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RTSビギナーでも無理なく十分に楽しめる,「シンズ オブ ア ソーラーエンパイア」のレビューを掲載
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印刷2009/04/10 11:10

レビュー

SFファンだけでなく,RTSビギナーにもオススメしたい

シンズ オブ ア
ソーラーエンパイア 日本語版

Text by 徳岡正肇

»   ズーから発売中の「シンズ オブ ア ソーラーエンパイア」は,広大な銀河系を舞台に三つの勢力が火花を散らすSF RTSだ。モチーフやゲームジャンルから,日本ではどうしてもコアなゲーマー向けという認識をされてしまうが,本作はRTSを初めてプレイするという人にも勧められる良作。個性的なゲームシステムのルーツを含め,ライターの徳岡氏が本作をレビューする。


画像集#003のサムネイル/RTSビギナーでも無理なく十分に楽しめる,「シンズ オブ ア ソーラーエンパイア」のレビューを掲載

 「シンズ オブ ア ソーラーエンパイア 日本語版」(以下SoSE)は2007年にIronclad Gamesが発表したSFモチーフのRTSで,プレイヤーは銀河の覇権をかけて他勢力と戦うことになる。
 宇宙戦艦一隻から星系全体までシームレスに拡大/縮小できるこの作品は,スケールの大きさもさることながら,快適な操作性や情報閲覧性,また,マクロとミクロ双方でのマネジメントの楽しさが詰め込まれた作品である。事実欧米では非常に人気のあるタイトルとなっており,日本でも,今回,ズーから完全日本語版が出る以前からRTSファンの注目を集めていた。
 ということで,今回は晴れて完全日本語版となった本作を紹介していこう。

画像集#002のサムネイル/RTSビギナーでも無理なく十分に楽しめる,「シンズ オブ ア ソーラーエンパイア」のレビューを掲載


銀河を舞台とした大スケールRTS


 SoSEは「RT4Xゲーム」であると自称している。これは「eXplore」(探索)「eXpand」(拡張)「eXploit」(開発),そして「eXterminate」(殲滅)をリアルタイムで行うゲームという意味だが,考えてみれば世のほとんどのRTSはこの四つをリアルタイムで行うわけで,なにやら難しそうな呼称ではあるが,要するにゲームそのものは普通のRTSだ。

大艦隊で敵の母星に乗り込む。実はこのとき,敵主力はこちらの母星を攻撃していたのだが……
画像集#004のサムネイル/RTSビギナーでも無理なく十分に楽しめる,「シンズ オブ ア ソーラーエンパイア」のレビューを掲載

 ゲームは基本的にフルマウスで操作可能で,もちろんキーボードショートカットもある。ショートカットは普通に遊ぶぶんには「覚えないとゲームにならない」といったものではなく,知っていればなお便利という程度のもの。基本的にはマウス片手にコーヒーを飲みながらプレイできる。

 プレイヤーは,三種類の勢力から一つを選択し,その勢力を使って銀河の支配を目指す。
 勢力はそれぞれの技術ツリーに特徴があり,これに伴って利用できる艦艇にも差が出る。背景設定も含めて簡単に各勢力を紹介すると,以下のようになる。

TEC(緊急交易者連合)
  • 交易を中心とした,人類による連合体。ヴァサリ帝国の侵攻に対し結成された。ユニットはスタンダードな構成となっており,ラッシュに向いている。格段に特殊なギミックもなく,最初に選ぶ勢力としてお勧め。

アドヴェント
  • かつて交易同盟に追放された人々が作りあげた,超能力と人体改造を基盤技術とする勢力。後半戦に強いが,そのぶん序盤のしのぎ方が掴めていないと大変なことになりがち。

ヴァサリ帝国
  • 巨大帝国の末裔にして,今なおその帝国を滅ぼした謎の勢力に追われる流浪の民。序盤の爆発力はTECに及ばないが,中盤以降の無尽蔵な補給力は圧倒的。ヴァサリ専用の技術をしっかり把握しておくことが必須。

 管理すべき資源はクレジット/金属/クリスタルの三種類だけだが,ユニットの種類は三勢力あわせて100を超える。このあたりのバランスは,最近のRTSの中では比較的一般的といっていいだろう。

