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歴史ゲームとは何か? また「EU III」のどこが“ヨーロッパ・ユニバーサリス”であるかについて
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印刷2007/07/31 22:48

レビュー

歴史ゲームとは何か? また「EU III」のどこが“ヨーロッパ・ユニバーサリス”であるかについて

ゲーム起動までのデータ読み込み時に挿入されるイラスト。雰囲気があって良い。ちなみにEU3はBGMもなかなかだ
 7月6日にサイバーフロントから発売された「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII」(以下,EU3)は,前作「ヨーロッパ・ユニバーサリスII」(以下,EU2)から多くのものを引き継ぎつつ,Paradox Interactiveの,歴史ゲームに対する新たなアプローチを形にした作品だ。この記事ではこまごまとした製品の仕様を説明する代わりに,その新たなアプローチの核心部分について簡潔に論評することで,“EU3に何を期待すべきか”をまとめてみたい。

 紹介記事にも示したとおり,EU3は1453年(コンスタンティノープルの陥落)から1789年(フランス革命勃発)まで(さらに拡張パックで以降1820年までをカバー)の全世界を舞台にしたヒストリカルストラテジーゲームで,プレイヤーはこの間世界に存在したあらゆる国でプレイ可能だ。ただし,世界全地域の歴史を同じ調子でおおざっぱに楽しむのが本義の作品でないことは後述する。
 画面が3Dになった,インフレと反乱祭りがだいぶマイルドになったなど,EU2からの変更点を挙げていくとそれなりの数になる。とくに情報表示と操作のインタフェースは劇的に改善されたし,プレイ内容面でいえば「国策」ルールの導入も重要なポイントだ。

三十年戦争のころの世界。ゲーム開始時の画面で時計を進めた場合,その間は史実どおりに世界が進んでいくことになる。それにしても,日本の君主である水野って,早すぎません?


■統治の手幅を広げる新ルール「国策」

国内の反乱を抑止するのに割と便利な権利章典。もっともこれより優先したい国策のほうがずっと多い
 国策は,陸軍/海軍/探検/内政/文化の5分野にわたって存在し,それぞれには6種類ずつ個別の政策が用意されている。これらのなかから望むものを選択することで,特別なボーナスが発生する。
 同時に二つ以上採用することも可能で,その数は国家の「統治」の研究レベルに依存する。国策にはデメリットがないので,多く採用できればできただけ,優位を確保できる。いま採っている国策を捨て,別の策を採用することも可能だが,それをやると国内の安定度が低下するため,統治を研究して追加で採用したほうがよい。ただし,状況によっては大反乱祭りを覚悟で国策を変更すべきときもあって,プレイヤーの見通しと決断力が問われることになる。

 国策が与えるメリットのなかには「安定度上昇コストの引き下げ」「維持できる軍隊の規模を拡大」といった汎用性の高そうなものだけでなく,「探検家・征服者の雇用が可能」「宗教上の敵国すべてに対し大義名分を得る」といった,いかにもこの時代を反映したものもある。
 とくに探検家の雇用は,EU2ではランダム要素が強くて見通しが悪いギミックだったが,EU3では国策という形で完全にプレイヤーの采配にゆだねられることになったわけだ。

左:正当な開戦理由がないと国内は不安定になる。だがこの時点でのイギリスは「国教が敵と認める宗教を信じる国に,自動的に開戦理由を保有」する国策を持っているので,正義の戦争となる。……安い正義である
中:特定レベルまで技術が発達すると,それに応じた恩恵がある。建造できる建物の種類が増えることもある
右:予算を各分野に配分して,国家の発展を目指すのは前作どおり。ただし国家の傾向によって,交易技術の重要性には大きな差が出る


■歴史イベントを排除した歴史ゲームとは?

