レビュー
「最高のドライブ環境を実現できるなら何も惜しくない」というすべての人にお勧め
Thrustmaster T500 RS
GT5のプロデューサーであるポリフォニー・デジタル代表取締役 プレジデントの山内一典氏がTwitterで「T500RSは、すばらしい可能性を秘めています。発売が待ち遠しいデバイスですね。」(※原文ママ)と発言して一気に話題となり,2011年2月25日の国内発売が発表されるや,今度は6万2790円(税込)という強烈な値段が話題を集めたので,記憶に残っている人も多いのではなかろうか。
主要パーツのほとんどが金属製で,重量はステアリングホイールユニットが4.6kg,ペダルセットが7.3kg。Thrustmasterはかねてより,上位モデルで重厚感のある製品作りをしてきた歴史があるが,今回のT500 RSにも,オモチャっぽさはみじんも感じられない。
では実際のところ,T500 RSは,GT5や,そのほかの“クルマゲー”をプレイするに当たって,何をもたらしてくれるのだろうか。正式ライセンス品にこだわらなければ,3ピース仕様の「G27 Racing Wheel」がもっと安価な4万円弱というラインに存在し,そもそもゲームパッドでよければ「HKS Racing Controller」といった数千円レベルの選択肢もあるなか,6万円超級の製品で得られるものについて考えてみたいと思う。
一切の妥協を廃した
拘りの感じられる完成度
テストに先立って,「何がどう6万円クラスなのか」をチェックすべく,まずはハードウェアを概観しておきたい。
ステアリングホイール全体はゴム製樹脂でコーティングされており,エンボス加工が施されてサラッとした質感になっている。ステアリングホイール上部中央のメタリックレッドのセンターラインも金属製プレートなので,時間経過と共に剥がれるといった心配はまずなさそうだ。
ステアリングホイールのロック・トゥ・ロックは最大で3回転(1080度)となっており,ゲーム側が対応していれば,ロック・トゥ・ロック幅は自由に調整できる。
押さえておきたいのは,65536ステップという超高精度のコントロールが可能になっている点。Thrustmasterはわざわざ「H.E.A.R.T」(HallEffect AccuRate Technology)と名前を付けているくらいだから,相当に自信があるのだろう。
スポーク部のクローズアップ。ボタンは「SE」が[SELECT],「ST」が[START]だ |
ステアリングホイールを回転させても,ギアレバーの位置は変わらない |
ステアリングスポーク上には,GTロゴ入りのセンターキャップを中心として,各種入力系が用意されているのが分かると思うが,具体的には十字ボタン(D-Pad)と[△/○/×/□]ボタン,[L2/R2][START][SELECT][PS]ボタンが置かれている。各ボタンは若干小さめだが,ボタン名がしっかりプリントされているので,とっさのときでも視認しやすい。
ステアリングホイールの裏側には,全長約170mmのシーケンシャルギアレバーが用意されている。[L1/R1]ボタンとして機能するこのギアレバー,アルミ削り出しで剛性,質感とも非常によい。
大きな特徴として挙げられるのは,ステアリングホイールベースに取り付けられているため,ステアリングホイールを回しても回転しないこと。ステアリングホイールを回すと,一緒に回転するタイプのレバーが多いなか,最近では珍しい仕様といえるだろう。
ステアリングホイールユニットの台座部分には,向かって右下に[L3/R3]ボタンが用意され,アナログスティック押下も入力可能になっている。要するに,「DUALSHOCK 3」のボタンやトリガー類はすべて用意されているわけだ。
一方,左下部分には,[MODE]ボタンとLEDインジケータが用意されているのだが,これについては後述する。
なお,ホイールから見て最も奥まった部分の側面には,PS3本体と接続するためのUSBケーブルが標準で取り付けられているほか,ACアダプタおよびペダルセットをそれぞれ接続するためのコネクタが用意されている。
本体サイズは,こういう形なので測りにくいが,ざっくり310(W)×340(D)×220(H)mm。机上のクリアランスは310(W)×160(D)mmくらい必要だ。
なお,ステアリングホイールユニット上部には,放熱用として,40mm角相当の排気ファンを内蔵し,さらにスリットも用意されている。こちらも動作音はさすがにするが,プレイ中なら気にならない程度でもあり,気分を削がれるといったことはまずないはずだ。
フレームとペダルアーム,ペダルヘッド,フットレストに至るまで,すべてが金属製の部品で構成されているのだ。筆者も今まで,いろいろなステアリングコントローラを試し,ペダルセットも見てきたが,これほどまでに重厚なものを見るのは初めてである。
ちなみにサイズは実測350(W)×425(D)×310(H)mmで,大判のフットレストが取り付けられているため,かなりの面積を取る。ペダルは向かって右からアクセル,ブレーキ,クラッチだ。
