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Access Accepted第812回:インディーゲームはAAAゲームより面白くなったのか?
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印刷2024/12/16 08:00

業界動向

Access Accepted第812回:インディーゲームはAAAゲームより面白くなったのか?

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 欧米のゲーマーを中心に,SNSなどで散見されるようになった書き込みが,「どうしてAAAゲームよりもインディーゲームのほうが面白いのか?」という意見だ。当連載の読者の皆さんでなくても,今年は「DEI」や「ウォーク」などという言葉がゲーマーの間で話題になり,多大な資金と人材で開発が進められたプロジェクトが少なからず“失敗”と言われているのを見てきたはず。ゲーム産業の現在地は,いったいどこなのだろうか。


AAAゲームとインディーゲーム


 「AAA」(トリプルエー)とは,今ではゲーマーたちのあいだですっかりと浸透した感のある業界用語であるが,「A」の1つひとつに意味があるわけではない。昔は,「ファイナルファンタジー VII」(1997年)や「シェンムー」(1999年)のような,日本のゲーム企業が手掛ける大規模なタイトルを,海外の企業が羨望のまなざしを含めてそのように呼んでいた。

 それが,2006年代頃から始まるPlayStation 3やXbox 360の時代になると,海外においても開発費が高騰し,盛んにAAAという言葉が使われるようになった。今では「200億円/1.5億ドル以上の予算で開発される,規模の大きいゲーム企業が作り上げる作品」くらいの感覚で使われている。

日本勢の活躍が顕著だったThe Game Awards 2024の大賞は,ソニー・インタラクティブエンタテインメントの「アストロボット」が獲得。開発者のコメントにもあったが,彼らの念願である“PlayStationにとってのマリオ”を手中にしたようだ
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 一方,「インディゲ―ム」の定義はさらに曖昧だ。もともと,1980年代の欧米作品は少なからず「ベッドルームやガレージで作り出された」のがキャッチコピーになるほど同人ゲーム的属性が強かった。しかし,ハードウェアが多様化していくなかで,個人の開発が難しい状況になっていく。そうした経緯もあり,ダウンロード型の個人制作ゲームが利用者の手元に届くようになったのは,Xbox Live Marketplace(現Xbox Game Store)やSteamなどのオンライン配信が普及し始めた,2005〜2008年頃となる。
 1998年から続いているIndependent Games Festivalの受賞作を見ても,「Darwinia」(2006年),「Braid」(2006年),「Castle Crashers」(2007年),「World of Goo」(2008年)といった,現在でも名作とされるインディーゲームが次々と登場し始め,「Minecraft」(2011年)のような決定打が出たことで,インディーゲームはゲーム市場に広く受け入れられるようになった。

 もっとも,そうした活性化とともにインディーゲーム開発も大きく注目され始め,ゲーム企業や個人投資家,銀行などから投資を受けるようになり,厳密な意味での“個人制作”ではない作品も多くなってきている。2023年度の「The Game Awards」のベストインディペンデントゲームに「デイブ・ザ・ダイバー」がノミネートされたことが記憶に新しいが,パブリッシャは韓国大手のNexonだ。

 個人や少数で開発するだけでインディーなのか。政府系ファンドから出資を受けていてもインディーの範ちゅうなのか。開発費用の一部やマーケティングなどの負担についてパブリッシャとどのような契約されているのか。「インディーゲーム」と一言でいっても開発環境はさまざまだ。
 さらに販売を専門とする企業の中には,外部投資に頼らない「インディーパブリッシャ」も存在するし,NaconやParadox Interactiveの作品は,「AAAほどの規模ではない」という理由で「AAゲーム」などと規定される場合もある。
 EA OriginalやSquare-Enix Collectiveのように,ゲーム企業が独立系スタジオのサポートを行うことも今では珍しくないなど,ゲーム市場は「大企業vs.独立系スタジオ」という物差しでは計り切れない多様性が存在するのだ。

