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印刷2008/02/12 19:46

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剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜
第72回:龍
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 少々ややこしい話だが,剣と魔法の世界には大別して2種類のドラゴンが存在する。一つは,トカゲに似た体にコウモリのような羽を持ち,炎を吐く西洋由来のタイプ。もう一つは蛇のような体と髭が特徴的な,アジアを中心に伝わる龍である。

 東洋における龍は,髭を生やした麒麟のような頭を持ち,蛇のように長い身体,鋭い爪を生やした四肢を備える,伝説上の神獣である。龍は神の眷属であり,さまざまな言葉を理解するほか,古くから水と深く関わっているとされてきた。雷雨を呼んだり,嵐を起こしたりする特殊能力を持っている。

 こうした龍のイメージは,後漢の文人,王符によって確立されたとも言われている。彼によれば龍は,九つの動物に似た特徴を持っているとされ,頭(鹿,駱駝),眼(鬼,兎),耳(牛),うなじ(蛇),鱗(鯉),腹(蛟),爪(鷹),手の平(虎)といった具合に対応している。この「九似説」は時代の流れの中で形が整えられていき,現在では,首から腕の付け根まで,腕から腰まで,腰から尾までの長さが均等とする「三停説」が盛り込まれている。龍の図版などをチェックしてみると,この「九似三停」に従って描かれたものが多いので,興味のある人は意識してそれらを観賞してみるといいだろう。

 なお,龍には81枚の鱗が生えているが,顎の下にある1枚だけは逆さまに生えているとされている。これは「逆鱗」といって,触れようものなら温厚な龍は激怒し,相手を引き裂いてしまうと言い伝えられている。こうしたことから,目上の人を激昂させることを,「逆鱗に触れる」というようになった。
 龍の身体的特徴に関するエピソードとしては,中国の「本草網目」(ほんぞうこうもく)が興味深い。それには龍の雌雄を区別する方法が書かれており,雄の龍はとがったたてがみを備え,上風に向かって鳴き,雌はおだやかなたてがみを備え,下風に鳴くとされている。

 

 龍といえば,東西南北の海を統治する龍王伝説が有名だ。中国の伝承によれば,世界の海は東海龍王敖広 (ごうこう),西海龍王敖閏 (ごうじゅん),南海龍王敖欽 (ごうきん),北海龍王敖順 (ごうじゅん)という四柱の龍王によって統治されており,彼らは水域を管理したり,天候を操って嵐を起こしたりする。彼らは普段から龍の姿をとっているわけではないようで,通常は人間の姿をとって,海底の水晶宮で魚達と一緒に過ごしているらしい。
 ちなみに,敖欽は青龍,敖閏は白龍,敖欽は赤龍,敖順は黒龍とされるが,色と方位の関係は,四方を守護する四聖獣,青龍(青),白虎(白),朱雀(赤),玄武(黒)と同じである。
 そのほか,仏教の八大龍王や,中国の伝説の王である黄帝に味方して蚩尤と戦った,応龍なども有名だ。

 なお中国の伝承では,泥水の中で500年を過ごした蛇が,龍になるといわれている。この龍は雨を降らせる蛟龍(こうりゅう)と呼ばれ,さらに1000年経つと龍,500年経つと角龍,1000年経つと応龍になるという伝承も残っている。応龍の中でも,とくに老練なものは黄龍と呼ばれ,世界の中央を守護する神獣とされている。

 天候を操る龍王というと神々しさを感じる人が多いだろうが,物語ではコミカルに扱われることも多い。代表的なものは,日本でもお馴染みの「西遊記」である。同作には前述した敖欽,敖閏,敖欽,敖順らが登場するが,孫悟空に脅されて武具を巻き上げられてしまうという,少々情けない存在として描かれている。孫悟空は敖広からは神珍鉄(如意棒),敖閏からは黄金の鎖かたびら,敖欽からは鳳凰の羽根の付いた紫金の冠,敖順からは蓮糸で編んだ歩雲履を,半ば強引に入手している。それらの道具を使って,孫悟空が大活躍する展開は,皆さんもよくご存じだろう。
 ちなみに「西遊記」といえば,三蔵法師の馬である玉龍にも注目したい。なんとその正体は,西海竜王敖閨の第三太子なのだ。実は,父・敖閨の宝玉を火事で燃やしてしまったことから死罪になる予定だったが,観世音菩薩の計らいによって,罪を償うために三蔵法師の馬となったといわれているのだ。

 中国で龍といえば,皇帝を象徴する存在としてもあがめられている。西洋のドラゴンも王族の紋章に採用されることが多く,どちらも権力/権威と深く関わっている点は,非常に興味深い。

 

次回予告:ウンディーネ

 

■■Murayama(ライター)■■
入籍を機に引っ越しを検討しているMurayamaだが,先日,希望物件の大家さんと面接をしたところ,その中で「あなた,著名な人なの?」と聞かれたという。どうやらその大家さん,Murayamaの本名をネットで検索していたようなのだ(書籍はほとんど本名で執筆している)。とりあえず,ペンネームで執筆している当連載の著者紹介欄をチェックされなくて,一安心といったところですね。
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