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[GDC 2016]「キャンディークラッシュ」のKingが公開した完全無料のゲームエンジン「Defold」とは?
GDC公式サイトでは,「King proudly presents Defold!」というタイトルのセッションとその概略が以前から公開されていたので,Kingがマルチプラットフォーム対応のゲームエンジンを発表するということは分かっていたのだが,その概要が説明されたわけだ。
同社CTOを務めるThomas Hartwig氏らによる講演の概要をレポートしよう。
Defold自体はすでにKing社内で開発に使用されているそうで,Defoldで開発された初の作品である「Blossom Blast Saga」(国内ではブロッサム・ブラスト,iOS / Android)は,iTunesのiPad向けとGoogle Playの全米ランキングで,ダウンロード数1位を記録したという。
Defoldの特徴と開発の経緯を語ったHartwig氏によると,その特徴は以下のスライドにあるとおり。2Dに特化した軽量なエンジンであること,ゲーム業界で広く使われているスクリプト言語「LUA」でコードを書けること,共同作業が簡単に行えること,クロスプラットフォームをサポートすること,そして,ビジュアルな統合開発環境(Integrated Development Environment,IDE)が用意されていること,などである。
これだけだと,「スマートフォン用のありがちなゲームエンジン?」と思う人もいるかもしれないが,それぞれの徹底具合が半端でないのが特徴だ。
まず,軽量なエンジンという点だが,iOS版は約1.3MB,HTML5版でも約1.2MBというメモリ使用量の少ないランタイムに機能を凝縮しており,内部も徹底的な最適化が図られている。
LUAの部分はそのままなのでスルーして,次の共同作業とは,開発に限らず,ゲーム運営からサポート要員まで,すべて同じツールを使用できるのだという。
クロスプラットフォーム対応については,プラットフォーム依存のコードはまったく必要なく,完全に1本のソースコードだけで複数のプラットフォームに対応できる。コードを記述する部分は,テキストエディタ式だが,アニメーション処理やエフェクト処理に使うビジュアルなツール類が,最初から組み込まれているといった具合だ。
Kingがゲーム開発で重視した部分はどこだろうか。Hartwig氏は,次の4つを挙げていた。
- チームは少数精鋭で
- 反復開発は迅速に
- すぐにマルチプラットフォーム対応できること
- 性能は当然高いこと
これらの要件は,それぞれに理由がある。
しかし,数人で作ったゲームにダウンロード数1位を取られるようでは,「所詮小規模ゲームだから……」と難癖をつけることも難しい。
講演で示された動画を見ると,DefoldでプロジェクトをHTML5用にリビルドして実行するのに要する時間は,数秒もないといったところだった。修正してすぐに確認できるので,開発サイクルは加速していくわけだ。
Kingが扱うのはカジュアルゲームであるが,カジュアルゲームだからこそ,1日20〜30分くらいで手軽かつ迅速にプレイできることが求められる。そのため,以前から性能とメモリ使用量の改善には非常に力を入れていたそうで,エンジンの性能とコンパクトさには,かなり自信を持っているようだった。
そして,エンジンの性能が高ければ,人材の豊富なLUA開発者が活用できるし,ゲーム自体の開発に集中できるというわけだ。
さて,なぜKingが自社で開発したゲームエンジンを公開するのかというと,「エコシステムが欲しいから」だと,Hartwig氏は説明する。自社だけでやっていたのでは,ゲームエンジンに精通した開発者はなかなか増えず,サポートツールなども充実しない。広く公開するほうが,結局は自社のためにもなると考えているようだ。
そして,そのようなエコシステムを構築できるだけの自信があると,Hartwig氏は述べていた。
そうした理由があるため,Defoldは,使用料などが不要な無料のエンジンとして公開することが発表された。
現在,Defold公式Webサイトでは,WindowsとMac OS,Linux(32bit)用という3つのバージョンが用意されている。無料なので,興味のある人は手軽に試せるだろう。位置付け的には,Chukong Technologiesのゲームエンジン「Cocos2d-x」とかぶりそうなので,実際の使い勝手などの評価が待たれるところだ。
モバイルゲームの覇者ともいえるKing製のエンジンというあたりが,インディーズゲーム開発者にどの程度響くだろうか。今後の動きにも注目したい。
Defold 公式Webサイト
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