連載
「キネマ51」:第2回上映作品はショーン・ペン主演「きっとここが帰る場所」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。第2回の上映作品は,ショーン・ペン主演の「きっとここが帰る場所」。
支配人の須田剛一氏と劇場の宣伝部長である関根 圭氏は,この作品を見て何を考えたのか? そして,この作品と共通点のあるゲームとは……?
「きっと ここが帰る場所」公式サイト
関根:
支配人,おはようございます。
須田:
おはようさんっ!
関根:
今日は絶対に髪の毛盛ってくると思ったんですけどね。
須田:
それは本来,部長がやらないと。
関根:
う,うん。そうですね,ツーブロックにしないとね。って,いきなりの入りですけど,「きっとここが帰る場所」という作品は,僕達が10代の頃の音楽体験と,かなりリンクする映画でした。ショーン・ペン演じるミュージシャン,シャイアンの物語が,そのまま伝説のバンドと重なって,より切ない作品となりました。
The Cure&&TALKING HEADS……
そして,ショーン・ペン
関根:
映画,どうでしたか?
そりゃいい映画でしたよ。
関根:
そりゃって言っても,監督もそんなに馴染みのない方だし。
須田:
そうですね,存じ上げない監督でしたね。いやでも,観る前から確実だなって雰囲気がプンプンしてて。でも実際に観たら,感動しすぎました。
関根:
大絶賛ですね。
須田:
ほら,俺もロックスターじゃないですか。
関根:
ぐふっ……そ,そうですよ……ね?
須田:
部長,今のはツッコむところですよ!
でも,シャイアンは金持ってていいなぁって(笑)。
関根:
主人公のシャイアンは,1980年代に欧米で大成功したミュージシャンという設定で。
須田:
それで巨万の富を得て,でも,彼,シャイアン……これ,モデルは?
関根:
どう考えても。
須田:
ロバスミ!?
関根:
なんですか,その略し方? 1980年代に大ブレイクして,現在でも現役のバンド,The Cure[1]のヴォーカル,ロバート・スミスがモデルだろうということですよね。
須田:
シャイアンは第一線からは退いていますが,そこが違うだけで,雰囲気はどう考えてもロバスミですよね。
関根:
もうロバスミでいいか……。監督は,ロバスミを1980年代前半に人気のあったミュージシャンの象徴として考えたんでしょうね。
須田:
僕は,The Cureの大ファンなんですよ! だからシャイアンと,ロバスミをずっと重ねて観てました。
関根:
当時は,本人達もファンも,ゴスっぽい全身黒の服を身にまとっていましたが,劇中のエピソードでもThe Cureの話に通ずるものがいくつも出てきましたしね。
須田:
そうですね。あとは,ショーン・ペンがね! 僕は大好きなんですよ。だから今回は,感情移入が強くなりすぎましたね。
関根:
存じ上げております。大好きですよね。
須田:
前回に続いて今回も自分が作ったゲームの話題で恐縮なんですが,実は「LOLLIPOP CHAINSAW」(PlayStation 3 / Xbox 360)って,ショーン・ペンの「初体験 リッチモンド・ハイ」(1982)とか「バッド・ボーイズ」(1983)[2]なんかがベースになっているんですよ。
関根:
えっ,そうだったんですか?
須田:
学園ドタバタもの,刑務所パニックものに出演していた,デビュー直後あたりのショーン・ペンが強く印象に残っていて,それをいつかゲーム化したいと思っていたんです。
関根:
なるほど。
須田:
実は海外インタビューではいつもその話をしていたんですけど,大人の事情で“某映画”としか表記されなくて,あまり伝わってないんですよ(笑)。
関根:
ここではタイトル言っちゃっても大丈夫なんですか?
須田:
たぶん大丈夫です(笑)。
話を戻しますけど,ショーン・ペン,The Cureときて,これはもう,どうしてくれるんですかっていう話ですよ。だからすべてのシーンで,シャイアンの感情なんかが自分の中に入ってくる感じがしました。年を取ってからの自分探しの旅。別に僕が,自分探しをしているわけではないんだけど,今の自分に置き換えたら,凄くしっくりと観られる映画でしたね。しかも,見応えのあるサスペンスにも仕上がっていて。
サスペンス物として観ると,また別の映画になるような気もしますが,これも大事なストーリーですよね。僕は,パラレル・ワールドというか,シャイアンが活躍した1980年代前半と現代が,微妙にシンクロしていく中で展開する,おとぎ話としても楽しめました。
パラレルではないけど,色々な対比がほかにもありますよね。例えば,1980年代の伝説的なバンドTALKING HEADS[3]のデイヴィッド・バーンが本人役で登場して,シャイアンつまりロバスミと対話するシーンとか。
須田:
お互い1980年代前半に成功したけれど,シャイアンはその後,活動休止して,内向的な生活を送っていて,デイヴィッド・バーンは自分のスタイルを貫いて音楽活動を続けているという対比は,面白かったです。
関根:
ちなみに,映画のタイトルの「this must be the place きっとここが帰る場所」もTALKING HEADSの楽曲に由来しています。
須田:
ですよね。なんでしょう,TALKING HEADSのこの色あせないおしゃれ感。当時,とにかくハイファッションな印象だったんですけどね。今見てもハイファッションだなぁ。
関根:
日本でいうと,加藤和彦さん[4]みたいな。
須田:
あの対話をスタートに彼は旅立ち,王道のロード・ムービーが始まる。ヨーロッパを絵に描いたようなシャイアンが,現代のアメリカ中西部の象徴的な場所に降り立っていくというのも,対比として素晴らしかった。
過去を捨てられる人
捨てられない人
関根:
シャイアンがデイヴィッド・バーンに,「君のように前に進めていたら,まだ音楽をやっていたかもしれない」みたいなセリフを言うんです。
須田:
過去じゃなくて,今をちゃんと見られるかということですよね。The Cureのような,人の内面を歌う人達にとってみれば,それが重い十字架になっているのかもしれないですね。オーディエンスにしてもしかりで,求めるものは,彼らの18才の頃の歌で,そこから離れることが出来ない。
関根:
劇中で,シャイアンの妻は,このままのあなたでいいよって言うんですよ。それも,彼にとってみれば,キャラを変えちゃいけないっていうプレッシャーだったのかも。
須田:
彼女と一緒にいるためには,大人になっちゃいけない。妻だけでなく,やたら1980年代のシャイアンに詳しい若い女友達や,ずっと昔の敵を追い続けた父親も,みんな彼が大人になるのを阻んでいたのかもしれない。例えるなら,親が子離れできなかったから,子も大人になれなかったような感じで。
関根:
ちょっと話ずれますけど,僕,渡辺美里[5]が大好きなんですよ。で,彼女が未だに,夏休みな歌を歌い続けるから,僕もいつまでたっても夏休みが終わらないし,大人になれないんだって,最近気付いたんですよ。これって近くないですか?