ゲーム業界には「パブリッシャ」や「傘下メーカー」「独立系スタジオ」だけでなく,「インディーパブリッシャ」を名乗る企業も少なくない。その大きな一角にあった「Stray」のパブリッシャであるAnnapurna Interactiveでは,親会社の経営方針転換の影響で所属する従業員のほとんどが突然の抗議離職を行ったのが,2024年度のトピックの1つになった
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AAAタイトルを面白くなくしているものとは


 ここ最近,欧米のSNSなどでは,「どうしてAAAゲームよりもインディーゲームのほうが面白いのか?」「なぜAAAゲームはつまらなくなったのか?」というような意見が散見される。その理由の1つが,ゲーム開発者たちの過度な「DEI」(Diversity:多様性,Equity:公平性,Inclusion:包括性の略)への社会・政治的傾倒が,多くのゲーマーから反発を買っていることだ。
 当連載でも「第791回:“ゲーマーゲート 2.0”勃発で露わになるゲーマーとゲーム業界の乖離」「第799回:『アサシンクリード シャドウズ』から始まった“弥助問題”を考える」「第803回:『CONCORD』のローンチ失敗にみる,ゲーマーコミュニティに芽生えるアンチDEIの現状」などの記事で紹介してきた。
 「第810回:メイク・ゲームズ・グレイト・アゲイン! イーロン・マスク氏が生成AIによるゲーム開発を行うスタジオを新設へ」でも,仮想通貨ドージコインのクリエイターとして知られる“シベトシ・ナカモト”ことビリー・マーカス(Billy Marcus)氏が,Xにて「ゲーム開発者やジャーナリストたちが,どうしてこれほどイデオロギーに囚われているのかが理解できない」と呟いたことや,イーロン・マスク(Elon Musk)氏がゲーム企業を発足させると宣言したことを話題にしている。

 「ゲームが面白いかどうか」は,個々の消費者の主観的な感覚であり,ある種の思想的なメッセージを持つゲームだからと言って,ゲームプレイがお粗末だ,ゲーマーコミュニティが受け入れがたいゲームだ,などと断じられることはない。
 その一方で,確かに最近のゲーム市場では,インディーゲームのクオリティが高まり,大企業が生み出すゲームと差がなくなり始めているような印象も受ける。「The Game Awards 2024」にノミネートされた「Balatro」のように,インディーゲームがAAAタイトルと同列に評価されるような風潮になりつつあるのは確かだろう。

2024年の話題作の1つである「Balatro」は,人気のローグライク要素を取り入れたデッキビルダー。本作を開発したLocalThunkは,カナダ在住の個人ゲームデベロッパで,2024年2月のリリースから半年で200万本,現在までに350万本を売り上げたという
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 ゲーム企業側にとって,何百人もの従業員が,数年間にもわたって莫大なコストをかけてAAAタイトルを作り上げる体制は,非常にリスクが高い。ライブサービスを念頭に開発されながらも,2週間でサービス終了となった「CONCORD」は分かりやすい例だろう。
 その結果として「誰も傷付けないテーマ」や「すでに人気のジャンルや方程式」に妥協し,それが行き過ぎたがゆえに,“つまらないゲーム”を生み出す土壌が形成されるのではないだろうか。
 「アサシンクリード シャドウズ」で最近話題になっているUbisoft Entertainmentも,インディーゲームが登場し始めた20年前ほどは,「トム・クランシーシリーズ スプリンターセル カオスセオリー」(2005年)のような“男勝り”なゲームを作り,「ファークライ」(2006年)や「アサシンクリード」(2007年)など,気概の感じられるAAAタイトルを生み出してきた。

