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[GTMF 2012]ゲームエンジン「OROCHI」による「ガンスリンガー ストラトス」開発の実際
まず,最初に行われたのは,シリコンスタジオのゲームエンジン「OROCHI」を使ったスクウェア・エニックスのアーケードタイトル「ガンスリンガー ストラトス」関係のセッションだ。
ゲームエンジンOROCHIは,2011年のGDCで初公開され,詳細についてはGTMF 2011で公開されたゲームエンジンだ。ゲーム用ミドルウェアで知られていたシリコンスタジオによるオールインワン型の製品であり,本格国産ゲームエンジンとして期待されていた。
一方のガンスリンガー ストラトスは,「LORD of VERMILION」などを手がけた門井信樹氏がプロデュースによるオンラインマルチ対戦アクションゲームとして発表され,開発に「機動戦士ガンダム EXTREME VS.」のバイキング,世界設定・原案に虚淵 玄氏を起用するなどで話題を呼んでいる作品である。
今年の1月には同作でOROCHIが使われたことが発表されていたのだが,今回の講演では,シリコンスタジオのOROCHI担当エンジニア 新井タヒル氏,開発を担当したバイキング代表取締役の尾畑心一郎氏によって,両社による開発の詳細が語られた。
そこでOROCHIでは,ゲームに合わせた柔軟なカスタマイズを行うことを旨としているという。また,単にゲームエンジンを提供するだけではなく,そのエンジンを使用したプロジェクトを成功に導くことがOROCHIビジネスの成功であるとしており,OROCHIの導入先にはかなり手厚いサポートを行うことを約束していた。
一方で,OROCHIのターゲットを「ハイエンド機の中〜大規模プロジェクト」であるとしているのは,そのようなサポート体制だと小規模なプロジェクトにまではスタッフの手が回らないという事情もあるのかもしれない。
ガンスリンガー ストラトスの開発は,2010年11月から開始され,最初は別のミドルウェアでプリプロダクションが行われていたという。大前提として,2012年1月に行われる商談会ではプレイアブルな形で成果物を納品しなければならないという時間的制約があったのだが,そのとき使用していたミドルウェアでは,シェーダなど標準で提供されているもの以外はすべて自分達で作る必要があった。工数的に困っていたときにシリコンスタジオと話をしたところ,先に紹介した「プロジェクト自体を一緒に成功させよう」という姿勢に大いに共感したとのこと。
その結果,OROCHIの国内発表直後と思われる2011年6月には導入が決定されたというから,かなりのスピードで意思決定されていることが分かる。
実際,OROCHIを使ったガンスリンガー ストラトスは共同開発に近い形で進んでいたようだ。ゲームの事情に合わせたエンジンを提供することを目指すOROCHIでは,導入の際には,まず1か月ほど評価版を試用してもらって,機能的に足りないところをリストアップしてもらい,要望リストをもとにゲームエンジン側でサポートするものと開発会社側で作るものを切り分けてから契約を行うという。
制作途中に出てきた要望は,以下のとおり。
- ミドルウェアとしてHavok DestructionとHavok Clothを使用する
- ミドルウェアとしてUmbraを使用する
- SSAO(スクリーンスペースアンビエントオクルージョン:負荷が軽く効果の高いポストプロセスによる陰影付け手法)を実装する
- ゴッドレイ(光の筋)を実装する
- 異方性反射(髪の毛などの表現で使用)を実装する
- α to Coverege(半透明体のエッジに対してアンチエイリアス処理する手法)の実装
シェーダなどの多くは,シリコンスタジオ側で作っていたようだ。
OROCHIがサポートしている物理エンジンは,PhysXとBulletの2種ということでHAVOKはサポートされていない。この部分はバイキング側が実装することになったのだが,そのまま使ってみると,やはりまったく速度が出なかったとのこと。OROCHI側のサポートもあって,細かいデブリについては,コピーしたものをばら撒いて賑やかしに使い,破壊パーツのインスタンシングなどを駆使してようやく目標が達成できたという。
なお,Umbraはオクルージョンカリング(ほかの物体に遮蔽されている物体は処理しないようにすること)の性能がウリのミドルウェアなのだが,あいにくゲームシステムとの相性が悪く,ガンスリンガー ストラトスでは,視錐台カリングのみを使っているという。
そのほか,バイキング側で独自にワープエフェクトとバリアエフェクトを実装している。ワープエフェクトは,キャラクターの登場時に足元から実体化するように表示されるもの,バリアエフェクトは,エリアの境界にあたる部分に行くと見えない壁が部分的に実体化するような効果だが,これらはバイキング側がイメージするものをうまく伝えられなかったため,自前で実装することになったようだ。できあがったものをシリコンスタジオのスタッフが見ると,「なるほど」とみんな納得したらしいのだが,言葉で伝えることが難しいものは自分達で作ったほうがよいようだ。
また,通常のゲームエンジンだとバグが発生したときに,発生条件が再現できるプログラムを作って送付して対応を待つ……といった流れになるのだが,すぐ傍に開発者がいると,現場を見せるだけで済む。バイキング側でも,出向によるサポートは大変にありがたかったとのことだ。
そのほか,提供が可能であれば,開発会社とリポジトリを共有し,シリコンスタジオ側でもバグなどが再現できる環境を揃えて対応に当たるほか,納期などの事情に合わせて一時的にサポートを厚くするなどといった対応も可能だという。
また,急に雑誌掲載用の高解像度スクリーンショットを出力しなければならなくなったときは,グラフィックスカードを最高スペックのものにしても全然動かないくらいの負荷になってお手上げだったそうなのだが,バイキングのスタッフが書籍でポスターレンダリングというものを見つけて,シリコンスタジオに実装してもらいなんとかしのいだという。これは,一時的に別のビューポートに分割した画面を出力して,あとで合成するといった手法のようだ。
OROCHI側の仕様でトラブルになったものもある。ガンスリンガー ストラトスで使われているシェーダは2万個を超えているとのことで,シェーダの管理はかなり大変だったそうだ。表現力の高いツールでデザイナーがそれぞれ独自に作業していると,シェーダ数がとんでもないことになるというのは,どこかで聞いたような話ではある(注:物理レンダリングを始める前のトライエース五反田義治氏がCEDEC 2009で膨大なシェーダ管理のための講演をしていた)。バイキングでは,シェーダの抜けが出てしまうというトラブルが出ていたそうだが,これはバイナリファイルだったシェーダファイルをテキスト出力するようにし,ファイルをマージしてからコンパイルすることで対応したとのこと。
なんにせよ,両社の協力によって,OROCHIもガンスリンガー ストラトスも完成度を上げ,ともに満足すべき結果となったようだ。
ガンスリンガー ストラトスは,7月12日から稼動を開始する。OROCHIや各種ミドルウェアによる最先端のゲーム表現を垣間見るチャンスかもしれない。ぜひ,ゲームセンターに繰り出してみよう。
ゲームエンジンOROCHI公式ページ
「ガンスリンガー ストラトス」公式サイト
GTMF 2012公式サイト
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