業界動向
Access Accepted第777回:「Games as a Service(GaaS)」――サービスとしてのゲームというトレンドとその逆流
GaaS(Game as a Service / サービスとしてのゲーム)という業界用語も使われ始めて久しいが,「フォートナイト」「Apex Legends」「Call of Duty: Mobile」「Clash of Clans」などのタイトルが長期的なヒット作になる一方で,それらに割り込んでいくタイトルを作り出すのは相当に難しい。最近,Warner Bros. Gamesの「Wonder Woman」がライブサービス化しない予定であると発表され話題になっていたが,今回はGaaSの歴史や最近のトレンドを振り返りつつ考察してみよう。
“GaaS化しないこと”で注目を浴びる「Wonder Woman」
Warner Bros. Gamesが,2021年のThe Game Awardsの際にアナウンスしたのが,Monolith Productionsが開発を行う「Wonder Woman」だ。DCコミックスで人気の“セミッシラのダイアナ”ことワンダーウーマンをゲーム化したことでファンの期待も膨らんでいるが,「シングルプレイヤー用オープンワールド型アクションゲーム」と説明されている以外,この2年間はほとんど新しい話題がなかった。
そんな「Wonder Woman」の話題を外野席から振りまいたのが,海外メディアのWccftechで,Warner Bros. Discoveryの2023年第3四半期業績報告会におけるCEOのデイヴィッド・ザスラブ(David Zaslav)氏の発言を取り上げている。それによると,今後のWarner Bros. Gamesのラインアップを“すべてライブサービス化していく”というもので,翻訳すると以下の内容となっている。
「私たちは,最大のフランチャイズを主にコンソールとPCベースから3〜4年のリリーススケジュールで変革していき,より多くのプレイヤーがより多くの時間をゲームに費やせることを目標にしています。そのため,ライブサービス化,マルチプラットフォーム化,および基本プレイ無料の拡張機能を通じ,常設のゲームプレイをさらに組み込むことに重点を置いています。最終的には,より長いサイクルでより高いレベルでエンゲージメントと収益化を推進したいと考えています」
ゲームにおけるライブサービスのことを,「GaaS(Game as a Service / サービスとしてのゲーム)」と呼ぶようになって久しい。例えばSteamで毎年発表される「年間ベスト」のランキングを見ても,“総収益”や“最もプレイされたゲーム”の上位ほど,基本プレイ料金が無料ながらも,拡張パック,DLC,シーズンパス,コンテンツアップデートなどでライブサービスを行うゲームが占めている。
ザスラブ氏が話すように,長期的なサービスの提供によってファンをつなぎとめ,マイクロトランザクションで収益性を高めていくというGaaSが,このゲーム業界における「成功の方程式」となりつつある。
この一連の「Wonder Woman」の動向をゲームメディアのIGNが報じたところ,Warner Bros. Gamesは反論するような形で「本作はネメシスシステムを搭載していますがライブサービスを提供する予定はなく,シングルプレイヤー専用のアクションアドベンチャーになる予定です」とコメントを発信した。
※IGNの該当記事はコメント発表後に更新されている
来年早々にリリースが予定されている,同じDCユニバースをテーマにした「スーサイド・スクワッド:キル・ザ・ジャスティス・リーグ」はバトルパスによるGaaS化が進められており,Warner Bros. Gamesのビジネス展開において,「Wonder Woman」がどのような位置づけになるのか,とても興味深い。
GaaSの歴史とトレンドへの逆流
「GaaS」という用語は比較的新しいものだが,そのサービス形態は決して新しいものではない。ブロードバンド・インターネットの普及によって台頭したサブスクリプション型のMMORPG,例えば「Ultima Online」(1997年)や「EverQuest」(1999年),「World of Warcraft」(2004年)などは,拡張パックだけでなくハロウィンやクリスマスといったイベントも行われていた。
