連載
「キネマ51」:第37回上映作品は「バクマン。」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。第37回の上映作品は,支配人の強烈プッシュ作品「バクマン。」だ。
映画「バクマン。」公式サイト
部長の反応は?
須田:
「バクマン。」ですよ。
関根:
支配人,見た直後から紹介したくてたまらないって感じでしたよね。
須田:
まーほら,僕も部長も,大根 仁監督大好きっ子じゃないですか。
関根:
実は僕,大根さんの作品はあんまり見たことがないんですよね……。
須田:
そうなんですか。意外というか。
もしかして苦手だとか?
関根:
苦手というわけではなくて,単にタイミングが合わなかった感じで。
関わっていらっしゃる作品は,男の子の心理をえぐる感じのものが多いような気がするんですよね。
須田:
ええ,くすぐりますね。
関根:
キャスティングもね。そこを突いてくるんだ! みたいな,そういう感じというか。
須田:
はいはいはいはい。猿時さん,最高ですよ〜。
関根:
ともあれ,この作品を見たら,面白かったんですよ。監督の名前が最後に出て来てびっくりしました。予備知識ゼロで見たので。
須田:
なるほど。大根監督作品だと知っていたら,多少は構えて見ちゃっていたかもしれないですね。
関根:
そこまで意識しているわけではないですけどね(笑)。
ただ,繰り返し言いますけど,面白かったんですよ。
須田:
僕は大根さんの「湯けむりスナイパー」が大好きなんです。
もともと狩撫麻礼先生の原作漫画が好きで,若い頃は「ボーダー」にダイレクトに影響を受けたクチなんですが,映像化の難しい作品をことごとく面白く作られるなと。そこから大根さんの作品にはまって。
関根:
覚えています。当時大騒ぎしてましたもんね。
須田:
そして今回も漫画原作。これも読んでいて,どうやって実写化するのかって期待していたんですよ。しかも,あの「週刊少年ジャンプ」に連載されていた人気作ですから。
関根:
重ね重ね申し訳ないんですが,私,一度もジャンプを買ったことがないという人生でして……。
須田:
そうだった……。
あと,まぁ僕から付け加えるようですけど,この作品,大根さん作品というだけではなく,サカナクションムービーなんですよ,部長の聴かない。
関根:
あー,はい。そうですよね。
須田:
サウンドトラックをサカナクションが手がけているんです。主題歌だけでなくて,劇伴も。要はずーっとサカナクションの音楽が流れているわけで。
関根:
そういう意味ではこの作品,僕にとって無いものが全部ある映画でもあるんですよね。
まだまだ続く,支配人が映画を見る理由
須田:
さらに言うと,僕,「月刊コミックビーム」という漫画誌で,漫画家の竹谷州史さんと連載を始めまして。
関根:
描いてるんですか?
須田:
原作を書いてるんです。タイトルは「暗闇ダンス」!
つまり僕は,神木隆之介くん演じる高木秋人のような役割ですね。竹谷さんが佐藤 健くんが演じる真城最高の役割になっています。
関根:
ネームを描いているんですか?
