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ウェルカム・トゥ・海底都市ラプチャー(バイオショック) / 第1回:これがバイオショックだ!
※お父さんお母さんへ:サブタイトルの“パイレン”とは,水道管,ガス管など配管工事に使われる,パイプを回すための工具,パイプレンチの略称です。
2007年8月に発売されるや世界中で旋風を巻き起こし,ベストゲーム・オブ・ザ・イヤーを含め数々のアワードを獲得したBioShock。そんなBioShockがついに「バイオショック 日本語版」(以下,バイオショック)となって,明日(6月27日)ズーから発売されるのだ。すでに英語版や,ひと足お先に発売された日本語のXbox360版などをプレイした人もいることだろうが,ゲームシステムといい,ストーリー/世界観といい,なにしろかなり風変り。ある種の「慣れ」が必要なゲームであることは間違いないだろう。というわけで,バイオショックに手っ取り早く慣れてもらう本週刊連載「ウェルカム・トゥ・海底都市ラプチャー」の1回目は,ゲームの基本を中心に解説していくことにしよう。ラプチャーへようこそ,みなさん!
バイオショックを覆う世界観はかなり独特なものである。ゲームは1960年に起こったことという設定だが,レトロフューチャーというかスチームパンクというか,実際とはやや異なった方向に技術が発展している世界だ。なんといっても,ゲームの舞台となる「ラプチャー」は,大西洋の海の底に建設された大都市なのである。
遡ること1946年(つまり第二次世界大戦終結の翌年),科学者であり実業家でもあるアンドリュー・ライアン氏は,法律や道徳,あるいは宗教や倫理観といった一切の制約にとらわれることなく,科学者や芸術家が思う存分活動に専念できる理想郷,ラプチャーを建設した。以降,民主主義も共産主義も否定するライアン氏は,エキセントリックで独善的な理念を以てこの都市を治めている。
余談ながら,海底都市の名前である“Rapture”には「狂喜」「忘我」「恍惚」という意味があるが,大きな辞書を引くと,キリスト教の用語として「(空中)携挙」というのが出てくるはずだ。聞き慣れない言葉だが,要するにイエスが再臨する際,神に選ばれた者だけが一瞬のうちに空中に引き上げられ,世界の終末に起きる艱難を逃れられるという意味だ。筆者の個人的な意見だが,ラプチャーはこれを意識して命名されているのではないだろうか。もっとも,ライアン氏は宗教も否定しているため,実際どうなのかは分からない。
バイオショックのゲームモードはシングルプレイのみで,マルチプレイはない。開発したのは2K Bostonと2K Australiaで,ここは「Tribes: Vengeance」や「SWAT 4」を制作したIrrational GamesがTake-Two Interactiveに吸収されて出来たスタジオだ。コンシューマ機版が2K Boston,PC版が2K Australiaという分担になっているが,コアメンバーが定期的に行ったり来たりしているとのことで,どっちがどっちということはあまり関係ないようだ。
エリートの住む隔離された海底都市で,独自かつ急激に発展するテクノロジー。そんな中で偶然発見されたある物質がラプチャーを崩壊させてしまう。それはウミウシから抽出される遺伝子ADAM(アダム)だった。ADAMは人間の遺伝子に作用し,身体能力を飛躍的に向上させる,とんでもないシロモノだったのだ。ADAMをめぐる研究開発競争は激化し,科学者同士の争いだけに留まらず,一般市民をも巻き込んでの抗争へと発展した。かつてラプチャーの住人だった者達は過度の身体改造により精神を崩壊させ,攻撃性をむき出しにした「スプライサー」と呼ばれるモンスターと化してしまった。
ラプチャーが都市機能を失い,崩壊の途上にある1960年のある日,主人公ジャックが乗った飛行機が大西洋沖に墜落する。奇跡的に助かったジャックは小さな無人島に建つ灯台のような建物にたどり着く。内部は無人だったが,彼が入ったとたん,入り口のドアが閉まり,照明が灯される。そこには潜水球のようなものがあり,見えない手に操られるかのように彼が乗り込むと,潜水球は海中へと移動を始めた。
