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印刷2008/03/12 12:13

連載

ゲーマーのための読書案内
舶来思想と,古代日本における正統/異端 第36回:『道教をめぐる攻防』→中国ファンタジーモチーフ

 

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『道教をめぐる攻防――日本の君王、道士の法を崇めず』
著者:新川登亀男
版元:大修館書店
発行:1999年6月
価格:1890円(税込)
ISBN:978-4469231533

 

 今回紹介するのは,大修館書店の『道教をめぐる攻防――日本の君王、道士の法を崇めず』だ。中国,朝鮮半島経由で仏教を受容した日本に,なぜ道教が根付かなかったのかを,古代政治史と比較アジア史を専攻する新川登亀男教授(早稲田大学)が追求した本である。

 中国,韓国,日本。それぞれの在来文化は長年の相互交流によって共通する部分(漢字がある程度読めるとか,仏教があるとか)が多いものの,もちろん固有の要素も大きい。外から見るときっと分かりづらいのだと思うが,まるで違う習俗も多いことは,我々日本人にとって常識だろう。
 中国と韓国で共通しているのに,日本にまでは届いていない文化も多く,そのなかで我々ゲーマーがつとに感じる例といえば,武侠世界と,道教ベースの中国ファンタジー世界だ。日本が後者を共有しないことになった経緯と背景を,記録に即して説明してくれるのが本書なのである。

 聖徳太子や法隆寺で知られる飛鳥時代,日本にはすでに仏教が伝わっていたわけだが,その仏教の中身は中国のものに似て,道教/神仙的要素が混淆されたものだった。そして,そうした文化の母胎となったのは,有力な皇子や豪族のもとに展開された,サロン的な人脈である。
 ところが,壬申の乱を制して即位した天武天皇以降,皇親政治を抑制して天皇/皇后の地位を高め,実質的な家産官僚制を目指す流れの中で,前述のサロン的人脈は否定されていく。隋/唐から律令制を積極的に取り入れ,根付かせる努力が続く一方で,道教については最新の知識と技術こそ逐次受け入れるものの,宗教の中心は日本流の統制が加わった(つまり,天皇および朝廷と手を携える形の)仏教に落ち着いていく。
 道教的知識と技術を中心とした陰陽道は,特定家産官僚=貴族の担当分野として整理され,仏教との混淆も排除されていった。

 その結果が,西暦753年における遣唐使と玄宗皇帝(唐)との交渉に出てくる「日本の君王,道士の法を崇めず」という言葉として現れる。鑑真を日本に派遣する条件として,玄宗皇帝は道士も一緒に派遣することを主張する。唐王朝の皇帝が「李」姓であり,春秋戦国時代の思想家・老子も李姓だったことから,唐王朝が道教の振興を強力に推し進めていたことの反映である。これが,中国で道教が有力になる一つの要因でもあった。
 ところが日本から来た遣唐使は,さきほどの言葉を発してこれを謝絶し,代わりに日本人に道教を学ばせて帰国させるという方法を提示するかたわら,鑑真には密航を示唆して,これを実現してしまう。かくして,百済から来た仏教と異なり,中国から日本に道教が「公伝」することはなかった。

 著者は,天皇の権限が拡大され,律令制という名の官僚制が整備されていく日本の建国過程において,舶来の最新知識たる道教を武器にしようとしたのが主として有力皇族であり,そうした人物がそのたびに排除されていく過程として,日本と道教の関係史を描き出す。
 「なぜあるのか」に比べ,「なぜないのか」は格段に立証が難しい命題であり,また関連史料に恵まれているともいえない(日本史の常識として,例えば「続日本紀」以前の編纂物は,古記録としての信頼性を欠くと見なされている)なかでの大胆な推論は,なかなか評価が難しいとは思うのだが,「唐大和上東征伝」に基づく遣唐使の言葉だけでも,道教をめぐる日中の態度には753年時点で,すでに大きな隔たりが見いだせるのである。

 前述した陰陽道や,それを教理の一部に持つ修験道,加持祈祷,あるいはそれらの影響下にある民俗行事といった形で,道教的知識はその後も伏在し続ける。だが「北斗七星」やら「朔」(さく。ついたち)やらと言われても,現在の日本ではそれが道教に関連した概念であることすら,意識しないのが普通である。そして,道士と名乗って神仙境に遊ぶ人物を,日本社会は一部の説話を除いて持ったことがない。このあたりの違いこそ,我々が中国ファンタジーを“エキゾチック”に感じる理由である。
 そうした違いを意識しつつ,まさしく外国の神話体系をモチーフとしたゲームとして,中国ファンタジー作品を楽しんでみるのもよいだろう。

 

「急々如律令」という決まり文句の立場は……

「キョンシー」にでも聞いてあげてください。

 

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■■Guevarista(4Gamer編集部)■■
無駄な読書の量ではおそらく編集部でも最高レベルの4Gamerスタッフ。どう見てもゲームと絡みそうにない理屈っぽい本を読む一方で,文学作品には疎いため,この記事で手がけるジャンルは,ルポルタージュやドキュメントなど,もっぱら現実社会のあり方に根ざした書籍となりそうである。
  • 関連タイトル:

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