業界動向
Access Accepted第776回:ゲーム業界にも冬が到来か。欧米メーカーで相次ぐ解雇の波
業界ニュースをチェックしていると,ゲーム関連企業のリストラによって数百人規模の人材が解雇されるといった話題をよく目にする。Amazon Games,Epic Games,Unity TechnologiesやEmbracer Groupなど,この1年でリストラを実行している企業は多い。今回は,最近話題になった人員削減ニュースをまとめて振り返ってみたい。
数百人規模の人材が一気に整理されるゲーム業界の現実
Amazon Gamesは, Eコマース業界のトップランナーであり,クラウドコンピューティング,オンライン広告,デジタルストリーミングなど手広く事業を展開するAmazonが,Twitch買収後に立ち上げたゲームパブリッシング部門だ。
Amazonプライム会員に無料ゲームを提供するといったサービスを行うとともに,Amazon アプリストア向けに2012年に発足していた旧Amazon Game Studiosに人材を集めてリニューアル。2019年にPlayStation 4とXbox One向けの「The Grand Tour Game」を発売するなど,自社開発のゲームをリリースし始めた。その後,2021年にPC向けにローンチしたMMORPG「New World」が,Amazon Gamesブランド最大の話題作と言えるだろう。
そんなゲーム産業のシェアに大きな影響を与える可能性もあったAmazon Gamesが,風前の灯火となりつつある。11月13日に,Amazon Gamesの180人の従業員を解雇したのだ。Amazon Games部門副社長のクリストフ・ハートマン(Christoph Hartmann)氏が,メディア向けに「4月のリストラの結果を鑑みて,さらにビジネスを前進させていくためにも,最も高い潜在力を持って成長している分野にリソースをさらに集中させる必要がありました」と発信したように,同社は100人のスタッフを解雇したばかりだった。そのメッセージからも,今後は内部開発の規模を縮小しつつ,2億人のプライム会員の21%がPrime Gamesも利用しているというパブリッシング事業に専念していくと思われる。
Amazon Gamesの話は巨大企業の1部門が実施したリストラに過ぎないが,ゲーム産業では現在,“冬の時代”と呼べそうなほど解雇の話題が相次いでいる。コロナ禍での巣ごもり需要に湧いていたのに,この1年ほどで急速に雇用状況の冷え込みが感じられるようになったのだ。
例えば,当連載では「第771回:830人を解雇してまで次の段階に進むEpic Games」でも詳しくお伝えしたように,Epic Gamesは,一挙に830人ものレイオフを断行して,「Epic 5.0」と銘打たれた新しい時代に向けて大鉈を振るっている。解雇された従業員の多くは,同社が進めるマルチバースやゲームエンジンなどのコアビジネスに携わらない人員であったという。
さらに,同じく経営難が伝えられて久しいスウェーデンのEmbracer Groupについても「第762回:強気の買収攻勢をかけていたEmbracer Groupが大規模なリストラプログラムを発表」で解説したことがあるが,今年に入ってから900人ほどの従業員が解雇されたという。また,「セインツロウ」で知られたVolitionが30年の歴史に幕を下ろしたこともお伝えしている。現在では,Gearbox Software,Plaion,THQ Nordic,Saber Interactiveなどの部門から15作品程度の未発表タイトルの開発中止が発表されている。
Electronic Artsも,2023年の春先までに全従業員の6%にあたる775人を解雇。この中には,正規雇用採用が難しいQA部門(品質保証)があるルイジアナ州支部のEA Baton Rougeに所属する200人も含まれているが,その理由は彼らが労働組合を組織化しようと動いていたからと言われている。
ちなみにElectronic Artsと言えば,インディーレーベルのEA Originalsから8月に「アヴェウムの騎士団」を発売したばかりのAscendant Studiosでも,40人ほどのメンバーがレイオフされた。
またゲームエンジンビジネスでは,Epic GamesのライバルにあたるUnity Technologiesが,業績の悪化に伴い,この1年半ほどで1100人もの人員整理を行っている。このように,ここのところは大規模なリストラの話題が多い。
