連載
高級感あふれるお手軽3DCGを突然作ってみたくなったので,高級感あふれるお手軽3DCG景観作成ソフト「Vue」に挑戦(「買い物Surfer」第3回)
20代の頃の私は,不規則かつ不浄な生活によってイカれた副交感神経や,幼少時からこじらせてきたコンプレックス,思春期から大事に育ててきた厨二病からくる,不安定極まりない情緒に翻弄される日々を送っていた。当然,口癖は「あーもーこの世からきえてー」であった。
そう,私はもう四半世紀以上にわたって「ここではないどこか」「誰もいないどこか」……そんな安住の地を求め続けている。37歳にもなって。
さて,そんなフロンティア精神あふれる私の関心が「宇宙」に向けられたのは,ごく自然な成り行きといっていいだろう。ガス惑星の気持ち悪さはハンパないので,地球から最も近い岩石惑星を探してみたところ,ちょうど両隣にある「金星」と「火星」がそれに当たる。さっそく,それぞれの星の間取りや駅からの距離などについて調べてみたい。
【金星】
・太陽に近い方から2番目の惑星である
・地表温度の平均で400℃、上限では500℃に達する
・二酸化硫黄の雲から降る硫酸の雨が金星全体を覆っている
・有毒なほど高濃度の二酸化炭素が、大気の大部分を占めている
・水は、ほぼ完全に存在しておらず、大気は酸素が薄い
・大気圧は非常に高く地表で約90気圧ある(地球での水深900mに相当)
【火星】
・太陽に近い方から4番目の惑星である
・平均表面温度は-43℃で、最低温度は-140℃である
・生理学的に見れば、火星の薄い大気は真空同然である
・火星表面に液体の水の存在は確認されていない
・火星の磁気圏はとても弱く、太陽風を防ぐのに十分ではない
・火星は(他の惑星と比較して)かなり生命の生存に適した条件にある
(Wikipediaより引用)
やめやめ。宇宙の居住性のがっかりさには本当がっかりした。
絶望しかけていた私が最後の望みを託すのが,e-on softwareから発売されている3DCG景観作成ソリューション「Vue」である。……読者の皆さんも,いささか無理のある展開に呆然としているかもしれないが,今しばらくの辛抱だ。
3DCG景観作成ソリューション「Vue」
現在,「Vue 9」の日本語版がイーフロンティアから発売されている。グレードが5つ用意されており,最も安い「Vue 9 Esprit」で2万3800円,真ん中の「Vue 9 Complete」は7万1800円,最も高い「Vue 9 xStream」になると14万9500円(※オープンプライス)もする。まあ,さすがに私のように,冗談みたいな動機で買うには少々お高いソフトといえよう。
そんなわけで今回は「ククク……やつは五天王の中でも最安……」といわれているVue 9 Espritをつつがなく購入してみた。私が購入したときはAmazonで1万8480円(※時期によって変動する模様)だったが,それでも単なるおふざけで買うには,少々値が張るものではあろう。
もう少し込み入った話をすると,私は以前,同じくイーフロンティアから発売されている「Shade」という3Dソフトを軽い気持ちで購入し,即日挫折したという,みっともない過去を持っている。今回はリベンジも兼ねてVueに挑戦し,なんとか“それっぽい3DCG”を完成させてみようというわけなのだ。
もし私が挫折せずにゴールまで辿り着き,その時それっぽいCGが完成していたなら,「Vue」は素人でも案外なんとかなる製品として太鼓判を押せるソフトと言えるだろう。私の太鼓判にどれくらいの価値があるかは,読んでいるあなたのネットリテラシー次第だ。
■起動画面
ともあれ,インストールしてさっそく起動してみると,表示されたのは4分割された無機質な作業ウィンドウと,隅っこに並ぶアイコン類。この,いかにも本格3DCGアプリケーションらしい一見さんお断りな画面。3DCG作成に関する知識や技術については限りなくゼロに近い私からすれば,たちどころに挫折しそうになる破壊力を秘めているではないか。