スパイを使った攻勢を仕掛けられるようになったのもEU3の特徴。たいへん便利かつ強力だが,お金がかかる
 さて。EU3で最も重要な変更点であり,この記事のテーマともなるのが,“歴史イベントをほぼすべて撤廃”したことだ。ここでいう歴史イベントとは,特定の日付が来たとき,一定の条件が満たされていたら,史実をベースとした特殊なイベントが起こるという,おなじみのアレである
 EU2であれば「フス戦争」が起きたり,「ジャンヌ・ダルクが登場」したり,「阿国歌舞伎が流行」したりするのは序の口,薔薇戦争でイギリスが大混乱に陥ったり,ルターやカルヴァンの宗教改革運動でヨーロッパ全土を巻き込む騒乱が始まったりと,文字どおり人知の及ばぬ歴史のうねりの真っ只中に,プレイヤーを投げ込むシステムであった。

 これはゲームの持つ“歴史性”を大いに高め,独特のフレーバーを与えていた半面,「世にイベントとフラグがある限り,プレイヤーは必ずそれを悪用する」という問題点も抱えていた。
 そもそも歴史性は,あらゆるヒストリカルストラテジーゲームにとって,一つの鬼門である。ボードストラテジーゲーム業界で名高いデザイナー 高梨俊一氏の発言を引くなら「史実を知った人間の行動の結果と,史実を知らない人間の行動の結果が同じになるとしたら,おそらくそれはシミュレーションゲームではない」という,身もフタもない問題提起となる。
 Paradox作品伝統の,強烈な歴史イベントの数々は,プレイヤーに歴史を追体験させる推進剤となってきた。しかしプレイヤーは史実がどうなったかを知っており,当然ながら決してその轍を踏もうとはしない。
 同社従来作品ではここで,後世の人間から見て賢明と思われる判断がなされても,歴史の罠からは逃れられないようにイベントを組んで,それを独特の作風としてきた。だがこの方法では,「結局なるようにしかならないなら,ゲームをプレイする意味って何だろう?」という疑念が常に残るし,そこでルールの穴を探しまくって成らぬものを成しえたとしても,ますます疑問を深めるだけの場合が多かった。ゲームプレイを極限まで突き詰めていくと,歴史を再現するためのイベントやルールが,歴史ゲームの存在意義を破壊してしまうのだ。

 そもそも歴史イベントには,もっと基本的な問題もある。プレイヤーは,史実で起きた事件に至るまでのその地域住民が感じる漠然とした空気や,ゲームが始まる百年も前からの因縁などを知らない場合も多い。だが歴史イベントは,社会全体のベクトルが史実と同じ方向を向いていることを前提として発生するため,しばしばプレイヤーにとって寝耳に水の展開となるのだ。

 1494年 サヴォナローラの改革
 1517年 95か条の論題
 1524年 ドイツ農民戦争
 1546年 シュマルカルデン戦争
 1555年 アウグスブルクの和議
 1562年 ユグノー戦争
 1598年 ナントの勅令
 1618年 三十年戦争

 試みに上記の年表を見ていただきたい。これらの事件は,いずれもEU2のプレイにおいて一大事なのだが,多くの日本人にとって,あまりなじみのないものだと思う。これらの事件のうちいくつかは,現代でいえば9.11テロのように,ほとんどの人にとって唐突だった。だが,いくつかは起こるべくして起こった事件であり,そこで事件の当事者ともいえるプレイヤーが「そんなことが起こるなんてとても予想できない」のは何かが変なのだ。

このようなランダムイベントが頻発するのは前作のとおり。多くはすべての選択肢で悪影響というもの


EU3において,AIは全体に厳しい条件で外交交渉に臨む。勝てるという確信があるなら,こちらも強気でいかないと大損する
 これらの問題に対してParadoxが採った方針が,「歴史イベントの排除」であったといえる。EU3において,歴史的な事件は固定されておらず,世界全体の動向からゲームが自動的にイベントを生成する。これに伴って,歴史的な名君や名将軍が特定の時期に必ず登場するとは限らなくなったし,国ごとにAIが存在していて歴史的な行動をなぞるといったギミックも廃止された。
 結果としてEU3は,EU2とは完全に別のゲームになったという見方もできる。史実では戦争をしなかった隣国だからといって,適切な外交が欠けていたり,大きな隙を見せたりすれば容赦なく襲いかかってくる。プロテスタントの運動がヨーロッパのどこで始まるかすら特定されておらず,フランスが新教徒の総本山になることすらあり得るのだ。
 年表を正確になぞるという意味の歴史性が失われた半面,プレイヤーの立場に関する問題はだいぶ改善された。プレイヤーはいまプレイしているEU3における歴史を,前もって完全に知ることはできない。EU3は「歴史の推移を完全に知っているとはいえないプレイヤーが,それをまったく知らない国王達を演じる」状態にあり,プレイ内容とプレイヤーの立ち位置との距離は縮まった。

