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Access Accepted第646回:活動を再開したMicroProseの歴史と現状
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印刷2020/05/11 00:00

業界動向

Access Accepted第646回:活動を再開したMicroProseの歴史と現状

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 フライトシムやストラテジー好きのベテランゲーマーにとって懐かしいゲームメーカー,「MicroProse」が活動再開を発表した。「シヴィライゼーション」シリーズで知られるゲームデザイナーのシド・マイヤー氏とビジネスマンのビル・スティーリー氏が1982年に共同で立ち上げ,いくつもの人気作品を生み出してきたが,最近はすっかりその名前を聞くこともなくなっていたMicroProse。今週は,その軌跡と復活までの経緯を紹介したい。


革新的なゲームを次々と生み出したMicroProse


 1982年に創設され,数々の作品を生み出しながらも最近はすっかりその名前を聞くこともなくなり,ゲーム史に埋もれていたメーカー,「MicroProse」。そんなMicroProseが2020年5月,突然の活動再開を発表し,「Task Force Admiral」「Second Front」「Sea Power」という3つのSteam向けタイトルを明らかにした。

画像集#002のサムネイル/Access Accepted第646回:活動を再開したMicroProseの歴史と現状
Task Force Admiral
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Second Front
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Sea Power : Naval Combat in the Missile Age

MicroProse公式サイト


 MicroProseは「シヴィライゼーション」シリーズなどで世界的に知られるようになるゲームデザイナーのシド・マイヤー(Sid Meier)氏と,空軍学校出身のビジネスマン,ビル・スティーリー(Bill Stealey)氏がメリーランド州ハントバレーという田舎町に設立したゲームメーカーだ。
 筆者が昔,マイヤー氏から聞いた話によれば,キャッシュレジスターのメーカーに勤めていたマイヤー氏が,ラスベガスのカジノにあったゲームセンターでスティーリー氏に声をかけられたのが2人の出会いだったという。パイロットとしての腕前に自信を持っていたスティーリー氏がアーケードゲームの「Red Baron」でハイスコアを出して得意満面だったところ,あとからやってきた小柄なマイヤー氏が平然とダブルスコアを叩き出したことに恐れ入って声をかけたという。
 そのときマイヤー氏が,「オレなら,もっと楽しいゲームを1週間で作れるよ」と語り,それを聞いたスティーリー氏がビジネス的な閃きを得たというわけだ。

1988年頃のゲーム雑誌に掲載された若きシド・マイヤー氏(左)と,空軍時代には“ワイルド・ビル”というコールサインを持っていたというビル・スティーリー氏(右)
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 このようにして誕生したMicroProseは同年のうちに,Atari 800シリーズ向けのアクションゲーム「Floyd of the Jungle」と,2Dシューティング「Chopper Rescue」,そして一人称視点のコンバットフライトシム「Hellcat Ace」「Spitfire Ace」を立て続けにリリースしてゲーム市場にデビューした。現在の視点で見れば,信じられないほどのハイペースだが,欧米ゲーム市場が「量産」から「大作化」に移行するのは,しばらく先のことだった。
 1984年にリリースした「F-15 Strike Eagle」が大ヒットとなり,MicroProseはフライトシムジャンルで大きく注目されることになる。同作はAtari機以外に,Commodore,Apple II,IBM PC,NES(海外版ファミリーコンピュータ)などさまざまな機種に移植され,3年にわたってヒットチャートに居座り続けた。MicroProseの高い技術力や優れたゲーム性は,多くのゲームメディアによって「殿堂入り」の評価を与えられた。

 この時代に作られたフライトシムはマイヤー氏と,MicroProse設立以来マイヤー氏の右腕として活躍していたアンディ・ホリス(Andy Hollis)氏とのコンビで開発した作品が多かった。
 そんなホリス氏がAH-64 アパッチ攻撃ヘリコプターをテーマにした8ビット世代最大の野心作,「Gunship」(1986年)を開発するかたわらで,マイヤー氏は同社にとって初となる「乗り物の出てこないゲーム」の制作を進めており,それが1987年にリリースされた「Sid Meier's Pirates!」だった。オープンワールドとして作られたカリブ世界を自由に行き来し,商売や海賊,決闘などを楽しむ,シミュレーションとアクション,そしてアドベンチャーやRPGなど,さまざまなジャンルが混在するゲームシステムは,高い評価を獲得した。

MicroProseのシド・マイヤー作品と聞いて多くの人の頭に浮かぶのが,初期の「シヴィライゼーション」シリーズかもしれない。だが,1990年以前にはコンバットフライトシムを量産しており,中でも「F-15 Strike Eagle」は名作として知られている。放ったミサイルがミサイル視点でターゲットに向かっていくというアイデアはマイヤー氏によるものだ
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 マイヤー氏が,ゲームタイトルに自分の名前を付けるようになったのも「Sid Meier's Pirates!」が最初だったが,この成功によりMicroProseは非フラシムタイトルにも自信を得たようで,ボードゲームデザイナーのブルース・シェリー(Bruce Shelly)氏を迎えて作られた「Sid Meier’s Railroad Tycoon」(1990年)や,現在でもシリーズ作品が作られ続ける「Sid Meier’s Civilization」(1991年)といった作品が次々と生み出されていった。


