業界動向
奥谷海人のAccess Accepted / 第291回:Minecraftを生み出したスウェーデンのゲーム事情
日本から遠く離れた北欧の国,スウェーデン。ゲームの開発がボーダーレスになり,さまざまな国や地域で作品が作られるようになってきたが,その中でもスウェーデンはユニークな作品を数多く送り出していることで注目されている。今回は,大手のゲームデベロッパだけでなく,以前から活発な活動を続けてきたインディーズゲーム開発を中心に,スウェーデンのゲーム事情を紹介しよう。
Notch(ノッチ)の名で知られるMarkus Persson(マーカス・ペルソン)氏。彼の「Minecraft」は,β段階にして,すでに100万本以上のセールスを記録している。同作は現在,約12億円を稼いだとされており,Persson氏は一躍インディーズゲーム界の寵児になった
スウェーデンに本拠地を置くゲーム企業と聞いて,読者の皆さんはどこを頭に浮かべるだろうか。筆者がパッと思いつくのは,Electronic Arts傘下で「Battlefield」シリーズを開発しているEA DICE(旧Digital Illusion CE),ストラテジーゲーマーにはおなじみのParadox Interactive,そして「Just Cause」シリーズのAvalanche Studiosといったところだ。
このほか,ヒットしたPC向けのRTS「World in Conflict」を制作したMassive Entertainment,バーチャル不動産販売で話題になったMMOG「Entropia Universe」のMindArk,「GTR - FIA GT Racing Game」など,シミュレーション性の高いレーシングゲームに経験豊富なSimBin Studios,そして「The Chronicles of Riddick」で高い評価を得たStarbreeze Studiosなどが後続集団を形成しているようだ。
いずれも高い技術力を持つメーカーで,世界に通用するタイトルを開発して商業的にも成功している。ある試算によれば,上記メーカーの総売り上げは年間約2億ドル(約166億円)で,これは日本の40分の1ほどの規模。とはいえ,国土は広いが人口そのものは約925万人というスウェーデンにとっては十分大きな規模であり,ゲームは立派な輸出産業として認められているという。
上に挙げたメジャーなメーカーだけでなく,インディーズゲームの世界でもスウェーデンは注目の国だ。そう,現在ゲーマーの間でセンセーションを起こしている「Minecraft」もスウェーデン生まれなのだ。
Minecraftは,地形や建物,樹木などをブロック状のパーツを組み合わせて作り,自分の好きな世界を築いていくという箱庭系のユルいゲームだ。最初のバージョンは2009年5月にリリースされ(現在は「クラシック版」と呼ばれている),その後「β版」と名づけられたアップデート版の開発が行われた。
β版では,ゲームに登場するプレイヤーキャラクターにヘルス値が与えられるとともに,夜にはプレイヤーを狙ってモンスターが侵入してくるようになり,それに対処するための武器も実装されて,さらに人気を高めた。
また,「β版を購入しておけば,(β版より高い価格が予定されている)製品版へ無料でアップグレードできる」というキャンペーンも受け入れられ,2011年1月には購入者数が100万人を超えている(関連記事)。他人が見て感動するような世界を作るには,かなりの努力が必要だが,YouTubeなどの動画投稿サイトでは,さまざまなアイデアと工夫のこらされた驚異的な作品が見られる。このようにMinecraftにハマった人達は,自らを"Crafter"と呼んでいるようだ。
そんなMinecraftを開発しているのが,Notch(ノッチ)という愛称でも知られるスウェーデンのMarkus Persson(マーカス・ペルソン)氏。「King.com」というゲームポータルサイトにタイトルを提供するプログラマーだったPersson氏は,幼い頃からプログラミングに興味を持ち,8歳の頃にはすでにPCの前に座っていたという。
Minecraftにも利用されているプログラミング言語「Java」を得意とするようで,仕事のかたわら,Javaゲームコンテストにも参加し,2006年には「Miner4K」という作品で,「サイズを4KB以下に抑えたJavaゲームのコンテスト」の大賞を獲得している。
