連載
「キネマ51」:第10回上映作品は「V/H/Sシンドローム」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
第10回の上映作品は,“アメリカで失神者続出”という映画館泣かせの,6作品からなるホラーオムニバス映画「V/H/Sシンドローム」だ。
映画「V/H/S シンドローム」公式サイト
TeTさん観ました?
4Gamer:
チラ見です。
関根:
チラ見。映画の鑑賞方法としてはかなり珍しい表現ですね。
4Gamer:
いやぁ,なかなか直視できなくて,チラッチラッと観た感じで。
須田:
なるほど。
関根:
僕にもなかなか厳しかったんですけど,支配人にとっては得意ジャンルですよね。そもそも,なんでこの作品を今回上映しようと?
須田:
なぜこの作品を上映するかというと……試写の案内が来ていたから。
関根:
いやいやいやいや。
須田:
あ,その試写状に書かれていたキャッチコピー,「失神者続出,トラウマホラー」に惹かれましてね。
関根:
なるほど。
須田:
全米震撼みたいなの,ちょっと久々じゃないですか? 「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」[1]みたいな。
関根:
そうですね。どちらも同じように主観ショット,いわゆるPOV[2]ですね。
須田:
ほー,そう言うんですか。
関根:
Point of Viewの略で,ゲームでいうところのFPSみたいな。
須田:
はい。で,今作はいわゆる,POVの映画なんですけど。
関根:
さっそく自分のものにしてますね。さすが支配人!
須田:
いやいや,まあまあ。Point of View……。なんかそんなバンドいましたよね?
関根:
それは,FEILD OF VIEW[3]。こんなところから脱線してたら終わりませんよ!
スプラッターの必然性
須田:
部長はどの辺がダメでした?
ホラーは嫌いじゃないんですよ。ただ今回,僕はどうしても言いたいことがあるんです。
コレを観ながらね,一つ思ったことがあるんですよ。あのー,“必然性のあるヌード”ってよく言うじゃないですか。
須田:
ありますね。芸術のため,物語の展開上,ヌードにならないのは不自然であるからとか。
関根:
そうです。それと同じことでね,必然性のあるスプラッターってあると思うんですよ。
須田:
必然性のあるスプラッターですか。
関根:
この映画って,どの作品に出てくるスプラッターシーンも,必然性がないんですよね。
須田:
確かに,必然性があってというより,入れたくて入れてるような。
関根:
その下品さが面白いという考えもあるとは思いますけど,僕は,それらのシーンでお腹一杯になっちゃったんですよ。あれ,なくても撮れますよね。
須田:
撮れますね。そこを全部スプラッターに寄せましたもんね。寄せたというか,グリッとこっちに持ってきたというか。
関根:
無理矢理入れたでしょうって。
須田:
鉄骨を曲げるかのように曲げてきましたよね。え? 急に血みどろ? みたいな。
関根:
え,ここで腸出る?
須田:
あれ,何でしょうね……。いつもよりたくさん出してますって感じで,間違いなくサービスショットのつもりですよね。
関根:
たぶんそうですね。
須田:
そんなサービスショットなんかいらないよ,なんて。いやでも,いるかな,やっぱり。
関根:
やっぱり。支配人やスプラッターファンに向けたサービスショット満載映画と思えば,納得はできます。
須田:
けっこうグロいホラー作品ばかりでしたね。エロもちょっと入ってますけど……。
関根:
で,そのエロもね,あんまり可愛くないんですよね。
須田:
あー,そうですね,だからかえって生々しいんですよ。
このオムニバスに参加している映画監督達は,資料によるといわゆる動画投稿サイト出身者が多いみたいなんですよ。そういった投稿サイトの生々しさを,そのまま作品に反映させているといえば伝わりやすいですかね。
関根:
そうですね。だからこそのPOVでもあるでしょうし。
須田:
YouTubeをチェックして,面白そうな動画をバーっと観た感覚。こういう血気盛んな若手の監督が,やりたい放題やる映画ってなかなかないから,すごく無骨というか,形が整っていないというか,荒削りな感じが良かったですね。
関根:
確かに。あえて言うならば,それに加えて勇気というか,潔さが欲しかったですね。この映画,2時間もあるんですけど,カメラが常に揺れている主観の映像をずっと見ているのは,なかなか厳しくて。もうちょっと短くしたら,TeTさんもチラ見で終わることもなかったかもしれませんね。
4Gamer:
ひょっとしたら,はい。
全6本のオムニバス・ホラー
関根:
ちなみに支配人,この中でお勧めはどれですか?