途中,ライアンの理念が語られる短いフィルムが放映され,やがて海底の都市が見えてくる。見事な建造物には煌びやかなネオンサインが灯り,その間をクジラが悠々と泳ぐ。そこには驚異の海底都市が広がっていたのだ。
潜水球はラプチャーの玄関口に到着するが,中は真っ暗。そのとき,なにやら言い争う声が聞こえ,ここで最初の惨劇を目撃するジャック。ラプチャーが決して楽園ではないことを悟ったそのとき,無線機を通してアトラスという人物が話しかけてくる。彼はジャックの脱出の手助けをする代わりに,家族との再会に協力してほしいと依頼する。なすすべのないジャックは,アトラスとの交信を唯一の頼みとして,狂った楽園の探索を始めるのだった……。
とまぁ,こんな感じでゲームが始まるわけだが,灯台島で救助を待てばいいものを潜水球に乗り込んだり,その後,得体の知れない注射器をためらいなく自分に注射したり,なぜかリトル・シスターからADAMを吸い取れたりと,いろいろとツッコミどころの多いストーリーなのである。
世界観/ストーリーも独特だが,それに合わせるかのようにゲーム内容もいささか複雑になっている。本作の基本はFPSなのだが,謎に満ちたラプチャーの探索をしつつ背後に隠された陰謀を暴いていくアドベンチャー風味に加えて,敵を倒して金を貯め,特殊な能力や武器を強化していくRPG的な要素もあり,さらにゲームを有利に進めるためのミニゲームに挑戦したりもする。悪くいえば「ごちゃまぜ」なのだが,良くいえばさまざまな要素が詰まった玉手箱のようなタイトルなのだ。
FPSの割に憶えておくべき要素が多い半面,アイテムは専用スロットに蓄積されるため荷物がいっぱいで新しいアイテムが拾えないといったこともなく,死亡にはペナルティがない(ただし蘇生は所定のヴィタチャンバーという装置で行われる)など,ユーザビリティに優れており,ゲームオーバーも存在しない。ザコ敵は時間とともに無限に湧いてくる仕様なので,やつらを倒していればお金に困ることも少ない。つまり,根気さえあれば,いつかはクリアできる仕組みになっている。
また「RPG的要素がある」とはいったものの,経験値やレベルアップはなく,本作における主人公の成長は,もっぱら武器や特殊能力の入手,あるいはその強化によるものである。
本作の大きな特徴になっている「プラスミド」は,ADAMによってもたらされる特殊能力の一つだ。特殊能力については次回以降でさらに詳しく解説する予定だが,バイオショックでの戦闘では,プラスミドと通常武器の使い分け,あるいはそれらの連携が非常に重要になる。例えば最初に身につけるプラスミド「エレクトロボルト」では,電撃で敵をスタン状態にして,それからレンチで殴り倒すなり銃を撃つなりすれば楽勝である。
もちろん敵を倒すためだけでなく,電磁ロックが壊れたドアを開ける,凍りついた入り口を開けるなど,ゲーム進行上のいたるところでプラスミドが活用される。ただし入手したプラスミドのすべてを常時使用できるわけではなく,専用スロットに入れたものしか使えない。使用するプラスミドは専用の装置で入れ替えられるが,つまり,そこ以外では入れ替えられないので注意が必要だ。
ジーントニックも同じく,ADAMによって入手できる(落ちていることもある)特殊な能力であり,プラスミドとほぼ同系統のものだが,こちらの場合,スロットに入れたものは常時発動しており,プラスミドを使用する際に必要な物質であるEVEを消費することはない。
ウミウシの一種から偶然発見された遺伝物質ADAM。特殊能力のもとになる物質なわけだが,ゲーム中ではギャザラー・ガーデンという自動販売機で,各種プラスミド/ジーントニックを購入するための通貨と思って構わない。一方でEVEという物質も存在し,販売機で買ったり,あちこちで拾える。EVEはライフと同じく,単にプラスミドを運用するためのエネルギーと考えていい。EVEが尽きるとプラスミドも使えなくなる。
