連載
剣と魔法の博物館 モンスター編 / 第97回:チョンチョン(Chonchon)
チョンチョン(Chonchon)は,南米のチリの伝説に登場するモンスターで,一言で形容するなら「空飛ぶ生首」だ。といっても,幽霊のようにふわーっと空中を漂うのではなく,大きな両耳を羽のようにはばたかせ,「チョンチョン」という奇怪な鳴き声を上げながら夜空を飛びまわるのである。
RPGなどで敵として登場する場合,精気を吸いとったり,血液を吸ったりする攻撃が怖そうだ。また,その奇怪な鳴き声に,何らかの魔力が秘められているケースも考えられる。仮にその場合,チョンチョンの鳴き声を封じようと思うなら,「サイレンス」などの静寂を作り出す魔法が有効かもしれない。
ちなみに,これといった弱点はあまり見られないが,朝になると姿を消してしまうことから,光が苦手だとも考えられる。
国産のゲームで,いち早くチョンチョンを敵キャラクターとして採用したのは,1987年にシステムソフトから発売された「ティル・ナ・ノーグ」だろう。同作はケルト神話をベースにしたRPGだが,モンスターの網羅性が非常に高く,チョンチョンを,魔法を使う飛行型のモンスターとして登場させていた。雑魚キャラとはいえ,その異様なルックスはインパクト十分だった。PCゲームファンの中には,チョンチョンといえば「ティル・ナ・ノーグ」を思い出すという人も少なくはないだろう。
チリのマプチェ族には,チョンチョンに関する伝説がいくつも言い伝えられている。それによれば,チョンチョンは一般人には見えない精霊のような存在であり,死期が近づいた病人がいる家に集まり,鳴き声を上げながら病人の魂をすするといわれている。
といっても,病人の魂が一方的に吸われるわけではないようで,(精神力を駆使して?)チョンチョンの攻撃に抵抗することも可能らしい。チョンチョンの攻撃に打ち勝つことができれば,すぐに死んでしまう危険はないが,もし魂を吸い尽くされてしまった場合,その病人は死を迎えることになる。ちなみに,チョンチョンに魂を吸われて死んだ人は,その後チョンチョンになってしまうという。
マプチェ族を中心に,チリでは首なしの死体などが見つかった場合には,チョンチョンによって殺され,さらに死後チョンチョンになってしまったと考えられていたようだ。
一説によるとチョンチョンは,「飛行術の一つである」とも考えられていた。剣と魔法の世界には,自らをモンスター化する禁忌の術が存在し,リッチなどはその代表格として知られている。チョンチョンも同様に,魔術師などが秘術によって自らをモンスター化し,首だけで空を飛び回る術だというのだ。
そのほか,六芒星を地面に描いて古くから伝わる呪文を唱えることで,チョンチョンを捕獲できるという秘術などもあるらしい。ただし,この術はチョンチョン一体に対して一つの六芒星が必要であり,効果も朝までしかないという。なお,捕獲されたチョンチョンが助けを求めて仲間を呼ぶこともあるので,ある意味,非常に危険な秘術といえるだろう。
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