軽いめまいや動悸を堪えつつ,まずは,ものすごく簡単なところから始めてみたい。
■大気(空)を選んでみる
Vueは基本的に「空と地面」の構図から始まるので,なんというか非常に話が早い(もちろん構図はどうにでも変えられる)。
さて,まずは空だ。Vueにおける「大気」とは,霧や埃など空気中の状態も含まれるが,とりあえず今は大まかに,空のこととしよう。
最も安い「Vue 9 Esprit」でも,大気のテンプレートは大量に用意されている。この大気テンプレートを選ぶことで,簡単に空と大気の状態を変えられる。
余談だが,編集部のiriguchiがマスクもせずにゴホゴホいっており,向かい席のyusuke(変態)が「iriguchiさんの桃色吐息が僕の体内で躍動してるよ! 身体が熱い……これは恋!?」などと言って憤慨しているが,私もどちらかというと風邪をひきたくない。そこで暖かい気候の大気を選べば,あっという間にトロピカルな雰囲気になる。
なお,この手の3DCGソフトウェアは,扱うのにさまざまな知識や技術が必要だが,そういった難解な要素の一つに「ライティング」というものがある。光源の数,位置や性質などをこと細かに決めて発色を生み出すわけだが,Vueの場合は「空」そのものが光源の役割を果たしており,すげー楽。もちろん,個別のライトを呼び出しての高度なライティング設定も可能だ。
大気テンプレートの内容をもう少しいじりたい場合は,「大気エディタ」を覗いてみよう。ここは主に「大気モデル」と「太陽・光源・雲・天空・霧ともや・効果」などの各種設定項目で構成されている。4種類の大気モデルには以下のような性質がある。また「太陽・光源・雲・天空・霧ともや・効果」の各項目では,それぞれの要素について数値による細かい設定が可能だ。「霧ともや」って人の名前みたーい。ともや。
・標準大気モデル
色,雲のレイヤーなどを直に設定して,「一枚絵」のようなシンプルな空を作るタイプ。直接的なデザインが可能,レンダリングが高速,扱いやすいといったメリットがある。
・ボリュメトリック大気モデル
「標準大気モデル」と「スペクトラル大気モデル」の中間に位置するタイプ。そこそこの手軽さ,そこそこのレンダリング時間,そこそこの写実性。ということでアニメーション制作にそこそこ適したモデルのようだ。
・スペクトラル大気モデル
太陽,雲,大気など,それぞれの状態を元に物理計算し,そのシミュレーション結果を「大気」として出力するタイプ。計算に時間がかかるものの,写実的で動的な大気を描き出せる。例えば,太陽の位置が高ければ昼,地平線スレスレなら夕暮れ,地平線より下なら夜の空を,自動的に生み出してくれるのだ。
・環境マッピングモデル
ええと,どうやら上の3つとは根本的に異なる特殊な技術。例えばデジカメで撮った写真の上に,3Dモデルの金属球を置いてみる。そこで「環境マッピング」を用いると,あたかもデジカメ写真が3Dモデルで構築したオブジェクトであるかのように,金属球の表面へリアルに映り込むのだ。ええと,具体的な使い方は,また今度。
■地面または水面を置いてみる
「大気の読み込み」から適当な空を選ぶ方法は分かったので,次のステップに進もう。平坦な「地面」または「海面」は,とても簡単に設定できる。
最初からある真っ平らな「地面」オブジェクトに,それっぽい「質感」というものを読み込んでみた。最悪これだけでも,地面と言い張れるんじゃーないだろうか。
もうちょっと起伏のあるリアルな地形が欲しい場合は,画面左のボタン群の中から「直接生成地形」を選んでみよう。ボタンをピッと押すだけで,それっぽい地形をランダム生成してくれるのだ。地形の種類も最初からいろいろ用意されている。
やだ,私ったらすでにWindowsのデフォルトの壁紙っぽいレベルのものを作れるところまで来ちゃってる……? ここで満足してもよかったのだが,それはつまりWindowsのデフォルトの壁紙っぽいものを2万円で購入したのとほぼ同義となる気がしたので,もう少し高みを目指したい。