買収に次ぐ買収で忘れられていった有名ブランド


 しかし,スーパーファミコンが北米で人気を獲得し,FPSなどの新たなゲームジャンルが芽生えつつあった1990年代初め,MicroProseのPC向けストラテジー/シミュレーションゲームを中心にした路線は,次第に時代にそぐわなくなっていったようだ。やがて同社は経営難に陥り,1993年にカリフォルニアのゲームメーカーSpectrum Holobyteに買収されてその傘下に入ることになった。Spectrum HolobyteはMicroProseに並ぶコンバットフライトシムのメーカーで,1991年の「Falcon 3.0」では,まるで本物の操縦マニュアルのような分厚いマニュアルが話題になった。

 この時代のMicroProseをゲームパブリッシャとして記憶している人も多いかもしれない。買収によってスティーリー氏はMicroProseを去ったが,同氏はこれまでサードパーティのパブリッシングを盛んに進めており,テキサスに本拠を置くSimtexの「Master of Orion」(1993年)や,イギリスのMythos Gamesの「X-COM: UFO Defense」(1994年),さらに経営シムの「Transport Tycoon」「Pizza Tycoon」などの作品が次々にMicroProseブランドでリリースされている。ご存じのように,「Master of Orion」は,いわゆる「4X」というコンセプトを広めた作品として有名であり,また「X-COM: UFO Defense」は,ターン制のタクティカルストラテジーとして,現在も新作が作られ続けている。

 パブリッシング以外では,「Top Gun」「MechWarrior」「Star Trek」,そして「Magic: The Gathering」などのライセンス作品が盛んに作られたが,結果的にはこれらがSpectrum Holobyteの経営を圧迫し,1996年にMicroProseの多くのスタッフが解雇されることになった。
 マイヤー氏が「Sid Meier’s Civilization II」(1996年)を最後にMicroProseを離れたのもこの年で,上記のホリス氏や,コアメンバーだったジェフ・ブリッグス(Jeff Briggs)氏ブライアン・レイノルズ(Brian Reynolds)氏らと共にFiraxis Software(現Firaxis Games)を設立している。

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 Spectrum Holobyteは4年の歳月をかけて1998年にようやくリリースした,「Falcon 4.0」の販売成績が振るわず,MicroProseブランドは1998年,Hasbro Interactiveに買い取られ,さらに2001年にフランスのInfogramesがHasbro Interactiveごと買収したことで,MicroProseブランドは長らく姿を消すことになった。さかのぼって調べてみた限りだと,2002年にリリースされた「Grand Prix 4」が,その名を確認できる最後のタイトルとなる。


MicroProseを復活させたのはベテランプログラマー


 冒頭にも書いたように,このMicroProseが5月5日に突然の復活を遂げたのだ。その立役者となったのは,2018年にMicroProseブランドの買収に成功したオーストラリアのデイビッド・ラゲッティ(David Lagettie)氏という人物だ。

 ラゲッティ氏は「ARMA」シリーズで知られるBohemia Interactiveのオーストラリアスタジオに在籍した経験を持ち,その後独立して軍用シミュレータの「TitanIM」,さらに軍事訓練にも利用される「Virtual Simulation Systems」を成功させたベテラン開発者であり,ビジネスマンだ。
 ラゲッティ氏とMicroProseとの直接的な関係はないが,子供の頃に同社のゲームに感銘を受けて業界入りを目指したとのことで,ゲーム産業をかつて華やかに彩ったブランドの復活に興味があったのだろう。新生MicroProseは自らゲーム開発を行わず,オーストラリアやイギリスを拠点にしたデベロッパを相手とするパブリッシング事業が柱となる。

すでにオーストラリアの本社も紹介されており,「MicroProse」の懐かしいロゴもそのままだ。公式サイトには,「一新されたコンバットシミュレーション」などという言葉も見られる
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 もっとも,「シヴィライゼーション」や「XCOM」といった人気シリーズのIPはFiraxis Gamesの親会社である2Kが保有しているし,「Master of Orion」のIPはWargaming.netが獲得している。このほか,日本を舞台にした「Sword of the Samurai」や潜水艦シムの「Silent Service」,Epic GamesがEpic MegaGames時代に作ったRTS「7th Legion」などの少々マイナーなタイトルの数々も,2013年にTommoというパブリッシャが買い取っているため,ラゲッティ氏が使えるIPはそれほど多くはない。あくまで,ブランド名としてのMicroProseが復活したという形だ。

 ラゲッティ氏によるMicroProseブランドの復活劇は,72歳で悠々自適な引退生活を送っていたビル・スティーリー氏の知るところとなり,2人はビジネスプランについて語り合うなど良い友人関係を築いているようだ。
 ただし,発表されている3タイトルを見る限りは,何百ものスイッチが付いたコクピットを再現した本格派シミュレータではなく,おそらくMicroProseという社名さえ知らない若いゲーマー層をターゲットにした,カジュアルなゲームが登場することになるだろう。懐古や回帰ではなく新しいMicroProseの時代を切り開こうとするラゲッティ氏の試みを,今後も見守っていきたい。

Steam「Task Force Admiral」ストアページ

Steam「Second Front」ストアページ

Steam「Sea Power : Naval Combat in the Missile Age」ストアページ


著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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