業界動向
Access Accepted第735回:「コール オブ デューティ」を巡ってMSとSIEの思惑が交錯
「コール オブ デューティ」と言えば,この20年にわたってほぼ毎年恒例でリリースされてきた人気ミリタリーFPSシリーズで,現在までに4億本以上を売り上げているというゲーム業界屈指のIPだ。そのパブリッシャであるActivision BlizzardをMicrosoftが買収したことにより,SIEもその将来を気にしているようだが,この両者の思惑が交錯し,泥沼化しそうな雰囲気だ。今回は,そんな「コール オブ デューティ」 に絡む二大プラットフォームホルダーの小競り合いをまとめておこう。
人気IPを巡るプラットフォームホルダーたちの小史
MicrosoftとActivision Blizzardが687億ドルという巨額買収に合意したことがアナウンスされたのは,北米時間の2022年1月18日のことだった。当時(と言っても現在進行形の問題だが)のActivision Blizzardでは,セクハラ問題をはじめとする労使問題が噴出しており,それについては当連載でも「第706回:セクハラ問題に揺れるActivision Blizzard。BlizzardのみならずActivisionにも疑惑の影」(関連記事)などで幾度となく解説してきた。それらの問題の最中で現CEOのボビー・コティック(Bobby Kotick)氏はMicrosoftの傘下となることを提案し,半年あまりでそれを実現させている。
アメリカの企業史においても非常に稀な大型買収だったこともあり,この買収はFTC(Federal Trade Commission,米国連邦取引委員会)によって独占禁止法に抵触するかどうかの厳格な審査を受けている。8月には審査の第2フェーズに入っており,国際的な影響を考慮してイギリスやブラジルでも同様の審査が行われているという。一方で,FTCの最終決定に大きな影響を及ぼすとみられるEUでの審査は開始していないため,すべてをクリアするためにはまだしばらくの時間がかかりそうな気配だ。
Activision Blizzardは数々の人気作品を持ち,プラットフォームを持たないパブリッシャとしてはテンセントに次ぐ企業である。その最大のIP(知的財産)は,2003年に始まる「コール オブ デューティ」であり,これまでにシリーズ総計4億本以上を販売,総収益は「ポケモン」や「マリオ」に次ぐ170億ドル以上とされており,21世紀以降に誕生したシリーズとしてはダントツのヒット作と言える。また,Free-to-Play型のバトルロイヤルゲームとしてリリースされた「Call of Duty: Warzone」も軌道に乗り,各プラットフォームの合計で1億ものアカウントを抱えるほどに成長している。
「コール オブ デューティ」シリーズは,XboxとPlayStationプラットフォームにおいて,常に重要な地位を占めてきた。Microsoftは,2010年の「コール オブ デューティ: モダン・ウォーフェアII」で,サードパーティタイトルの時限的独占契約を結び,同作品以降5年間は全てのDLCがXboxプラットフォームで数週間早くリリースされた。しかしその契約終了後の2015年にはActivisionはSIEと手を組み,「コール オブ デューティ: ブラックオプス」から現在に至るまで,DLCはPlayStationプラットフォームで先行リリースされている。
「コール オブ デューティ」シリーズのプラットフォーム間におけるプレイヤー比率の詳細は公式には公開されていないが,eスポーツ系ブログメディアの「Sportskeeda」(外部リンク)によると,「Call of Duty: Warzone」においては,PlayStationが42.1%であり,Xboxは25.6%,PCが28.4%,残りがモバイルからの参加であるという。
FPSを含むシューターが群雄割拠する昨今では,全盛期ほどの勢いはないものの,「コール オブ デューティ」のブランド力は健在だ。MicrosoftによるActivision Blizzardの買収で,SIEが緊張するのも無理はない。しかも,DLC時限的エクスクルーシブならまだしも,企業買収によってCoDが完全に「エクスクルーシブタイトル」となる可能性もあるのだ。
プラットフォームホルダーのCoDに絡む泥仕合の行く末
「コール オブ デューティのメインプラットフォームはPlayStation」という認識は,この6〜7年の間に多くのゲーマー間にあったと見られ,MicrosoftとActivision Blizzardの買収合意が発表された当初から,「CoDシリーズがXbox独占タイトルになる」という可能性がコミュニティの中で大きく取り沙汰された。それを感じてか,発表から3日後にXboxのフィル・スペンサー(Phil Spencer)氏は自身の公式ツイッターで,SIEと協議を取り持ったことを公表し,「私は,Activision Blizzardの買収に際して既存のすべての契約を尊重する意向と,PlayStationでコール オブ デューティを維持したいという彼らの希望を確認しました」と発信している (関連記事)。