 ただし,大規模な改変ゆえ,すべてがうまく機能しているとは言い難い。国別でなくなったAIはしばしば功利主義にすぎるし,歴史そのものが大胆に抽象化され,歴史的指導者も排除された結果,国家の個性がいま一つ感じられなくなったという問題もある。地政学的位置と国教の違いを除くと,すべての国は等しくサバイバルレースの出場者ですと言われているような感じで,こうした問題については,パッチによるバランス修正や追加データに期待したい。またMOD開発もすでに盛んに行われており,そういった活動に参加していくのも,確かにParadox作品の楽しみ方ではある。

歴史イベントが完全に存在しないわけではないが,ありようはだいぶ変わっている。特定の年代になることよりも,世界全体の状況やプロヴィンスの占領状態がこの種のイベントの発生フラグになっているようだ


■“ヨーロッパ”・ユニバーサリスの最新作として

二大聖地を支配するイギリスの信仰的優越を認めようとしない枢機卿には,個人的なお話し合いでご納得いただくことになる
 そんなわけでEU3は異端児なのだが,その一方でParadox製品としての特徴を色濃く持ち続けている。これだけシステムをいじったにもかかわらず,EU3はれっきとした「パラドゲー」である。どのあたりがそうかというと,モチーフとその扱い方だ。
 EU3が抱える一つの重要なテーマは,「欧州によるヘゲモニー」である。製品名をもう一度思い出してみてほしい。ヨーロッパ世界の普遍化/世界化こそが,このゲームのテーマなのだ。

 EU2は宗教改革の萌芽(フス戦争)に始まり,全ヨーロッパ的な国民国家の成立(ナポレオン体制の崩壊)で幕を閉じる。つまり宗教と国家の関係を問うという構図を持っていたのである。これに対しEU3は,ローマ帝国の完全な崩壊(コンスタンティノープル陥落)に始まり,ヨーロッパの伝統の崩壊(フランス革命)で幕を閉じる,政治的サバイバルレースといえる。拡張パックでナポレオン戦争もカバーされるわけだが,近代国家の成立をどう見るかという論点の問題であって,そこは変わらない。
 実際,EU3においては宗教や人道のための国家が,宗教や人道を建前にする国家に食われていくという展開が待ち受けている。ローマ教皇の支持を得ることも,神聖ローマ帝国の皇帝に就任することも,新教を国教として受け入れることも,ゲームプレイ上すべては方便であって目的ではない。そこに明白な利益があるから,国家はその利益に向かって前進するのだ。そうでない国家は,ただただ食い物にされるだけなのである。このシニカルかつ大胆な抽象化は,Paradox作品ならではの手際だ。

左上:宗教的寛容度を決定する画面。世界のすべての宗教に対し寛容であることはできない
右上:黄緑色はオスマン帝国。超大国という言葉がふさわしい広大さだが,すでに張子の虎化は始まっている。だが単独で決戦をふっかけても,最終的な損益は黒字にならないだろう。なので放置
左下:戦争には技術と士気が重要。といっても,技術による格差はEU2ほど露骨ではない。それでもこういう結果はよく出るが
右下:画面そのものはシンプルだが,戦闘に加味される要素は増加している。戦闘結果決定のために振られたサイコロの目が表示されていることに注目


神聖ローマ皇帝を兼ねるイギリス国王。なんともトンデモな絵ではある
 この思い切った抽象化は,なかなか巧みに歴史性を演出することに成功している。例えばイギリスでグランドキャンペーンをプレイしてみたときは,最終的に旧教国筆頭にして神聖ローマ皇帝位を有し,教皇に寵愛されるイギリス(!)が,プロテスタントの守護者であるフランス(!!)と,堅固な同盟を成立させた状態でワン・ツーフィニッシュを迎えた。
 これだけ書くと,「それのどこが歴史性の演出なんだ!?」という疑問が続出すると思うが,注目すべきは個々の実名性ではなく,勢力と勢力との関係性と因果関係なのである。

