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印刷2008/12/25 11:58

連載

Fallout 3 連載 荒野に咲いた一輪の花 / 第2回:荒野に咲いた一輪の花

荒野に咲いた一輪の花
第2回:荒野に咲いた一輪の花

 

パパ出奔

 

 何をやらせても凡人にはないそのフローレスなセンスがきらめいてしまう筆者の手によって作り出された連載のヒロインは,気がつけば,「誰が見ても,美の化身」――そんなコピーが似合う19歳のプリティな美少女へと成長してしまった,と豪語する星原氏。だが,連載第2回で,そんなヒロインの暮らしは急転直下することになる。Vault101が突然,隠していた牙をむくのだ。

 

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 ある日,あたしは騒ぐアマタ(友人)にぐらぐらとカラダを揺すられて目を覚ました。このシーンって,もし見ているのが男性であれば,あたしが寝間着一枚というあまりにも無防備な姿であることにも気づかずに「うーんなーにーどうしたのーむにゅむにゅ」なんて言いながら,手の甲でコシコシと目のあたりをこする姿に,うひゃーこれはたまらない,マジ可愛いーとなるところだけど,アマタ相手なのでいまはあんまり効果はない――というかあっても困る。
 さて,どうしたんだろ。ハッ! ひょっとして, 長い年月をかけて蓄積されてきたあたしの美しさに対する妬み嫉みがついに臨界点を超えて,思わずフラフラと近づいて首に手を伸ばしてしまったのかしらっ。なーんてね,ウソウソ。アマタとは本当に仲良しだもの。

 

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 なんだか,アマタの言うところでは,あたしが寝ている間に,パパがこのVault101を出ていってしまったらしい。
 シェルターの外に広がっているのは,核戦争で汚染された人の住めない荒野だけ。人間は外の世界へは一歩も出ることなく,Vaultの中で一生を過ごす。それが常識。だからパパの脱走は異常事態。「出てはいけない」という犯すべからざるルールを破って外に出ようとするあたしのパパを,アマタのパパであるVaultの管理責任者は,警備員を使って実力で止めようとしたけど,結局逃げられてしまったんだって。そしてそのことに怒ったアマタパパは,狂ったようになっていて,逃亡者の娘であるあたしを捕らえようとしていて,もし捕まったら殺されるかもしれないんですって(笑)……って,ええっ,なんであたしまで!

 にわかには信じられない話だけれど,アマタは完全に本気の様子。逃げるには管理責任者の部屋の隠し通路を使えばいいという情報といっしょに,あたしの手に弾の入ったピストルを押し込んできたのでマジくさい。すべてを告げるとアマタは戻っていってしまった。

 

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 まずい,っていうかヤバイっていうか,つまりこれって「美少女+逆境」? てことは……どうしよう……あたし……これ……もう完璧すぎ。
 準備のために,まずは愛用しているガーゼ素材のふわふわパジャマを脱いで着替えようかと思ったんだけど,見ればすでにVault101のツナギを着ていることに気付いた――っていうか,これで寝てたのかよ,あたし。

 

 

とても壊れやすいもの

 

 ともかく,身の周りの荷物を持って逃げろという話である。画面に表示されているシステムメッセージやインジケーターも,とりあえず机やドレッサーの中身を取って進めといっているので,そうすることにした星原氏。ただし,星原氏は人の家の引き出しまで全部開けて回るようなプレイは好きではないので,それは今後もしないつもりと語る。とはいえ,ここは彼女の部屋なので,あるものは自分のものと見てよさそうだ。

 

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 よしっ,それじゃあたしの冒険の始まりだ! 美しき逃亡者,ここに爆誕♪ がんばろー! おう! 貞治! なんちゃって。爆笑。
 勢いよく部屋を飛び出したところで,いきなり事件に遭遇。なんだか向こうのほうで警備員が騒いでいる。「なんだろ?」って見てみると,警備員はバカでかいゴキブリ(!)と戦っている! わわわわ,どうしよう! まず巨大ゴキブリが素でイヤ。本気でイヤ。
 しかもさらにイヤなことには,あの警備員は10年前からずっとあたしのことを狙っているミスターロリコンことケンダルだわ。

 

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 ダブルでキモイので,とりあえず無視して横を通り過ぎることに決定。でも数歩踏み出したところで,足下のゴキブリを倒し終わったケンダルが,あたしの存在に気がついた。そして……なんてこと! あたしに襲いかかってきた。ヤられる! でも大丈夫。あたしにはアマタにもらったピストルがあるし。これでバキュンと一発,恋の弾丸(ラヴリー・バレット)をお見舞いすれば,ロリコン退治も即完了。よおーし,それじゃ,ミラクル☆シュート,えいっ!