ただし,Activision BlizzardとSIE側の契約内容がどのようなものなのかはわからず,「希望を確認」というだけで実際にSIEの望む将来図が描かれていくわけでもない。この文章から未来を予測するのは難しいのだ。
さらに9月2日に,海外メディアのThe Verge(外部リンク)が上記コメントの真相としてスペンサー氏にコメントを求めたところ,「1月に,現在のソニーの契約よりも少なくともあと数年間にわたって,機能とコンテンツの同等性を備えた PlayStation でのコール オブ デューティを保証する契約をソニーに提供しました。これは,典型的なゲーム業界の契約をはるかに超えるオファーです」と回答した。
Microsoftは,Bethesda Softworksを買収した際にも,「Ghostwire: Tokyo」といったSIEとの独占契約を全うしているので,CoDファンもこの発言で安心できるはず……と思いきや,それにSIEのCEOであるジム・ライアン(Jim Ryan)氏が反論したことにより,ちょっとした泥仕合の様相を呈してきたのだ。
ライアン氏は,GamesIndustry.biz(外部リンク)の取材に答える形で,
「プライベートなビジネス上の議論であるという理解の下,コメントするつもりはありませんでしたが,フィル・スペンサーがこれを公開してしまったので,記録を正す必要があると感じています」
としたうえで,
「Microsoftは,ActivisionとSonyによる現在の契約が終了してから3年だけ,コール オブ デューティがPlayStationに残ることを申し出ました。PlayStationでのコール オブ デューティの20年に及ぶ歴史を考えると,彼らの提案は多くのレベルで不十分であり,ゲーマーへの影響を考慮に入れていません。我々は,PlayStation のゲーマーが引き続き最高品質のコール オブ デューティを体験できることを保証したいと考えており,Microsoftの提案はこの原則を覆すものです」
と,1月時点での提案に賛成しておらず,スペンサー氏の言っている文書への署名を意味する“契約”は行っていないとぶちまけたのだ。
この3年というのは実際に微妙な期間であり,具体的にいつから再契約される条件なのかも,ライアン氏のコメントからはわからない。多くのゲーマーは見過ごしてしまっているものの,海外ニュースメディアのBloombergは,「2023年度発売予定のコール オブ デューティ最新作は延期する」という計画が出ていることを報じている(関連記事)。これはつまり2022年10月28日にリリースされることがアナウンスされているリブート版「Call of Duty: Modern Warfare II」PC / PS5 / Xbox Series X / PS4 / Xbox One)がリリースされれば,あとはひょっとしたら開発がウワサされる「Warzone II」くらいしかPlayStationプラットフォームに対応するシリーズ作品がなくなることも考えられる状況でもある。
もちろん,Microsoftが「コール オブ デューティ」という資産を手に入れる以上,それ以前の契約が守られるのなら,その後はIPをどのように扱っても良いはずだ。
プレイヤーとしてはプラットフォームの垣根なくリリースされることを願いたいところではあるが,どうなるかは今後の両社の交渉次第というところだろう。ひょんなことから公になってしまった議論の行方に注目しておきたい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
9月19日の「奥谷海人のAccess Accepted」は,筆者取材のため休載します。次回の掲載は9月26日を予定しています。
- 関連タイトル:
Call of Duty: Modern Warfare II
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(C)2022 Activision Publishing, Inc. ACTIVISION、CALL OF DUTYおよびMODERN WARFAREはActivision Publishing, Inc.の商標です。その他の商標や製品名はその所有者に帰属します。
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