたどり着いたときのこと。洞窟の入り口から狭い通路を進み,町のエントランスにたどり着いたが,その門は固く閉ざされていた。力ずくで開けることはできないようだったけど,門のそばにある見張り台のような場所に陣取った一人の子供が,あたしに話しかけてきた。
彼――MacCreadyはリトルランプライトの市長だそうだ。彼はあたしに,この町には大人がいないこと,そして自分達が大人をまったく信用していないことを説明した。だからあたしをこの町に入れることはできないと言う。あたし自身は美少女であり,つまりどちらかと言えば少女であって,大人ではなく子供に近いはずだと思ったが,残念ながら彼にはあたしを中に入れる気はないようだ。
話を進めてみると,ここの子供が大人を信用しない理由は,奴隷商人がここの子供達の何人かをさらっていったからのようだ。そしてMacCreadyは,そのさらわれた子供達を,パラダイスフォールズというところから救出してきたら,あたしのことを信用すると言った。あたしは,その依頼をその場ですぐに引き受けた。
悩むべきことは,まったくなかった。
パラダイスフォールズへ行くには結構長い距離を踏破する必要があったが,あたしはそれを歩き切った。
たどり着いたパラダイスフォールズは,周りをぐるりと壁に囲まれた町で,入り口は一か所しかない。そしてその唯一の入り口には門番が控えている。門番の男――Grouseは,あたしが近づくと話しかけてきた。
パラダイスフォールズは奴隷商人達の町である。だから中に入れるのは奴隷商人か奴隷のどちらかだけで,それ以外の人間を入れることはできない。どうしても入りたいなら,奴隷を捕まえてこい――と告げられて,あたしは奴隷を捕まえるための道具らしきものと首輪を渡された。
子供を助けるためには少なくとも町に入る必要があるだろう。町に入るには誰かを力ずくでとらえて奴隷として連れてこなければならない。――どうする?
渡された首輪の冷たさを手のひらに感じながら考えた。
ひょっとしたら,この首輪をあのBryanの首にかけてここに連れてくる未来だってあったのかもしれない。でもあたしはそうはしなかった。あたしはその未来を選ばなかった。
この世界の大部分はひどい人間で満たされているが,そうではない人がいることを,あたしは今では知っている。ではあたしは? あたしはどうなりたいと思っているのか。この世界で,あたしはどういう人間でありたいと思っているのか――って,ええっと,だからそういうのはさっきヤメっていったじゃん。そうじゃなくて今どうするか,でしょ。
今どうするか……。あたしは自分の胸の中を探ってみた。答えはすぐに出てきた。なんてことはない。気持ちは決まっている。あたしには奴隷を増やしたくはなかった。だから,それ以外の方法で,子供達を助け出さなければならない。
パラダイスフォールズへの入り口は一か所だけなので,入りたいのならどうあってもあの門番達がいる場所を通り抜けるしかない。奴隷を連れてこないなら,こっそり通り抜けるという手しかないが,そもそもあたしはスニークが得意ではない。
そうなると……。門番をアレしちゃうのが最も手っ取り早い侵入方法,ということになる。でも,なんらかの方法を使って門をくぐり抜けることができたとしても,どのみち町の中にはアグレッシブな状態の連中が待ちかまえているはずで,戦闘を避けることは難しそうだ。
パラダイスフォールズはミュータントの住む廃墟やダンジョン,無法者の住むキャンプなどとは違う,普通の――奴隷商人だけど――人間の住む町だ。だから,なんの策もなく侵入すれば,“町の人達が全員怒って襲ってくる”という,RPGのプレイ時には可能な限り出会いたくない状況が発生することになる。
町に住む人達が襲いかかって来た場合,あたしは応戦しなければならない。そしてその戦闘は,一度に何人もの,あるいは十人以上の敵を相手にしなければならない恐ろしいものになるだろう。
そんな状態を,あたしは生き延びることはできないかもしれない。もしうまく対応できたとしても,大勢の普通の人間を殺すことになる。銃で撃てば,人間は壊れる。首がとれる。あたしの選択によっては死なずに済んだかもしれない普通の人達が平和に生活していた場所に,その人達の血と,少し前までその人達のものだった,いろいろな形と大きさの肉片をまき散らかすことになる。あたしには分かる。なぜならあたしは以前,自分の故郷でそれをしたことがあるから。
それはもう,いやだ。
だからあたしはそういうことが起こらないようにするにはどうすればいいかを考えた。そして一つ答えを出した。キーになるアイテムはコレよ。
ステルスボーイというアイテムをどこで入手したのかは覚えていないけど,気がついたら持っていた。これはどうやら使い捨てタイプのアイテムで,一定時間,自分の姿を他人から隠せるものらしい。これを使って誰にも見つからずに侵入し,子供達を救い出し,そのまま脱出することができれば,最悪の事態は避けられる……かもしれないわね。
準備を整えたあたしはパラダイスフォールズへ続く道の入り口――門番のGrouse達がいるところまでやってきた。入り口近くの彼らからは死角になっている場所に隠れ,手荷物をあさり,ステルスボーイを取り出して起動させる。ギユーンと音がして自分の姿が透明になった。なるほど,こういうものなのか!
