連載
「キネマ51」:第21回上映作品は「赤穂城断絶」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
第21回の上映作品は,支配人が偶然か必然か出会ってしまった1970年代の傑作時代劇「赤穂城断絶」。
須田:
もう3月なんですが,実は今回が本当の新年一発目なんですよね。
関根:
そうですね。「キネマ51」の今年最初の収録がこれということで。なんですか,この「ガキ使」的オープニングトークは。
須田:
いや,紅白。本当の紅白の話をしようと思ったんですよ。
4Gamer:
なんだかずいぶん昔のことのような気もしますが……。
関根:
それでも支配人は,どうしてもその話をしたいんですね。
須田:
ええ。部長はどうでした?
今回は,じぇじぇじぇ,「あまちゃん」がフィーチャーされていて。部長はあまのじゃくだから観てないと思いますけど,僕もあまちゃんは一回も観たことがないんですよ。でもあの曲は,覚えました。頭にこびりついて離れないですよ。
関根:
「潮騒のメモリー」ですか。さくっと僕の悪口言ってますよね。
須田:
で,部長はどうでした?
関根:
あー,楽しかったですよ。とくに話したいっていうほどの名場面はないですが。あ,でも,支配人が昨年一押しだったバンド,サカナクションも出ていましたよね。
須田:
そうなんですよ。あのMac一列シフトからのバンドシフトへのフォーメーションも良かったんですけど僕が一番グッときた場面はまた違うところで。
今年は司会が嵐だったわけですけども,大河ドラマで「軍師官兵衛」が始まるということで,V6の岡田くんが壇上に上がったんですよ。そのときに,嵐の櫻井くんが言ったセリフにグッときたんです。
関根:
ほう。何を言ったんですか?
須田:
「ぶっさんいよいよ始まりますね」って。で,岡田くんも,「バンビは〜」なんて言ったりして。
要は「木更津キャッツアイ」の役名で呼び合ったんですよ。
関根:
なるほど。審査員席に脚本の宮藤官九郎さんもいましたしね。
須田:
そうなんですよ。あの二人になった瞬間,紅白がキャッツになったんです。ぶっさんもバンビも立派になったんだなぁって。そこに僕,一番感動しましたよ。やっぱりキャッツは素晴らしいなぁと。
……ということで,今日の作品は木更津キャッツアイの劇場版,「木更津キャッツアイ ワールドシリーズ」ということで。
関根:
いやいやいやいや,違うでしょ。というか,この流れでキャッツを紹介しちゃってもいいんですけどね。今回は支配人がどうしても紹介したい作品があるんでしょ? キャッツはまたいずれということで。
須田:
ですね。実は先日,部長や4Gamer読者に観てほしい作品に出会ってしまったので,だいぶ昔の作品なんですがご紹介したいと思います。
梅の季節に年末感満載映画
さっそくなんですが,今回の作品は「赤穂城断絶」です。
どうですかこのタイトル。
関根:
赤穂城というくらいですから,日本人が大好きな判官びいきの代表作「忠臣蔵」ですよね。
須田:
そうなんです。昨年末にはちょうどハリウッド映画「47RONIN」も公開されましたね。あれも忠臣蔵をモチーフにしているんですけど。
関根:
忠臣蔵といえば,年末のワイド時代劇の定番ですよね。
とはいえ,漠然とは知っていても,具体的にどういう話なのか分からない方も多いんじゃないでしょうか。ましてや4Gamer読者の若い方なんかは,映画もドラマも観たことがないんじゃないかと思うんですよ。
須田:
そんな皆さんに本当の忠臣蔵とはなんぞやと。そういった作品を今日はご紹介したいんです。僕のベリーベストオブ忠臣蔵。それが赤穂城断絶です。
関根:
なるほど。まず,念のため確認ですが,支配人はそもそもほかの忠臣蔵作品もご覧になっているんですか?
須田:
えーっとですね,あれやこれやありますけども……たぶんまともには一本も観たことがありません。テレ東の12時間のやつも流し観でしたね。
関根:
12時間ドラマを流し観って,かえって凄いかもしれませんけどね。ちなみに,僕が今まで観た中で一番好きな忠臣蔵原案の作品は「なにわ忠臣蔵」という映画です。
これは忠臣蔵の設定を大阪の暴力団抗争に置き換えて描いた作品なんですが,主演が岩城滉一で,当時のVシネスターが総出演してるんです。哀川 翔,竹内 力をはじめ,白竜,香川照之,鶴見辰吾,今井雅之,松田 勝,夏八木勲などなど,超豪華キャストなんです。
須田:
部長,好きそうだなぁ。
中古ビデオ屋さんでぜひ探してみてください。では,本題に入る前に忠臣蔵とはどういった話なのか簡単に説明しておきましょうか。
元禄14年(1701年)3月に江戸城内で赤穂藩(現兵庫県赤穂市周辺)の藩主,浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)が将軍徳川綱吉の直属の家臣,吉良上野介(きらこうずけのすけ)に田舎侍と馬鹿にされたため,切りかかって傷を負わせてしまいました。内匠頭は即日切腹を命じられ,藩も失うことになります。
その幕府の対応に憤りを感じた浅野家の家臣,大石内蔵介(おおいしくらのすけ)以下,赤穂浪士(赤穂藩の浪人の意)47人が,翌年末12月14日,吉良邸に仇討ちに入り上野介を殺害。翌年3月に全員切腹をした……という実話を元に書かれた物語が「忠臣蔵」なんですね。
義理人情や,弱者が強者をやっつけるという日本人が大好きな要素がふんだんに盛り込まれた物語は,元禄の事件直後から多くの芸能や小説などで題材として扱われて,現代でもドラマや映画などで何度も映像化されています。
須田:
部長,ご苦労様でした。で,この作品なんですけど,たまたま飛行機に乗ったときに観たんですよ。なんか面白そうなものないかなってずっと探していったら,深作欣二監督[1]の名前があるじゃないですか。なんだと思ったら忠臣蔵ですよ。
で,観始めたら衝撃を受けまして。
関根:
衝撃,ですか。
須田:
まずは,なんといっても役者さん。当時の役者の迫力たるや。深作監督の代表作,「仁義なき戦い」[2]もそうですけど,殺気があるじゃないですか。赤穂城は主演の萬屋錦之介が圧倒的で,なんというんでしょうか,歌舞伎役者だからこその品と佇まいがちょっとびっくりするくらい出ていて,違和感さえあるんですよね。でも,その違和感が大石内蔵助という人物像を浮き彫りにしているんだなと感じました。萬屋錦之介の魅力は,ありゃなんなんですか!
関根:
やっぱり見得の切り方なんかは迫力がありますよね。
須田:
空気が違いますよね。これだけのオールスターキャストの中で主役を張るというのはこういうことなんだなと。途中でドロップアウトしてしまう浪士,橋本平左衛門を演じた近藤正臣も凄かった。彼の役もそうなんですが,赤穂浪士たちが一枚岩じゃなくて,非常に人間臭い集団だったというのがよく表現されていたなぁと。
関根:
各人物描写は脚色が入っているんですけど,よくできていましたよね。ネットの情報しか確認していないですけども,深作監督は通常悪役として描かれがちな吉良上野介サイドから,物語を描こうとしていたようですね。
須田:
そうそうそうそう。
関根:
だけど,主演の錦之介が普通にやりたいと提案,浅野家サイドからという一般的な忠臣蔵になったと。そして,深作監督といえば,忘れてならないのが仁義なき戦いシリーズなんですけども。支配人は仁義シリーズは?
須田:
もちろん全部観てますよ。
関根:
仁義のキャストがこの映画にも多く出ていて,対比しながらこの映画を観ると面白いんですよ。で,なんといっても金子信雄[3]に尽きると。
須田:
やっぱりね。
関根:
同じくネット情報ですが,山守組長役の金子信雄に本当は大石内蔵助をやらせたかったという話もあるんですよね。実際は錦之介がやった役なんですが。
これが実現していたら全く違う世界観の忠臣蔵を観ることができたのかと思うと,錦之介の意見に従わざるを得なかった当時の映画会社のシステムをちょっと恨みますよね。
須田:
そうですね。結局,金子信雄は分かりやすく吉良をやることになる。最高の小悪党ですよね。
関根:
仁義の金子信雄を思い出してみると,吉良が本当にイヤな奴に見えてきますからね。その話も含めて,本当はこの映画を紹介する前に仁義なき戦いを紹介したほうが良いのかなとも思ったんですよ。
赤穂城断絶という映画は,仁義なき戦いシリーズで1970年代を席巻した深作欣二監督が,その成功を受けて満を持して描いた時代劇大作である……という認識があってこそ,楽しめるところもあるような気がして。
須田:
確かに。仁義も観てもらえると嬉しいなという気持ちはありますね。
関根:
僕,あまりにも赤穂城が面白くて,仁義と赤穂城の役者の対比を作ってきたんですよ。僕の中ではね,仁義で明石組組長の舎弟で参謀役をやっていた遠藤太津朗が,この作品でいい役どころだったのが嬉しかったんです。
須田:
どんな俳優さんでしたっけ。
関根:
えーっ! 「土曜ワイド劇場」の「京都殺人案内」シリーズで音川音次郎の上司を演じていた遠藤太津朗ですよ!
須田:
全く分からないです。
関根:
吉田中座衛門役の人ですけども,明らかに悪人顔の遠藤太津朗を大石の腹心に使うあたりがまたね。
須田:
あー,あの方ですね。悪代官の代表格みたいな役者さんですもんね。あと,松方弘樹もイイモンで,渡瀬恒彦は吉良側の剣客。さらにその渡瀬恒彦と一騎打ちする千葉真一も,仁義の役どころと対比するととても面白いんですよ。この二人の一騎打ちがこの映画の見せ場でもありますよね。あと,成田三樹夫もイイモンです。
関根:
珍しくね。当初のイメージであった吉良が錦之介で,大石が金子信雄だったと想像すると合点がいく善悪逆転キャスティングが絶妙なんですよ。
須田:
その他もオールスターキャストですよ。世界のミフネ[4]も出てますからね。
関根:
赤穂浪士事件の黒幕といわれている柳沢吉保(やなぎさわよしやす)役で,世界の丹波哲郎[4]も出ていますよね。
トップスター夢の共演ですよね。五社協定[5]も無くなって何年か経って,東映オールスターキャストの中に東宝や松竹などで活躍していたスターが看板を背負って参加するなんて,魅力的じゃないですか。当時ならではのワクワク感がありますよね。
プロレスでいったら,各団体を背負ってのオールスター戦みたいな。新日本プロレスの東京ドーム大会に,全日本プロレスから天龍,タイガーマスク,ハンセンだけが上がったりとか。それだけでもファンとしては大興奮じゃないですか。ね,TeTさん,たいへんなことですよね。
4Gamer:
そこでハンセン対ベイダーなんて最強外国人対決をやられた日には。
須田:
もう,やばいですね。
関根:
相変わらずニュアンスだけのトークありがとうございます。
でも,あるでしょうね。当時の映画ファンの中には興奮した人もいたでしょうし,複雑な思いで観ていた人もいるでしょうし。
今回は支配人の熱い思いが伝わったかと
関根:
今回は,支配人が4Gamer読者の皆さんと興奮を共有したいという感じが伝わってきました。支配人のゲームに影響を与えているであろう深作欣二監督作品。その監督作との新たな出会いをした支配人の想いを感じられることができて良かったです。
須田:
僕も良かったですよ。赤穂浪士,忠臣蔵なんて全然興味なかったんですけどこの映画で興味がむくむくと沸いてきましたね。
関根:
そんな忠臣蔵を題材にしたゲームってないんですかね。
4Gamer:
うーん。仁義なき戦いと赤穂城断絶のお話を聞きながら,「龍が如く」シリーズと「龍が如く 維新!」(PlayStation 4 / PlayStation 3)の関係性を思い出したりはしましたが……。
須田:
そちらは新撰組を題材にしてますよね。「龍が如く 見参!」は武蔵と小次郎で。
関根:
あれ……? でもそう考えると,いつか赤穂浪士バージョンが出ても違和感はなさそうですね。
須田:
確かに! そうえいば,47RONINをゲーム化する話,うちにオファーが来てたんですよね。結局実現しなかったんですけど。
関根:
それ,言っちゃっていいんですか?
須田:
いいんじゃないですか。実現しなかったし。
4Gamer:
おおう。……あ,1998年にPlayStation向けに「忠臣蔵 検証・赤穂事件」というゲームがありますね。キャラクターデザインが「ゴルゴ13」でおなじみ,さいとうたかを先生だそうです。
須田:
じゃあ,このゲームを関連ゲームとしてご紹介しておきましょうかね。
関根:
いいんですか。やったことないじゃないですか僕達。
須田:
まあ,これから僕達もこのゲームを検証するということで。
関根:
なるほど。ってタイトルにかけてるだけじゃないですか。
須田:
読者の皆さんが赤穂城断絶を観て忠臣蔵を検証している間に,僕達はこのゲームを検証して詳しくなっておきます。
関根:
じゃあ,いずれグラスホッパーで「クイズ忠臣蔵」っていうゲームでも作っていただいて。
須田:
「クイズ忠臣蔵と黒猫のなんとか」みたいなね。
4Gamer:
画面の下半分でクイズに答えると,上半分で属性に合った赤穂浪士がワーッて攻め入るっていうね,売れるにおいしかしない!
関根:
完全に勢いでしゃべってますよね。
4Gamer:
いやいやいや,至って真面目ですよ!
でも,やっぱり刀で敵と戦うといえば「KILLER IS DEAD」(PlayStation 3 / Xbox 360)じゃないですか? そもそもこれ,タイトルは忠臣蔵に由来があるという話を聞いたことがありますし。
須田:
よくご存じですね! 忠臣蔵だけに「吉良 is dead」ということでね。
関根:
なんだかなぁ……。でも,支配人の満足げな笑顔を見るとダメ出しできないよなぁ……。
「赤穂城断絶」東映ビデオオンラインショップ商品ページ
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