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Access Accepted第719回:GDC 2022で見えてきた,“現実”と直面するゲームデベロッパ
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印刷2022/04/04 10:30

業界動向

Access Accepted第719回:GDC 2022で見えてきた,“現実”と直面するゲームデベロッパ

画像集#010のサムネイル/Access Accepted第719回:GDC 2022で見えてきた,“現実”と直面するゲームデベロッパ

 3年ぶりにカリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニ・センターで開催されたGame Developers Conference。コロナ禍前の半分ほどの参加者とは言え,600種を超えるさまざまな業界トピックをテーマにしたセッションが次から次へと開催され,ゲーム開発者たちの熱量も十分に感じられるものだった。そうしたセッションの中でも気になったのは「週休3日制」「DE&I」といった企業改革が推進されてきている,という話だ。


3年ぶりに規模縮小で開催されたゲーム開発者会議


 アメリカ現地時間の3月21日から25日にかけて,世界最大規模かつ長い歴史を持つゲーム開発者会議「Game Developers Conference 2022」が,3年ぶりにオフラインで併催された。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がまだまだ世界的にも収束を見せない中でのイベント開催となったこともあり,過去最大だった2019よりも1万人以上少ない1万7000人の参加者数となったことが発表されている。
 実際には,下記に述べるバーチャルの参加者が5000人だったので,現地にいたのは3年前の半分以下であり,筆者が出席したセッションでも,満席になったものは1つもなかった。イベントとしてはまだまだリカバリー中といったところだが,その分かなり余裕がある,ゆったりとした雰囲気で,それはエキスポフロアも同じ印象だった。

 現地でセッションを生で行う“イン・パーソン”と,その様子をライブもしくは後からも視聴できる“バーチャル”という,2つのセッションタイプがあったことで,十分なセッション数が確保されており,密度の濃い内容だった。ゲームデザインやプロダクション,オーディオ,ビジネス&マーケティング,ビジュアル・アーツから,Free-to‐PlayやインディゲームなどGDCではお馴染みのセッションはもちろん,今年はVRとAR関連を統合した「Future Realities」,グラフィックスについてより技術的な内容にフォーカスした「Advanced Graphics」など,耳慣れないサミットも新たに追加され,合計で600ほどの講義が5日間にわたって行われた。
 ここで一つひとつのセッションを多くは語らないが,筆者が担当したセッションの1つ「[GDC 2022]「Destiny 2」が不振からカムバックできた背景には,ゲーム開発に関する根本的な意識改革があった」関連記事)は,今後のゲーム業界の流れを表すセッションの1つである。

GDCを運営するInfrmaTechの職員の人たち(GDC公式ツイッターより)。会場からは,やはり現地で開催されるイベントの方が心地良いという参加者の声が多く聞こえた
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 「Halo: Infinite」「ディアブロ II: リザレクテッド」のような人気作についての話題もあるが,今年多かったのはNFTWeb3,そしてブロックチェーンメタバースといった新しめのキーワードが入ったセッションだ。これらは,ソフトウェア製品やサービスを提供する企業が主催した,いわゆる“スポンサーセッション”として開催されており,その分だけセッション数を肉厚なものにしていたという印象だ。
 エキスポフロアについては,いつも大きなブースを出展していたIntel,Meta,MicrosoftなどGDCではお馴染みのメジャースポンサーは“バーチャルエキスポ”に切り替えており,Unity TechnologiesやAmazon Web Servicesが気を吐いているという程度。また,インディーズや学生の研究プロジェクトが並ぶGDC Play,alt.ctrl.GDC,そしてIGF Pavilionの展示スペースはいつもどおりだったが,独立系のメーカーは基本的には参加できなかったのか,専用ブースで新作を見せる様子は見られなかった。

