連載
剣と魔法の博物館 モンスター編 / 第113回:セルキー(Selkie)
同じ種類の動物でも,ほかより体が大きかったり,特別長寿だったりすると,時代によっては単なる動物ではなく,モンスターとして扱われることがある。なじみ深いところでは猫又などがいい例だろう。こうした考えは世界中にあるようで,スコットランドでは,大型のアザラシをセルキー(Selkie)という妖精に見立てていたようだ。
セルキーは主に水中に生活する人間型の種族である。では,なぜセルキーがアザラシのような姿で描かれるのかというと,普段は人間のような姿をしているセルキーだが,水中ではアザラシの毛皮をまとって(変身して?)行動するのだという。ひょっとすると彼らがまとう毛皮には,水中での生活を可能にするような,特殊な力が備わっているのかもしれない。
伝承をあれこれと調べてみると,セルキーは温和な種族であることが分かる。扱いとしてはマーメイドやマーマンに近い存在といえるだろう。とはいっても,彼らの仲間であるアザラシ達に危害を加えたり,海を汚したりした場合は話は別。水中を自在に泳ぎ回る彼らと敵対したら,苦戦は避けられないだろう。
なお,オークニー諸島やシェットランド諸島では,セルキーの血が海に流れると嵐が発生し,船が沈むとされているので,セルキーを傷つけることは得策ではないかもしれない。
カードゲーム「マジック・ザ・ギャザリング」では,モンスターらしさを強調した数種類のセルキーのカードがあったほか,オンラインRPG「トキメキファンタジー ラテール」にも,可愛らしいモンスターとして登場する。また「ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル」シリーズで,主要な4種族の一つとしてセルキーが登場しているのが印象的だ。
セルキーのルーツについてははっきりしないが,本来,彼らは天使や人間であり,地獄に落とされるほどではない軽微な罪から,海へと追放された種族であるとの説がある。そして何らかの理由により,陸に上がるときだけは毛皮を脱ぎ,人間の姿をしてもいいのだそうだ。なお,毛皮を脱ぎ捨てたセルキーは美しいらしく,しばしば人間と恋愛することもあるのだ。
日本では,天女が水浴びなどをしている間に,彼女が羽織っていた羽衣を隠してしまい,天に帰れなくなった天女を妻として娶るという羽衣伝説があるが,実はセルキーにもよく似た伝説がある。
スコットランドでは,セルキーは陸に上がるときにアザラシの毛皮を脱ぐとされており,その毛皮を隠したり,奪うことでセルキーを妻として迎えるという伝説が多数残されている。ただ,これは半強制的なものであるらしく,どんなに仲良く接しても決して心までは許してくれず,海に待つセルキーの恋人や夫を忘れることはないという。そして日本の羽衣伝説と同様に,再び毛皮を取り戻せば海に帰ってしまうのである。
一方,男性のセルキーは好色で,人間の女性を誘惑することでも知られており,人間との間に子供を残すこともあるらしい。ただし,生まれてきた子供の手足には水かきがあるそうで,その子孫にも水かきは遺伝するという。なおスコットランドに伝わる,アーシュラという女性とセルキーを描いた伝承によれば,満ち潮のときに女性が七滴の涙を海にたらすことで,セルキーを呼べるという。
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