連載
著者:北韓研究学会(北朝鮮研究学会)
訳者:石坂浩一
版元:岩波書店
発行:2007年12月
価格:777円(税込)
ISBN:978-4004311072
この連載ではなるべく読んで面白い本を紹介していきたいのだが,その条件を充たさないけれど有益な本というのもあって,人生なかなかうまくいかないものである。そんな,言い訳じみた前口上から入る今回,紹介するのは岩波新書の『北朝鮮は、いま』だ。
核実験の実施以後,アメリカの外交姿勢が大きく変わった影響なのか,このところ北朝鮮関連の報道は低調な気がするものの,我々の多くは相変わらず“北朝鮮問題”ばかり聞かされていて,北朝鮮そのものについてはほとんど知らないままだと思う。それに対してこの本は,まさしく北朝鮮そのものと向き合わねばならない韓国の,「北韓研究学会」のメンバーによる考察を,まとめて翻訳したものだ。
その題材は,政治体制,パワーエリート,核開発,経済改革,医療,文学,価値意識,女性などと多岐にわたり,いまこのときも変化し続けている北朝鮮の姿と今後の見通しを,それぞれのテーマに沿って論じている。
学者さんが書いた原稿が大半だから,という言い方も失礼かもしれないが,臆断や安易なまとめを排した文章はあまりメリハリが利いておらず,正直言えばあまり読みやすくはない。しかし,我々がふだん考えてもみなかった側面から,ベールに包まれた北朝鮮のさまざまな情報を伝えてくれる。
「主体思想」が形骸化して棚上げされる一方で,「先軍思想」が強調され,威圧的な外交スタイルを中国にすら向ける北朝鮮が,高濃度圧縮ウランを必要なだけ生産できる可能性はほぼ皆無だが,2006年時点で最大43±10kgのプルトニウムを保有し,これは4〜10発の核爆弾を製造できる量と見込まれる。その一方で無償の公的医療は崩壊状態,経済は市場の役割を強調する改革が進行中ながら,貿易における対中依存が深まっている。そして,公的イデオロギーの強調にもかかわらず,党員になる物的メリットが低下し,人々は精神でなく物の豊かさに注目した生活感覚を養いつつある。
ペースの問題はさておき,1980年代末に起きた共産圏の崩壊に伴う,あらゆる生活物資の危機的な供給難「苦難の行軍」の時期を越えた北朝鮮は今後,中国流の改革・開放路線か,韓国の1960〜70年代に見られた動員経済体制を通して,経済建設に向かうと見られている……。
どうだろうか? 極めておおざっぱな抜粋にすぎないが,正直筆者Guevaristaとしても,北朝鮮についてはこの程度のことすらよく知らなかった。六者協議や核実験の経緯から窺える北朝鮮/中国関係にしても,「おいおい,周恩来の『血で固めた友情』発言はどうなったんだ?」くらいにしか認識できないでいたわけだが,当然のことながら北朝鮮も中国も,常に変わり続けているのだ。
しかしまあ,一方でPCゲームにおける北朝鮮の描かれ方を見ていると,ベールに包まれているのをよいことに,えらい言われようだなあとも思う。システムソフト・アルファーの「現代大戦略200X」シリーズがあえてネタにしてきた事柄についても,「北朝鮮がミサイル開発を進める」→「防衛庁(現・防衛省)がそれをネタに騒ぐ」→「マスコミが騒ぐ」→「ゲームのネタになる」と,4段階くらい踏んでいるわけで,週刊誌的話題として消費されることを見込んだ形になっているわけだ。また,「クライシス」における北朝鮮軍の活躍(?)が,イランと並ぶ貴重な「悪の枢軸」として,アメリカの外交姿勢を借りてきたものであることは疑いあるまい。
仮想敵国から地理的に離れたアメリカでこそ有効なミサイル防衛計画に協力させられてみたり,拉致被害者問題を北朝鮮とアメリカの双方に政治的カードとして使われたりと,とかく日本の北朝鮮外交,基本的な北朝鮮観は,アメリカバイアスの下にある。やむを得ない面もあるとは思うが,安易にデーモナイズする前に我々は,日本海を挟んだ隣国である北朝鮮について,もっと知っていてしかるべきではないだろうか。
翻訳書の悲しさもあって,この本の主要部分は2006年秋までの情勢をもとに書かれており,新刊にもかかわらず情報がやや古いのだが,2007年中の情報は監訳者である石坂浩一氏の手によって,ある程度補われている。
ちなみに出典となる『プレシアン』は,韓国の有力なWebメディアだ。それがこうして一度本になり,またまたWebメディアで紹介されるという経緯も,考えてみれば面白い。
再三述べているとおり,本書は決して読みやすいとはいえないし,情報が限られているためか分析手法にも,ときにおぼつかない部分が散見されるが,いきなり偉そうに「北朝鮮をどうするか」を論じるのでなく,トンデモぶりを無駄にあげつらうのでもない「まっとうな」本として,手に入れやすく良質な存在であることは間違いない。
社会主義と女性解放は,必ずしも相携えないものです。
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