 そこを,やはりNFTやらブロックチェーンを掲げる新手の参加者が穴埋めしていたわけだ。こうした流れの中で興味深かったのが,Game Developers Choice Awardsのホストを務めたオサマ・ドリアス(Osama Dorius)氏が,イベントのオープニングのジョークで,「今晩は,NFTを利用しないことをお伝え申し上げておきます」と発言し,笑いや拍手を浴びていたこと。ゲーム開発者の間でも,こうしたテクノロジーを利用することについては,まだまだ否定的な人も多いようで,多様化し続けるゲーム産業の複雑な現実と直面しているように感じられる。

 第22回となるGame Developers Choice Awardsでは,個人ゲーム開発者のダニエル・ミューリン(Daniel Mullins)氏が手掛けたデジタルカードゲーム「Inscryption」がゲーム・オブ・ザ・イヤーを獲得。さらにIndependent Games Festivalにおいても,最優秀賞にあたるシーマス・マクナリー賞(Seumas McNally Grand Prize)に選出されてダブル受賞という快挙だ。カードゲームの要素を中心に,サイコロジカルホラーやエスケープルーム型のゲームに切り替わるといった,複雑なゲームシステムが一体化しているというユニークな作品。昨今はやりの“ライブサービス”タイプのゲームではないが,個人の思いが詰められた作風で,多くのゲーム開発者からの支持を得たというのは特筆できることだろう。

「GDC 2022」記事一覧



コロナ禍の中,進められてきたゲーム企業の社内改革


 さて,毎年GDCにおいてはゲーム業界のトレンドが少なからず見えてくるものだが,ここ最近は授賞式でも使用された同じ大型ステージで,「GDC Main Stage」という統一したテーマで3人のスピーカーが20分ずつ講演を行うスペシャルイベントが行われている。誰もが見に来るような基調講演を,そのスピーカーではなくテーマの面白さでまとめるといったイメージだ。今年は「開発者たちのルネッサンス」(The Developer’s Renaissance)というテーマで行われ,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下にもあったこの数年間に,ゲーム企業や開発者がどのような変化を遂げているのかについて紹介された。
 登壇したのは元Devolver DigitalのMike Wilson氏と,Eidos Montrealのヘッド・オブ・スタジオであるDavid Anfossi氏,そして,PlayStation Studiosの品質管理部門ディレクターであるDevina Mackey氏だ。それぞれの企業の変化について話していたのでまとめておこう。
 なお,このうちWilson氏の講演は本誌記事で紹介しているので,そちらを参照してほしい。

○週休3日制を取り入れたEidos Montreal

 スクウェア・エニックス傘下の開発スタジオとして,「Shadow of the Tomb Raider」(2018年)や,「Marvel's Guardians of the Galaxy」(2021年)で知られるEidos Montreal。同社を率いるAnfossi氏が,近隣のサテライトスタジオであるSherbrooke studiosを含めて金曜日を基本は休みとする週休3日制を取り入れた成果を公開した。
 現時点では,まだ社内のシステムの変化を調整中であるとのことだが,従業員の給料をその分だけ引き下げることもなく,これまで週40時間の労働時間を32時間へ削減し,例えば1時間かけていたミーティングを30分に短縮するなどの改革によって無駄を省いたそうだ。1週間あたりのマイルストーンを設定した試験的なスケジュール運用では,実際にその週のタスクをこなせなかったのは平均で9%ほどに留まっていることから,開発メンバーに時間的なプレッシャーを与えずに,これを実現できるという判断だったと言う。

バーチャルのストリーミングセッションに登壇したEidos MontrealのDavid Anfossi氏。オフラインでの参加ではなかったのが残念だが,海外からのスピーカーはこうしたスタイルが多かった
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 ここのところ,ゲームに限らず多くの産業で「週休3日制」の取り組みがリサーチされている。マイクロソフト・ジャパンが試験的に導入調査して40%の生産性が上がったとアナウンスし,話題になったのは2019年のことだ(外部リンク)。さらにアイスランド政府は2015年から2019年の長期間のリサーチを行うなどしており(外部リンク),欧米や南太平洋地域で,実際に週休3日制を取り入れる企業も出てきているようだ。カリフォルニア州でも,法律で基本32時間の労働時間と基本にするような提言も行われるなど,動きは激しい。

