業界動向
Access Accepted第502回:欧米ゲーム業界最大のイベント,E3 2016に思う
世界中のゲーム業界関係者にとってE3が開催される6月中旬は,1年で最も忙しい時期の1つだろう。とはいえ,ライブストリーミングが身近になることでプラットフォームホルダーやパブリッシャが直接,ゲーマーに最新情報を届けられるようになった今,多数の関係者やゲーム作品が一か所に集まることにどれほどの意味があるのか,最近の欧米ゲーム業界では大きな話題になっている。今週は,2016年6月16日に終了したE3 2016の感想を,筆者の視点からまとめてみたい。
公称で7万人が参加したE3 2016だったが
今年で22回めを迎えた北米最大のゲームイベントE3が,2016年6月14日〜16日,ロサンゼルスのダウンタウンにあるLos Angeles Convention Centerを舞台に開催された。主催社である北米のゲーム業界団体ESA(Electronic Software Association)の発表によれば,E3 2016の参加者は7万人以上とのことで,これは過去最大の参加人数に匹敵するものだ。しかし,その内訳を見ると,E3そのものに参加したゲーム業界関係者は5万300人で,残りは今年初めて併催された一般向けのイベント「E3 Live」への参加者であるという。
E3公式サイト
4Gamer「E3 2016」記事一覧
筆者が調べた限り,E3 2016でもっとも注目された任天堂の「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の試遊で待ち時間は約40分。1回20分という長めのプレイアブルデモを公開していた2Kの「マフィア III」で約1時間,最も長そうなBethesda Softworksの「Fallout 4 VR」の体験デモで約3時間といったところだ。このように,E3およびE3 Liveとも割と閑散としており,過去最大の参加人数を記録したE3という印象は薄かった。
そのE3 Liveは,正直なところイベントとして中途半端で,無料とはいえ誰が得をするのかという企画だった。“初めての一般参加”という触れ込みだったが,開催発表はわずか3週間前で,協賛メーカーや展示ブースに相当苦労したことがしのばれる。その結果として,没個性なテントの中での地味な展示になっており,「業界関係者でなくてもE3の雰囲気が味わえる!」と期待して列に並んだファンはおそらく失望したはずだ。「VRデバイスを体験できる場所」としてはある程度機能していたようだが,わざわざロサンゼルスのダウンタウンまで足を運んだゲーマー達にE3 Liveがどれだけアピールできたのかは,はなはだ疑問だ。
これからのE3はどう進化するのか?
ゲーム市場の急激な変化に対応できていないE3とESAについては,本連載でも何度か取り上げてきたので,興味がある人は,E3 2016直前の6月6日に掲載した本連載の第501回,「大きな期待と不安が交錯するE3 2016」などを参照してほしい。
ご存じのように,E3そのものに比べてE3の開催前に行われる各社のプレスカンファレンスは年々,重要度を増しているため,大手の中ではWarner Bros. Interactive Entertainmentがカンファレンスの開催を検討し始めたという。メディアの注目がどうしても散漫になりがちなE3そのものより,こうした独自イベントのほうがメーカーにとって都合が良く,「カンファレンスで発表すべきことを発表すれば,それで十分」というElectronic Artsの姿勢を後追いをするパブリッシャも今後,出てくるだろう。
メーカーの最近のトレンドとしては,ゲーム実況を行うYouTuberやTwitchのブロードキャスターなど,意欲と実力を持つ“インフルエンサー”(ほかの人々に対して影響力のある人)をいかに取り込むか,というものがある。そういう観点からは,E3 Liveのような見せる作品の少ないイベントを開いても仕方ないし,関係者オンリーという秘密主義的な開催形態の是非も問い直される。
ESAはもともと,暴力表現や海賊版の横行など,暗いイメージのあったゲーム産業のイメージをアップすることを目的に,政府へのロビー活動やプロモーションを行うべく発足した業界団体だった。完全に,とは言わないまでも,ゲームのそうしたイメージがかなり払拭され,ゲーム産業がハリウッドに匹敵する規模の産業に成長した現在,ESA本来の設立目的は薄れている。
以上のことから筆者は今後,E3は消費者に直接アピールできるイベントに変革していく必要があると考えている。つまり,東京ゲームショウやドイツのgamescomのように,カンファレンスとトレードショーという部分には手を加えることなく,ビジネスデイ以降の週末をファンに開放してしまうわけだ。
力を失いつつあるように見えるとはいえ,その年の年末から翌年にかけてリリースされる作品を発表する場としてのE3の意義はまだ十分にあるし,SIE,Microsoft,任天堂に加え,VR関連のメーカーなども一同に会するほぼ唯一のゲームイベントであるのも事実だ。
なにより,20年以上の実績はE3を「多数のゲーム情報が出てくるイベント」として多くのゲーマーに認知させており,どうにかすれば,まだ期待を抱かせるイベントであり続けるはずだ。
だが,どうしてもワクワクしてしまうE3
噂どおりに登場してきたソフトや,制作発表以来あまり情報が出ていなかった作品,さらにはまったく予想もしてなかった新作に加えて,ちょっと気になるインディーズゲームなど,「年末はあのゲームを遊ぼう」というタイトルがいくつも見つかった。
事前にアナウンスされていたとおり,「Nintendo NX」やPlayStation 4の新型モデルは発表されなかったが,Microsoftはスリムモデルの「Xbox One S」の年内リリースと,「Scorpio」と呼ばれる新型モデルの2017年発売を明らかにした。北米のリサーチ会社ListenFirstによれば,Microsoftのプレスカンファレンスに関するFacebookとTwitterへの投稿は,ほかのカンファレンスに比べてダントツに多く,その理由はハードウェアの発表にあったとListenFirstは見ている。
また,Global Twitter Dataによると,E3期間中に最もツイートされたソフトウェアは「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の57万6000回で,2位の「バトルフィールド 1」の3倍近くにもなる強さを見せた。以下は,「God of War 4」などのPlayStation 4エクスクルーシブのタイトルや,同プラットフォームをメインとする作品がほとんどを占めており,全体としては,改めてPlayStation 4の優位を見せる形になっている。
Electronic ArtsやActivisioなどの抜けたE3 2016会場では,リマスター版「The Elder Scrolls V: Skyrim Special Edition」だけでなく,「Prey」や「Dishonored 2」を発表したBethesda Softworksが,今年も勢いのあるところを見せ,さらに,「FINAL FANTASY XV」をプレイアブル公開したSquare Enixや,「フォーオナー」「Watch Dogs 2」,そして「Steep」などを次々に公開したUbisoft Entertainmentのブースには例年以上の関係者が集まり,存在感を発揮していた。
また個人的な興味もあって,E3 2016では例年以上にインディーズ系タイトルをチェックする機会を増やしたが,SFアドベンチャーの「State of Mind」,延々と海中遊泳が楽しめそうな「ABZÛ」,ターン制ストラテジーの「Overland」など,いくつもの新作を見つけることができた。こうした発見も,多くのメーカーが一堂に集まるE3ならではのものだ。
本連載の第484回「2016年注目の欧米産ゲームタイトルは,これだ!」でも取り上げた「We happy Few」や「Kingdom Come: Deliverance」などが順調に仕上がっていることも確認できた。
2017年のE3 2017は6月13日〜15日,会場はいつもと同じLos Angeles Convention Centerで開催されるとのこと。果たしてE3は変わっていくのか,我々はそこでどのような新作を見ることになるのか。気の早い話だが,期待したい。
E3公式サイト
4Gamer「E3 2016」記事一覧
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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