「直接生成地形」では,ほかにもいろいろな地形を直接生成できる。
「地形エディタ」という機能もある。これは自動生成ではなく,ペイントツール風に自分で地形を造るためのエディタだ。私は今回はちょっと触っただけでそっと閉じたが,扱いに慣れれば,完全に思い通りの地形をも造り出せるのかもしれない。
「海面」の呼び出しは,画面左のメニューから「海面」を選ぶだけ。これも「質感」が豊富に用意されているので,いろんな海を作成できる。「水面設定」で波を起こすことも可能だ。
なお,水は鏡面反射の効果を持っており,空とかが映り込むため,地面よりもレンダリングに時間がかかる。
■質感
地面や海の質感に関する話が出たが,そう,Vueには「質感」という便利な要素があるのだ。
これは3Dオブジェクトの性質を構成する“テクスチャ”とか,“マッピング”とか,その他とか,とかとか,そういったものを物質とか物体ごととかにまとめたものだ。オブジェクトに「金属」の質感を読み込めば,そのオブジェクトは金属になるし,「透明な水」の質感を読み込めば透明な水になる。
■オブジェクトを何か出してみる
「Vue 9 Esprit」には,かゆいところに手が届くというほどではないが,結構な数のオブジェクト(小物)が収録されている。これらを並べて飾るのだ。
・草木 / 岩石
同じ木を何本も呼び出すと,枝の位置や形など,自動で全部ちょっとずつ形が変わる。すげー。Vueでは,まったく同じ形状の木がズラリと並ぶ不自然さを簡単に回避できるのだ。「岩石」なども,毎回異なった形状で読み込まれる。
・球体
シンプルな球体や三角錐などといった幾何学的なオブジェクトもある。自然の景観には必要ないかもしれないが,3DCGのデモンストレーションには欠かせない素材だ。あえて不自然に配置してみることで神秘的な感じを出せるのではなかろうか。
・EcoSystem
Vueの画期的かつ強力な機能「EcoSystem」は,「Vue 9 Esprit」でも限定的ながら使用可能だ。
EcoSystemとは要するに,例えば「森」を作ろうとした場合,特定のエリア内に木々を自動分布してくれる機能である。もちろん1本ずつ異なった形状で,自然に分布してくれるので,手動で1000本とか1万本の木を配置していくような苦労は一切必要なく,簡単に森を作り出せるのだ。同様に芝生や砂利を大量に生成したり,道路の上に自動車を1台ずつ大量に並べたりといった,手動でやると悪夢のような作業がEcoSystemでなら簡単に行える。
「Vue 9 Esprit」では,用意された何種類かの「質感」または「レイヤー質感」が使用可能だ。より上のグレードである「Vue 9 Studio」「Vue 9 Complete」なら,質感を編集可能なモジュールを標準搭載しているので,かなり思い通りの質感でEcoSystemを利用できるんだろうな,きっと。
この「EcoSystem」の“編集機能”は,拡張モジュールを追加購入すれば「Vue 9 Esprit」でも使用可能になる(Espritより上位バージョンの製品には標準装備)。ちなみにEcoSystemは99ドルで,拡張モジュールはEcoSystem以外にもいろいろ用意されている。
・「オブジェクト」の追加方法
収録されているオブジェクトだけではどうしても物足りないという人は,作れる人は自分で作ってしまうのが一番だが(さすがのVueにも3Dモデルの作成ツールはない),作れない人はお金で解決するという方法もある。「Cornucopia3D」というサイトでは,Vueで使える建物データや自然物データなどが多数販売されているので,利用してみるのもいいんじゃないかと。
■カメラ位置を考えてみる
