レビュー
ATI Radeon HDシリーズ初のデュアルGPUカードは“使える”のか
GC-D26XT2-F5
» ATI Radeon HD 2000シリーズを搭載する初のデュアルGPUカードが登場した。デュアルGPUカードは,その使い勝手や価格などから,どうしてもマニア向けの域を脱し切れていないが,新世代GPUを搭載した今回の製品はどうだろうか? Jo_Kubota氏が分析する。
「双子座」から取られたと思われる「Gemini 3」という愛称があるので,以下本稿ではGC-D26XT2-F5という型番表記ではなくGemini 3と呼ぶが,Gemini 3は,カード1枚でCrossFire動作が可能なのが最大の特徴である。
デュアルGPUカードというのは,汎用性が高そうに見えて,実際にはドライバの対応などが問題で使いにくく,ニッチな,レアモノマニア向けに留まることが多かったわけだが,果たしてミドルレンジGPUを2個搭載したGemini 3はどうだろうか? 今回はGECUBEの販売代理店であるマスタードギガからサンプルを借用できたので,その可能性を探ってみたい。
Gemini 3動作の仕組みと
ハードウェアの特徴をチェック
まあ,Gemini 3で実現されていることはCrossFireそのものなので,ゲーマー的には「1枚でCrossFireを実現するカード」という理解でまったく問題ないのだが,マザーボードとの互換性に関する部分は,記憶に留めておくのもアリかと思われる。
さて,テストの前にカードをざっと見てみよう。カード長は210mm(※突起部除く)で,「ATI Radeon X1950 Pro」の220mm強と比べても短く,別段大きい印象がない点を,あらかじめ述べておきたい。カードサイズが原因でPCケースに取り付けられないという問題は,まず生じないはずだ。
6ピンの外部電源コネクタは接続必須。クーラーはオリジナルデザインで2スロット仕様だ |
(CrossFireを利用しなければ)デジタル/アナログRGB(DVI-I)出力4系統を利用可能 |
カード背面にも銅製のヒートスプレッダを装備する |
ヒートスプレッダを外すと,メモリチップが見える |
GPUクーラーを取り外したところ。中央に見えるのがPLX Technology製のPCI Expressブリッジチップ「PEX 8547」だ |
2個のGPUはPEX 8547を介して,いずれも16レーン接続。ちなみにチップ自体の消費電力は4.9Wとされる |
というわけで,そのCrossFire動作時におけるパフォーマンスを見ていくことにしよう。
比較対象としては,GDDR3メモリ版のATI Radeon HD 2600 XT搭載カードのほか,「ATI Radeon HD 2900 XT」「GeForce 8600 GTS」「GeForce 8800 GTS」搭載製品も用意している。
SAPPHIRE HD 2600 XT 定番の2600 XT搭載製品 メーカー:Sapphire Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp 実勢価格:1万6000円前後(2007年10月11日現在) |
HD2900XT-D2V-P512D3 貴重なハイエンドの選択肢 メーカー:Tul 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp 実勢価格:5万2000円前後(2007年10月11日現在) |
8600GTS-256A3 価格が魅力の8600系最上位 メーカー:Albatron Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp 実勢価格:2万4000円前後(2007年10月11日現在) |
8800GTST リファレンス仕様の版320MBモデル メーカー:Albatron Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp 実勢価格:4万2000円前後(2007年10月11日現在) |
注目は,ミドルレンジの2枚に対してGemini 3が明確なアドバンテージを持てるか,そして,ATI Radeon HD 2900 XTにどこまで迫れるか,といったところになる。
テストした解像度は1024×768/1280×1024/1600×1200ドットの3パターン。ベンチマークテスト方法は4Gamerのレギュレーション4.1に準じるが,今回はテストに費やせる時間が短かったため,「高負荷設定」でのテストは省略。「標準設定」のみで計測した点をあらかじめお断りしておきたい。
なお,細かい点だが,以下Gemini 3以外はグラフィックスカード名ではなくGPU名で表記する。
ポテンシャルは高いものの
スケーリングの安定感が課題
まずは「3DMark06 Build 1.1.0」(以下3DMark06)と「3DMark05 Build 1.3.0」(以下3DMark05),2大3Dベンチマークソフトのスコアから見ていこう(グラフ1,2)。Gemini 3は,ATI Radeon HD 2600 XTのシングルカードに対して,3DMark06で45〜50%,3DMark05で35〜42%のスコア上昇を見せる。CrossFireによるスケーリングがうまくいったときには,3〜5割程度のパフォーマンスが見込めそうだ。
一方,ハイエンドGPUを前にすると,絶対的に届いていない点も指摘しておく必要がある。