 

 発射された弾丸はV.A.T.S.で狙ったケンダルの頭部に向かってまっすぐに飛んだ。着弾点はアゴのあたり。やや下方から少し打ち上げるような弾道で頭部への侵入を開始し,とがった弾丸の先端はまず皮膚を破り,そのすぐ下の肉を血管と一緒にひきちぎり,続いてアゴの骨を砕いた。衝撃でひきつれた頬の肉が破れた。そこで男の首はもげた。
 ……英語PC版には,このような表現が随所に見られ,それが本作の特徴の一つになっている。これは,アナーキーでインモラルな核戦争後の荒廃した世界を描くため,これまでのシリーズでも一貫して追及されてきたスタンスであり,本作でもそれはブレていないのである。

 

 ……あれ? なんか……? ……おかしくない? だってラヴリー・バレットでズキュウゥンって撃たれたら,人は「ひえーやられたー」って言いながらピューっと逃げて……いくはず……?

 ――あたしは無意識のうちに叫びだしていた。

 

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 ……とりあえず,あたしは美しき逃亡の途中なので先に進むことにしよう。「でぐちっ,でぐちっ,フンフンフンボルト!」とちょっと鼻息荒めに,まだ封鎖されていない扉をたどるように進んでいくと,マユゲの端のとがったブッチが話しかけてきた。
 なにやら必死の形相でこちらに話しかけてきているけれど,こっちはこっちで忙しいのよね。だから「あたしはいま忙しいの」と軽くあしらって先を急ぐ。っていうかブッチだけにブッチぎり。これずっと言いたかったww。

 

 アハハハハハハハハハハハハ!

 

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 そこから先の記憶はちょっと曖昧なんだけど,床に倒れてるっぽい人を何人か見た気がする。
 ドアのそばにいた警備員リチャードとオブライアンの二人は銃を撃ちながら襲いかかってきたのでミラクル☆シュートで撃退するしかなかったような気がしたり。

 

 この間までは,朝会えば「やあおはよう。……え? ああ,うん,そ,そうだね今日もかわいいね」なんて挨拶してくれていた警備員さん達が,今日はあたしのことを警棒で何度も何度も何度も何度も何度も何度も。あたしはやめてっていってるのに何度も何度も何度も何度も何度も何度も殴るので,あたしの左腕はダランとなったまま動かなくなっちゃった。左足だって,もうちぎれそうに痛いよパパ。

 

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 銃で撃ったらリチャードの頭は爆発してしまった。攻撃をやめてほしくて,武器を持つオブライアンの右手を撃ったら,その手が飛んで,そのまま倒れて,もう起きあがらなかった。
 気がつくと,左側に見えた強化ガラスの窓の向こうに誰かいて,その人はあたしを見て「あいつだあいつだ殺せ」と大声を出している。大きな窓はなんだか投影機用のスクリーンみたいで,まるでスライドに映っている人がそのまま動いているように見えて,えへへ,面白い。

 

 

管理責任者

 

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 ――ふいにアマタの声が聞こえきたのであたしはハッとなった。
 あたしはいま通路を歩いてる。声は左の部屋から聞こえてくる。ハメ殺しになっている窓から中をうかがうと,警備主任のマークと管理責任者,つまりアマタパパが,あたしの居場所を聞き出そうとしてアマタをいじめている。マークは警棒を振りかざして,今にもアマタに振り下ろしそう。ああ,あれはだめよ。あれはいけない。肩口に向けて警棒を力一杯振り下ろされると,まるで大きな獣が肩にかじりついたような衝撃があって,そのあとは痛みじゃなくって,いまは痛いのかそれともあれ? これが普通だったっけ? って自分の体のことなのに,それが把握できない状態になって。これが,すっごく怖くって,すっごくイヤなんだってば。
 アマタを助けるため,あたしは部屋に入った。

 

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 マークはこちらを見ると少しの逡巡もなく警棒を振り上げたまま,あたしのほうに向かってきた。ごぎんと側頭部を一度,そして右の頬をもう一度打たれた。こんなことされたらせっかく止まりかけてた鼻血がまた出てきちゃうじゃん? あたしはマークの動きを止めようとして,何発もの弾丸を撃ち込んだ。

 

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 混乱の最中にアマタは廊下へと逃げ出していた。もう大丈夫かな。
 美少女というのは無意識のうちに身だしなみを完璧に整えてしまうものなので,服についた,ドロドロを指でこそげ落としていると,部屋の隅にアマタパパが立っていて,こちらを見ていることに気がついた。そうだった。だめじゃん,アマタをいじめたら――って言ってあげなくっちゃと思って,あたしはアマタパパに話しかける。
 アマタパパは何事かを言っているけれど,あたしの……あたしの耳にはほとんど何も入らない。だって……今日はもう疲れた。いろいろなことが,いっぺんに起こって。
 なあに,アマタパパ? ああ,うん,そうね。もうへとへとだし,ピストルも持っていたくない。こんなの持っていたくないんだよ。もう,ほんとうに……だから渡します。――あたしは言われるままに,携帯していたすべての武器をアマタパパに手渡した。

 

