連載
新連載「キネマ51」:第1回上映作品はアレクサンドル・ソクーロフ監督「ファウスト」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。連載第1回となる今回の上映作品は,アレクサンドル・ソクーロフ監督による「ファウスト」だ。
「ファウスト」公式サイト
キネマ51支配人の須田氏と,宣伝部長の関根 圭氏はこの作品を見て何を考えたのか? そして,ファウストと共通点のあるゲームとは……?
純愛ですよね。
須田:
純愛ですね……。
関根:
でも狂ってますよね。
須田:
狂ってますね……。
区画整理の対象になってしまったあの映画館が
「キネマ51」としてリニューアルオープン
須田:
あらためまして,「キネマ51」支配人の須田剛一です。部長,我々の映画館が,ついに開館しましたよ。
関根:
ですね,支配人! あっ,皆様,初めまして。私,このキネマ51で宣伝部長を務めさせていただいている関根と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
実はこのキネマ51,以前あった場所が区画整理の対象となってしまって,閉館を余儀なくされました。以来,約1年間,新しい物件を求めて,新宿をさまよい続けたんですよね。
須田:
はい。ちょうど4Gamerさんという,新宿でいうならば,旧コマ劇場跡[1]のようなところに劇場を作らせていただけることになりました。本当に嬉しい限りです。
場所を変え,名前を変えてのリニューアルオープンという形なんですが,このキネマ51では映画だけでなく,映画と一緒に楽しめそうなゲームも紹介していこうと思います。
関根:
ほほう,“ゲーム”ですか。
須田:
僕達がご紹介する映画を,より深く楽しんでもらえるように,映画とゲームの親和性をより感じてもらって,どちらも深く味わってもらえるようにしてみたいと。
関根:
なるほど。
須田:
この映画は,どんなゲームに近しいのか? ルーツだったり,視点だったり,色々と紐解きながら紹介していきたいですね。
関根:
面白い試みですね,自画自賛ですが。
須田:
まぁ,あとは,ダラダラしゃべるみたいなね,部長。
関根:
支配人,なんか最後だけ,ひょうきんな顔するの止めて下さい。
須田:
でね,この劇場のキャッチコピーを考えてみたんですよ。
「観てからやるか,やってから観るか」。
関根:
素晴らしいコピーです! でも,それ完全にパクリ[2]ですよね!
須田:
……どうかね。
関根:
だからその顔!
“一度観たら人生を変えてしまう映画がある。
この映画がまさにそうだ!”
――ダーレン・アロノフスキー(『ブラック・スワン』監督)
さて,キネマ51の第1回上映作品は,ロシアの巨匠,アレクサンドル・ソクーロフ監督[3]の最新作「ファウスト」です。
須田:
この記事の冒頭に謎の呟きがありましたけど,この映画を観終わった直後の感想でしたね。
関根:
はい。ドイツに実在したと言われている魔術師“ファウスト”伝説[4]をもとに,文豪ゲーテが残した不朽の名作「ファウスト」。この戯曲を原案に,ソクーロフ監督が新しいファウスト像を作り上げました。
映画のファウストは,博学で,多くの著作を持つ学者。しかも錬金術も体得している。しかし,貧乏。研究を続けるために,高利貸しマウリツィウスにお金を借りにいくところから物語は始まります。
須田:
この時代(舞台は19世紀初頭)より昔ですが,剣と魔法の時代(時代設定は5世紀〜15世紀頃)を描いたゲームの主人公だったら,たとえお金なんか持ってなくても勇者であれば人の家に入って,台所で勝手にものを食べたりとか,宝箱を開けたりできるんですけどね。
関根:
確かに! でも,この映画では,そういうわけにもいかないから,お金を借りなきゃいけないんです。
ただ,この高利貸がどうも怪しい。なんと,お金を貸す代わりに,ファウストの魂を要求するんです。そして契約書に自らの血でサインしろと迫るんですが,ファウストは適当に聞き流してしまう。
須田:
この件は,ファウストのほうが悪魔なんじゃないかと思わせますよね(笑)。
関根:
で,そんな時,出会ってしまうんですよ,少女に。
須田:
おっさんがね,恋しちゃうんですよ。
関根:
博学で,あらゆる知識を掌握している学者であるにも関わらず,女性へのアプローチがまったく分からない。そこでマウリツィウスに,恋の手ほどきを受ける。
須田:
悪魔に女性との話し方を学ぶっていうのも凄いですよね。しかも,教えるからサインしろと言われたら,ファウストは悩んでしまう!