須田:
僕は文章だけなんです。
関根:
ダメじゃないですか! 「ネームが描けなきゃダメ」って劇中でも言ってましたよ(笑)。
須田:
そう,だから,秋人みたいに,ちゃんと俺もコマ割りをしたり,もっと勉強しなきゃと思って。
4Gamer:
いやいや,大丈夫ですよ。かの梶原一騎先生も文章だけだったそうですし。
須田:
そういえば僕も読みましたよ,「男の条件」(原作:梶原一騎,画:川崎のぼる)。そうか,梶原先生がやってないんだったらいいや。
4Gamer:
いいんです。「あしたのジョー」も梶原先生は文章だけで書いていたために,当時ボクシングに深くなかったちばてつや先生が体重による階級制度が分からず,ジョーのライバル,力石 徹の体をでかく描いてしまって,その結果として減量につながる物語が生まれたという逸話もありますから。
一同:
はいはいはい。
4Gamer:
文章だけでも,作画担当の作家が別のイマジネーションを膨らませて,想定外の化学反応が生まれることもあるんですよ。
須田:
そうなんですよ! いいほうに転ぶんですよね。絶対そうです。そのほうがいいんですって。
一同:
(苦笑)
須田:
で,映画の話に戻りますけど,部長にとって“無いものが全部ある映画”というならば,僕にとってはただ“全部ある映画”でした。
関根:
あのー,何度か言いましたが,面白かったですよ。あと泣きましたよ。
須田:
僕もほろっときました。
関根:
徹夜明けだったせいか,目が乾いてただけかもしれないけど。
須田:
部長,ちっちゃいなぁ。素直になればいいのに。
とにかく大根監督の原作への愛を強く感じましたね。ジャンプを舞台にした漫画家と編集者の内部暴露的な内容の原作を,いかに商業映画として作り上げるか。きっと相当に難しかったと思うんですよね。
関根:
良くできてますよ,これ。
須田:
良くできてますよね。
関根:
悔しいけど……。
一同:
(笑)
少年ジャンプの凄さは?
関根:
僕は原作を読んでいないんですが,あんなにジャンプのことばっかりなんですか?
須田:
もっとジャンプのことばっかりです。
関根:
それが面白かったんですよ。ジャンプに連載することがすべてみたいな,そういう感覚が僕には分からないから。
たぶん,僕みたいに漫画をあまり読まない人にとっては,ジャンプ至上主義的な描写がすごく新鮮に感じられると思うんです。
須田:
そうですね。かつての653万部[1]っていう発行部数が,漫画雑誌の歴代最高部数で,今でも超えられていないということを含めたオープニングの煽りとか。
関根:
「友情・努力・勝利」っていうキーワードに編集者もちょっと恥ずかしさを感じつつも,やっぱり熱くなってしまう話なんかも。それで思ったんですけど,この作品,海外で売れるんじゃないかと。
須田:
いや,僕もそう思いました。日本の誇るべき文化としての漫画が世界中で読まれていて,アニメにもなって,ビデオゲームにもなっていて。
数多くの凄いコンテンツを生み出す入り口が,まさにジャンプなわけじゃないですか。そのモンスターメディアがどうやって生み出されるかっていうメカニズムを,この映画は見事に描いていますからね。
関根:
いけますよね。
須田:
「アオイホノオ」のドラマ化が決まったときにも,これ,テレビ東京の深夜で若い子達が見てどうなのかなと思ったら,見事に面白い作品になっていて。あれは福田雄一さんですけれど,大根さんも含めてTVも映画もやるっていう人達の,漫画原作を映像化する対応力,瞬発力みたいなものが凄いレベルに到達したと感じたんですよ。
今回やはり同じ熱量というか,こりゃ凄い作り手だなって思ったんですよね。日本の監督の力量が上がっているという実感も含めて,世界に通用する映画の一本だと思うし,海外で賞をガンガン獲ってほしいですよ。
関根:
いやもう,ちょっと話戻りますけどみんなジャンプ好きなんですよ,海外の人。今,新宿ゴールデン街は外国人観光客がものすごくたくさんいるんですけど,ジャンプアニメの話をする人が多いんです。
須田:
やっぱりそうなんですね。
関根:
あと,余談ですけど,この2か月くらいで,「ここにGoichi Sudaは来るのか?」って,3〜4回聞かれましたし。
須田:
えー,マジっすか。まあ,「NO MORE HEROES」に登場してますからね,部長の店は。
関根:
それはあると思うんですけど,それにしても凄いことだと思うんですよね。どうやら今,支配人はきてますよ。
須田:
きてますか!
関根:
ジャンプと支配人ですよ,ゴールデン街は。
一同:
(笑)
須田:
いやいやいや(照)。
ところで話それるんですけど,亜豆ちゃん。
関根:
ヒロインですね。小松菜奈さん演じる。
須田:
クラスにああいう子がいた雰囲気ってあるじゃないですか。窓際に座ってる髪の毛の長い,物静かな女の子みたいな,そういうね,ああ何か高校時代だなーみたいなね。
関根:
まぁ,実際はそうそういないんですけどね。
須田:
そうですね,はい。で,彼女が目指してるのが声優じゃないですか。うわー,時代だなって思って。
関根:
あー,はいはい。
須田:
女優でもアイドルでもなく,声優じゃないですか。それこそアオイホノオの時代だったら,「私,舞台女優になる」みたいな,もっと泥臭いわけじゃないですか。それがある意味,新鮮でした。
漫画モチーフのゲームなんてありますかね?
関根:
そろそろゲームの話に行きましょうか。
4Gamer:
ちなみに,原作「バクマン。」のゲーム,「バクマン。 マンガ家への道」がバンダイナムコゲームスから発売されています。
えっ,知らなかった。
関根:
どういうゲームなんですか?
もしかして,格ゲー……?
須田:
いやー,違うでしょ絶対に違いますよ。
関根:
Gペンで殴り合うとかじゃないんですか?
4Gamer:
(無視しつつ)アドベンチャーゲームですね。そこにペン入れとか,ベタ塗りとか,トーン貼りなどのミニゲーム的な要素が加わっているという。
関根:
あー,そういうことですか。
須田:
要はアシスタントの気分になれるんじゃないですか。
関根:
いや,公式サイトには「『マンガアシスト』を使いこなせ」って書いてありますね……。
須田:
とにかくゲームとしては,それがある種,本命かもしれませんが,えーっと,なんだっけ。セガが出した……。
関根:
「コミックスゾーン」ですか?
須田:
あー,そうです,そうです。それかな? なんて。
4Gamer:
僕は「ファミコンジャンプ 英雄列伝」かと思っていました。
一同:
あーーー。
須田:
いいですねえ,いいとこですね。
関根:
それってRPGでしたっけ。
須田:
そうですね。
それにしても漫画雑誌がゲームになるっていうのも,凄い話ですよね。
4Gamer:
2009年には「週刊少年サンデー」と「週刊少年マガジン」の50周年記念で,「サンデー×マガジン 熱闘! ドリームナイン」や「サンデーVSマガジン 集結!頂上大決戦」というゲームがKONAMIから出ました。
関根:
あった,ありましたね!
須田:
でもその先鞭を付けたのは,ジャンプだったわけですよね。
しかもプロデューサーはバンダイの橋本名人ですよ。今ではスクウェア・エニックスの専務執行役員の。
ほう,そうだったんですね。
須田:
まあ話がそれましたが,やっぱり映画バクマン。を見たら,ファミコンジャンプ 英雄列伝で遊びましょうということで。
今,登場キャラを見てますけど,いいですねメンツが。鬼哭霊気(きこくれいき)。「ゴットサイダー」の主人公ですよ。好きだったなぁ。「ドーベルマン刑事」も「アストロ球団」もいますね。
4Gamer:
そこに入る「県立海空高校野球部員山下たろーくん」。
須田:
ほんとだ。あっ,「荒野の少年イサム」。古っ。冴羽 獠もいますよ。脇役としてジョセフ・ジョースターも。ほー。両さんも出てるんだ。すげーなー。黄金期を体感するなら最高のゲームですね。
4Gamer:
こうして情報をチェックしてみるだけでもワクワクしますね,ほんと。
須田:
ですね。
関根:
はい,というわけで,最後まで僕に無いもの満載でお届けしました。友情・努力・勝利!
須田:
平和・愛・夢! の暗闇ダンスが掲載されている月刊コミックビームは,毎月12日発売です!
関根:
ではまた〜。
映画「バクマン。」公式サイト
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