ステアリングホイールユニットの固定はラクだが
場所を取るペダルセットはなかなか大変
ステアリングホイールユニットとペダルセット以外で製品ボックスに付属してくるのは,ステアリングホイールユニットのクランプ(留め具)&クランプねじと,ブレーキペダル留め金具,「Realistic Brake MOD」(リアリスティックブレーキMOD)と呼ばれる部品,ACアダプタ&ケーブル,そしてネジと六角レンチだ。GT5の正式ライセンス品ということで,「シェルビー コブラ 427 S/C クロムライン」のプロダクトコードも付属している。
クランプが厚み何mmまでの天板に対応できるのか,マニュアルに記載は見当たらないが,計測した限り,最大で100mmくらいまでは対応できそうな気配である。ただ,確実に取り付けることを考えるなら,50mm強くらいだと考えておいたほうがいいかもしれない。
とはいえ,50mmもあれば一般的なテーブルや机であればたいていは大丈夫だろうし,少なくとも,ドライビングシートへの取りつけは問題ないだろう。
取り付けるにあたって1つ気になったのは,クランプねじの取っ手となる棒の部分が細いことだ。この棒を回して締め付けたり緩めたりするわけだが,太さが5mmしかないため,ステアリングホイールユニットを固定したり,取り外したりするとき,力を入れると痛い思いをすることになる。常設しておける環境ならあまり問題ないかもしれないが,そうでない場合は結構つらいかもしれない。
多くのステアリングコントローラで,ペダルセットは何も調整できない。できたとしても,ペダルヘッドを少し移動できる程度だ。しかしT500 RSの場合は,ペダルヘッドの移動に対応するだけでなく,ブレーキペダルの可動範囲と抵抗を調整できる。
そして,T500 RSの真骨頂といえるのが,プレイヤーの好みや,シミュレートしたいクルマの仕様に合わせて,ペダルをフロアポジション(=オルガン式)の「F1タイプ」か,サスペンデッドポジション(=吊り下げ式)の「GT&ラリータイプ」に変更可能な点だ。
フットレストを外したところ。この状態で,フロアポジションからサスペンデッドポジションへの変更にあたっては,写真右奥側に本体を90度倒すことになる |
サスペンデッドポジションで動作しているときは,LEDインジケータが緑に光る |
フロアポジションとサスペンデッドポジションの切り替えは簡単。フットレストを留めている4点のネジを付属の2mm径六角レンチで外し,直角に取り付けられているフレームのもう片方へ取り付け直す。そのうえでフットレストが取り付けられたほうが床になるよう設置し直して,最後に,3つのペダルヘッドを入れ替えれば,物理的には終わりだ。あとは,ステアリングホイールユニットの前面左下部に用意された[MODE]ボタンを押すと,アクセルとクラッチが電子的に切り替わる。
[MODE]ボタン脇のLEDインジケータは,フロアポジションなら赤,サスペンデッドポジションなら緑で点灯するようになっており,設定は,次に[MODE]ボタンを押すまで保持される仕様だ。
ペダルは金属製のアームとプラスチック製のヘッドサポート,そしてペダルヘッドで構成されており,2本のネジが3つを貫くように固定する仕様となっている。アームとヘッドサポートには4つ,ペダルヘッド側だとアクセルに9つ,ブレーキおよびクラッチには6つの穴がそれぞれ用意されているため,取り付ける穴の位置を変えることで,ペダル位置の調整を行える。
ネジ穴を使って調整する方法なので,数mm単位の微調整は行えないものの,選択肢がこれだけあるのはありがたい。
プロテクターはプラスねじ2本で止められている。クラッチペダルを踏み込んだ状態にしないとプラスドライバーが真横から当てられず,取り外したり取り付けたりする作業はやりにくい。また,ねじをナメやすいので,注意して作業しよう |
金属製留め具(右)とRealistic Brake MOD(左)。留め金具は,付属の2.5mm径六角レンチを使って,ネジ穴に4点留めすることになる |
まず,そもそもの話として,ブレーキペダルの抵抗は,踏み始めが弱く,踏み込んでいくと次第に強くなる作りになっている。ベタ踏みしたときの抵抗が何kgなのかというデータは公表されていないものの,かなり重いのは確かだ。
留め金具は,そんなブレーキペダルの可動域を狭めることで,物理的にブレーキペダルの抵抗を小さくするためのアイテムである。留め金具とペダルアームとの距離は3段階に調整でき,最も可動域を小さくした状態だと抵抗は7kg。以降順に8.5kg,10kgといった具合に調整できる。
また,前述したRealistic Brake MODも,この抵抗力を調整するために用いられる。
Realistic Brake MODは,スポンジとバネからなる部品で,下に示した写真のように,留め金具に載せて使う。置く向きは2パターンから選択可能だが,これにより最大で14kg,もしくは同16kgの抵抗が得られるようになるのだ。
ペダルセットから伸びるケーブル |
ステアリングホイールユニットとペダルセット,ACアダプタを接続したところ |