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 すると,アマタパパは「ありがとう。これでやりやすくなったよ」といって,いま受け取った武器を使ってあたしを殺そうとする。
 なんで……なんでよ! あたしは もう眠いのに! 床にころがっている首のないマークの身体から,あたしはピストルをもぎ取って,アマタパパの顔に向かって,弾倉がカラになるまで引き金を何度も何度も引き続けた。最後の一発でアマタパパの頭は破裂した。衝撃で身体は糸の切れた操り人形のように跳ね上がって,空中でくるりと回ってから床に崩れ落ちた。
 ――渡した道具を返してもらわなくっちゃ。倒れたアマタパパの身体を漁って預けたものをゴッソリ取り戻す。ポケットからはパスワードの書いてある紙切れと部屋のカギも見つかった。
 そのとき,アマタが様子を見に戻ってきた。そして,倒れている自分の父親の姿を見て,アマタは泣き崩れた。なんなの,これ? あたしは,走り出した。

 

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ウェイストランドへ

 

 出口へ続く通路は,管理者部屋の中にある。それほど遠くないそこに一直線で向かって,アマタパパのカギでその扉を開け……ようとしたけど,ガタガタと手がふるえて鍵穴にカギをうまくあわせられない。もどかしい手つきでなんとかカギを解除して,扉を開けて中に飛び込む。見回しても通路の入り口なんて見あたらないけれど,コンピュータ端末が目に入ったので迷わずそこへ向かった。
 ふるえる指でカギと一緒に入手したパスワードを入力すると,簡単に主要な機能にアクセスできるようになった。現れたリストに「トンネルを開ける」という項目がある。これだ。オンにすると家具の一部が動き出して,出口へと続く階段が現れた。

 

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 入り口が開ききるのを待つことなく,あたしは身体をその先の通路へと滑り込ませた。奥へと続く暗いトンネルの中を走る。息が苦しい。上半身全体を使って何度も何度も空気を送り込んでいるのに,もっとよこせと肺は悲鳴を上げ続ける。そのうち,空気にこれまで嗅いだことのないにおいが混じり始めていることに気がついた。

 

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 突き当たりにあった扉に飛びかかり,身体全体で打ち破るように開けると,そこは機械類の並ぶ制御室だった。突き出たコントロールパネルの前に立つと,正面に巨大なコルク栓のような扉が見える。これが出口で間違いなさそう。パネルに手を伸ばしたところで部屋の中に誰かが駆け込んできた。アマタだった。どこか近道を利用して来たのだろう。
 ――ああアマタ。ここが出口みたい。これボタン押せば開くみたいだから,あたし今から押そうかな。でも……あたしはほんとうは表になんて出ていきたくなんてないんだよ? あたしはどこに行くの? 
 だって誰も教えてくれなかったじゃない! 人がこんなに簡単に壊れるものなんだって。身体から首が取れてしまったら,もう二度と元には戻らないんだって。たぶん誰かの手で本当のことが私達の目の前から隠されていた。こんなに重要なことを……どうして隠したの? どうしてあたし達は教えてもらえなかったの?

 

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 だけどもう遅い。何一つ元には戻らない。ここにはあたしのいる場所はない。アマタも同じ意見みたい。背後からは,またあたしを殺そうと追ってくる誰かの懐かしい声が聞こえてくる。あたしはもう一度操作パネルに向きなおり,Vaultの扉を開くスイッチを入れた。
 ――そして外へ出るまで,振り返ることは一度もしなかった。

 ここから先は自分の力だけでやっていかなくてはならない。荒野に投げ出されたあたしがいま持っているのは,いくつかの武器と荷物と,あとは,そう,このビックリ・キュートで完全無欠のカ・ワ・イ・サ,だけ☆

 

 ――こうして,無菌のVaultで育てられた世間知らずでおしゃまでキラリンレボリューションな美少女が一人,荒野に放たれたのである。初めて浴びる白々とした陽光が照らし出すその姿はまるで,荒野に咲いた一輪のバラのようだったと星原氏はいう。

 

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 Fallout3の操作方法は使うキーを絞ったシンプルなものにまとめられており基本的には分かりやすいのだが,直感だけでプレイを進めているとなかなか気がつかない操作もいくつかある。
 ダンジョン探索時などに周囲が暗くてよく見えないときには,ライトを使って辺りを照らし出すことが可能だ。ライトは主人公の左腕のPip-boy3000に内蔵された機能で,Tabキーを数秒押しっぱなしにすることで点灯する。
 カメラを回転させて自分自身を眺めたいときにはFキーを押しっぱなしにしながらマウスなどでカメラの位置を調節する。カメラを完全に自由に移動させられるわけではなく,Fキーから指を放すとすぐに元の位置に戻ってしまうので割と使いにくい。
 正面に向けて構えている武器をしまいたい場合はRキーを長押しする。Fallout3ではNPCと会話するときに武器を構えていても,とくに不都合はないが,町の中で行動するときなど気分的にしまいたいシーンも少なくないので,そんなときに活用しよう。

 

 

■■星原ミッシェル昭典(ライター)■■
 年末年始も相変わらずの忙しさに追われる星原氏だが,どういうわけだか本連載には力が入っており,すでに先の分の原稿まで届いているのである。仕方なく,「いやー,最初はどうなることかと思いましたが,ずっと見ているうちに美人に見えてきましたよ,主人公」と軽く外交辞令を送ったところ,「想定ずみです」との返事。想定ずみだったのか……。
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