カメラは360度,自由自在だ。どんなゲームでもこれくらい自在なカメラワークが可能なら,ナミさんや蛇姫様のパンチラに苦労することはなかったことを思うと感慨深い。4画面分割は,カメラの調整に便利なのだ。
大自然の絵を作りたければ,どこまでも思いっきりカメラを引けばいいし,逆に1台の自動車をレンダリングしたければ,被写体にぐっと寄ればいい。そのあたりはカメラの位置次第でどうにでもなる。カメラはどんどん追加できるので,作業用とレンダリング用とで分けて使うと便利かもしれない。
■レンダリングしてみる(ゴール)
いよいよ,3DCGの仕上げ作業「レンダリング」に取りかかる。
作業画面の味気ない3DCGが,あくまで作業用の仮のものであることは,皆さんもお気づきだろう。
配置されたオブジェクト,大気設定,ライティング,カメラなど,さまざまな情報を総合的に計算して,完成された3DCGとして画像化する処理が「レンダリング」である。レンダリングでは精細な画像を出力できるが,基本的には時間がかかる。画像の内容やPCスペック次第では,数時間から数十時間を要することもある。
まあ実際は,作業中に“仮レンダリング”を何度も行うことになるだろう。軽めの設定で,とりあえず簡単に画像を出力して出来映えを確認するのだ。そうやって試行錯誤を重ね,最終的に本番のレンダリングまでこぎつけるのが,Vueの作業だ。
「Vue 9」のレンダリング機能には細かい細かーい無数の設定項目があるが,大ざっぱに選んで使える「プレビュー」「最終レンダリング」といったお手軽プリセットも用意されている。作業中の確認には「プレビュー」,完成したら「最終レンダリング」でレンダリングすればウフフ,オッケーというわけだ。「ブロードウェイ」「スペリオール」「ウルトラ」といった,さらに高品質なレンダリング用のプリセットもある。基本的には,高品質であるほどレンダリング時間が長くなる。
おおお……。ここまで3DCGっぽい3DCGを,ちょちょいのちょいで作ってしまえるなんて。この性能にしてソフトのお値段は激安といった感覚はあるが,PCのスペックは結構必要かもしれない。
私の作品が素晴らしいかどうかは100光年くらい置いとくとして,これくらいの簡単な3DCGなら,おそらく誰でも私のように“よく分かってない”ままに作成可能。それがVueというソフトだ。
■収録されているサンプルを見てみる
それにしても,「もしかしたら,Vueってスゴーく手間をかけたらスゴーい作品が作れそうなんだけど,でも,どれくらいスゴーいのが作れるの?」ということが,そろそろ気になりだしたお年頃の方も多いだろう。最も安い「Vue 9 Esprit」でも,サンプルデータが多数収録されているので,これを見てみよう。
今回は本当に「素人がちょっと手を出してみた」という記事にとどまってしまったが,この先さらに何年も修行を続けてVueをまともに使いこなせるようになれば,きっとAvatarのような景観だって生み出せるようになり,地球に小惑星が接近してもそわそわしなくて済むようになるのだろう。
ちなみにイーフロンティアによれば,「Vue 10 日本語版」が2012年前半に登場する予定だという。「自分もちょっと,Vueで取り返しのつかない景観グラフィックスでも生み出してみっかな」と思った人は,Vue 10の発売を待ってみてもいいかもね。
「Vue」日本公式サイト
イーフロンティア「Vue」紹介ページ
■■Kawamura(4Gamer編集部)■■
主に「Weekly 4Gamer」でKawamuraの名前を見つけることができるが,それ以外の場所ではあまり見つけることができないので,「Kawamuraって何をやっている人なんですか?」という問い合わせが読者からたまに来たりもする。とりあえず3DCGに造詣が深い人物なのかというとまったくそんなことはなく,ズブの素人が突然「Vue」に手を出した。
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