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Access Accepted第657回:Apple対Epic Games:「フォートナイト」のプレイヤーを巻き込んだ戦いの幕開け
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印刷2020/08/24 00:00

業界動向

Access Accepted第657回:Apple対Epic Games:「フォートナイト」のプレイヤーを巻き込んだ戦いの幕開け

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第657回:Apple対Epic Games:「フォートナイト」のプレイヤーを巻き込んだ戦いの幕開け

 Epic Gamesが配信するバトルロイヤルゲーム「フォートナイト」が,App StoreとGoogle Playから削除されるという出来事が起きた。理由は,2020年8月13日にスタートしたEpic Games独自のモバイル向け決済手段「Epic ディレクトペイメント」にあるという。AppleやGoogleの途方もない業績が報告され,それに対して各方面から批判が噴出し始める中,Epic Gamesは直ちに対応措置をとり,「フォートナイト」の最大級の人気を背景に,Appleに挑戦状を叩きつけた。


App Storeなどから削除された「フォートナイト」


 北米時間の2020年8月13日,バトルロイヤルゲーム「フォートナイト」のデベロッパであるEpic Gamesが独自の課金システム「Epic ディレクトペイメント」を開始したところ,iOSデバイス向けアプリストアの「App Store」と,GoogleのAndroidデバイス向けアプリストア「Google Play」から「フォートナイト」が削除されるという出来事が起きた。アプリの販売に関するAppleのガイドライン「Apple Program License Agreement」では,30%の販売手数料をAppleに支払うことが義務づけられており,その規約に違反したというのが削除の理由だと思われている。

 これを受けてEpic Gamesは即日,AppleおよびGoogleが独占的地位を濫用しているとの訴えをカリフォルニア州の地方連邦裁判所に起こして法的手続きを開始すると同時に,1984年にAppleが公開したテレビコマーシャル「1984」のビッグブラザーをAppleに置き換えたパロディ映像「Nineteen Eighty-Fortnite」を公開。さらに,「#FreeFortnite」のハッシュタグを公開し反Appleのキャンペーンを開始するといった対決姿勢を見せている。
 さらに,「Epic ディレクトペイメント」では,コイン(V-Bucks)などの販売に対して20%オフのセールを継続的に実施することを発表している。これはAppleやGoogleに対して「10%の取り分でも十分にやっていける」ことを暗に主張しているわけだ。

画像集#002のサムネイル/Access Accepted第657回:Apple対Epic Games:「フォートナイト」のプレイヤーを巻き込んだ戦いの幕開け

「フォートナイト」公式サイト


 これに対してAppleは,8月28日までに違反行為を止めなければ,Epic Gamesの開発者アカウントを停止するとEpic Gamesに警告し,こちらも対決姿勢を鮮明にしている。開発者アカウントの停止は,数多くのゲームに使用されているEpic Gamesのゲームエンジン「Unreal Engine」が,iOS向けアプリの開発用ツールとして認定されなくなることを意味し,すでに発売中のアプリは問題ないものの,現在開発中のタイトルではアップデートの際などにトラブルが起きる可能性がある。

 App Storeは,iPhoneが市場にデビューした翌年の2008年に,500ほどのアプリタイトルをラインナップするマーケットプレイスとしてスタートした。当時,Appleが受け取る30%という手数料に対する不満の声はあまり聞かれなかったように記憶しているが,その後の急成長によってApp Storeの売り上げも増加し,2019年にはそれが542億ドルに達した。

 北米史上最高額となる2兆ドルの時価総額を記録したAppleに対しては,反トラスト法に基づく「不当な利益」を追及する声が厳しくなりつつある。この6月にはEU(ヨーロッパ連合)で独占禁止法に関連する調査が始まり,また7月には米国議会の公聴会にAppleのCEOであるティム・クック(Tim Cook)氏が参考人として出席した。
 それに前後してAppleは,ヘルスクラブのサービスを提供する「ClassPass」が,新型コロナウイルス感染拡大で困窮するインストラクターなどを救済するために利益なしでオンラインのフィットネス教室を開催したところ,売上の30%を求めたことで批判を受けたりしている。

30%の販売手数料が高額だとしてEpic Gamesが開始した「Epic ディレクトペイメント」の画面。このサービスを使えば,AppleやGoogleより20%安くなる
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 こうした最近の出来事と,削除処分を受けたあと即座に法的措置をとり,パロディ映像を公開し,反Appleキャンペーンを開始するという手際の良さから,Epic Gamesがあらかじめこの事態を想定して動いていたと考えるアナリストは多い。ただし,「開発者アカウントの停止」という,ほかの多くの開発者にも影響を与えるAppleの強硬な対応まで読めていたかどうかは分からない。


3億5000万人のフォートナイトプレイヤーを盾に?