須田:
僕は,やっぱりSkypeのやつですかね。
関根:
「THE SICK THING THAT HAPPENED TO EMILY WHEN SHE WAS YOUNGER」という長いタイトルのやつですね。ジョー・スワンバーグ監督の。
Skypeを使って遠距離で会話しているカップルの女性の後ろに幽霊が見えてしまう。でも彼は助けに行くことが出来ない。そんなもどかしさと恐怖でだんだんおかしくなってくるカップルを描いた作品でした。
シーンのほとんどがSkypeの画面って,誰もが考え付きそうだけど,センスよくまとめるのは難しそうな設定ですよね。
須田:
これはストーリーも映像も巧みでしたし,一気にメジャーで凄い監督になりそうだなって瞬時に感じましたね。あれを観たら,頭がシャッフルされましたよ。
関根:
確かに新鮮なアイデアが刺激的で,続きが観たくなる映画でした。
須田:
あ,それからこの新婚旅行のヤツは,タチの悪い作品でしたね。
関根:
えーっと,タイ・ウェスト監督の「SECOND HONEYMOON」ですね。ハンディカムで自画撮りしてる,まあ端から見ればバカップルみたいな新婚旅行中の二人に襲い掛かる恐怖。
二人で撮り合いをしてるはずなのに,いつの間にか二人とも画面に写っている。え,誰かほかに人が? って思った瞬間から,グッと恐怖が近づいてくるんですよ。よく出来てますけど,これにも,無駄なスプラッターが(笑)。
須田:
確かに無駄でしたね!
無駄なスプラッターといえば,デヴィッド・ブルックナー監督の「Amateur Night」も怖かったですね。
関根:
隠しカメラで女の子のエッチシーンを撮影しようとした,バカな男達に起こる惨劇みたいな物語ですね。
須田:
本当にあるんですか? あの,フレームにCCDカメラが搭載されていて,SDカードに録画できるメガネ。
関根:
あるんです。僕,これ買おうと思っていたんですよ。でも,例えば,これをかけながら喧嘩に巻き込まれたりしたら,自分が殴られる様子を主観で撮ってしまうわけですよね。そこには気付いていなかったんですけど,この作品を観て買うのをやめました。
須田:
そうですよね。というか,部長,あのメガネを買おうとしてたんですか。それこそ身近にある恐怖ですよ。
4Gamer:
怖い怖い。
関根:
ゴホン。
話を戻しますが,最後の作品,ラジオ・サイレンス監督の「10/31/98」だけ,ちょっとほかの作品と違った流れでしたね。
須田:
そうでした。ほかの作品の手作り感,荒削り感に対して,これだけバリバリのCG映画で。
関根:
幽霊屋敷の話なんですけど,僕は,ドリフを思い出しながら観ていましたね。
須田:
確かにドリフっぽかった,あのシーン[4]。
関根:
次々に壁から腕が飛び出してきて,逃げ惑う人々を襲うんですけど,思わず「後ろ! 後ろ!」って叫んじゃいそうでした。
須田:
そうそう,アメリカ人も「KEN! BACK, BACK」って叫びながら観ていたらしいですよ。
関根:
絶対ないと思いますけど。
そもそも,“KEN”って。この映画に志村さん出てないですから。
映画の一番の見どころは……?
関根:
そろそろまとめましょうか。といっても,オムニバスはまとめづらいんですが。
須田:
まあ,いろんな作品の入った,勢いのある若手監督のショーケース・ホラーとでも言いましょうかね。荒削りな部分も含めて楽しめる作品でした。
関根:
それでも蒸し返すようですけど,必然性のないスプラッターは,やはりどうかと思うんですよねぇ。せっかく見応えのある作品がそろっているのに,スプラッターで一部の人のためのものにしてしまうのはもったいないなぁと。
須田:
でもね,部長。本当に必然性が大事なんですかね。
関根:
というと。
須田:
「あれはさ,必然なんだよッ!」って僕の中のテリー伊藤さんが叫んでますよ。
関根:
分かりづらい! というか全然分かんないです。
そういえば,支配人のゲームもエログロなんて言われてしまうことはありますよね?