このとき,ステアリングホイールのセンタリング調整が自動で行われ,左右に3回,素早くステアリングが回転したうえで,センター位置で止まる挙動を示す点は注意しておこう。かなりの勢いで回転するので,自動調整が終わるまでは手を触れないのが安全だ。
また,ステアリングのセンタリング自動調整が完了した後,ペダルの調整が必要であることも憶えておきたい。
先ほど,留め金具やRealistic Brake MODで抵抗を変えられると話をしたが,実際にどういった設定になっているかは,実際に踏み込むことで本体に憶えさせる必要がある。これにより「どこまで踏んだらベタ踏みと判断するか」が決定されるというわけだ。
ブレーキペダルは3回踏むと設定が認識される仕様になっており,ゲームのロード中,暇つぶしがてら踏んでおくだけで適切に設定されるので,あまり「設定に付き合わされている」感はしない(※マニュアルには,3本のペダルすべてを3回踏むように書かれているのだが,ブレーキ以外は踏まなくても問題ないようだ)。
グランツーリスモ5との相性は抜群
ペダルセットをカスタマイズして走りを極めよう
本機はGT5の正式ライセンス品ゆえ,GT5のコントローラ設定画面から,どのボタンにどの機能を割り当てるかなどを選択できる。設定方法は非常に分かりやすいので,迷うことはないだろう。
実際にステアリングホイールを握ってまず気づくのは,直径300mmと大きく,グリップ部も握りやすいこと。剛性が高く,プレイ中にガタついたり,しなったりしないため,ドライビングに集中できる。
また,磁気センサーがステアリングホイールの動きを細かく捉えているためか,先にレビューを行った「G27 Racing Wheel」など,他社のステアリングホイールと比べると,操作がクルマの動きへ反応するまでの時間が短いことをはっきりと体感できる。
このキビキビとした反応は,ドライバーズビュー時における臨場感と直結している印象。筆者はそれまでバンパービューで主にプレイしてきたのだが,T500 RSを使い続けてすぐドライバーズビューがメインビューになったほどだ。
ステアリングホイールユニット上のボタンはまずまずの使い勝手だが,一部のボタンがグリップ部からやや遠く,握りを緩め,親指を伸ばすようにして押す必要があった点は指摘しておく必要がありそうだ。どちらかといえば大きな手の人向けといったところであり,手の小さな人だと,少々使いにくく感じる可能性はあるだろう。
ただ,そういう設計ということもあり,運転中に誤って押してしまう,いわゆる誤爆の心配は無用である。
使い勝手という観点から,あまり高得点を与えられないと感じたのがシーケンシャルギアレバー。先述のとおり,シーケンシャルギアレバーはステアリングホイールベースに固定されていて,ホイールと一緒には回転しない。ステアリングホイールをがっちりと握りしめた状態で,人差し指や中指から操作できる位置にレバーがいつもあるわけではないのだ。
おそらく,シーケンシャルギアレバーが大きいのは,その点に配慮した結果ではないかと思われるが,それでもステアリングを大きく切る局面では指が届かず,操作にまごつくこともあった。慣れの問題かもしれないが,少なくとも一般的なステアリングコントローラと仕様は異なるわけで,注意しておいたほうがいいだろう。
そして大仰なペダルセットだが,これはもう文句なしに,今までに筆者が使ったことのあるもののなかで一番使いやすい。フロアポジションのまま,留め金具などを使わず,デフォルトの設定で使うだけで,アクセル&ブレーキペダルの踏み心地や操作感がよく,ニンマリするのを抑えられない。アクセルペダルは「ベタ踏みからスッと抜く」といった,細かなアクセルワークにもリニアに反応する。
強めの抵抗があるブレーキペダルは,踏み込むほど抵抗感が強くなる。そのため,「タイヤがロックするかしないかのところを,ブレーキペダルを踏む力の強弱で探る」ようなブレーキングもやりやすい。
両方のポジションで走り比べてみた限り,個人的にはサスペンデッドポジションのほうが走りやすく,プレイしていて楽しかった。ヒールアンドトゥもサスペンデッドポジションのほうがやりやすいと思うが,フロアポジションには,かかとをフットレストに置いておけるというメリットもあるので,このあたりは好みの問題といったところか。
もちろん,ペダルヘッドの位置調整と,ブレーキペダルの抵抗をカスタマイズできることも忘れるわけにはいかない。
あれこれとペダルセットのセッティングを変えてみたが,最終的に筆者好みとなったのは,サスペンデッドポジションにして,ブレーキペダルには留め金具とRealistic Brake MODを「上板」仕様で装着し,抵抗が約14kgになった状態に落ち着いた。こういう,自分好みの設定に追い込めるのが,T500 RSの素晴らしいところだ。
ただ,まったくのノー文句かというと,そうではなかったりもする。
GT5でプレイする限り,T500 RSのステアリングホイール回転角設定は行えなかった。T500 RS側にハードウェア的な回転角設定が用意されていないので,本来的には,正式ライセンスを与えたGT5側で対応してもらうのが筋だと思うのだが……。