 もっとも,AppleとEpic Gamesの対立についての現段階の欧米ゲーマーの反応は“微妙”といったところだ。ゲーマーがアプリを購入する際には,表示されている価格を支払うし,それが従来より20%安くなれば嬉しいのは間違いないが,まずは支払うだけの価値があるかどうかを考えて購入するのが普通だ。海外メディアのIGNは今回の件を「ビリオンダラー企業(Epic Games)とトリリオンダラー企業(Apple)が,お金をめぐって訴え合っている」と冷静なトーンで評している。

 ゲーマーに意図が十分に伝わっていないことについてはEpic Gamesも理解しているようで,CEOであるティム・スウィーニー(Tim Sweeney)氏は何度となくTwitterで,「これはEpic Gamesだけを特別扱いしてもらうための戦いではありません。すべての消費者と,開発者の基本的な自由のためなのです」といった趣旨のことを述べ,「商品を提供する側」と「商品を購入する側」の間に立つ仲買人(英語ではミドルマン)が,どれだけの報酬を得るべきかの議論であることを強調する。
 彼らのこうした主張は,Epic Gamesが2018年12月に「Epic Gamesストア」のサービスを開始した際,ライバルである「Steam」の販売手数料30%が高すぎると訴えた頃から鮮明になった。「エクスクルーシブタイトル戦略」をPCゲーム市場に持ち込んだことに対する反感は根強いようだが,スウィーニー氏はEpic Gamesストアの12%という販売手数料もエクスクルーシブタイトルも,いずれも「ゲーム開発者のためになること」だという姿勢は崩しておらず,それは今回のAppleに対する強い批判や訴訟においても同じだ。

 ちなみに「Nineteen Eighty-Fortnite」のパロディネタになった「1984」は,Appleが1984年1月に初代マッキントッシュ「Macintosh 128K」を販売する際,市場を支配していたIBM PCからユーザーを解放する革命家に自らをなぞらえたものだった。30年以上前の話なので,「フォートナイト」をプレイするゲーマーの中に映像を理解できた人は少なかったかもしれないが,Appleを苛立たせると同時に,Epic Gamesは自らを市場の革命家であると宣言したようにも見える。


 Epic Gamesがこうした「火中の栗を拾う」ような姿勢を維持できる背景には,基本プレイ料金無料の「フォートナイト」が2019年には18億ドルの収益を記録するほどの大ヒット作に成長したことと,大手から個人まで,多くのゲームデベロッパに使用される開発ツール「Unreal Engine」の提供元であることが挙げられるだろう。これについては,「3億5000万人のフォートナイトプレイヤーを盾にしている」という批判も一部にあるが,北米メディアの多くはAppleに批判的だ。

現時点で「フォートナイト」はApp StoreやGooglePlayからダウンロードできないものの,プレイすることは可能。ただし,アップデートが行われないため,8月27日から始まるチャプター2シーズン4には移行しない予定だ
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AppleとGoogleを訴えたEpic Gamesの狙い


Epic GamesのCEO,ティム・スウィーニー氏は,自身のTwitterやメディアのインタビューなどで,AppleとGoogleを「duopoly」(2つの独占的企業,という意味の造語)と呼ぶなど,とくに最近は敵対的な姿勢を見せることが多かった
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 米議会は,クック氏が公聴会に出席した際,プラットフォームホルダーを含めた北米大手企業を調査した報告書を発表しており,販売手数料30%というのはApple,Googleだけでなく,任天堂,ソニー・インタラクティブエンタテインメント,さらにMicrosoftも同様だという。古くからのゲーマーなら,昔はその率がもっと大きかったことを覚えているかもしれない。上記の報告書でも指摘されていることだが,パッケージ販売が主力だった頃は,流通が約45%のマージンを受け取っていた。

 この「30%」という数字はもともと,Appleが「iTunes」で使い始めたもので,iTunesの音楽配信では,例えば99セントという額で販売される楽曲は1ダウンロードごとに,メジャーレーベルなら72セント,インディーズなら62セントが著作権者に支払われる。これをそのままApp Storeに適用し,やがてそれがほかのデジタルマーケットに普及していったというのが歴史の流れだろう。残念ながら,そこに競争原理は働いていない。
 したがって,(現段階でその可能性は非常に低いものの)Epic Gamesの挑戦が成功してAppleやGoogleが販売手数料を引き下げることになれば,それに追随する形で任天堂やSIE,Microsoftも手数料を修正してくる可能性はありそうだ。一般論として,プラットフォームホルダーがハードウェアで利益をあげるためにはソフトウェアの支援が必須であり,AppleやGoogleと比較すれば,ゲームパブリッシャやデベロッパは「ビジネスパートナー」に近い。そのため,販売手数料の引き下げには応じやすいようにも思えるが,収益減に直結するだけに,読めない部分も多い。

リサーチ会社Sensor Towerのデータより。新型コロナウイルス感染拡大に伴う自粛などにより,2020年前半のアプリの収益は飛躍的に伸びている
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 モバイルアプリの調査や動向の分析を行うリサーチ会社Sensor Towerによれば,App Storeでの「フォートナイト」のダウンロード数は,今年7月だけで200万に達し,収益は約3400万ドルだったという。Epic Gamesにとってはこのうちの30%が,「Appleというミドルマンが何もしないで懐に入れた利益」ということになるわけだ。スウィーニー氏のツイートにコメントしていた業界関係者の1人は,「Appleへの支払いがなければ,ゲーム業界にどれだけ雇用が生まれ,どれだけ多くの製品が作り出されることだろう」と書き込んでいる。
 おそらく周到な準備のうえでAppleとGoogleに挑戦状を叩きつけたはずのEpic Gamesが簡単に引き下がることはないだろうし,AppleやGoogleも販売手数料の引き下げに応じることはない。Appleは交渉に応じる姿勢も見せているようだが,和解するにしても,現段階では落としどころが見つからない状況だ。とりあえず,Appleが示す8月28日というデッドラインまでに何が起こるか,まずその点に注目してみたい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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