両3DMarkの結果を踏まえ,ゲームパフォーマンスのチェックに入って行きたい。
グラフ3は,FPS「S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl」(Version 1.0004)のテスト結果で,さすがに3DMarkほどではないものの,CrossFire動作の効果は出ている。ATI Radeon HD 2600 XTのシングルカード比で32〜37%なので,まずまずだ。
ただ,CrossFire動作でも,GeForce 8600 GTSに及ばないのは少々問題。ATI Radeon HD 2600 XT自体の最適化が,そもそも進んでいないような印象を受ける。
そして,より深刻なのが,ATI Radeonに最適化されている「Half-Life 2: Episode One」の結果だ。スコアはグラフ4のとおりだが,明らかにスケーリングがうまくいっていない。Half-Life 2: Episode One自体はCrossFireによるスケーリングに対応しているので,冒頭で述べた“厳密にはCrossFireでない”という事実が影を落としているものと思われる。
続いてはTPS「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下ロスト プラネット)のスコアである(グラフ5,6。レギュレーション4.1の設定だとミドルクラスのGPUには荷が重いが,それに目をつぶっても,Snowでシングルカードよりスコアが(若干ではあるものの)低下しているのはいただけない。
一方,主にCPUパフォーマンスがスコアに影響するCaveのスコアを見てみると,興味深いことに,Gemini 3のスコアが上昇している。ATI Radeon HD 2600 XTのシングルカード時と比べて31〜37%向上なので,「なぜCaveでだけスケーリングが有効なのか?」と思ってしまうが,Snowの結果からして,CrossFireが機能しているとはいえない。ここは,グラフィックスメモリ容量の効果と見るべきだろう。ロスト プラネットは非常に“グラフィックスメモリ食い”のタイトル。それだけに,比較対象となるシングルGPU仕様のATI Radeon HD 2600 XTカードの倍となる,GPU当たり512MBという容量が効いたと考えるのが妥当だ。そう考えると,高解像度でGemini 3とGeForce 8600 GTSがいい勝負になる点も納得できる。
なお,ロスト プラネットにはオプションに「マルチGPU」という項目が用意されているが,オン/オフを切り替えてもスコアに大きな変化はなかった。そのため今回は「オン」のスコアを採用したことを付記しておきたい。
続いてRTS「Company of Heroes」のテスト結果に移るが,ここでは「グラフィックスメモリ320MB版GeForce 8800 GTSに迫る」という,理想的な結果になっている(グラフ7)。グラフィックス演算性能よりも,大量のキャラクタデータやフィールドデータでグラフィックスメモリを消費するタイプのゲームにおいては,GPU当たり512MBの効果は絶大といえそうだ。
最後にグラフ8で示したのが,「GTR 2 - FIA GT Racing Game」(Version 1.1)のスコアだが,Company of Heroesと同じく,Gemini 3のスコアは良好だ(グラフ8)。高解像度で最大47%のスコア上昇という,GPUスケーリングのお手本のようなスコアになった。
消費電力は予想の範囲内
むしろ気になるファンの動作音
消費電力についてもチェックしておこう。Windows XPを起動し30分放置した直後を「アイドル時」,3DMark05を30分間連続実行し,最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」として,それぞれの時点における消費電力をワットチェッカーで計測した結果をまとめたのがグラフ9だ。
スコアはCPUなどの省電力機能を無効化した状態で計測したものだが,もともと低消費電力のATI Radeon HD 2600 XTだけに,2個搭載したときの消費電力も,そう無茶な値にはなっていない。さすがに高負荷時の消費電力は高いが,それでもATI Radeon HD 2900 XTのそれを下回っており,デュアルGPU+ブリッジチップ仕様ということを考えると,妥当なラインといえよう。
なお,今回のテスト構成ではGemini 3のGPU温度を計測できなかった。また,ファンの音について付記しておくと,アイドル時でもそれなりにうるさく,ゲームをプレイするとファン回転数が上がって,間違っても静音仕様とは呼べない。交換できそうなGPUクーラーも見当たらないため,静音化はかなり難しそうである。
悪い製品ではないが
では,果たして誰向けなのか?
Gemini 3とほぼ同じ価格――むしろより安価なことが多い――でグラフィックスメモリ320MB版のGeForce 8800 GTSを購入できること,そして,CrossFireのパフォーマンスは魅力的であるものの100%の効果を期待できるわけでは決してないことを考えると,コストパフォーマンスは微妙。いま手元に4〜5万円あるなら,素直にハイエンドのグラフィックスカードを購入すべきだ。
換言すると,Gemini 3もやはり,マニア向けの製品なのだった。
- 関連タイトル:
ATI Radeon HD 2600
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