須田:
近いのかなぁ?(笑)
ああでも,部長が総選挙に燃える意味が分かりましたよ。
だから,僕はアイドリング!!!のほうですから!
須田:
こりゃ失礼。
関根:
すいません……。話を戻すと,18才の自分から一歩踏み出すことが出来なかったシャイアンに,旅の途中から変化が出始める。
須田:
途中で何回か妻に電話するじゃないですか。そのとき,彼女は,あっ,この人変わってきた,みたいな表情をする。でも,覚悟を決めたような言葉で彼を送り出す。
関根:
切なくて,幸せで,だけど切なくてって,ずっとめぐっているような話だったですね。
須田:
なんというか,大人になった自分達にとって,共通項の多い映画。実写版の「宇宙戦艦ヤマト」[6]以来,久々に心にグッと入ってきた映画でした。
関根:
うんうん……って,えー! 実写版のほうですか?
須田:
そうです。飛行機の中で食事中に観たんですけど,なんか涙がドバー,うわーって。「沖田艦長ー」って感じですよ。僕,ヤマト直撃世代なんですよ。で,アニメと同じカットのシーンが散りばめられてて,最初にヤマトに衝撃を受けた時を思い出して。それとキムタクの古代 進は,最高に良かったです。宇宙服を着て探索するシーンなんて,細い体と,全身のフォルムが,松本先生の原作漫画の古代 進にソックリなんですよ。
関根:
確かに松本零士先生の描く戦士っぽいかも。うーん俄然確認したくなりました。
須田:
ぜひぜひ。それからあとは,ショーン・ペンっていう役者の凄さをまた思い知らされました。僕の予想ですけど,ショーン・ペンを嫌いという人は,もう世の中にいないんじゃないかという気がするんですよね。
関根:
そんなことはないですよ。うますぎる人が嫌いっていう人はいますよ。
須田:
いますかね? 僕はでも,ショーン・ペンと佐々木蔵之介が嫌いって言う人は世の中にいないと……。
関根:
あー,僕のことですね。嫌いなんじゃなくて,苦手ということで。最近,僕はどんどん意固地になっていってて,舞台出身のテレビ俳優はみんな苦手かもとか思い始めてますよ。
須田:
それはいけませんね。堺 雅人さんはどうですか?
関根:
悔しいけどいいですよ。
須田:
「リーガル・ハイ」[7]はお勧めですね,4Gamerの読者の皆さんにも。
4Gamer:
評判はいいですよね。
須田:
番組のオープニングにガッキーのドロップキックのシーンがあるので,プロレスファンにもお勧めです。
4Gamer:
どんなドロップキックなんですか?
須田:
豊田真奈美[8]型です。ぜひ観てほしいですね。
どうやら,前回に続いて
ゲームの話題が……?
それにしても今回,僕は久々にロードムービーを観たんですよ。「パリ、テキサス」[9](1984)主演のハリーディーン・スタントンを登場させて,ロードムービー感を強調しているのもたまらなかったですね。 これってゲームで言うと……。
関根:
もしかして頭の中,真っ白じゃないですか?
須田:
いやいや,なんか……うーん……「The Elder Scrolls V: Skyrim」じゃないですか?
関根:
前回と一緒じゃないですか!
それはともかく,音楽ものでいうと,聖飢魔IIのゲームなんかが[10]ありましたよね(笑)。
4Gamer:
TM NETWORKの「TM NETWORK LIVE IN POWER BOWL」[11]っていうのもありましたね。
須田:
あとほら,浜田省吾さんのアクションゲーム[12]もありました。
関根:
戦っても,サングラスは外れないんですかね。
須田:
でもこの映画は,音楽映画じゃなかったですよね?
関根:
すいません,脱線しました。では,ロードムービーみたいなゲームってないものなんでしょうか?
須田:
僕はずっと作りたいと思っているんですけど,作れてません!
関根:
道を歩いていて,ちょっとだけ小さい事件が起こって……みたいな,渋めのゲームがあったら,ちょっとやってみたいですねぇ。
須田:
そうそう,僕が作りたいゲームもそんなイメージなんですよね。そういう,土の匂いのするロードムービー的なゲームを僕が作るまでは,浜省ゲームとLOLLIPOP CHAINSAWで遊んでいただいて,ショーン・ペン・イズムを感じてほしいなと。
関根:
なぜ,最後に浜省推し?
「きっと ここが帰る場所」公式サイト
- 関連タイトル:
LOLLIPOP CHAINSAW
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LOLLIPOP CHAINSAW
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(C)KADOKAWA GAMES / GRASSHOPPER MANUFACTURE
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