業界動向
Access Accepted第802回:gamescom 2024つれづれ。とにかく内容が濃かったドイツの巨大ゲームイベント
今年も世界最大級のゲームイベントである「gamescom 2024」がドイツのケルンで開催された。「ボーダーランズ 4」や「マフィア:オリジン 〜裏切りの祖国」,そしてロッククライミングADV「Cairn」など,気になる新作のアナウンスも多く,ゲーム産業の育成を図る各国にとっても重要なイベントとして発展しつつあるようだ。そんな活気に満ちた会場の雰囲気をレポートしたい。
33万5000人の来場者が押し寄せた世界最大級のゲームイベント
現地時間2024年8月21日から25日まで,ドイツのケルンにあるコンベンションセンターのケルンメッセにおいて,世界最大級のゲームイベントである「gamescom 2024」が開催された。一般を対象にしたエキシビションとビジネス向けのトレードショウを併催し,今年は64の国と地域から1500社が出展し,一般来場者は過去最多となる33万5000人,ビジネス層も120の国と地域から3万2000人が参加した。
開幕の前日に行われるストリーミングイベント「Opening Night Live」の視聴数も昨年の2倍となり,注目度の高さがうかがえる。6月の「Summer Game Fest」ではいきなり子供向けタイトルばかりを紹介してゲーマーを残念がらせたが,MCのジェフ・キーリー(Geoff Keighley)氏は今回のラインナップ選出をかなり頑張ったのではないだろうか。
さて,今年の筆者はgamescomのオープンからクローズまで,ずっと会場内の取材に追われていたという印象だ。取材機会があるのはありがたい話だが,ホテルに戻って原稿を書く時間がなくなってしまうというジレンマに陥ってしまった。巨大ブースが立ち並ぶ華やかなパブリックエリアに足を運ぶ時間はほとんどなく,ビジネスエリアに籠ってクローズドブースで新作ゲームを見ていた。
そのため,空き時間に会場の雰囲気を味わったり,気になるインディーゲームのブースに足を止めてプレイしたり,話を聞いてみたりするといった時間がほとんどなかったのは,個人的に残念だった。
それでも何度かは人混みをかき分けてパブリックエリアを眺め,ビジネスエリアのブースを歩き回って感じたのは,昨年と同じくアジアの企業が大きなブースを展開してプレゼンスを発揮していたことだろうか。以前のgamescomは欧米のゲーム企業や日本のメーカーを目的とする来場者でごった返していたが,今年はLevel Infinite(Tencent)やKRAFTON,HoYoverse,Nexon,NetEase Gamesなどのパブリッシャをはじめ,miHoYoやKingsoft,サウジアラビアのSavvy Groupといったブースが会場の大きなスペースを占めていた。
「第768回:gamescom 2023つれづれ。〜E3なき「夏の終わり」に感じた,いつもどおりの心地良さ」でも触れたように,昨年はGame Scienceブースの注力ぶりと来場者の人気から「黒神話:悟空」の話題性の高さを実感したものだが,そのトレンドに続けとばかりにアジア企業がさらなる奮闘を見せていたと言えるだろう。
賑わいを見せる国家パビリオン
gamescomのビジネスブースは,パブリックエリアより静かな環境で商談を進めたり,メディア関係者が新作を見せてもらったり,インタビューを行ったりするスペースだ。パブリックエリアに比べて天井も低く,二階構造になっており,電飾や大型ディスプレイで視覚的なアピールは行っていないが,実務的な印象を受ける白い壁で隔てられたクローズドブースや,ちょっとした会合と休憩のためのコーヒーテーブルが並ぶ。
そんなビジネスエリアの中でも興味深いのが,各国の文化省や産業省の政策により設置されている“国家パビリオン”だ。インディーゲームやツールの紹介,地元政府ファンドや育成プログラムの成果発表,企業誘致のプロモーションなどが行われており,朝はコーヒー,夕方になると各国のビールやおつまみが無料で振る舞われ,和気あいあいと人々が話し込んでいる。
今年はイベントパートナーの「ノルディック連合」にスポットライトが当てられており,デンマークやフィンランド,アイスランド,ノルウェー,スウェーデン,エストニアが小さいながらもブースを構えていた。
そのほか,ドイツのほぼ全州がそれぞれの政策のもとでファンディングしたゲームの紹介や企業誘致はもちろん,イギリス,フランス,スイス,スペイン,イタリア,オランダ,ポーランド,マルタ,韓国,中国,インド,インドネシア,カナダ,ブラジル,チリなどの常連国も顔を揃える。さらに今年はコロンビアやデンマーク,スロバキア,ブルガリア,オーストリアなど,中央ヨーロッパからの初参加パビリオンも多く,今年は48か国が出展していたという。
こうしたgamescomのグローバルな発展は,各国がゲーム開発を成長産業であると認め,積極的にゲーム産業をサポートしているからであり,中でもブラジルは姉妹イベント「gamescom Latam」を昨年から開催し,多数のゲーム業界関係者や政府職員を引き連れていた。その力の入れようは本当に目覚ましいものがある。
今や2000億ドル規模に達したゲーム産業は,映画やテレビ,音楽産業といった旧来のエンターテインメント産業を合わせたものよりも大きい。ゲーム開発は地元で従事できるため,大都市や海外に有能な人材が流出してしまう「ブレイン・ドレイン」(頭脳流出)のリスクが小さく,小さな国であれば外貨を獲得する効率的な産業になり得る。
