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Access Accepted第751回:増え続けるチート行為とその対処法
サービス開始から10年を経てなお根強い人気を誇るMOBAゲーム「Dota 2」にて,4万人という大量のチーターがBANされたという。Valveが公式サイトで宣言した。チーターを検出した具体的な方策は明らかにされていないが,どうやら“ハニーポット”と呼ばれる手法が使われたという。同作にとっては過去最大規模だが,ゲーム業界はこれまでもチーターたちと数々のバトルを繰り広げてきた。今回はその事例を紹介していきたい。
ハニーポットによってチーターを一網打尽
そんな「Dota 2」の公式サイトに2月22日,「Dotaでチーターは決して歓迎されることはない」(Cheaters Will Never Be Welcome in Dota:関連リンク)と題したニュース記事が投稿された。サードパーティのチートツールを利用している4万人ものプレイヤーをBANしたことを,高らかに宣言した文章だ。
チーターが具体的にどんなツールを使ったのかは不明だが,ゲーム中に見ることができるはずのないデータにアクセスすることで,不公平なアドバンテージを得ていたという。チーターの検出には,チートツールの仕組みをDota2の開発チームが解析し,意図的に“普通のプレイではアクセスできない”場所を作ることで,そこにそこにアクセスしている人はチートツールを使っていることが証明できるという手法が用いられた。
こうしたトラップを仕掛ける仕組みは,サイバーセキュリティ用語としては一般的に“ハニーポット”と呼ばれる。甘い蜜の匂いに我慢できなくなるクマのように,不正な手段でもゲームに勝ちたいとばかりにアクセスしてくるチーターたちを誘き寄せるエサを置いておくのだ。Valveはそうしたプログラムに対応したパッチを秘密裏にリリースし,ゲーム中に該当のアプリケーションを実行していた4万人ものプレイヤーを検出し,一網打尽にしたわけだ。
Valveはニュース記事の中で,「Dotaは,自分のスキルとプレイによって勝利が得られる,平等なフィールドでプレイするときに最も楽しめるゲームです。」としており,今後もチート追放の活動は続けられると告げている。
Valveに限らず,これまでも,ゲーム開発メーカーはチーターたちとのいたちごっこを繰り広げてきたが,最近では訴訟によって対処する企業も増えている。例えば「Destiny 2」向けのチートツールを販売していたAimJunkiesに対して訴訟を起こし,430万ドルを獲得しているし,Riot Gamesも「Valorant」のチートツールを販売したGatorCheatsから200万ドルの被害額を取り戻した。
このほか,メーカーの中には「チーターたちを晒し者」とすることによって,不正行為を減らそうと試みるところもある。今回は,そうした事例を幾つか紹介していこう。
Call of Duty 〜 チートしないプレイヤーを保護する盾
2021年末に,カーネルレベルでのドライバを使った自社製チート対策プログラム「RICOCHET Anti-Cheat」をリリースして,「コール オブ デューティ」シリーズにも対応させたActivision Blizzard内の専門部隊“Team Recochet”。しかし,それでもアクセスしてくるチーターたちは後を絶たなかった。そこで「RICOCHET Anti-Cheat」で導入されたのが,「Damage Shield」というシステムだ。これは,サーバーがチートプレイヤーをリアルタイムで感知した時点で,そのプレイヤーが他のプレイヤーへ与えるクリティカルダメージがオフになるというもの。ストリーミングしているプレイヤーが多いだけあって,チートがバレた後に相手をキルできないまま倒される姿が晒されるのは恥ずかしい。
結果として,その後10か月経過した2022年9月の時点で50万アカウントがBANされ,そのうちの30万アカウントはデータベースから永久追放の処置にあっている。最近では,「Call of Duty: Warzone 2.0」においてロビーそのものをクラッシュさせてしまうという悪質なハッカーも登場しているようだが,Team Ricochetはさらなる強化に励んでいるとのこと。
Fall Guys 〜 チーターは専用サーバー送りに
キュートでバイオレンスのないゲームであっても,競争がある以上はチートによって勝とうとするヤツらが現れる。「Fall Guys」がそうだ。開発元のMediatonicによると,「Fall Guys」は当初からチート行為を判別するプログラムをゲームに実装しており,2020年8月のローンチ時点ではそこから秘密裏にチーターたちの行動をチェックし,悪質ではない限り,野放しにしていたが,9月になって新しいパッチを導入。チーターたちは感知されると,専用サーバー「Cheater Island」に強制収監となり,他のチーターたちと“チーターの王冠”を巡って,汚い手段を駆使する者同士で戦い続けることを強いられるという。
このような,「チーターはゲームを続けられるが専用サーバーで同類のものとプレイする」というアイデアは以前から存在しており,Rockstar Gamesの「Max Payne 3」が最初だったようだ。そのアイデアは「グランド・セフト・オート V」にも継承されているが,「Fall Guys」の場合は60人(現在は40人)のプレイヤーが集まらないとゲームがスタートしないため,チーターが少なくその人数に満たない地域では永遠にゲームが始まらず,自分がチーター専用バトルロイヤルの宣告を受けていることに気付かず,開発チームに苦情を出したりするプレイヤーもいたらしい。
Guild Wars 〜 皆の前で公開処刑
NCSoftとArenaNetによるMMORPG「Guild Wars 2」も,ゲーム史上におけるチート対策では記憶されるべきゲームだ。2015年の夏,とあるプレイヤーがハッキング行為によって不死身とテレポート能力を得て,さまざまな場所で他のプレイヤーに戦いを挑んでは逃げ去っていくという迷惑行為を行っていた。当初,運営側はこのプレイヤーの行為をリアルタイムで確認できずに黙認。コミュニティがこれに対して力を合わせ,映像を撮影するなど証拠を集めた。運営はこの証拠を受けて,ある対策を施す。次にそのハッカーがアクセスしたときにはキャラクターが何の武装もしていない裸一貫の状態になっていた。その後,何度アクセスしても同じ状態になったうえ,最後は行動範囲も狭められ,橋の上からジャンプすることしかできなくなり,多くのプレイヤーが眺める中,身投げした後でBANされるという恥辱を受けることとなった。
“民衆の敵”だったチーターと言えども,ここまで過激な運営側のやり方を問題視する声もあったが,ローンチからかなり時間が経過して成熟したコミュニティになっていたためか,1人のチーターを追い詰めていくというスタイルは当時,賞賛を浴びていたようだ。
H1Z1 〜 ゲームに戻りたければ顔出し謝罪ビデオを
もう1つ,チーター対策として独特の手法を採用したのが,「H1Z1」のDaybreak Game Companyだ。「H1Z1」は当初,「Day Z」風のゾンビアポカリプスもののサバイバルゲームだったが,ブレンダン・グリーン(Brendan Green)氏を迎えて,バトルロイヤルモードをいち早くリリースするなど,それなりに話題を集めたゲームである。同社はチートプログラムで不正な行動を取っていたプレイヤーを次々とアクセス不能にして,「バンを取り下げて欲しいなら,YouTubeアカウントを使って顔出しの公開謝罪ビデオを作成しろ」と要求した。
オンラインゲームの楽しさは,勝つことだけでなく,自分が帰属するコミュニティに身を置く行為そのものにもある。仲間たちには黙ってチートプログラムを使いBANされたプレイヤーの中には,恥ずかしさに目を潤ませながら謝罪ビデオを公開した人もいた。謝罪ビデオを作れないという人は,チートを使った状況を説明するためのメールを送ったが,Daybreak Game Companyは「家に泥棒に入られて,勝手にチートで遊ばれてしまった」というような,あり得なさそうな言い訳レターを集めて読み上げ,彼らを笑いのネタにしてしまうというYouTube映像を公開したりもしている。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
- 関連タイトル:
Dota 2
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