関根:
金を借りるときとは違って,少女への想いと魂は天秤にかける。いやはや恐ろしい。元気一杯な少女の姿というものは,「疲れたときに,すーっと入ってくる」[5]と言いますけど,そんな感じでファウストの心に入り込んじゃったんでしょうね。
須田:
でもこれ,もしかしたら悪魔の仕業かもしれないですよ。我々も常に試されてますよね。部長も,ほら,何枚も同じCD買ってたりしてね,ほら。
関根:
支配人,悪い顔になってますよ。アイドルの話と悪魔の話,一緒にしないでください!
須田:
さて,ファウストは,少女への想いを遂げるために,魂を渡すことに同意するのでしょうか! お楽しみにー!
関根:
なに,無理やりまとめてるんですか!
ゲームが映画に近づいているのか?
それとも映画がゲームに?
しかし,この映画のセリフ回し,一筋縄ではいかないですよね。
須田:
すべてのセリフが哲学的なんですよ。馴染みのないダイアログで,キャラクター達の感情表現が一切共感できないというか。
関根:
なんでしょうか。ほぼ2時間,禅問答を見ているような気分に。
須田:
でも,その世界に慣れちゃうと,流れるようなセリフの洪水が気持ち良くなってくる。
関根:
しかも,この映画はいくつものシーンやカットがあるのに,全体の印象は“止まらない”というか。ドアを開けて,中に入って,またドアを開けてと,ノンストップで場所がどんどん変わっていく感じでした。
須田:
RPGのような感覚で面白かったですね。
関根:
映像の雰囲気も,ソフトフォーカスで,全体がウェットな感じですよね。
須田:
そうそう,ふわーって斜がかかってて。
関根:
最近のFPSなんかでああいった映像多いような気がするんですけど,流行なんですかあれは?
あー,あれは臨場感です。カメラで撮影している雰囲気を出すための演出。
関根:
なるほど。手持ちカメラの揺れる感じもありますね。
須田:
揺れもそうですし,距離感なんかもそうですね。
関根:
それは映画でいうと,ビデオ撮影よりもフィルム撮影のほうが趣があるみたいな感じと一緒ですかね。水戸黄門がフィルムじゃなくなったときの違和感みたいな。
須田:
とくにアメリカは,昔から映画原作のゲームが多いんですが,映画をより娯楽として高めるためのツールとしてビデオゲームが存在していたという側面があるんです。
4Gamer:
ゲーム機の表現力が低かった時代でも,映画のゲーム化という文化は,とくに北米では根強かったんですよね。日本でも有名なところでいうと,「インディ・ジョーンズ」や「スター・ウォーズ」「バットマン」あたりは,さまざまな形でゲーム化されてきました。
須田:
ええ。つまり映画を観て,さらなる没入感をゲームで体験するというサイクルが重視されていたんですよね。だから,より映画に近づける方向で,ビデオゲームの映像表現は進化したんじゃないかと思います。
関根:
なるほど!
話を戻しましょう。この映画の資料[6]によると,ソクールフ監督は,「ゲーテの『ファウスト』から『自由に』作ったことを明示している。さまざまなファウストがあるのは,時代のもっとも尖鋭なテーマを扱うのに,ぴったりの素材であるからだろう。魂と悪魔の誘惑,官能と無垢,試みと遍歴,堕落と救済をめぐりおあつらえのシーンがズラリとそろっている。しかも,ファウストと悪魔というコンビを自在に動かすことができる。」とあるんですが。
須田:
そうなんですよ,基本設定がしっかりして,とても魅力的なので,自由に解釈してもぶれない演出ができるんじゃないですかね。だから原案とはいわれないけれど,多くのゲームにも,その基本設定は受け継がれていると思いますよ。
関根:
さらに,資料に出ているファウストを楽しむためのキーワード[7]。これもまさにゲームのモチーフになりうるものばかりですよね。
須田:
はい,いわゆるヨーロッパ幻想世界のモチーフとなり得るものは,大体この映画に入っていると思います。ゲームで描かれているような世界観を映像化したらこうなるっていうのを,今の若いゲーマーにも観てもらいたいですよね。ゲームでは描けない,より密度の濃い描写をぜひ体感して欲しいです。
それと,取扱説明書を読まなくても出来るゲームっていうのは,すんなり入っていける,掴みがしっかりしているゲームってことなんです。でもこの映画の場合,取説は必要なんだけど,まずは読まないで観ながら理解してほしい作品。頭の中で,シナプスをつなげていく面白さってあるんですよ。もともとのファウストを知らなくても楽しめると思うし。
関根:
結果的には,難しくないんですよね。ただ,セリフだけがいちいち難解だから分かりづらい。
4Gamer:
「新世紀エヴァンゲリオン」みたいな。
須田&関根:
そうかも!
