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印刷2008/04/28 22:44

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剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜
第83回:エキドナ(echidna)
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 多神教では,主神,戦神,海神,農耕神などさまざまな役割を持った神が存在している。そうした神々の中で今回注目したいのは,地母神をはじめとする母なる神。神話には彼女らの活躍によって豊穣がもたらされたり,新しい神々やモンスターが生まれたりするエピソードも多く,神々やモンスターのルーツを探る上で,重要な存在といえる。
 ここではそうした点に注目しつつ,モンスターの母ともいえるエキドナ(echidna)について紹介しよう。

 エキドナは,ギリシャ神話に登場する女神だ。一見美しい女性だが,下半身は蛇という姿をしている。美しい上半身だけを洞窟から覗かせ,人々を誘惑したり油断させたりして近づいた者を食らうほか,夜になると洞窟から這い出て,近くの人々を襲ったとされる。
 母としての側面に注目すると,エキドナは実に多くの子供を産んでいる。夫テュポンとの間に,オルトロス,キマイラ,ケルベロス,ヒドラ,ラドン,パイアの猪,エトンといった子をもうけているのだ。また,テュポンがゼウスとの戦いに敗れて封印されたあとには,息子であるオルトロスと交わり,スフィンクスやネメアの獅子を生んでいる。
 さらに,とある理由から牛を探していたヘラクレスに対して,牛を渡す代わりに自分との関係を強要し,スキタイ族の祖となった,アガテュルソス,ゲロノス,スキュテスといった三人の子供ももうけている。

 ヘシオドスの記した叙事詩「テオゴニアー(神統記)」によれば,エキドナは不死とされているので,おそらく蛇をベースとしたモンスターの中では,最強の部類に入る存在といえそうだ。ちなみにギリシャ神話では,ペロポネソスで家畜を食らっていたところを,女神ヘラの部下である百目の巨人アルゴスによって襲われ,倒されているので,ひょっとしたら何かしらの弱点を持っており,そこを突かれたのかもしれない。

 

 宗教や神話の伝播によって,土着の神々が新体制の神話/宗教に吸収されることはしばしばある。ほぼすべての多神教に,地母神/女神に相当する神が存在していることから,旧体制で信仰されていた地母神/女神は新体制には参画しづらく,神としての立場を失ってモンスターとなるケースもあるのだろう。
 エキドナのルーツははっきりしていないが,一説によればエキドナは,メドゥーサが死に際して流した血から生まれたクリュサオルと,水の精カリロエとの間に生まれたとされている。また,地母神ガイアと冥府神タルタロスの間に生まれたという説も有力だ。もっと遡れば,スキタイやエジプトなどの古代宗教がルーツではないか? とも論じられることがある。現状,結論らしい結論は出ていないようなので,あまりルーツの話に終始してもしょうがないが,どちらにせよ,ギリシャ神話では原初神に近しいことは明白だし,メドゥーサの孫とする説をとったとしても,メドゥーサ自身のルーツがギリシャの先住民族に信仰されていた女神であるからして,やはりエキドナ自身も本来は,女神だったのではないかと思われる。

 しかし,排斥された神の悲しさか,後世に受け継がれるに従って,神としての座を追われ,偉大なる子供達を産んだものの,近親相姦によって多くの子供を残したことから,キリスト教などからは淫乱の象徴として糾弾されていた。おまけにギリシャ神話では,ほとんどの子供はヘラクレスなどの英雄によって倒されてしまっている。英雄と怪物の戦いに胸を踊らせることは多いが,そういった事情を考慮してみると,また違った側面が見えてくるから面白い。

 

次回予告:ムスッペル

 

■■Murayama(ライター)■■
5月の上旬に新婚旅行の予定を入れているというMurayama。「目的地はフランス」とのことだが,それ以外の具体的な予定は,ほとんど立てていないそうだ。そんな行き当たりばったりの新婚旅行ならば,著者紹介欄のネタになるような笑えるハプニングも,きっと発生するはず。ちょっと楽しみにしたい。……というか,次回の連載原稿は,ちゃんともらえるんでしょうか。
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