選択できる種族は三種類。順にTEC,アドヴェント,ヴァサリ。ヴァサリはあからさまに宇宙人っぽい外見をしている
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チュートリアルは4部構成。分かりやすく,また詰め込みすぎてもいないのが好感触
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マップは40種類以上。小規模マップでも気がつくと1時間くらいはアッという間にたつ
この距離での戦闘から,ずっとカメラを離していくと,シームレスに銀河のマップまで拡大される。なんともスケールの大きなゲームだ
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RTSをマップレベルから進化させた作品


 マップは,基本的には惑星(あるいは小惑星)と,惑星をつなぐフェイズ・ジャンプ航路によって構成されている。
 惑星と,その惑星付属の衛星は,資源を産出するポイントとなる――もちろんそのままでは生産力として期待できないので,生産施設を建設したり増強したりといった作業が必要となる。
 より重要な点としては,その惑星の重力井戸圏内(一定半径内部)に,その惑星を支配しているプレイヤーがさまざまな研究施設や軍事施設などのインフラを設置できることが挙げられる。
 本作では,こういった施設は軌道上にしか作れず,その一方,一つの惑星の軌道上に作れる施設数には上限があるので,より多くの研究所(高度な技術の研究に必須)を建設したり,より多くの宇宙港(クレジットの増加速度向上)を開港したりするには,より多くの惑星を支配していくしかない。
 RTS的な文法でいえば,惑星ごとに施設の建設スロット数が決まっているので,支配する惑星の数を増やさなければ成長が伸び悩む,というわけだ。

小惑星に施設を建造しているところ。右上で赤い光線を出しているのが建築ロボット
画像集#013のサムネイル/RTSビギナーでも無理なく十分に楽しめる,「シンズ オブ ア ソーラーエンパイア」のレビューを掲載

 面白いのは,この惑星ごとに設定されたスロットは,あくまで個数制限でしかないというところだ。重力井戸の圏内にどのようにして施設をレイアウトしていくかは,プレイヤーに任される。
 これは意外と重要な点で,惑星間の「通路」であるフェイズ・ジャンプの航路の近くに重要な施設を作れば敵の奇襲に脆くなるし,逆に防御砲塔のような類であれば航路の近くに置いておくことを考えるべきだ。
 ちなみに,こういった施設は惑星の軌道上に存在する専用のロボットによって建設される。このロボットはただの演出ではなく,ゲーム内のオブジェクトとして存在している――つまり戦闘において,建設ロボットの狙い撃ちは常にあり得る選択である。従来のRTSでいうところの「街の人狙い」は,決定的な影響を与えるほどではないが(建設ロボットは時間とともに自動的に修復される),戦術として否定されているわけでもないのだ。

 さて,マップのもう一つの構成要素がフェイズ・ジャンプ航路である。
 本作では,宇宙艦隊は宇宙のどこにでも好きなように移動できるわけではなく,プレイヤーが細かくマネジメントできるのは,艦隊が惑星の重力井戸圏内にいるときだけだ。
 惑星から惑星への移動は,自動的にフェイズ・ジャンプ(いわゆる「ワープ」)で行われる。このワープが,なかなかに曲者だ。
 まず最初に,フェイズ・ジャンプは好きな惑星から好きな惑星に,自由に飛べるわけではない。惑星にはフェイズ・ジャンプの航路が設定されていて,特定の惑星からジャンプできる先は限られている(基本的に,マップ上で見て「隣」にある星に飛べる)。
 フェイズ・ジャンプ中は,艦隊は戦闘を行えない。ありていにいってしまえば,マップとしては惑星の重力井戸圏内という「部屋」が,フェイズ・ジャンプ航路という「廊下」でつながれている状態だ。

画像集#014のサムネイル/RTSビギナーでも無理なく十分に楽しめる,「シンズ オブ ア ソーラーエンパイア」のレビューを掲載
このように,惑星から一定の圏内に建造物を配置する。置き場所が重要になることもあるので配置にはそれなりの注意が必要だ
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青い線がフェイズ・ジャンプの予定ルート。灰色で見える細い線が正規のルート。これくらいまで近寄らないとジャンプできない
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敵が占領するアステロイドを荒らす。空母を作れば,艦載機による攻撃も可能になる。艦載機はなかなか頑張るいいヤツだ
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主力艦からの対地攻撃。派手な爆発が巻き起こる。もちろん最終的にはこれを敵惑星にもバンバン撃ち込む

