業界動向
Access Accepted第786回:ゲーム業界の就職氷河期に光を照らす灯火たち
2024年1月末,Microsoftは傘下に収めたばかりのActivision Blizzardを中心に1900人ものリストラを行い,2月27日にはソニー・インタラクティブエンタテインメントがLondon Studioの解散を含む900人の人員削減をアナウンスした。ゲーム業界は今,解雇の波が押し寄せている。そんな中でも一旗あげようと模索を続ける,独立精神旺盛なゲーム開発者たちを紹介しよう。
すでに昨年度のリストラ状況を超えた
当連載の「第783回:大鉈が振るわれたActivision Blizzard,ゲーム業界でリストラが続く」(※リンク)でも詳しく述べているが,1月25日にMicrosoftがActivision Blizzardを中心とした1900人に及ぶゲーム開発者やビジネス部門のリストラを行ったというニュースが駆け巡った。同月にはUnity Technologiesが全従業員の25%となる1800人を解雇しており,これまでにない規模の人員削減が続いている。
その後も,1月31日にEmbracer Group傘下のスタジオ,「トゥームレイダー」シリーズなどの開発で知られるEidos Montrealが97人を解雇(関連記事),2月27日にはソニー・インタラクティブエンタテインメントがLondon Studioの解散を含む,全従業員の8%にあたる約900人のリストラを発表した(関連記事)。
さらに,2月29日にもElectronic Artsがスター・ウォーズをテーマにした新作FPSの開発中止,650人相当とされる全従業員の5%を削減するとアナウンスしている(関連記事)。同社の場合,詳細は明かされていないがその前週にも「F1」シリーズのCodemasters,モバイル部門であるGlu Mobileのリストラを断行しており,ゲーム業界の大手パブリッシャはポートフォリオの見直しを図っている状況だ。
海外メディアのKotakuが報じるところ(※リンク)によると,今年に入ってから2か月で公表されたゲーム業界の解雇者数は8100人に及び,2023年の総数を上回る。とてつもないスピードで人員整理が行われているようだ。
大手ばかりではなく,「Outriders」のPeople Can Fly(30人),「Disco Elysium」のZA/UM(24人),「Until Dawn」シリーズのSupermassive Games(94人),「ライフ イズ ストレンジ トゥルーカラーズ」のDeck Nine Games(30人)など,知名度の高い作品を生み出したデベロッパでも解雇が行われている。
余剰資金が減ると,家でゲームをして過ごす人が多いためか,15年前のリーマンショックも難なく乗り切っていたゲーム業界だが,今回は少し事情が異なるのかもしれない。
大手パブリッシャは,新作を次々とリリースするよりも,安定的な収入を見込めるライブサービスの開発と運営にシフトし,世界的なコンシューマゲーム機の販売台数,さらに言えばスマートフォンの販売台数も伸び悩んでいる。前回の「第785回:コンシューマーゲーム機の終焉は意外と早い?」(※リンク)でも述べたとおり,もはやこれ以上の市場拡大が望めなくなりつつある,と見られているのだ。
付け加えるならば,生成型AIの登場により,アートや音楽,バグチェック,さらにプログラミングに至るまで,自動化が進んでいるため,経営者は雇用の拡大に二の足を踏み,アウトソーシングやライセンシングなどの合理性について,天秤にかけているような状況だろう。
新しいデベロッパも次々と登場
もっとも,多くのゲーム開発者はインタラクティブなメディアを使った自己表現に長けた生粋のクリエイターであり,自分のアイデアやスキルでゲーマーを楽しませようとするエンターテイナーでもある。そもそもの開発コストが低下したことによって,手持ちの資金や家族のサポートがあれば,しばらくの間は自宅に籠って自主開発を続けられるという打たれ強さも持っている。
リーマンショック直後も,次々にインディースタジオが興味深い作品を輩出して新たなトレンドを生み出したことを考えると,簡単に「ゲーム産業は停滞している」と結論付けることはできない。