発売が2025年2月14日に延期した「アサシンクリード シャドウズ」は,ゲーム内容の変更よりも,ゲームエンジンの大幅改良時に起りやすいバグを軽減するのが大きな目的であるようだ。プレイヤーからの声はどこまで届くのか?
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魂が奪われるゲーム開発の高騰化


 gameindustry.biz Japan Editionに寄稿された,安田秀樹氏の「ポリコレ問題を認知していないソニーグループ経営陣。垣間見える『ユーザーとの乖離』」に記述されているが,ソニーグループの十時裕樹氏は「ポリコレで失敗したのではないか」という記者の質問に対して,まったく認知していないかのように噛み合わない回答をしていたのだという。
 「アサシンクリード シャドウズ」への批判についても,Ubisoft Entertainmentのイブ・ギルモ(Yves Guillemot)氏は,「差別に対して,従業員を守る」というような,市場の声とはかなりずれた声明を出しており,市場の意見が届いていないように感じられる。

「CONCORD」ではリベラル過ぎる設定や,特徴のないキャラクターとゲームプレイがゲーマーのお目にかなわなかったが,今年は「Helldrivers 2」や「アストロボット」などソニー・インタラクティブエンタテインメントは名作も多くパブリッシングしている
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 もちろん,企業の経営者はクリエイターに口出ししないものであるから,結局はゲーム開発のリーダーシップに大きな責任があるが,今の欧米のゲーム企業には,自分の作品に対して確固たる信念を持つベテラン勢がいなくなり,ゲーマーの心を鷲掴みにするようなオーサーシップ(作家主義)の感じられる作品が少なくなった,と考えられるかもしれない。失敗があれば高額年収のベテラン勢は出て行かざるを得ない風潮が,欧米のゲーム企業には顕著に表れている。
 新しく数百人のチームを束ねることになった新任リーダーたちは,予算や評価の失敗を恐れるがあまりに過去作品のクッキーカッター(クッキーを作る金型で量産すること)を作り出し,投資家向けや社会的なアピールとして,誰も欲していない物語や設定を過剰に加える。そうした企業の事情を嫌悪するゲーマーコミュニティのはけ口となっているのが,より開発者たちの思いが伝わってくるインディーゲームシーンなのではないか。

 筆者は,もともとインディーゲームにかなり傾倒していたので,「最近のインディーゲームは面白くなった」,つまり「かつてのインディーゲームはそれほど面白くなかった」とは感じないが,確かに独立系スタジオのスキルは非常に高くなっているように思う。
 その大きな理由として,UnrealEngineやUnityなどかつては高価だったゲーム開発ツールが安価で触れやすくなったことや,アーリーアクセス版の公開により未熟なアイデアをより具現化しやすくなったことなどが挙げられる。
 大企業では挑戦できないようなビジュアルスタイルを持つStudio MDHRによる「Cuphead」(2017年)や,やり込み度が高くハマったらやめ時を忘れてしまうMega Critの「Slay the Spire」(2017年),プレイヤーの心の隙間を埋めたようなBlueTwelveの「Stray」(2022年),そしてアイデア一点集中型と言えるPoncleの「Vampire Survivors」(2022年)のような作品は,確かに「ゲームの面白さやユニークさ」という点ではAAAタイトルさえも凌駕する。

左からEvil EmpireBérenger Dupre氏,同じくBenjamin Laulan氏,poncleのGeo Morgan氏,そしてMega Crit GamesのCasey Yano氏。GDC2024で筆者が「トリプルIイニシアティブ」(The Triple-i Initiative)について取材したときに撮影した写真だが,今のインディーシーンで活躍するすごいメンバーだ
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 また,特定のゲームシリーズや開発者が,ブランドやフランチャイズとしてコミュニティに認知されていること,映像配信などによりゲームの面白さが消費者に伝わりやすくなったことなど,インディーゲームシーンが高く評価される理由はいろいろと考えられる。
 もちろん,インディーゲームと言っても年間に何千本もリリースされており,その中でAAAタイトルとタメを張れるくらいの作品はほんの一部なのだから,インディーのほうが成功しやすいという環境になっているわけではない。

 2024年のゲーム市場は,ゲーム企業の力学とゲーマーコミュニティの嗜好の乖離という問題に大きなスポットライトが当てられ,今後もしばらくは1つのトピックとして語られていくことだろう。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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