業界動向
Access Accepted第547回:「gamescom 2017」が開催されるドイツのゲーム市場をおさらい
ドイツ時間の2017年8月22日〜26日,ヨーロッパ最大規模のゲームイベント「gamescom 2017」が開催される。これまでのように「水曜から日曜まで」ではなく,「火曜日から土曜まで」という日程変更が行われており,これが来場者にどのような影響を与えるのか気になるところ。とりあえず,イベントの盛り上がりと新作ゲーム情報の公開に期待したいが,今週はgamescomに先立ち,最近のドイツのゲーム産業の状況をチェックしておこう。
ドイツのゲームと言えば,ええと……
2015年のドイツのゲーム市場の規模は約40億ドル。これは同年の日本の約3分の1,北米の約5分の1に相当するというから,かなり大きな市場だ。ヨーロッパではイギリス,フランスの市場規模を上回っている。
しかし,ドイツと聞いて読者の皆さんはどんなゲームメーカーを思い浮かべるだろうか? 少し前なら,最先端のゲームエンジンを武器にしたフランクフルトのCrytekの名前が挙がったかもしれないが,あまりにも急速に海外スタジオの買収を進めたこともあってか,最近は失速気味で,以前のような“勢いが感じられる”メーカーではなくなってしまった。
「gamescom 2017」公式サイト
歴史もののストラテジーが好きなら,「Anno」シリーズを精力的に作り続けているBlue Byteの名前を知っているはずだが,こちらは10年以上前の2001年にUbisoft Entertainmentに買収されており,純粋なドイツのメーカーとは言いづらいかもしれない。
ほかに,「Saint’s Row」や「Dead Island」シリーズのパブリッシャとして知られるDeep Silverや,「Tropico」シリーズのKalypso Media,アドベンチャーゲームに強いDaedalic Entertainmentなどがあるが,PCゲームを中心とした比較的中規模のパブリッシャが多い印象だ。
デベロッパなら,「The Surge」のDeck 13 Interactiveや「Shadow Tactics: Blades of the Shogun」のMimimi Productions,「ELEX」を開発中のPiranha Bytesといったメーカーを知っている人もいることだろうが,いずれにせよ,フランスやイギリス,スウェーデン,さらにCD Projektを擁するポーランドと比べてもなお,どこか地味な印象が拭えないと思う。
ドイツはまた,2016年の市場の51%をPC向けタイトルが占めるというPCゲーム大国でもある。BigPointやGameforgeといった,ゲーマーのハブになるポータルサービスの健闘が大きく貢献しており,ドイツのゲーム業界団体BIU(Bundesverband Interaktive Unterhaltungssoftware)の試算では,日常的にPCゲームを遊ぶのは,ドイツの人口約8200万人に対して1810万人にのぼるという。
PCゲームに比べて,モバイルゲームはこれまで弱かったが,Woogaのような新興企業の登場によって市場は伸びつつあり,今後数年は,年率2%を超える勢いで成長することが予想されている。こうしたことから,「ヨーロッパ最大のゲーム市場」としての地位はしばらく揺るがないものと思われる。
さて,8月22日といえばもう目と鼻の先だが,そのドイツ・ケルンでヨーロッパ最大のゲームイベント「gamescom 2017」が開催される。足を運んでみれば,上記のようなゲーム大国としてのドイツの魅力が良く伝わってくるイベントであることが分かるはずだ。
35万人にも達するドイツや近隣の国々の老若男女が,人口約100万人のケルンの街に集い,新作タイトルのデモをプレイしたり,ゲームトーナメントを観戦したりしながら,ドイツの短い夏の終わりを満喫する様子は,これまで4Gamerで何度もお伝えしてきたとおりだ。
ちなみに,主催に名を連ねる半官半民の企業Koelnmesse(ケルンメッセ)は日本にも支社を持ち,gamescomの宣伝も行っている。気軽に行けるゲームイベントではないが,E3や東京ゲームショウとは異なる雰囲気を楽しんでみたいという人は,同社の公式サイトをチェックしておこう。
どこか不思議なドイツのゲーム市場のカタチ
以上のように,ドイツの大きなゲーム市場は「消費する側」で成立しており,例えばスウェーデンやポーランドのように,ゲームを制作して世界で販売することで外貨を稼ぐという形にはなっていない。ゲーム開発に携わる人も約1万2000人と,イギリスの約3万人と比べて,ずいぶん少なく感じられる。
もちろん,EU域内の投資や雇用は非常に流動的であるため,わざわざ人件費の高いドイツでゲームを作る必要はないという考え方もできる。とはいえ,ゲームを成長産業と見なして,国家レベルでゲーム企業やゲーム開発者の育成や投資を行う国がヨーロッパに多いだけに,プレイヤー人口や市場規模を考えると,ドイツのゲーム産業の有り様にはどこか物足りないものを感じてしまうのだ。
この理由の1つとして,「コンシューマ機への対応の遅れ」がよく挙げられる。先進国としてPCの普及が早くに進んだドイツでは,それまで大きな市場を占めていたボードゲームのファンがコンピュータのシミュレーションゲームに移って,そのまま固定化したため,1980年代に始まるコンシューマ機ビジネスへの移行に遅れた。その結果として大きなパブリッシャが育たなかったというのだ。
真偽のほどはよく分からないが,長らくゲーム業界をウォッチしてきた筆者としても,「ドイツらしいゲーム」を考えたときに最初に頭に浮かんでくるのはmBlue Byteの「The Settler」や「Anno」のような,細かいグラフィックスでじっくりマイクロマネジメントを楽しむタイプのPCゲームだ。
また,筆者が話を聞いたヨーロッパのゲーム開発者には「彼らは完璧主義者だからね」という人もいた。PCという完璧なプラットフォームがあるのに,わざわざ制約の多いコンシューマ機でゲームを作るのを嫌ったというのだ。コンシューマ機への移行に失敗したのではなく,拒絶したというわけだ。
ヨーロッパ随一の商都として知られるフランクフルトを抱えるヘッセン州が意外に少ないように感じるが,それでもここにはソニー・インタラクティブエンタテインメントや任天堂,バンダイナムコエンターテインメントのような日本の大手パブリッシャが本拠を置き,ゲームにとって重要な街となっている。
また,ケルンのあるライン=ルール大都市圏には,デュッセルドルフにBlue Byteがあるものの,全体としてゲーム作りが盛んという雰囲気は少ない。しかし,1000万人の人口を誇るライン=ルール大都市圏にはゲーム開発を専門にした教育機関が数多く存在しており,これが大きな特徴となっている。
以上,ドイツのゲーム市場について簡単に紹介した。4Gamerでは,例年のように取材班を現地に送る予定なので,これから掲載されるパワーみなぎるgamescom 2017のレポート記事を,ぜひお楽しみに!
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
次週8月28日の「奥谷海人のAccess Accepted」は,gamescom 2017取材のためお休みします。次回の掲載は9月4日を予定しています。
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