事実,ここのところは起業のニュースも続いている。CD Projekt REDは新作「Project Orion」の開発のために,マサチューセッツ州ボストンにCD Projekt RED North Americaを発足(関連記事)。さらに「Mass Effect」や「Horizon: Zero Dawn」などを手がけたベテラン開発者によるFun Dog Studios(関連記事),「キャンディクラッシュ」シリーズに関わったメンバーによるCult of the North(関連記事),Treyarchでは「コール オブ デューティ」シリーズで敏腕を振るったデイヴィッド・ヴォンダハール(David Vonderhaar)氏が指揮するBulletFarm(関連記事)などの起業もアナウンスされているため,ゲーム業界には従来と変わらぬ躍動感が見てとれる。
新興デベロッパの起業の報は,ほかにもいくつか届いている。この機会に紹介しておこう。
■AntiStatic Studios
「サイバーパンク 2007」などの脚本に関わったルカシュ・ルドコウスキ(Lukasz Ludkowski)氏や,「バイオショック」シリーズの環境アーティストだったクリス・テンパー(Kris Temper)氏らが参加する,AntiStatic Studiosは完全リモートのスタジオだ。新作の「Codename Hornet」は“これまでの常識を覆す”PvEシューターになるとのこと。ゲーム中に登場すると思われる組織,Mortfield Industries(※リンク)やAnomaLeaks(※リンク)のARG型ダミーサイトが公開されている。
■Shapeshifter Games
イリノイ州シャンペーンで起業したShapeshifter Gamesは,経営難にあるEmbracer Groupの再編にあたり,2023年8月に30年を超える歴史に幕を下ろしたばかりのVolitionのメンバーが独立したメーカーだ。クリエイティブディレクターのブライアン・トラフィカンテ(Brian Traficante)氏やスタジオヘッドのマット・マディガン(Matt Madigan)氏ら,主要メンバーが引き続き集結している。新規プロジェクトは不明だが,inxile Entertainmentが2023年6月にアナウンスしたアクションゲーム「Clockwork Revolution」の開発協力を行うようだ。
■Hundred Star Games
ロンドンで起業したHundred Star Gamesは,すでにAAAタイトルを開発中だという。創業者は「バットマン アーカム」シリーズで知られるRocksteady Studiosの共同設立メンバーであり,2022年10月に離職していたセフトン・ヒル(Sefton Hill)氏とジェイミー・ウォーカー(Jamie Walker)氏のデュオ。現在,25人ほどの中核メンバーで未発表タイトルを開発中だが,今後は100人規模にまで成長させていく予定とのことだ。
■MataCore Berlin
2020年にリリースされたモバイル向けパズルゲーム「マージマンション」は,現在までにダウンロード数が5000万を記録し,2022年度には1億3600万ドルの収益を上げたメガヒット作だ。開発元であるフィンランドのMetaCoreにとっては処女作だが,新たにドイツのベルリンに支社を設立して追加コンテンツの制作を行うと共に,新作の開発拠点とするようだ。
MetaCoreは2023年1月,同じくヘルシンキの雄,Supercellからボードゲームを原作とするモバイル向け村建設シム「エバーデール」の版権を獲得するなど,勢いのあるメーカーの1つと言えるだろう。
■Absurd Ventures
Rockstar Gamesが2025年内のリリースに向けて「Grand Theft Auto VI」を正式にアナウンスしたことは,世界中のゲーマーを大いに喜ばせた(関連記事)。GTAシリーズの生みの親であるダン・ハウザー(Dan Houser)氏が新たなスタジオ,Absurd Venturesを旗揚げしたのは,そのビッグニュースのしばらく前となる2023年6月のことだった(関連記事)。そもそもゲームなのかも不明ではあるが,2024年内のリリースに向けて「American Caper」(※リンク)と「A Better Paradise」(※リンク)という,かなりエッジの利いたプロジェクトが動き出している。
※来週(3月11日)は筆者取材のため,休載となります。次回の掲載は3月18日を予定しています。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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