連載
剣と魔法の博物館 モンスター編 / 第87回:タロス(Talos)
タロスはギリシャ神話に登場するモンスターである。「青銅の巨人」と称されることがあるが,実際に皮膚が青銅で出来ており,強いていうならブロンズゴーレムの一種だろう。
ゴーレムといえば,剣と魔法の世界では聖なる場所や財宝の守護者として知られているが,タロスもそうした例に漏れることなく守護の任を負っている。タロスの役割はクレタ島を守護することで,島への侵入者を食い止めるために巡回しているという。島への侵入を目論む船を見つけたときは,巨石を投げつけて沈めようとし,運よく巨石をかいくぐって上陸した敵には,怪力による殴打や締め上げで対処する。その際,全身を灼熱させることもあるので,戦闘力はかなりのものだ。
ギリシャ神話では武器を持たない巨人として描かれているが,ゲームなどでは武器を持っていることも多く,離れれば巨石,近づけば武器,至近距離では高熱の抱擁で攻撃してくるなど,かなり厄介な存在として描かれている。筆者としては,MMORPG「Dark Age of Camelot」の,巨大なハンマーを振り回すボスモンスターとしてのタロスが印象深い。
強大な力を持つタロスだが,もちろん弱点も存在する。タロスの体には命の源となる魔法の液体(イコル:Ichor)が流れているのだが,かかとにある栓を抜くと,その液体が流れ出て,死んで(機能停止?)しまうのだという。ゲームでタロスと出会うことがあったら,かかとのあたりに注目してみると面白いだろう。
なおタロスの製作者は,鍛冶の神であるヘパイストスとも,ラビリントスを作った伝説の匠ダイダロスとも言われているが,正確なところは不明である。
ギリシャ神話でタロスが登場するエピソードといえば,英雄イアソンの冒険譚が思い出される。イアルコスの王子であったイアソンは王位を簒奪した叔父ペリアスに王位の返還を求めるが,その交換条件として,ドラゴンが守る金色の羊毛を探し出してこいと言われてしまう。そこでイアソンは,優れた大工アルゴスが作った船,アルゴ号に50人の戦士とともに乗り込むと,金色の羊毛を目指してコルキスへ旅だった。
さまざまな苦難を乗り越えてコルキスに到着したイアソンは,彼に恋をしてしまった魔女メディアを仲間に引き入れると,金色の羊毛を守るドラゴンを攻略し,帰路に就いた。途中,イアソンは補給のためにクレタ島に立ち寄り,そこでタロスに遭遇しているのだ。
クレタ島の守護者であるタロスは,イアソン一行を見つけると巨石を投げてきたが,イアソン達は何とかこれを回避し,同行していたメディアが魔法をかけてタロスを眠らせた。さらにメディアはタロスの弱点を知っており,かかとの栓を抜いてタロスを沈黙させたのである。
イアソンの冒険譚は非常に壮大で,ヘラクレスの12の難行と同じく,ファンタジーファンには興味深い長編として親しまれている。「アルゴ探検隊の大冒険」というタイトルで映画にもなっているので,興味のある人は鑑賞してみるといいだろう。
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