実際,人造人間とか,悪魔とか,しかも純粋な,しかし歪んだ恋物語とか,そういうモチーフも似てますしね。
そうそう,この作品の世界に“生き地獄”というのもありますけど,永遠に終わらないというのは,ゲームでも“地獄”みたいに感じられたりするものですか?
須田:
最近だと「The Elder Scrolls V: Skyrim」(PC / PlayStation 3 / Xbox 360)なんかは,プレイヤーに「これは永遠に終わらないんじゃ」みたいに感じさせるゲームですよね。
あと,「キャサリン」(PlayStation 3 / Xbox 360)も,悪夢の世界……すなわち地獄のような場所から,ひたすら這い上がっていくゲームですし,男女の物語ですから,“生き地獄ゲーム”と言えるかもしれません。
関根:
人によっては地獄じゃないと思いますけど!
えっと,ファウストに話を戻しますが,この作品って,誰が主人公で,何の話が解決したのかすらも,分かりづらいと思いませんか?
須田:
悪魔と契約する人間。本来は,人間はそこで苦しみ,悪魔は笑う。少女はファウストに魅入られることによって,様々な事件に巻き込まれていく。それも本来なら不幸な話。でもそう思っていると,ひっくり返されたり,また元に戻されたりするんですよね。
関根:
ファウストと悪魔が,バディ(相棒)になって話が進むんだけど,本来絶対でなければならない悪魔が,時に人間に翻弄されたりと,すべての物語が表裏一体になって,結局,善悪ですら曖昧になっていくんですよ。だから,見ている側も生き地獄に入ってしまってうような。
「ファウスト」と同時に楽しみたいゲームは,
「シャドウ オブ ザ ダムド」に決定!
須田:
今,話していて思ったんですけど,この映画と対になりそうなゲームが,分かりやすいところにありました。「シャドウ オブ ザ ダムド」(PlayStation 3 / Xbox 360)です(笑)。
関根:
また,ずいぶん灯台もと暗しですね。
須田:
実は僕が最初にやろうとしていた世界って,ファウストに近かったんですよ。もともとフランツ・カフカの「城」を原案にしようと思っていて,さらに人体改造もテーマにして,現代と違うテクノロジーがあって,時代はこの19世紀くらいで,男が城に向かうという設定で。そこから,悪魔の世界に入っていく物語に変わっていったんです。
関根:
しかも,悪魔と一緒に旅をする人間が主人公。そして,女性の幻を追って彷徨(さまよ)うなんて,確かにファウストの世界観に通じるものがありますね。
あと,観てて思ったのは,街並みもシャドウ オブ ザ ダムドに超似てるんですよ。
ゲームを作るときに,チェコのチェスキークロムロフ[8]という街へ取材に行ったんですけど,ファウストに出てくる街並みとそっくりです。
関根:
舞台設定も含めて,見えてくる場所,例えばファウストの家なんかも,こんなマップあったなって感じですね。
須田:
だから,この映画を観て,より深くこの世界に入りたくなったら,シャドウ オブ ザ ダムドをやってもらえれば良いかなと。
関根:
まさに,「観てからやるか,やってから観るか」ですね!
須田:
パクリだけどね!
関根:
支配人が言ったんじゃないですか!
須田:
……このファウストの世界観には,あらゆるダークファンタジーのモチーフが詰め込まれているので,そういった世界が好きな人は,ぜひ映画館で体感してほしいと思います。
関根:
なんでいきなり格好良くしめてるんですか!
須田:
次回もお楽しみに!
「ファウスト」公式サイト
- 関連タイトル:
シャドウ オブ ザ ダムド
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シャドウ オブ ザ ダムド
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(C)2011 GRASSHOPPER MANUFACTURE INC. Shadows of the Damned is a trademark of GRASSHOPPER MANUFACTURE INC. EA and the EA logo are trademarks of Electronic Arts Inc. All other trademarks are the property of their respective owners.
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