 特にゲーム業界においては,古くから超過労働が問題になってきた。ローンチ前などの追い込み時期に週80時間も働くというのは,今でも欧米ゲーム企業で行われている。2018年にLinkedinが行ったリサーチ(関連リンク)によると,短期間で転職する“ターンオーバー率”はゲーム業界が15.5%と最悪で,燃え尽き症候群にかかってしまう人が非常に多いのだ。

 また,最近ではゲーム産業の拡大とともに人材確保が大きなテーマとなっている。ここ最近の新作関連では,Blizzard Entertainmentはその新作を開発中であると発表し,そのプロジェクトへの人材募集が行われた(関連記事)。ゲーム開発者を雇ってから適切なプロジェクトにアサインする,というのが一般的だと思われるが,興味を惹きたてる特定のプロジェクトに能動的に参加してもらう,といった雇用の方法も試行されているようだ。
 Eidos Montrealのあるモントリオールは,1万8000人ものゲーム開発者が200のスタジオに就業しているという世界屈指のゲーム産業都市だが,それだけ優秀な人材の獲得競争も激しくなるわけで,「週休3日制」という“エサ”で人材を引き寄せなければならない状況にあるのかもしれない。

GDC会期中に,MicrosoftはID@Azure(外部リンク)をアナウンス。独立系デベロッパやスタートアップでも整った開発環境を利用でき,最大5000ドルのクレジットをサポートするという
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○社会的マイノリティへのサポートで評価されたPlayStation Studios

PlayStation Studiosの品質管理部門ディレクターであるDevina Mackey氏
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 2020年,アメリカではBLM(Black Lives Matter)運動で揺れた一年でもあったが,低賃金労働に従事する人が多い黒人/ラテン系のアメリカ人ら,いわゆる“マイノリティ層”のCOVID-19の影響による失業率も高く,同国においては大きな社会問題になっている。

 そのような状態の中で,黒人系アフリカ人の人材育成や雇用は「大企業の責務である」という風潮も出始めており,積極的に動き出したのがソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)だった。Devina Mackey氏は,同組織の中でも最も高いポジションにいたことから白羽の矢が立ち,社内のネットワークとしてBlack@PlayStationというeNet(雇用者ネットワークグループ)を,SIEのCEOであるジム・ライアン(Jim Ryan)氏に背中を押される形で設立。頻繁にミーティングを重ねながらPlayStationプラットフォームでのBLMテーマやTシャツ販売を提言することで啓もう活動を行った。その結果として,SIEはソーシャル・ジャスティス系ファンドから100万ドル,さらにソニー・グループからは1億ドルの寄付が行われることになった。

 こうした動きは,アメリカの企業ではDE&I(Diversity, Equality & Inclusion)として包括され,黒人系アメリカ人以外のマイノリティへのサポートとして広がっているが,SIEでもその後は女性(Woman@PlayStation),LGBT(Pride@PlayStation),ラテン系(Unidos@PlayStation),退役軍人(Vets@PlayStation)などのeNetが組織され,彼らの声を経営陣に届けやすい環境が整えられている。
 特に身体障がい者のグループであるAble@PlayStationは,ゲームやハードウェアのアクセシビリティ向上に貢献したとして,SIEの職場環境は「もっともディスアビリティの人が働きやすい場所」として評価されたとMackey氏は語る。ソニー・グループは現在,全米トップ企業がこうしたDE&Iを推進するイニシアティブ「The Valuable 500」に参加し,さらなる改革を進めているようだ。

Sony Interactive Entertainmentでは,ポスト・コロナ時代でもこうしたDE&Iイニシアティブを推進していくという
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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