連載
剣と魔法の博物館 モンスター編 / 第109回:酒呑童子
日本には古来より,鬼に関する伝承が多数伝わっている。その中でもとくに有名なのが酒呑童子ではないだろうか。人肉を喰らう酒呑童子を,神の加護を受けた戦士達が倒すという逸話は,ファンタジーファンならずとも興味深く楽しめるものだ。
伝承によると,京都は丹波の大江山に,酒呑童子という鬼が住んでいた。6メートル以上の巨体は赤い毛に覆われており,人肉と酒を好み,部下の鬼達を従えてたびたび京都の町を襲撃し,女性をさらっていたという。
鬼といえば角がトレードマークだが,酒呑童子の角の数については2本から5本と諸説ある。出生についても同様に複数の逸話が残されているが,一般的には,越後で生まれて比叡山に移り住むが,最澄に追い払われる。その後大江山にたどり着くものの,空海によって追い払われ,空海の死後,大江山に戻ったとされている。
酒呑童子は一般的なファンタジーRPGには登場しないが,和風のゲームであればその登場機会は比較的多く,代表的なところでは「O・TO・GI〜御伽〜」「ONI」「桃太郎伝説」などの作品が思い出される。とくに「O・TO・GI〜御伽〜」は,酒呑童子を倒したとされる源頼光を主人公としており,さらに続編の「O・TO・GI 〜百鬼討伐絵巻〜」では,頼光四天王によるプレイも可能なので,日本の鬼神伝説が好きであれば,一度プレイしてみる価値はあるだろう。
あるときのこと。酒呑童子が現れて池田中納言の姫君がさらわれてしまい,清和源氏の三代目であり,武人として名を馳せる源頼光(みなもとのよりみつ/みなもとのらいこう)に討伐の命が下った。彼は渡辺綱(わたなべのつな),坂田金時(さかたのきんとき),卜部季武(うらべすえたけ),碓井貞光(うすいさだみつ)の頼光四天王を引き連れ,石清水八幡,住吉明神,熊野権現といった神社で必勝の祈願を行うと,山伏の姿に変装をして出発した。
道中,三人の不思議な老人から,人間に力を与え,鬼からは力を奪う「神便鬼毒酒」や,鬼の攻撃から身を守れるという星甲(ほしかぶと)を譲り受ける。一説によれば,この三老人は,先に祈願を行った,それぞれの神社の化身だったらしい。
やがて酒呑童子の元へと到着した一行は,旅の途中の山伏だと身分を偽り,酒呑童子に取り入った。これに気をよくした酒呑童子は,人肉や生き血などをふんだんに用意し,酒宴を催して源頼光一行を歓迎した。
源頼光らは食べ物や飲み物に手を付ける真似をしつつ,うまい酒があると神便鬼毒酒を酒呑童子に勧めた。酒呑童子はこれを喜んで飲み,やがてその効果によって寝てしまった。そこで源頼光は酒呑童子を鎖で縛ると首をはねたという。しかし酒呑童子の首は,源頼光の兜にかぶりついた。普通の兜であればかみ砕かれていたかもしれないが,星甲を着用していたおかげで,なんとか命拾いしたのだという。
なお,討伐に使われた大原安綱という刀が童子切安綱と改名され,後の天下五剣となるのは,以前「こちら」で紹介したとおり。
ちなみに,酒呑童子は死に際して源頼光に,「鬼神に横道(おうどう)なきものを!」と叫んでいる。横道とは「正しい道に外れたこと,よこしま」という意味であり,変装をして取り入り,毒入りの酒を飲ませた上で,鬼の一族を皆殺しにした源頼光のやり方を非難したものである。たしかに酒呑童子側から見れば,この上なく卑怯なやり方として映ったことだろう。
酒呑童子の正体は山間部に住んでいた反朝廷の民族であり,この討伐の逸話は,朝廷が反朝廷勢力を平定するさまを物語にしたものだという説もあるが,そう考えると,酒呑童子の新たな一面が見えてきそうである。
|
- この記事のURL: