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Access Accepted第808回:「Warcraft」30周年――若き開発者たちが築いた伝説
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印刷2024/11/18 08:00

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Access Accepted第808回:「Warcraft」30周年――若き開発者たちが築いた伝説

 ゲーム業界で大きな影響力を持つBlizzard Entertainmentの名を世界に轟かせることになったのは,「Warcraft」というリアルタイムストラテジー(RTS)の開発だった。2024年で30周年を迎えた「Warcraft」の誕生には,当時まだ25歳にも満たない若き開発者たちの情熱が詰まっていた。今回は同社の原点に立ち返り,起業から「Warcraft」誕生までの逸話を紹介しよう。



同じパスワードを使っていた2人の若き起業家


現在のBlizzard Entertainment本社。キャンパスというに相応しい敷地は,ディズニーランド近郊のアーバイン市にある企業では最大規模で,東京ドーム1.4個分
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 Blizzard Entertainmentについては,過去にも当連載やイベント特集記事などで,何度となくその歴史や社風を紹介したことがある。カリフォルニア州アーバインのメインキャンパスは,東京ドームの1.4倍ほどとなる6万5000平方メートルもあり,「Warcraft」「StarCraft」「Diablo」「World of Warcraft」「ハースストーン」,そして「オーバーウォッチ」など,マルチプレイがウリとなる数々の人気ゲームを輩出してきた。

 2019年には,社内で常態化していたというセクハラなどの問題が明るみに出たことによって,親会社だったActivisionの経営も揺るがし,最終的にはMicrosoftにより買収されるという大きな転機を迎えた。だが,韓国のソウルやアイルランドのダブリンなどにもオフィスを構え,今でも1万3000人という雇用者を抱えている,大企業だ。Blizzardは多くのファンを持ち,業界でも先駆けて,自社イベントとなる「BlizzCon」を成功させたことでも知られ,業界での影響力も大きい。

 そんなBlizzard Entertainmentの転換点となったのは,1994年11月14日にリリースされたRTS「Warcraft: Orcs & Humans」で間違いないだろう。今回は,Warcraftが30周年ということで,Blizzard Entertainmentの誕生から,「Warcraft」を生み出すまでの軌跡を紹介しよう。

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2011年のThe Video Game Awardに登壇したアラン・アドハム氏(右)とマイク・モーハイム氏(左)。アドハム氏は2004年の「World of Warcraft」ローンチを前に引退を決意するものの,2016年末に復帰。しかし,2代目CEOとしてBlizzardを育ててきたモーハイム氏は,労使問題が明るみに出る直前の2019年4月に退社している
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 起業の発端となったのは,創設者の一人であるアラン・アドハム(Allan Adham)氏が,UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に在学中に所属していたコンピュータークラブで,マイク・モーハイム(Mike Morhaime)氏と隣同士で座ったことに始まる。当時は知らない間柄ではあったが,2人ともプログラムのコーディングにおいてはクラスでトップを争っていたという。
 そんなクラブである日,アドハム氏は自分が使っていたパソコンにパスワードをかけて休憩に出て,戻ってみるとパスワードが通らない。これは,間違ってアドハム氏の席についたモーハイム氏が使っていたパスワードもたまたま同じ「J-O-E」であり,モーハイム氏がログイン後に自分のパソコンでないことに気が付き,パスワードを変更したといういたずらが原因だった。これがきっかけとなって2人は認め合い,親友となっていたのだ。

 Interplay Productionsの創業者で「Gunslinger」の開発者として知られるブライアン・ファーゴ氏との縁があったアドハム氏は,1990年末の大学卒業を前に,ゲーム業界への参入を決めていたという。
 一方,修士課程を修了し,Western Digitalにソフトウェアエンジニアとしての入社が決まっていたモーハイム氏は,この決断に慎重な姿勢を示した。そこでアドハム氏は,モーハイム氏の父親の前でゲーム業界の将来性についてプレゼンテーションを行い,ついに仲間として参加する決意を引き出したという。

 そうして,アドハム氏は学費積立金の残りを,モーハイム氏は祖母から借りたお金を合わせて,Blizzard Entertainmentの前身となるSilicon & Synapseを起業した。この2人に加えて,学友だったフランク・ピアース(Frank Pearce)氏が創業者に加えられることも多いが,ピアース氏は起業時に参加した1人目の従業員であり,当初は彼だけが月給で働いていたそうだ。

まだSilicon & Synapseという社名で,「The Lost Vikings」がリリースされた1993年頃の貴重な一枚。手前右の人物がアドハム氏で,最右にいるのがモーハイム氏。この数か月後,卒業前に全財産の1万ドルずつを出して旗揚げした2人は億万長者となる
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 2021年2月に設立から30周年を迎えたBlizzard Entertainmentは,「World of Warcraft」や「Diablo」「オーバーウォッチ」,そして「ハースストーン」など,次々にヒット作を生み続ける日本でも有名なゲームメーカーだ。今週は,そんな同社の30年の歩みを,前後編に分けて振り返ってみたい。