人材調整の難しさから考える,ゲーム業界の今
このサイトの統計は,それぞれの企業の解雇情報をニュースサイトの記事から引用していくという単純なものであるが,上記した大口解雇以外でも,例えばリモートワークの社内ポリシーを改変した影響とされるUbisoft Montrealが135人,「Crime Boss: Rockay City」や「Ghostrunner」などのパブリッシングを行う505 Gamesブランドを持つDigital Bros Groupが130人,大型拡張パック「仮初めの自由」を無事にローンチした「サイバーパンク 2077」のCD PROJEKT REDが100人,いくつかのプロジェクトやライブサービスが閉鎖されたNianticが230人,「Age of Empires IV」や「Company of Heroes 3」など大作を続けざまにリリースしたセガ傘下のRelic Entertainmentが121人など,100人以上の規模でリストラを行っている会社が多い。
さらに「Halo」シリーズの343 Industries,「コール オブ デューディ」シリーズのベテラン開発者が2020年に独立し,ソニー・インタラクティブ・エンターテインメントとのパブリッシング提携により新作を開発中のDeviation Games,「トータル・ウォー」シリーズのCreative Assembly,「Warframe」でおなじみのDigital Extremes,2020年の「Dreams」以降,新作がアナウンスされていないMedia Molecule,今年は「The Lord of the Rings: Gollum」を世に送り出したDaedalic Entertainmentなども数十人規模で解雇者を出している。
ゲーム開発現場においては,開発フェ―ズによって必要な人員数は大きく変化する。例えば,序盤はアートを描き上げるアーティストたち,中盤はプログラマ,そして終盤にはQA部門のテスターに比重が掛かっていくといった感じだ。
これまでゲーム企業では,例えばアートアセットはアウトソーシングしたり,βテスターは短期労働できる人材を集めたりすることで余剰人員を作らないように調整するなどしてきたが,こうしたゲーム開発に必要な人材が不安定な雇用条件に晒されるというのは,「第775回:ハリウッドの俳優労組による,スト終結が与えるゲーム業界への影響」で話題にしたように,映画産業と似ていると言えるだろう。
もっとも,こうした背景から言っても,プロジェクトの進行具合や企業の財政によってリストラが行われるというのは昔からあったことだ。コロナ禍やリモートワーク普及の余波で遅延していた新作ゲームの多くがリリースされた2023年とは言え,新たに開発も佳境に入ってきた未発表のプロジェクトも多いはずだ。ゲーム企業は一般的にリストラのアナウンスはしても,新作のための人員補充は段階的に行うため「20人を新規雇用をしました」などという発表は,あっても年度末の業績発表会くらいになる。つまり解雇の情報ばかりが表に出やすい構造になっているのも事実ではある。
東京ゲームショウ2023で,Quantic Dreamの共同CEOでもあるギヨーム・ド・フォンドミエール(Guillaume de Foundaumiere)氏は,「Detroit: Become Human」の開発後にアナウンスしている「Star Wars: Eclipse」向けには,その人員を200人から400人に増やしており,開発終盤までにさらに100人を追加する予定であると,インタビューで語っている。
海外リサーチ会社のNewzooは,最新の市場動向レポートで,ゲーム市場は2022年度と比較して0.6%とわずかならがも成長傾向にあると見込んでおり,悪化しているというわけでもないようだ。
不況には強いと言われてきたゲーム産業だが,ライブサービス化によるビジネスモデルの変化や,機械学習といったテクノロジの進化による開発工程のスリム化が進み,雇用状況が改善する見込みが少ないという見方もできる。だが,業界自体は成長予測が大半を占めているので,ゲームを遊ぶ立場としては今のところそれほど悲観するような状況ではなさそうだ。もちろん,長期的にみれば人材の空洞化といった問題が出てくる可能性はあるが。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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