 ここで問題になるのは,艦隊がフェイズ・ジャンプするためには,当該の航路の近くまで行ったうえで,重力井戸の外にでなくてはならないということだ。つまり「部屋」から,勝手気ままに「廊下」に出られるわけではない――必ず「玄関」を抜けねばならない。
 したがって,航路が惑星の180度反対側に1本ずつ存在している場合,その惑星にジャンプした艦隊は,惑星の重力井戸圏内を横切ったうえで,ふたたびジャンプ体制に入らねばならなくなる。「ワープ」があるからといって,そうそう自由に戦力を配分したりはできないのだ。


過去の遺産の継承者として


一番小規模なマップ。薄く見えているラインがフェイズジャンプ航路。基本,ラインでつながった星と星の間でしか移動できない
画像集#016のサムネイル/RTSビギナーでも無理なく十分に楽しめる,「シンズ オブ ア ソーラーエンパイア」のレビューを掲載

 かくして浮かび上がってくる問題が,戦力をどのように配置していくかということだ。
 SoSEでは,施設の建設には結構な量の資源が必要になる。これを破壊されるのは,割と厳しい。また艦隊の規模が大きくなるにつれて艦隊維持費も高くなるというシステム(「ウォークラフト III」の維持費を想像していただきたい)があるため,少数の生産施設の破壊であっても,それに伴う全体のバランスの歪みは馬鹿にならない。
 このため,マップの広さにもよるが,いわゆる「最前線」となる惑星には相応の戦力が集中されることになりがちだ。とりあえず栓をしておかないことには,敵に好き放題されてしまう。
 しかしながら,占領地域の拡大とともに前線正面は少しずつ長くなっていき,やがては明白な限界が見えてくる。全力を以てすべての地点を守ることは不可能なのだ。

 攻撃する側に立つと,別の問題が見えてくる。攻勢をかければ,当然ながら反撃が予想される。しかしSoSEでは艦艇ユニットも全体に高価なので,一隻であってもロスは結構痛い。敵の防衛ラインを突破したところに,敵主力の反撃が来たとして,それに耐えられるのか? あるいは,今自分が戦っている相手は本当に敵の主力なのか? 側面を恐れずに突進するとして,どこまで押し込んで大丈夫なのか? 突進せずに足場を固めるとして,足場を固めるために必要となる資源/時間的出費は,自分と敵のどちらをより大きく利するのか?

 こういった空間と時間のジレンマは,従来のRTSではなかなか表面的には見えてこなかった。というのも,従来のRTSではどうしても「占領地」という概念が成立しにくかったからだ。シームレスなマップ上にあるユニットを,無補給で自由自在に動かせるというスタイルでは,壁や防御塔といったあまり前向きではない設備にリソースを割かない限り,「後方」の形成は難しかった。
 これに対する打開策として「マイクロソフト ライズ オブ ネイション」の国境線ルールや,「カンパニー オブ ヒーローズ」の支配地域ルールなど,さまざまなタイプが提案されてきたが,個人的に,SoSEはより自然に,ゲームの流れとして後方が形成されていく仕掛けであると感じる。

フェイズジャンプしているところ。この間は移動するだけで,戦闘はできない
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 このように,最前線と後方の形成がはっきりしていくというSoSEのゲームの流れは,アナログシミュレーションの世界でも長らく考えられてきたものである。
 詳細は割愛するが,ボードゲームには「Block wargame」(積み木ゲーム)と呼ばれるジャンルがあり,そこではSoSEによく似た仕組みが採用されているのだ。SoSEのゲーム設計が積み木ゲームの本質部分と類似するのが偶然の結果なのかどうかはさておき(SFジャンルにおいては,惑星と惑星,つまり点と点をつなぐマップ構築というのは,一般的ではある),SoSEが従来のRTSにない高度な戦略性を備えたゲームとして完成しているのは間違いないだろう。
 カンパニー オブ ヒーローズも,発想としてボードゲームの概念をうまく流用しているのだが,SoSEのほうがより適した素材を持ってきたという印象がある。こうしたデザインの踏み台として利用できるものが,アナログなボードゲームの世界に埋もれていたということは,事実として覚えておいても損はしないだろう。

艦隊の規模を拡張すると,それだけ維持費がのしかかってくる。維持費は馬鹿にならないので,規模を大きくするときは慎重に
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マイクロマネジメントから外交まで