[2021/02/22 00:00]
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 先週に引き続き,この2月に30周年を迎えた北米のゲームメーカー,Blizzard Entertainmentの歴史を紹介したい。設立から約10年のうちに「Warcraft」「StarCraft」,そして「Diablo」という現在も高い人気を誇るIPを生み出した同社だったが,必ずしも平坦な道ばかり歩んできたわけではないようだ。

[2021/03/01 00:00]


Blizzard Entertainment以前の下積時代


RTSというジャンルを生み出したのは,1992年にWestwood Studiosが作り出した「Dune II: The Building of a Dynasty」といわれている
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 こうして,任天堂のファミコン(NES)とセガのメガドライブ(Genesis)が凌ぎを削り,カプコンの「ストリートファイター II」が絶大な人気を誇っていた1991年に旗揚げされ,後のBlizzard EntertainmentとなるSilicon & Synapseは,独自のゲームを開発したいという希望とは裏腹に,当初は下請けとして生き延びていくしかなかった。この時に生きたのが,アドハム氏がInterplay Productionsを訪ねたことがあるという経験で,ファーゴ氏を顧問として10%の経営権を手渡す代わりに,同社から委託される形で「Battle Chess」といったプロジェクトを引き受ける。

 チャンスとなったのは,Interplayが開発の途中で投げ出すこととなった「RPM Racing」というアーケードレースゲームで,その年末にリリースされるスーパーファミコン(SNES)向けに仕上げるよう委託され,Silicon & Synapseがそれを見事にやってみせた。この頃は,単価が低い複数のプロジェクトを手掛けるために,パトリック・ワイアット(Patrick Wyatt)氏やジェームス・アンハルト(James Anhalt)氏も加わっており,一日中オフィスで寝食を共にしていたという。

 「ゲームで遊ばないヤツは雇わない」という徹底した姿勢で,「ストリートファイター II」のトーナメントを開いたり,ボードゲームやカードゲームまでに明け暮れたりする毎日だった。

 「Rock N’ Roll Racing」「The Lost Vikings」といった自社製品も社内で人気だったが,Silicon & Synapseの従業員たちの間で熱狂的にプレイされているゲームがあった。それは,1992年12月にPC(MS-DOS)向けにVirgin Gamesというパブリッシャからリリースされた「Dune II: The Building of a Dynasty」というストラテジーゲームだ。このゲームを開発したWestwood Studiosは,ネバダ州のラスベガスを拠点に,1985年に設立されていたメーカーである。

 映画シリーズの大ヒットにより知名度が上がった,フランク・ハーバートの原作小説「砂の惑星」をライセンスしたDune II: The Building of a Dynastyは,惑星アラキスのスパイスを求めて勢力を拡大するというゲームで,プレイヤーはいずれかを選択して基地の施設を作り,スパイスを採取しながら軍備を整えて敵と戦っていく。
 これを相手勢力と同時に行うことで,1990年代のPCシーンで高い人気を博した「リアルタイム戦略シム」(RTS)というジャンルを確立したマイルストーン的な作品である。

「Warcraft: Orcs & Humans」の1年で10万本という販売本数は,当時のPCゲームとして中々のもの。Blizzard Entertainmentを注目すべきメーカーに押し上げた
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 この頃は,Westwood Studiosが「Command & Conquer」を1995年にリリース,ブルース・シェリー(Bruce Shelly)氏がテキサスで起業したEnsemble StudiosがMicrosoftとタッグを組んで1997年に発売した「Age of Empires」,さらには3Dユニットや高低差のあるマップを導入したCavedog Entertainmentによる「Total Annihilation」など,名作RTSが次々と生み出されたのだ。その中にあって「Warcraft: Orcs & Humans」は,1994年と一足早くリリースされていた。

 「Warcraft: Orcs & Humans」は,1993年の夏ごろから開発が進められたが,すでに「指輪物語」をベースにしたゲームを委託開発した経験があった彼らは,“中世風ファンタジー世界をベースにする”ということは早くから決めていたという。巨大な肩当てなどの防具でパンクなキャラクター像は,ヘビメタ好きなアーティスト,サム・ディディエ(Sam Didier)氏の発案によるもので,これが後のBlizzard Entertainmentの“ビジュアル・アイデンティティ”を構築していった。

 ちなみに,1993年にはハードウェア企業と間違えられることが多かったSilicon & SynapseからChaos Studiosに社名変更していたが,資金繰りが悪化していて,アドハム氏とモーハイム氏は自分のクレジットカードから現金を引き出し,従業員の給与支払いに充てていたような状況であったという。


実はWarcraftは,ゲーム好きな彼らのコピペ商品だった!?