一応しゃがんで忍び足になって,あたしは歩き出した。ステルス状態は良好なようで,Grouseらはこちらに気づかない。そろりそろりとGrouseの横を抜け,そのうしろにいるもう一人のスレイバー(奴隷商人)のほうに近づくと,ここで少しスレイバーが反応を見せた。急いで――しかしこっそりと――距離をとる。あぶないあぶない。すべての気配が完全に消えているわけではないみたいだ。
門番をかわし,中腰のまま,町に入るための扉を目指す。すると前方から誰かがこちらに向かって走ってくるのが見えた。一瞬ドキっとしたけど,こちらのステルスは解けていない。あたしの脇を通り過ぎて,外へと向かって少し走ったところでその奴隷――よく見たら首輪を付けていた――の頭はポンッ! と爆発した。あの奴隷用の首輪のせいなんだろうか。たぶん逃げだそうとすると……。そうか,そういう首輪なんだ。
さらにステルスで前進する。扉が見えてきた。扉の前に人がいる。一人は銃を持った男,もう一人は子供。子供は首輪を付けられている。
クエストマーカーはその子供を指しているので,どうやら彼と話す必要があるようだ。男に見つからないよう,回り込むように近づいて子供の真横まで来たが――ああダメだ,しゃがんだ状態で話しかけることができない。でも立ち上がればステルス状態が解けてしまう。だけど,ステルスボーイを起動したときあたしは直立していて起動後にしゃがんだから,身体が透明になる効果は立っていてもきっと有効なんだ。
ステルスボーイの有効時間がどれくらいなのかあたしは知らないけど,有限であることは間違いない。もたもたしている時間はない。意を決して立ち上がったら……男がこちらの気配に気づいて発砲してきた!
あああー,やってしまったあ。反射的に迎撃して,数発で倒す。透明化の効果は……ふぅ,よかった消えていない。
戦闘しても解除されないんだ。そのまま子供に話しかけたら彼は反応してくれた。この子供は目的の子供ではなかったけど,内部のことを教えてくれたので,クエストがアップデートした。
扉を開けてパラダイスフォールズ内部に入る。いきなり目の前に,侵入者に何事かを警告するかのように,棒に刺した頭蓋骨が並べられている。
住民達にカーソルを合わせると,みんな名前とヘルスバーが赤い。アグレッシブ状態だ。すぐに目に入るところにすでに四人ほどいて,当然奥にはもっといるだろう。目を凝らすとたき火の周りには三人ほどいて……ああ,2階のバルコニーにも人がいる。あのロケット砲のような武器はなんだろう?
町の中央付近にあるプラットフォーム――奴隷の監視用だろうか――の上にはミニガンを抱えた見張りらしき男。ただでさえ悪夢めいた状況なのに,あんなに近づきにくいところからミニガンを連射されたらおしまいだ。回り込もうと動く前に,あたしの身体はバラバラになるだろう。
まずい。今までつとめて考えないように,意識しないようにしてきた感情がわき上がってくる。一度思うともうダメだ。押さえつけようとすればするほど,逆にあふれ出してくる。
――こわい。
身体が震える。あたしは何をしようとしているんだろう? 見つかったら確実に殺されるだろう,こんな状況に自分から身を投げ出すなんて。こんなところに自分がいるという事実が,とても非現実的だ。アリエナイ。
あたしは,なんでこんなところにいるんだろ? 子供を助けたいから? そう,それもある。でもそれだけじゃない気がする。探索の旅を続けるため? それもある――でもきっとそれだけじゃない。あたしは――,
シュワアーン。
ステルスボーイの効果が切れる間抜けな音が聞こえた。見つかれば確実に死ねそうな,この位置で……。
Fallout 3では,コンピュータのターミナルをハッキングしたり,ボックスやドアの鍵をピッキングで開けたりできる。ハッキングを行うためのスキルは「Science」で,鍵開けを行うスキルは「Lockpick」だ。
ゲーム内のターミナル/鍵には,“そのターミナル/鍵に対してハッキング/ピッキングを試みるために必要なスキル値”が設定されている。該当するスキルの値がその必要値に足りていない場合は,そもそもハッキング/ピッキングを試みることができない。つまり本作では「自分のスキルの値は低いから失敗するかもしれないけれど,とりあえず挑戦してみる」ことはできないのだ。したがって「セーブ/ロードを活用して何回もやればいつかは解除できるんだから,このスキルは上げなくてもいいや」という手は使えない。
つまり,ScienceとLockpickのスキル値を上げたいと思うモチベーションは,このような形で提供されているわけだ。
ハッキング/ピッキング対象に設定されている難度には段階があり,Easy,Average,Hard,Very Hardの対象には,それぞれスキル値が25,50,75,100ないと挑戦できない。基本的に25刻みであることを知っておくことは,スキルポイントを割り振り方を考えるうえでの参考になるはずだ。
ターミナルは,規定の回数以上パスワード入力を間違うとロックしてしまい,鍵の場合は失敗が続くとピッキングに必要なアイテム,bobby pinがどんどん減ってしまう。だから通常は,そう何度も挑戦できないのだが,実はちょっとしたウラワザがある。
鍵の場合は一度ガチリと引っかかってしまった段階で,ターミナルの場合は挑戦回数の残りが0になる前にピッキング/ハッキングモードを抜けてしまうことで,状況をリセットできる。この手を使えば,ターミナルには何回も挑戦できるし,bobby pinを1本も折ることなく何度も鍵穴にトライできるのである。
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