特にPCプラットフォームにおいては,Riot Gamesの「League of Legends」(2009年)や,2011年にFree-to-Play化したValveの「Team Fortress 2」(2007年)などは,インターネットカフェが熱狂的に盛り上がった中国や韓国のビジネスモデルの影響を受けていた。また,2011年はRockstar Gamesが「L.A. Noire」で“シーズンパス”のシステムを作り出し,追従するようにElectronic Artsも「EA Sports Season」を採用している。これらのサービス形態は,熱狂的なコアゲーマーを囲い込む手段として急速に広まっていった。
もちろん,消費者の権利意識が非常に高い欧米においては,「一度,合法的に手に入れたものは自分のもの」という考えが強いために,ゲームのキャンペーンストーリーを完結させなかったり,マイクロトランザクションの比重が高かったり,本編の発売前にDLCをアナウンスしたりするといった商行為には反発が多い。
「Diablo III」(2012年)や「レインボーシックス シージ」(2015年)のように,ローンチ当初はGaaSで批判されたものの,コミュニティの声を聞き入れながら徐々に改良を続けていったゲームもあるが,プレイヤーキャラクターをDLCとして販売しようとしたTake-Two Interactiveの「EVOLVE」や,ルートボックスが裁判沙汰にまでなったElectronic Artsの「STAR WARS バトルフロント II」のように,評価を覆せなかったGaaSタイトルは少なくない。
Access Accepted第555回:欧米ゲーム業界の新たなキーワード「Games as a Service」
欧米ゲーム業界のトレンドワード「GaaS」とは,「ゲームとは,従来のような売り切りではなく,継続したサービスのことである」という意味だ。Free-to-Playタイトルが代表例だが,最近は大手パブリッシャのパッケージタイトルにもゲーム内課金のシステムが採用され,いくつかの作品が波紋を呼んでいるようだ。
- キーワード:
- ライター:奥谷海人
- 奥谷海人のAccess Accepted
- 業界動向
- 連載
- OTHERS
そうしたGaaSの難しさは,ファンの評価だけでなくコンテンツ制作や運営コストの高さにも問題もある。アーリーアクセスやローンチ当初に根強いファンコミュニティを作り上げることができればいいが,失敗してしまうとライブサービスを長期的に展開して利益を得ることが難しくなる。例えば,Electronic Artsの「Knockout City」は2023年6月に2年ほど運営を続けただけでサーバーをシャットダウンさせてしまったし,2021年7月に早期アクセスが始まったFlying Wild Hogの「Space Punks」も,正式リリース前にサービスが終了している。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,SIE)がBungieを買収した際に,ライブサービス化を念頭に置いていたであろうことは「第713回:「ライブゲーム」を機軸に,SIEによるBungieの買収を考える」で伝えているが,当のSIEは2025年度までに予定していた「12作のライブサービス型ゲーム」の半数を先送りする形となったと,業界ニュースサイトのGame Developerが報じている。
また,それらのうちの1作にあたるかは分からないが,「The Last of Us」のスピンオフタイトルとして開発されていたマルチプレイヤー専用ゲームは,Naughty Dogにより“静かに開発が中止”され,このプロジェクトに関わっていた数十人の開発者をレイオフしていることも同誌のニュースになった。
GaaSが「成功の方程式」になりつつあるのは間違いないが,すべての例において成功しているわけではないし,「Ghost of Tsushima」や「Star Wars Jedi: Survivor」,最近では「Baldur’s Gate 3」といった,GaaSのトレンドと真逆の形で市場に打って出て,大きな成功を得ているゲームも多い。
Warner Bros. Gamesの「Wonder Woman」がどういった理由でライブサービスを提供しないのか。その真意は分からないが,「ゲームはヒットしてからコンテンツをアップデートする」。そんな手堅いゲーム制作への意識に変わってきているのかも知れない。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
※来週(12月4日)の週刊連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,著者取材のため休載します。次回の更新は12月11日を予定しています
- この記事のURL:
キーワード