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「剣と魔法の世界」における一般的な悪の尖兵といえば,オーク,ゴブリン,コボルドなどのデミヒューマンが思い浮かぶ。神話や民間伝承と照らし合わせれば,彼らは妖精/精霊ということになるのだが,ファンタジーテーマの作品では「鬼族」などと呼ばれることもある。確かに邪悪な性格や行動パターンを考えると,精霊よりも鬼と呼ぶほうがしっくりくるかもしれない。さて,ここではそうした鬼族の中でも上位に位置する,オーガ(Ogre)を紹介してみたい。
オーガは,しばしば人を食らうことから「人食い鬼」と呼ばれたりするモンスターである。オーク,ゴブリン,コボルドに近い悪のデミヒューマンだが,前述した三者とは比較にならないほどの立派な体格を誇っている。もちろんそれに伴い,戦闘力も高くなっているので注意が必要だ。たかが棍棒でも,オーガが振るえばそれは恐るべき武器になる。
最近のファンタジーRPGでは,オーガの存在感は若干薄くなっている印象があるが,全盛期(?)には,オーガロードやオーガメイジなどもよく登場していた。どうやらオーガの社会にも,さまざまな階級やクラスがあるようだ。また人間とオーガの間に生まれたハーフオーガという種族もいる。
邪悪なデミヒューマンとして認知されているオーガは,単独で登場することもあるが,しばしばオーク,ゴブリン,コボルドなどを率いて登場し,テーブルトークRPGの初級シナリオでもそうした組み合わせでよく使われる。ゴブリン退治に行ったら,ボスはオーガだったというシチュエーションは,比較的なじみ深いものだろう。
オーガが登場する物語として有名なのが,シャルル・ペローの「長靴をはいた猫」である。同作には巨大な城に住む裕福な人食い鬼,オーグルが登場する。このモンスターは変身能力を持っていて,ライオンなどに変身して主人公を驚かせるが,小さいものに変身するのは難しいでしょう? との挑戦的な質問の前に,調子に乗ってハツカネズミに変身してしまう(訳書によっては,ほかの小さな生き物というシチュエーションもあるようだ)。ご想像のとおり,ハツカネズミに変身したオーグルは,長靴をはいた猫に食べられてしまうのだ。
オーグルを英語読みするとオーガとなり,これが広まって今日のオーガ像が確立されたのではないか,という説もある。ただしそのネーミングについて,著者のシャルル・ペローは何も語っていないため,オーガという名前の意味やルーツについては謎に包まれたままである。なお文中には「オーガという巨人が……」と書かれているので,ひょっとするとオーガは種族名ではなく,個体の名前なのかもしれない。
先の長靴をはいた猫から生まれたとする以外にも,オーガのルーツに関する説はいくつもある。勇猛果敢なことで知られる遊牧民族オノグル(Onogur)の活躍を見た人々が,あまりの恐ろしさからオノグルを畏怖し,それからオーガが生まれたとするものや,オーク同様にローマ神話の冥界の神オルクス(Orcus)が変化したものだという説もある。
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