しかし,こうした産業育成を目的とする政府はマーケティングやPRを直接行わないため,ゲームイベントでパビリオンを設置することによって,デベロッパがパブリッシャを見つけたり,メディアに取り上げてもらったりする機会を作っているわけだ。とくにアメリカではE3のようなビッグイベントがなくなり,gamescomや東京ゲームショウといった発信力のあるイベントは限られていることから,国際的な露出を深めるために政府機関が一役買っている。
気になる新作の発表,プレイアブルデモも次々に
さて,gamescom 2024では新作が発表されたり,プレイアブルデモやライブデモが公開されたりして,例年以上に賑やかだった。2K Games傘下に入ったGearbox Softwareが「ボーダーランズ 4」の開発をアナウンスしたほか,Hanger 13はクライムアクションシリーズの新作であり前日譚となる「マフィア:オリジン 〜裏切りの祖国」の2025年リリースを公表して大きな話題となった。
本誌では,gamescom 2024で発表されたばかり,フランスのThe Game Bakersが手がけるロッククライミングADV「Cairn」の取材記事も高い注目を集めたようだ。まだご覧になっていない人は,ぜひ以下のリンクをチェックしてほしい。
ロッククライミングをゲーム化したフランス生まれの「Cairn」。偉大なる“カミの山”への登頂を目指せ![gamescom]
gamescom 2024で,新作ロッククライミングゲーム「Cairn」のデモに挑戦しつつ,開発を率いるエメリック・ソア氏に話をうかがってきた。“カミの山”を踏破するため,左右の手足を順番に動かす緊張感は,見ているだけでも伝わってくる。
これに加えて,THQ NordicはTarsier Studios開発のホラーアドベンチャー「REANIMAL」や,Coffee Stain Studiosの迷作リマスター「Goat Simulator: Remastered」を初公開。ポーランドのTechlandが新作メレーアクション「Dying Light: The Beast」を発表し,インディーデベロッパの7Levelsは「ゴジラvsコング」のライセンス作品「Kong: Survivor Instinct」という2Dプラットフォームアクションを披露している。
そして,大御所ピーター・モリニュー(Peter Molyneux)氏の22Cansも久々の新作ゴッドゲーム「Masters of Albion」の存在を明らかにした。
また,THQ Nordicから18年ぶりのアクションRPG続編「Titan Quest II」,2K GamesはFiraxis Games開発の「Sid Meier's Civilization VII」,そして“魔法もドラゴンもいない中世ヨーロッパ世界”をリアルに描いた「Kingdom Come: Deliverance II」のゲームプレイが公開されている。
Microsoft系列ではActivisionが「Call of Duty: Black Ops 6」のキャンペーンモードを紹介し,Machine Gamesは「インディ・ジョーンズ/大いなる円環」のゲームプレイ,さらにBlizzard Entertainmentは「ディアブロ IV」初の最新拡張セット「憎悪の器」の続報をリリースした。
書き出せばキリがないが,バンダイナムコエンターテインメントはアクションADV「Unknown 9: Awakening」や待望のシリーズ新作「リトルナイトメア3」を出展し,Level Infiniteは11月15日からアーリーアクセス開始が決定した「Path of Exile 2」,MMORPG「Dune: Awakening」のプレイアブルデモ,そしてインディーゲーム「ALOFT」,モバイルゲーム「エイジ・オブ・エンパイア モバイル」(iOS / Android)などの多彩なラインアップを披露していた。
GIANTS Softwareの大規模農業シム「Farming Simulator 25」の続報も,gamescom 2024のタイミングに合わせて届けられている。
おそらく何百本というインディーゲームが公開されていた“ホール10”には,ほとんど足を運べなかった。gamescom 2024が初発表の場となったTorn Banner StudiosのCo-opゾンビアクション「No More Room in Hell 2」を取材した以外では,Raw FuryやESDigital Gamesなどのパブリッシャブースの周りをウロウロしたり,BitSummit Driftで取材したデベロッパと話し込んだりしたが,それでも小一時間ほどの滞在だっただろう。
イベントも後半になると週末に差しかかり,一般客の賑わいで通路は歩けなくなり,ブースを閉めて帰国してしまう開発者も多い。なかなかスムーズに取材できないのは,gamescomでは仕方がないことではある。
新型コロナウイルスによる休止期間を除けば,筆者はgamescomにずっと参加してきたクチだが,いまだに大型イベントの取材を的確に,要領よくこなせないのはなぜだろう? 楽しそうなゲームに触れたり,気になる作品を取材したりする機会は多かったと思える一方で,昨今の盛り上がりを満喫できなかった不完全燃焼な気持ちが残るドイツ取材旅行だった。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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