 グダグダの中部ヨーロッパ情勢に介入しても利が薄いイギリスは,新大陸およびアフリカでの殖民(というか原住民国家殲滅作戦)遂行のため,どうしても国際的評価が落ちる。また戦域が広いため,兵数の維持が困難になる。前者への対策として教皇庁とのつながりを維持し(悪評が減衰する速度が上がる),後者への対策として神聖ローマ皇帝の座を死守した。神聖ローマ皇帝になると動員できる兵士数が増えるのである。
 そのイギリスに向かい合うフランスはといえば,主にドイツ方向に領土拡張を続けていたため,ドイツでは主流にならなかったプロテスタント(!!!)を国教として採用,旧教徒の多いドイツの小国に,新教徒救済を名目とした戦争をふっかけ続けることで領土を拡張し,影響力を強めていった。
 イギリスは新大陸におけるカスティーリャ(スペイン)との戦いを優位に進めるため,フランスと同盟するメリットがあった。そのカスティーリャは旧教国で,フランスはカスティーリャと直接国境を接しているので,新大陸での火種が燃え広がることはイギリス・フランスの双方にとってメリットだ。
 一方フランスにしてみれば,ドイツのカトリック諸州を攻撃するに当たって,カトリック勢力中最強を誇るイギリスが戦争に介入しないことが確約されるなら,大きなメリットとなる。イギリスから見ても,宗教戦争の火事場泥棒に参加して大陸ヨーロッパでの直接支配領域を増やせるなら,おいしい話だ。

 進行した事態こそ史実から遠く離れているが,各国が取り結び,織りなす関係性,それを決める政治力学こそがヨーロッパなのである。むしろ信仰が異なる相手とのほうが手を組みやすいとか,敵対関係にしたいから別の信仰を選ぶとか。このなんとも不思議な歴史性は,少なくとも従来作品にない面白さといえるだろう。

左上:アメリカを分離独立させたところ。国際的評価が大幅に悪化しているときは,新たな属国を作成すると評価を回復させられる
右上:エルサレムとメッカを支配するイギリス。薄緑はティムール帝国の領土。オスマントルコとの緩衝地帯になってもらっている
左下:イギリスの盟友たるオランダとフランスが対インカ戦争に相乗り。……ひどい構図だ
右下:コンキスタドールならぬコンクエスター。カスティーリャが早期に欧州の戦争に巻き込まれた結果,彼らの南米進出はなかった


■スタイリッシュな即興劇こそが魅力

エンディングでは歴史書風に「このゲームにおける,担当国家にとっての史実」が表示される。ブリテン侵略戦争と書かれているものは,名称とは裏腹にイギリスが仕掛けた侵略戦争
 そんなヨーロッパの内部事情が各地に輸出され,世界各国のあり方を規定していく時代を描くからこそ「ヨーロッパ・ユニバーサリス」なのである。アジアやアフリカの国々を選ぶこともできるが,本作が持つ政治力学の面白さと奇妙な説得力は,やはりヨーロッパ情勢に尽きると言わざるを得ない。
 「歴史は好きだけどヨーロッパ史は詳しくなくて……」と言われると少々困ってしまうが,上記のようにEU3は「正しい歴史」を知らなくても,国家として,今を生き延びようともがくだけで十分楽しく,かつ一定の合理性を持った展開が期待できる。プレイに年表は不要,というかたぶん年表を見ないほうがより楽しめるだろう。EU3において,年表にまとめられた史実は,そうあったかもしれない可能性の一つに過ぎない。

 煮えたぎった魔女の釜のような中部ヨーロッパの混沌,それを遠巻きに眺めてチャンスを窺いつつも,自国内にまでその混乱の余波を持ち込まれたくはないと思っている周辺大国の思惑。ヨーロッパを捨てて新大陸やアジアの利権を漁る野心家達の蛮行と盛衰。外交的・宗教的・軍事的ワイルドカード(ただしタイマー付き)としてのオスマントルコなどなど,楽しむべき要素はさまざまな方向に広がっている。
 華やかで,かつ一寸先は闇に包まれた世界において,なし得る限りの努力を試みる。ときには偉大な勝利をおさめ,ときには後世の歴史家に愚行と罵られる失態を犯す。そんなプレイが自然に成立するのが,EU3なのである。(アトリエサード 徳岡正肇)

左:まだ原住民が残っている土地(考えてみればずいぶんな言い方だが)に対しては,EU2と同様に軍隊を派遣して原住民を殺戮するという選択肢もある。総じて言えば,そのほうが殖民するのには楽だ。このゲームの気まずい側面である
右:殖民を行うには,入植者はもちろん費用と時間も必要になる。原住民の反乱が起こると入植地は大きな被害を受ける。反乱対策としては……選択肢はただ一つ,軍事的解決だ
  • 関連タイトル:

    ヨーロッパ・ユニバーサリスIII【完全日本語版】

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