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ライオンを指して「百獣の王」と呼ぶことがあるが,これは雄のライオンが立派なタテガミを持っていたり,縄張り意識が強かったり,ハーレムを作ったりといった彼らの特徴を,うまく表現している言葉である。とくに,その風格漂う姿には昔から人気があり,中世には多くの貴族がライオンを紋章として採用している。
剣と魔法の世界において,ライオンをベースとしたモンスターといえば,ギリシャ神話に登場するキマイラや,ネメアの獅子,スフィンクス,「ナルニア国物語」に登場するアスランといったところが代表的な存在だろうか。今回はその中から,ネメアの獅子(Nemean Lion)にスポットを当てて紹介してみたい。
ネメアの獅子はギリシャ神話に登場するモンスターで,双頭の猛犬オルトロスと,上半身は女性で下半身は蛇というエキドナの間に生まれたとされる。少々ややこしい話だが,ギリシャ神話ではテュポンとエキドナの間に,キマイラ,オルトロス,スフィンクス,ケルベロス,ヒドラなどが生まれたとされているので,近親相姦によってネメアの獅子は生まれ,キマイラやヒドラとは親族ということになる。
そうした,モンスターとしては由緒正しい(?)血統を持つネメアの獅子は,全身が金色のどう猛なライオンだったそうで,鋭い爪を持つばかりか,その皮膚は非常に頑強で,剣で斬られても傷つかないほどだという。
ゲームでは「ヘラクレスの栄光」「エイジ・オブ・ミソロジー」「ファイナルファンタジーXI」などにネメアの獅子が登場している。なおゲームによっては,ネメアの獅子の咆吼が範囲魔法として設定されているものもあるので,戦うことがあればその点にも用心してほしい。
ギリシャ神話には,嫉妬の女神ヘラによって錯乱させられた英雄ヘラクレスが我が子を殺してしまい,贖罪をするために数々の試練に挑むという逸話がある。これは「ヘラクレスの12の難業」と呼ばれるもので,ここにネメアの獅子が登場しているのだ。
12の難業の最初の試練が,ネメアの獅子退治である。これはエウリュステウス王の指示によって,ネメアと呼ばれる地域に生息する人食いライオンを退治するというもので,ヘラクレスはネメアの獅子と激しい戦いを繰り広げる。前述したようにネメアの獅子の皮膚は非常に頑強で,ヘラクレスの弓矢による攻撃はまったく効果がなかった。そこでヘラクレスは戦法を変更。自慢の腕力よってネメアの獅子を窒息死させたという。ただし怪力無双を誇るヘラクレスの力を持ってしても,絞め殺すまでに三日三晩かかったというのだから,ネメアの獅子のタフさたるや,半端ではない。
倒されたネメアの獅子は皮を剥がれると,その皮はヘラクレス愛用の防具となり,彼の死に際しては一緒に埋葬されたという。
ちなみに倒されたネメアの獅子は,ヘラクレスを苦しめたことを喜んだヘラによって天に上げられたとも,ヘラクレスの活躍を評価したゼウスによって天へ上げられたともいわれており,これが獅子座になったのだという。
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