 もちろんSoSEにはデジタルなRTSならではの楽しみも多い。
 ウォークラフトIII以降(正確には“Runequest”以降),大きなギミックとなっているヒーローユニットも,本作には主力艦という形で登場する。これらの艦船は強力であるだけでなく,固有の名前が与えられ,戦場における中心的存在となる。もちろん,戦闘経験によってレベルアップし,マニューバの範囲や質が向上していくといった定番も押さえられている。
 面白いのは,この主力艦には戦艦タイプから空母タイプまで,明らかに毛色の違う船が五種類ほど用意されているということだ。軍事マニア系のプレイヤーだと,つい脊髄反射で空母タイプを選んでしまう(か,戦艦に固執する)ものだが,本作では空母の優位性は絶対ではない。むしろ,これまたRTSの常だがユニットごとの相性というものが存在するので,それを見極めたうえでの適切な艦隊構築が必須となる。

TECの軍事技術ツリー。このミサイル船とガルーダ級がTECの中核になる印象
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 重力井戸での戦闘も,細かいマネジメントが活きてくることがある。
 とくに,惑星方向への移動は加速し,反対に惑星から離脱する方向への移動は減速する(引力の影響だ)という設定があるため,戦闘における場所取りと細かい機動には,マウスさばきが影響を与えやすい(もちろんFPSなどと比べてはいけないが)。
 もっとも対AI戦であれば,戦場での細かいマネジメントはすべてAIに任せてしまってもさほど困ることはないだろう。ゲームに慣れていないうちは,AIに完全にお任せしてしまったほうが,こちらの被害が少ないことさえある。
 むしろ最初のうちは,AIが何から狙うかを観察して,それを参考に戦闘プランを組むといいだろう。そのうえで,建設ロボットを先に破壊しようとか,資源採掘場を先に破壊しようといった意図を加えていくのが無難だ。

 このほか,海賊を敵にけしかけたり,敵支配下の惑星に文化的影響を及ぼしていくことで抵抗力を弱めたり,三勢力以上が存在する場合はそのうち一勢力が出してくる要求を満たすことで外交交渉を進め,2対1の有利な状況を作ったり(対AI戦限定)と,ゲームのギミックはまだまだたくさんある。

 一方,弱点がまったくないとはいえない。
 最大の問題は,ワンゲームが長くなりがちだということだろうか。15分〜30分で勝負がつくゲームが増えているなか,SoSEのそれは1時間〜2時間を費やすコースだ。マップが大きいと,もっと時間がかかる可能性もある。時間がかかるというそれ自体は無条件で悪いことではないのだが,とはいえ,じっくり腰をすえてのプレイ以外にはあまり向かない。
 また,人によっては勢力が三つしかないことを不満に思うかもしれない。実際にプレイしてみると,ゲームそのもののボリュームが非常に大きいため,正直言って三勢力も遊びきれないというのが現実なのだが,一見してプレイのバリエーションが少なそうに見えるのは弱点かもしれない――とはいえ,RTSのキングであるところのウォークラフトIIIだって四種族なのだから,三という数が目立って少ないわけではない。

海賊の襲撃を受けることもある。各勢力は互いに賞金をかけあい,海賊はより高い賞金がかかっている勢力を攻撃する
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大規模な襲撃をかけるべく,集団でシンクロしてフェイズジャンプするところ
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留保なくお勧めできる作品


 SFというと,それだけで尻込みしてしまう人もいるかもしれないが,SoSEは非常によくこなれたRTSであり,またプレイヤーにより高い視線での戦略性を要求する作品である。
 同様に,RTSというとキーボードをピアニスト以上の速度で打鍵し続ける超絶プレイヤーが初心者を皆殺しにしていくゲームという印象が一部にはあるかもしれないが,SoSEはソロプレイで十分楽しめるし,また親切かつ適量のチュートリアルが付属していることもあって,難度を下げればRTSに慣れていない人でも問題なく戦えるようになっている。

 とりあえずマップが40枚付属しており,またランダムマップもあるので,遊び尽くすのには膨大な時間がかかるだろう。海外では“Entrenchment”という拡張パックがダウンロードコンテンツとして発売されており,これからの展開にも期待が持てる。
 MODについても,最初から便利なマップエディタが付属しているくらいにケアが行き届いており,日本独自のMODにも興味深いものが多い。

 SFファンにはいうまでもないが,RTSおよびストラテジー全般のファンに文句なくお勧めできる作品である。

勝利! ええと,実は母星は敵の爆撃によって人口がゼロになってたんですが……宇宙では細かいことは言わない。勝ちは勝ちってことで
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「シンズ オブ ア ソーラーエンパイア」画像集

「シンズ オブ ア ソーラーエンパイア」体験版(英語版)

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