とはいえ,ADAMは非常に限られた資源であり,ゲーム中に一定量しか存在しない。ラプチャーの住人にとって命に次いで大事なものだが,そのADAMを抽出できる唯一の存在が「リトル・シスター」なのである。リトル・シスターは注射器を持った少女の姿をしており,体内に特殊なウミウシを宿している。スプライサーの死体から血液を抜き取り,その血液から体内でADAMを精製しているのだ。
リトル・シスターには戦闘能力はなく,ADAMの収集は簡単そうに思えるのだが,実は厄介なことに「ビッグ・ダディ」という強力な守護者を常に連れているのだ。このためスプライサーもリトル・シスターには迂闊に手を出せないのである。両者は共生関係にあり,リトル・シスターはビッグ・ダディに護衛してもらう代わりにADAMを分け与えているというわけだ。両者の来歴は,ゲームを進めるにつれて明らかになっていく。
ビッグ・ダディは非常に危険な存在で,中ボスクラスの戦闘能力を有している。真正面からレンチを振り下ろしたところで勝ち目はほとんどないが,もちろん戦術を工夫すれば倒せないことはない。
運よくビッグ・ダディを倒すと,その亡骸の傍でなすすべもなく泣くリトル・シスターに対し,ハーベスト(収穫)するか,レスキュー(救済)するか,という選択を迫られる。
ハーベストではリトル・シスターの体内からウミウシを取り出し,彼女が持っていたADAMをすべて奪い取れる。レスキューでは,わずかなADAMを吸い取って彼女を人間に戻すことができる。ADAMの数(つまりリトル・シスターの数)は限られているため,より強力なプラスミドを得るためにハーベストするか,あるいは人道的に助けるべきなのか,ここがひじょーに悩ましい部分である。ちなみにアトラスは,リトル・シスターは化け物なので殺してADAMを手に入れるべきだと主張し,2K Gamesの関係者は「どちらが正しく,どちらが間違っているかということはない」とインタビューで答えている。
海底都市ラプチャーには非常に多くの機械/装置が存在し,それぞれが重要な役割を果たしている。代表的なものは各種の自動販売機や,有料で体力を回復してくれるヘルスステーションなどである。またライアン氏の性格なのか,ラプチャーは高度な自動警備システムを保持しており,侵入者に厳しく対処する。監視カメラや,不審者を攻撃する自動タレットなどがその一例だ。
こうした機械/装置類は「ハッキング」により販売価格が下がったり,品揃えが増えたりする。またハッキングで警備システムを味方につけたりといったこともできる。
ハッキングとは要するにミニゲームなのだが,お金を払うことでハッキングが成立する場合もあるし,自動でハッキングしてくれるツールも存在する。
ミニゲームの内容は,さまざまな形状のパイプが描かれたパネルを組み合わせ,ある地点から流れ出した液体を出口に導くよう配管していくもので,説明がなくともやり方は分かるだろ,というほど単純なパズルである。しかしハッキングの対象によって難度が設定されており,それが上がるほど液体の流速が速くなり,お邪魔パネルが登場し,スタート時の配置が意地悪になってくる。ハッキングに失敗した場合は大きなダメージを受けるので,単純ながらも気が抜けないゲームだ。アトラスの話によれば,最もハッキングが難しい相手は金庫らしい。
とくに警備システムのハッキングは戦闘を有利にしてくれるため,壊してしまうのは惜しい。ハッキングを助けてくれるトニックも存在するので,ミニゲームが苦手というプレイヤーはそれらをスロットに入れておけばいいだろう。
以上ざっとバイオショックの基本を解説してみた。文章にすると少々理解しづらいかもしれないが,設定がやや変わっているだけで,システムそのものが難解というわけではない。実際にプレイしてみれば,プラスミドやジーントニックの使い方などはすぐに理解できるだろう。
というわけで,次回は序盤のステージ「メディカル・パビリオン」を実際に攻略しながら,さらに具体的な解説をしていくことにする。来週も,ラプチャーで会おう!
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