 そんな頃,Chaos Studiosに仕事を依頼していた会社の一つにDavidson & Associatesがあった。教員だったジャン・デイビッドソン(Jan Davidson)氏が,教育用ソフトを開発していたところ大人気となり,上場して当時4000万ドルという時価総額を持つ企業に成長していたが,近くに有能な若者たちがいるのを知り,「Kids Work II」の移植開発をChaos Studiosに委託。その仕事の早さに驚いて,Davidson & Associatesを経営していたボブ・デイビッドソン(Bob Davidson)氏が妻とともにChaos Studiosを訪問する機会があったという。

 その社風はDavidson & Associatesとまったく違ったものの,有能な若者たちが集うChaos Studiosにデイビッドソン夫妻は感銘を受け,675万ドルでの買収を提案。アドハム氏とモーハイム氏は,これを拒否する理由なども何もなく,起業からたった2年で億万長者になった。また,商標の問題からChaos StudiosからOgre Studiosに社名を変更するものの,教育ソフトメーカー傘下のスタジオらしくなかったことから,1994年1月にBlizzard Entertainmentとなった。

Blizzardが配信した「Warcraft 30th Anniversary Direct」では,Warcraft3部作をHDリメイクした「Warcraft Remastered: Battle Chest」が発表され,Battle.netでの販売が始まっている
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 「Warcraft: Orcs & Humans」は,「Dune II: The Building of a Dynasty」の“隠れ完コピ”ともいえる作品で,ユニットの多様性やバランス,インタフェースなどは盗用疑惑さえあったという。しかし,テストプレイは社員全員で行い,それぞれがアイデアを出し合うというスタイルであり,完成版のオープニングクレジットは誰か1人の名前ではなく,「ゲームデザイン ― Blizzard Entertainment」と記述された。

 そんな“Warcraft開発時代”のBlizzard Entertainmentの社風を体現するような存在が,ビル・ローパー(Bill Roper)氏だ。プログラマーのストゥ・ローズ(Stu Rose)氏の友人として,“声優”としてBlizzard Entertainmentに連れられてきたローパー氏は,昼夜オフィス内に閉じ籠ってゲームを開発したりプレイしたりする社風に感銘を受け,チームメンバーとして雇用してもらえるよう懇願する。

スクープネタで知られるジェイソン・スレイヤー氏の新著「Play Nice: The Rise, Fall, and Future Of Blizzard」では,大学時代から抜け切れなかった体育系気質な同社の風紀があからさまに描き上げられている。ゲーム業界本としては非常に読み応えがある一冊だ
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 手紙まで書き,アドハム氏には彼の車を毎週洗車すること,モーハイム氏には「マジック・ザ・ギャザリング」の激レアカードを入手することまでを提案した。
 なんとか入社したローパー氏は,元々オーディオのエンジニアでもあり,文章の才能もあったようで「Warcraft: Orcs & Humans」のマニュアル制作をとおして,オークとアライアンスが戦い合う混沌としたアゼロスというストーリーの根幹部分を作り出した。

 こうしてDavidson & Associatesをパブリッシャにして,Blizzard Entertainmentが開発した「Warcraft: Orcs & Humans」は,1994年11月にリリース。その1年で10万本を販売するという当時としてスマッシュヒット作品となった。まだRTSがほとんど存在していなかった時代に,本作の「Dune II」のコピーっぷりは目立つものだったが,Westwood Studiosの設立者の一人でもあったルイス・キャッスル(Louis Castle)氏は,「“真似”が敬愛の形の1つであるとすれば,Blizzard Entertainmentは私たちを最大限に敬愛してくれている」と語り,訴訟などを行わない方針を決めたという。この頃が,後に続くRTSというジャンルの開花,そしてBlizzard Entertainmentの伝説が始まったきっかけとなったのかも知れない。

 なお,知られた逸話も多いBlizzard Entertainmentの黎明期エピソードだが,本稿の執筆に際しては,ゲームジャーナリストとしても知られるブルームバーグ誌のジェイソン・シュレイヤー(Jason Shreier)氏が2024年10月に上梓した「Play Nice: The Rise, Fall, and Future Of Blizzard」を参考にした。

 Play Nice: The Rise, Fall, and Future Of Blizzardでは,学生あがりの彼らがどのようにBlizzard Entertainmentというブランドを築き,何がその社風を変え,Microsoftに買収されることになったのかなどが,取材をとおして解説されている。今のところ日本語化はされていないが,Warcraftの30周年という節目に読んでみてもよいだろう。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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