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海外ゲーム四天王 / 第12回:「Mata Hari」


マタハリー,マタハリー,という謎めいたサウンドに乗ってマタハリ風の衣装を着けた女性が踊るのを4Gamer取材班が目撃したのは,2008年にライプツィヒで開催されたGames Conventionでのこと。ドイツのdtp Entertainmentが発売を予定していたアドベンチャー,「Mata Hari」の宣伝だった。歌詞がドイツ語だったのでサッパリ分からなかったが,マタハリー,マタハリーというフレーズだけが耳について離れないと取材班の一人がこぼしていた。というわけで,今週の「海外ゲーム四天王」はそんな「Mata Hari」を紹介しよう。実在の女性スパイを主人公にした作品で,史実によれば主たる情報収集手段として「お色気作戦」を採用したと聞けば,朝倉氏の食指が動かないわけがないであろう。

「マタ・ハリ」とは,第一次世界大戦の前後に実在した女性ダンサーの名前である。彼女は踊り子であると同時に,フランスとドイツの両国をまたにかけたスパイでもあったが,1917年2月,フランス官憲に逮捕されて銃殺刑に処せられるという悲劇的な最期を遂げた。その数奇な運命や,数多くの将校を手玉に取った美貌の女スパイという物語性から,さまざまな小説や映画にもなって今日まで知られている,伝説的な女性なのだ。
本作「Mata Hari」は,そんなマタ・ハリを主人公としたアドベンチャーゲーム。物語は,普通の踊り子だった彼女が,スパイに転身するきっかけとなった出来事からスタートする。とある社交場で出会った一人の紳士によって,招待状のないままパーティ会場にもぐりこんだマタ・ハリは,その謎の紳士のちょっとした手伝いをするという軽い気持ちで一人の実業家に接近し,首尾よく機密を手に入れることに成功するのだ。
その紳士に恋心を抱いたマタ・ハリは,以後,彼のいいなりにドイツ軍高官に接近しては情報を盗み出すようになる。
こうしたストーリーは実話に基づいたものではなく創作だが,やがて彼女はドイツ軍の秘密兵器である,数百kmの射程を持つ巨大な大砲の情報を盗み出したり,高級車メルセデス・ベンツで知られるダイムラー・ベンツの工場に忍び込み,開発中だった最新鋭飛行機のエンジンに細工を施しテスト飛行を失敗させたりなど,危険で困難な任務にあたっていくのだ。
最初はおっかなびっくりといった感じのマタ・ハリだが,ストーリーが進むにつれて次第にスパイとしての腕を磨き,大胆な作戦を遂行していく。ゲーム終盤では,なんと男装して白昼堂々と毒ガス工場に赴き破壊工作を行うという,ジェームズ・ボンドも真っ青のマタ・ハリの変貌ぶりが楽める。

ところで,アドベンチャーゲームといえば,必ず登場するのがパズルだ。本作にも電話線をつなぎ替えたり,追跡してくる敵諜報員をまいて都市から都市へと鉄道で移動したり,ドイツ軍の高性能暗号解読器を操作したりといった場面でパズルシーンが登場する。
ただし,本作のパズルは難度的にかなり低め。アドベンチャーの中には,何をどうしたらよいのか,手も足も出ないようなパズルに出くわすことも多いが,本作では,少し考えればまず誰にでも解けるレベル。またゲームの設定を変更すれば,答えがまったく分からなくともクリアしたことにして先に進められるので,パズルのためにストーリーを進められなくなることはない。手強いパズルが好きな人には物足りないだろうが,気軽にゲームを楽しみたい人にはありがたい設定になっている。
さて,美貌の女性スパイが,ドイツとフランスの高官を手玉に取る……と聞けば,多くの読者が思い浮かべるのが,「ムフフなシーン」ではないだろうか。ムフフ。もちろん筆者も,そのようなシーンがいつ出てくるのかと胸躍らせながらプレイしたのはいうまでもない。いうまでもなかったのだが……。
例えばマタ・ハリが情報を取るために探りを入れる場面で,ホテルの自分の部屋に誘いつつ「ベッドで確かめてみる?」と言ったり,下着姿のマタ・ハリが,相手の男が眠っている隙に手荷物を探ったりといった場面が出てくるが,そのたび「お,きたか」と身構えた筆者にとって残念なことに,期待していたような直接的なシーンはまったく出てこない。
おそらく一番セクシーなのが,肌も露わなステージ衣装をまとった彼女が音楽に合わせて踊る場面だろう。なにしろ,北米のレーティングは「T」(13歳以上)だしなあ。とはいえ,「暴力表現には厳しいが,お色気系には寛容」という,北米とは正反対の審査基準を持つヨーロッパだけに,もしかしたらドイツ語版を買えば……と思わないでもないが,そこまで根性ないです。


2007年8月24日に掲載したGames Conventionのレポートにもあるように,本作はHal Barwood氏とNoah Falstein氏という,二人のベテランゲームデザイナーが協力して制作したという意味でも注目される作品だ。とはいえ,原稿執筆時点のMetacriticsスコアは67点とちょっぴり微妙。ヨーロッパでは難しいパズルが好まれる傾向にあるらしく,そのせいかも。
以上のように,ストーリーもパズルの謎解きも,それほど重い要素はなく,少し気合を入れて臨めば,一日ほどで十分にコンプリートできるくらいのボリュームだ。気楽に楽しめる「お手軽アドベンチャーゲーム」といえるだろう。
ただし,ストーリーの最後には意外な結末が用意されており,「え~,そうだったの!」という仕掛けになっている。史実では残酷な最後を迎えたマタ・ハリだが,果たしてゲームでは? そのへんはさすがに書けないので,プレイして確かめてほしい。
ページ冒頭にもあるように,Games Convention 2008で公開されていたマタハリダンスのムービーを,ゲームとはあんまり関係ないけど掲載しよう。おさわり程度の長さだが,よそ見をしていたら彼女がフレームアウトしてビックリしたという記憶が鮮やかに甦ってくる。だからどうしたと言われても困るけど,ぜひ堪能してほしい
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- ライター:朝倉哲也

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