本文で詳しく説明するが,スウェーデンで最も知られたインディーズゲーム制作者,Jonatan Soderstrom氏の作品はとにかく奇抜。グラフィックスは地味なものが多く,21世紀に制作されたゲームには見えづらいが,スウェーデンらしく(?)すべて1人で制作しているうえ,どれも思いつくと数日間徹夜して作り上げてしまうという
インディーズ系のゲーム開発は,アメリカ,カナダ,イギリスなどの英語圏を中心にフランスや東欧などでも行われているが,スウェーデンも盛んだ。例えば,2009年のIndependent Games Festivalで大賞を獲得した「Blueberry Garden」は,なんともほんわかしたアートがユニークなパズルゲームで,スウェーデン在住のErik Svedang(エリック・スヴェダン)氏の作品。開発当時,同氏はわずか23歳だった。
また,2年ほど前に当連載で紹介したことのある「LOVE」というMMOGも,スウェーデンのEskil Steenburg(エスキル・スティーンバルグ)氏がたった一人で作り上げた作品だ。ちなみにSteenburg氏は,数日前に上記のPersson氏の依頼を受け,Minecraftのグラフィックスの改良に取りかかっているという。
これらの例を見る限り,どうやらスウェーデンでは「1人でゲームを開発する」ことが普通であるらしい。長い冬,家でゆっくりゲーム作りということだろうか。あるいは,個性を尊重するという国民性によるものだろうか。プログラミングに関する興味の高さや,教育なども関わってくるだろうし,国民の多くが英語に堪能であるという背景も関係しそうだ。
いずれにせよ,最近のインディーズゲームシーンにおいて,スウェーデンが無視できないパワーを発揮しているのは間違いないだろう。
ところで,上記の「サイズを4KB以下に抑えたJavaゲームのコンテスト」で思い出したのが,北欧やドイツ,オランダ,イギリスなどに根付いた"Demoscene"(デモシーン)というサブカルチャーだ。
これはもともと,ヨーロッパのハッカー達が,ハッキングに成功したソフトのクレジット画面に自分の名前を入れ,仲間うちで見せ合ったお遊びに端を発するとも言われている。やがて自作の美しいエフェクトやサウンドを付けたものが,ハッキングとは無関係に作られるようになり,Demosceneなどと呼ばれるようになったのだ。時は8/16ビットPCの時代であり,美しさや面白さだけでなく「プログラムサイズの小ささ」も重要だった。
そういった遊びで切磋琢磨した経験を持つプログラマーは,ヨーロッパのゲーム開発現場に少なくない。おそらく,コンパクトなJAVAプログラミングで実力を見せたPersson氏も,そうしたカルチャーの影響を受けていただろう。
スウェーデンで,そういったプラグラマーを代表するのが,欧米で"Cuctus"(サボテン)という愛称で知られるJonatan Soderstrom(ジョナサン・ゾダーシュトレーム)氏だ。本職が何なのかは分からないが,2004年以降,PCやMac用の自主制作ゲームを無料公開しており,これまでにリリースされた30本ほどの作品は,どれも実験的でアバンギャルドなゲームばかりだ。
彼の作品は,右に行こうと右矢印キーを押すと,左へ移動するなど,まったく逆の操作がプレイヤーを混乱させる「Mondo Medical」(2007年)や,なんのためにゲームをやっているのかエンディングまで分からない「Psychosomnium」(2008年)など,パズル風味の,ちょっと変わったゲームが中心だ。
2009年の「Clean Asia!」は,眼球が人体から逃げ出して反乱を起こし,中国や韓国を占領。それを阻止するため(眼球がないので)第六感を使って戦う兄弟を主人公にした,トップダウンのアクションで,そのサイケデリックな世界観が大きな評価を獲得した。ニンジャや相撲取りなどをモチーフにしたゲームも少なくなく,現在日本語を勉強しているというSoderstromは,日本の文化にも興味を持っているようだ。
以上,MinecraftからClean Asia!まで,スウェーデンのインディーズゲームシーンを紹介したが,作られる作品なんともユニークで,ほかの欧米諸国のゲームは明らかに一線を画している。日本から遠く離れた北欧の国だが,それらのタイトルに見られる独創性は,日本でも大いに評価されるべきだろう。ぜひ,ゲーム選びの参考にしてほしい。
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