連載
剣と魔法の博物館 モンスター編 / 第110回:蚩尤(しゆう)
蚩尤(しゆう)は,中国の神話に登場する戦神の一人。三皇五帝の一人で,炎の使い方を広め,農耕の祖としても知られる“炎帝”神農の子孫とされている。
蚩尤の特徴にに関してはさまざまな説があるが,銅の頭,鉄の額,人の体,牛の蹄,四つの目,六つの手を持ち,性格は非常に好戦的で,砂や鉄などを喰らうとするものが主流のようだ。また伝承によれば,単に戦闘力が高かっただけでなく兵法にも通じ,多数の配下がいたという。
さらに,中国で一般的に使われていた戟,矛,斧,盾,弓などの武器を開発したのは蚩尤であり,君主としての力も持ち併せていたようだ。なお,蚩尤は固有名詞として使われることもあるが,よく似た兄弟が81人もいたとの伝承も残っている。
ゲームに登場する機会は少ない蚩尤だが,女神転生シリーズなどに登場している。
蚩尤の最も有名な逸話といえば,三皇五帝の一人で漢民族の始祖であり,“黄帝”と称された公孫軒轅との戦いであろう。武帝の時代に編纂された中国の歴史書「史書」の五帝本紀によれば,“炎帝”神農の子孫による統治が行われていた時代,次第にその統治力は衰え,世界は戦乱の世の中となっていった。この頃,公孫軒轅という人物が頭角を現し,乱れた世を平定すべく多くの諸侯をまとめていったのである。
ところが,これを良く思わない人物がいた。それが神農の子孫といわれる蚩尤である。蚩尤は兄弟と共に魑魅魍魎(ちみもうりょう)を従えると軍を興し,公孫軒轅らに戦いを挑んだ。そもそも蚩尤は戦士として優れていたばかりか,さまざまな武器を開発する知恵も備えていた。そうしたことからも予想できるように,公孫軒轅は苦境に立たされ,序盤戦では撤退を余儀なくされたのだ。おまけに蚩尤が霧を呼んだために,撤退する公孫軒轅の軍は大混乱。敗走させられることになったのである。
ところが,そうした苦境も次第に逆転していった。ある日のこと,夢の中に仙女の長として知られる西王母(せいおうぼ)が現れて,公孫軒轅に助けを約束したのである。これを受けた公孫軒轅は祭壇を作って三日三晩祈り続けた。するとどこからともなく九天玄女(きゅうてんげんじょ)が現れて「霊宝五符」や兵法「陰符経」を授けたという。さらに公孫軒轅の師である風后(ふうこう)が,指南車という方向を確認できる道具などを発明し,これらの助力を得て形勢は逆転。ついに蚩尤を捕らえたのである。
捕虜になったとはいえ,蚩尤は強大な力を持っていたので恐れられ,手枷足枷を付けられたまま処刑されたという。さらに復活を危惧した公孫軒轅らは,首と胴を離れた場所に埋めたそうだ。なお,蚩尤の処刑で真っ赤に染った手枷足枷は,やがて楓の木に姿を変えたという。秋になると楓が真っ赤に染まるのは,蚩尤の怨念ともいわれている。
|
- この記事のURL: