業界動向
Access Accepted第724回:Activision Blizzardの“多様性”を示すゲームキャラクター評価ツールが炎上
Activision Blizzardが,ダイバーシティ分野における同社の目標達成への試みとして,「Diversity Space Tool」という開発ツールを採用することを自社公式ブログで紹介した。同社の一部門であるKing.comが開発中であるというこのツールは,特定のキャラクターがどれだけ多様化されているのかを可視化するというものだが,これがゲームコミュニティの中で大炎上してしまった。
多様性,平等性 & 包括性
こうした当時の状況については,「第649回:Black Lives Matter運動。アメリカの深刻な人種問題とゲーム業界」(関連記事)にて紹介している。
人種的格差が大きく取り沙汰される中で,欧米のゲーム業界でくすぶり続けていた女性雇用者への雇用問題やセクシャル・ハラスメントにもスポットライトが当て始められた。そうした中で大きく話題になったのがActivision Blizzardで発生していたというハラスメント疑惑である。当連載では「第706回:セクハラ問題に揺れるActivision Blizzard。BlizzardのみならずActivisionにも疑惑の影」(関連記事)などでもまとめているとおり,カリフォルニア州の政府機関である公正雇用住宅局(California Department of Fair Employment and Housing)からの訴訟に発展するなど大問題となっている。
まだ継続中の事案であるこのセクハラ問題の渦中に,Activision BlizzardはMicrosoftの傘下企業となることが決まり,早ければ2022年6月中にも正式に認可されると思われる。さらに,Blizzard Entertainmentを率いるマイク・イバラ(Mike Ybarra)氏が同社社員向けにメッセージを配信し(関連記事),新たに「DE&Iリーダー」という,多様化に向けた専任ポストを社内に設置したことをアナウンスしている。現在,そのポジションにはマケイヤ・ブラウン(Makaiya Brown)氏という,女性が就任(関連リンク)して活躍中だ。
「DE&I」は,「Diversity」(多様性)に,「Equity」(公平性)と「Inclusion」(包含性)を組み合わせた用語であり,すでにAmazonやGoogle,Sonyを始めとする,欧米に拠点を置く多くの企業で使われている。人種,性別,LGBTQ+などさまざまな側面で,より多様で平等な雇用や地位,給与,昇進機会を目指すための,社内における監督・管理システムといったところだ。
そんなActivision Blizzardが,アメリカ現地時間の5月12日に公式ブログページに掲載したエントリー「King’s Diversity Space Tool」(関連リンク)において,同社傘下で「キャンディクラッシュ」シリーズなどを開発するKing.comが開発した「Diversity Space Tool」を,Activision BlizzardにおけるDE&Iの努力の一貫として紹介している。この開発ツールは,特定のキャラクターがどれだけ多様化されているのかを可視化するというものだが,これがゲームコミュニティの中で大炎上してしまったのだ。
キャラクターの多様性を評価する奇想天外な開発ツール
「Diversity Space Tool」は,ゲームやキャラクターの作成に関して,開発者による無意識の偏見や排除を防ぐ方法として,2016年に概念的に研究開発が始まったものであり,マサチューセッツ工科大学のゲームラボと提携し,具体的なソフトウェアへと昇華させたものだ。キャラクターに込められた「文化」(Culture),「人種/民族」(Ethnicity),「年齢」(Age),「能力」(Ability),「体型」(Body Type),「性別認識」(Gender Identity),そして「性的志向」(Sexual Orientation」の基本7項目でそれぞれのキャラクターの見た目やバックグラウンドを評価するという測定アプリケーションだ。
ブログエントリーの中で,「King.comにとって重要な原則は,すべてのプレイヤーに歓迎されていると感じてもらうべきこと」と説明しており,より少数派のゲームキャラクターを作成できることを目的に開発されたという。2017年から2021年にリリースされた大作の実に80%が白人男性のキャラクターという中で,より多様なキャラクター作りを奨励するものであるようだ。
この「Diversity Space Tool」について公表されて以降,YouTubeやRedditのゲーマーコミュニティは,蜂の巣をつついたような騒ぎとなっており,その多くが非常にネガティブなものだ。キャラクターアーティストやゲームデザイナー,ナラティブデザイナーたちのクリエイティビティよりも,このツールで“機械的”に生み出されたキャラクター像を尊重するというような開発姿勢は,受け入れられていないようだ。
ブログエントリー内で「Call of Duty: Vanguard」や「Overwatch 2」においても一部利用されたと書かれていたが,Overwatch 2のキャラクターアーティストであるメリッサ・ケリー(Melissa Kelly)氏は,「この不気味なディストピアチャートを使用していない」と関わりを否定しており,それを受けてか,ブログエントリーの内容も「現在アクティブなゲームでは使用されていない」という内容に修正された。
一方でゲーマーコミュニティの中は,GDC 2017にて行われたActivision Blizzardの開発メンバーによる講演内容を発掘。その映像の中でこのツールについては言及していないが,おそらく同じ評価軸をもとにして「スーパーマリオ」の審査が行われており,「マリオとルイージはヨーロッパ人の中でも人口は少なめなイタリア人と推定されるのでポイントを与える」「マリオはピーチ姫より身長が低いので体型面ではポイントが高い」,さらには「(キノピオやキノピコを含めて)全員がヘテロセクシャルと思われるのは残念」などと評価されていたことが話題になっている。
多様性を考慮した動きは,確かにハリウッド映画など他のエンターテイメント産業でも早くから見られ,さらにマーベルコミックスにおいては21世紀に入ってから進められてきた新しいイニシアチブにより,キャプテン・アメリカはアフリカ系アメリカ人に,スパイダーマンはヒスパニックに,そしてミス・マーベルはイスラムの背景を持つ女性に世代交代するなど,多様化が進められている。より多くのファンや子供たちが,自分に似たキャラクター像に親近感を覚えたり,自分とは異なる境遇を身近に感じ,シンパシーを覚える機会を提供したりすることは,多人種国家であるかどうかに関わらず重要なことだ。
しかし,「Diversity Space Tool」におけるそうした評価点数は,ゲーム開発チームの誰かが,自らの潜在的なステレオタイプによって判断し,数値を入力するようなもので,そこには誰かの思惑が介在しているはずだ。そう考えれば,このツールが行き着くところは,AIプログラムを使った自動キャラクター作成というような,非常に味気ない,ディストピア的なものになってしまう可能性も危惧されている。
「Diversity Space Tool」は,「多様性のある企業」を目指しているActivision BlizzardのPR戦術だったのだろうが,彼らの思惑とは異なる大きな反発を受ける結果となってしまった。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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