連載
剣と魔法の博物館 モンスター編 / 第102回:河童(かっぱ)
日本でおなじみのモンスターというと,鬼や天狗,九尾の狐,河童,鎌鼬(かまいたち)などがすぐに思い浮かぶ。ルーツを探っていくと中国伝来のものもいるが,どれも日本では「妖怪」と呼ばれ恐れられて(あるいは親しまれて)きた。今回はその中から,人間との関わり合いが深く,知名度が高い河童を紹介しよう。
一般的には河童は,緑色の皮膚を持つヒト型の妖怪で,頭頂部には水をたたえた皿のようなものがあり,クチバシや背中の甲羅,手足の水かきなどが大きな特徴となっている。頭の皿が割れたり乾いたりすると死んでしまう,あるいは力が弱ってしまうという弱点なども,日本では広く知られているところだろう。
河童の好物はキュウリや尻子玉とされているが,尻子玉と聞いてもピンとこない人が多いかもしれない。これは人間の肛門内にあると考えられていた臓器,あるいは腸などの内臓のことで,河童はこれを引っこ抜き,食べると言われていたのだ。尻子玉を抜かれた人は「腑抜け」て溺死してしまうという。
なかなかユニークな設定であるが,人間が溺死すると肛門の括約筋が弛緩し,開いてしまうので,昔の人たちはそれを見て「河童に尻子玉を抜かれたんだな」と考えたのだろう。
また,相撲が得意だという点も,河童の有名な特徴の一つだ。河童の相撲につきあったら川に投げ飛ばされて尻子玉を抜かれてしまったとか,ずっと相撲に付き合わされてくたくたになってしまったとか,河童vs.人間の相撲に関する伝承は,日本各地に残されている。なお,「仏前の供物を食べてから相撲を取る」や「相撲を取る前に頭を上下に動かすと,河童もつられて頭を振り,皿の水がこぼれて力が弱まる」「河童が苦手としている猿を連れていく」など,河童との相撲に勝利する攻略法も,同様に言い伝えられている。
河童という名前の由来には諸説あるが,川に住むわらは(童)からきているというのが一般的だろうか。天狗などと同様に,河童にも著名な者がおり,関東の河童の長として知られる祢々子河童(ねねこがっぱ),中国から渡来し,一族が9000匹もいたことから「九千坊」と称された,筑後川の「九千坊河童」(くせんぼうかっぱ),壇ノ浦で散った平教経の妻(母との説も)が化身した河童といわれる「海御前」(うみごぜん)などは,部下を従える有力な河童である。
河童に関する伝承は全国にあり,どれも魅力的である。ここではそんな中から,とくに興味深い逸話を紹介しよう。
文化年間のこと。現在でいう東京台東区の合羽橋(かっぱばし)周辺は水はけが悪く,洪水の被害に悩まされていた。そこで合羽屋喜八という商人が,私財を投じて治水工事を行なっていたという。工事は思ったように進まず難航したが,それを見た隅田川の河童達は喜八の侠気に惚れ,夜な夜な工事を手伝ったという。こうして工事は完了し,さらに河童を目撃した人々は商売が繁盛したという。こうしたことからその橋は「かっぱばし」と呼ばれ,住人から親しまれたそうだ(合羽屋喜八が作ったので,漢字表記では合羽橋と表記されるようになったという)。
なお,合羽橋付近にある曹源寺は通称「かっぱ寺」と呼ばれ,合羽屋喜八のお墓があるほか,河童の手のミイラなども展示されており,8月23日には河童祭りが開催されるという。
そのほかの逸話としては,河童に薬をもらうという伝承も多い。馬が川でおぼれそうになり,その原因が河童だと気がついた人物が河童を捕らえると,反省した河童がどんな傷も治せる薬を差し出す,という話は日本各地に伝わっている。また,河童で有名な遠野(岩手県)には,人間と河童の間に子供が生まれたという逸話も伝わっている。
ともあれ河童は,地方によって呼ばれ方や容姿,由来などが異なっており,なかなかに興味深いテーマだ。河童に対する関心が深まったという人は,図書館やWebなどでアレコレ調べてみるといいだろう。
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