須田:
まあ,そういった評を聞くこともありますよね。だから,この映画を観て思いを強くしたことがあるんです。
関根:
おっ,強い気持ち?
須田:
気をつけようって。
関根:
気をつけるんですか。
須田:
やっぱり必然性の無いエログロは,慎重にやらないとな,と思っちゃいましたね。
関根:
何ですか,そのテヘペロ顔。早くまとめてくださいよ。
須田:
部長が必然性とかなんとかややこしいこと言い始めるから,ついそういう流れで……。
関根:
ブツブツ言わない!
須田:
とにかく,新進気鋭の監督達が作り上げた短編の勢いの良さと,今後,彼らにどんなサクセスストーリーが待っているのか,そんなことを思いながら観てほしいですね。
支配人,今,凄いニュースが飛び込んできましたよ。というか,資料に書いてあることに気付いただけなんですが。
須田:
何ですか!?
関根:
なんと来年1月に,「V/H/S2」の公開が決定ですってよ。
須田:
本当ですか! てっきりV/H/S2はゲームかと思ったんですが……。
関根:
それは前回やったやつでしょ! 気を抜くと,すぐ宣伝しちゃうんだから。
須田:
V/H/S2は,また違う監督達でやってほしいですよね。
関根:
その思いはもう伝わってますよ。ほとんど違う監督です。おっと,ブレア・ウィッチ・プロジェクトの監督も参加してるんですね。
須田:
ほう。新進気鋭の人だけじゃないんですね。ちょっと,この資料見てくださいよ。さっき部長が言ってたこと。
関根:
何でしたっけ?
須田:
ちょっと潔さがほしいと。
関根:
はいはい,2時間は長いかなと。
須田:
なんとV/H/S2は……時間,短くなってます。96分ですよ!
関根:
素晴らしいですね。
須田:
僕らの声が,もう届いてますよ。
関根:
さすがYouTube世代。情報伝達スピードが速いなぁ。
須田:
「OK分かったよ。俺らだってうすうす気付いてたぜ。分かった,短くするぜ!」みたいな感じでやっちゃう,この速さ。
関根:
今のしゃべり方,今どきの若者というよりも,完全にスギちゃんでしたよ。
今回は,ゲームの話が……
4Gamer:
そろそろゲームの話をしましょうか。
須田:
シンドローム!
関根:
シンドローム?
須田:
ですから,シンドロームだけに。これはね,まぁ,ホラーじゃないですか。そこで,「ムーンライトシンドローム」ということで。
関根:
なるほど,いいんじゃないですか。ちょっとサイコパスな話でもありますし,シンドロームって付きますし,あとオムニバスですしね。
須田:
そうでございますでしょ。どうでしょ,このような感じでね。どうかなって思ったりしてるんですけどね。
関根:
どうして揉み手しながら説得してくるのか分からないんですけど,完全に昭和の営業マンですよ,それ。
4Gamer:
あのー,大変申し上げにくいんですが,このゲーム,以前に取り上げてましてね,はい。
関根:
わ,こっちからも腰低い人が来た。何だか僕が一番威張っているみたいになってる。
そっか,どうしましょうね。あ,もしかして支配人,最初から気付いていたでしょ,それで,そんな腰低く……。
須田:
うーん,ばれちゃあしょうがない,でも安心したまえ,実はこんなこともあろうかと,もう一本用意しておいたのだよ。
今日の支配人,一人オムニバスみたいに,何役もこなしてるようですね。でも,だったら最初からそっちを紹介してくださいよ。
須田:
「GUILD01」っていう作品なんですけど。
関根:
ほほぅ,なるほど。では,この映画とGUILD01の共通点は?
須田:
えっと……,オムニバスです。
関根・4Gamer:
それだけかい!
映画「V/H/S シンドローム」公式サイト
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