また,フォースフィードバックの設定ができない点も気になるところで,これらは,画竜点睛を欠くと言わざるを得まい。
PCとの相性はほぼ問題なし
ステアリングホイール回転角の設定にも対応
T500 RSをPCで利用するには,ドライバソフトウェアの導入が必要。原稿執筆時点では,32/64bit版のWindows 7&Vista,Windows XPに対応した「DRIVERS FORCE FEEDBACK(Package 2011_TTRS_4)+Firmware v35」が最新版だった。ファームウェアもセットになっているが,動作させるだけならドライバだけで問題ないようだ(※もちろん,セットになっている以上,ファームウェアもアップデートするべきだが)。
ドライバのインストール方法や,ファームウェアの確認方法,そして最新ファームウェアの導入方法はいずれも,リンク先にある「Firmware “V35” update procedure」という見出しのところから,「T500RS_V35_Firmware_Update.pdf」をダウンロードして確認すればOK。驚くべきことに,このpdfファイルには日本語での解説があるので,書かれている手順に従えば,難しいことはないだろう。
また,「Gain Settings」タブはフォースフィードバックエフェクトの詳細設定ができ,反力と振動の強さ,センタリング機能の調整ができる。設定内容は「Test Forces」タブから簡単に再現できるので,実際に使うときは,Gain Settingsタブで微調整し,Test Forcesタブで動作チェックするといった手順になるだろう。
「できること」について言うなら,PCで使ったときのほうが,GT5で使ったときより,明らかに充実しているわけだ。
Gain Settingsタブ |
Test Forcesタブ |
今回は,PC版の「GTR: Evolution」「Need for Speed Hot Pursuit」「Colin McRae: DiRT 2」「WRC: FIA World Rally Championship」で試してみたが,やはりというかなんというか,ステアリングホイールの回転角やフォースフィードバックの設定を自由に行えるのはいい。ただ,WRC: FIA World Rally Championshipだけは,ブレーキ軸の設定がどうしてもうまくできず,正常にプレイできなかった。このあたりはPCらしいトラブルといえそうで,ドライバやファームウェアのアップデートに期待といったところか。
最高のプレイ環境を求める
ドライブシムファンなら,使う価値がある
また長い記事になってしまったが,PS3やPCでドライブシムをプレイするためのデバイスのなかで,性能面や機能面を最大限重視したときには,2011年3月時点において最もお勧めできるステアリングコントローラだ。現時点で入手できる最上の選択肢とも換言できるだろう。
しかも,現状では,オプションのギアスティックがないのだ。個人的には,これでギアスティックまで使えるようになったら,どこまで満足度が上がってしまうのかとわくわくしているが,要するに,6万円払って,そのうえで追加投資することに何の躊躇いもないような人向けということなのだろう。実はステアリングホイールが交換可能になっており,それもオプションで登場予定というあたりからも,相当にマニアックなアイテムであるとはいえる。
性能面では文句なくお勧めできるが,ちょっとでも気になるところがあるなら,おいそれと手を出さないほうがいい。それほどまでに,T500 RSは“とんがった”デバイスである。
- 関連タイトル:
Thrustmaster
- 関連タイトル:
グランツーリスモ5
- この記事のURL:
キーワード
(C)Sony Computer Entertainment Inc. Manufacturers, cars, names, brands and associated imagery featured in this game in some cases include trademarks and/or copyrighted materials of their respective owners. All rights reserved. Any depiction or recreation of real world locations, entities, businesses, or organizations is not intended to be or imply any sponsorship or endorsement of this game by such party or parties.
Produced under license of Ferrari Spa. FERRARI, the PRANCING HORSE device, all associated logos and distinctive designs are trademarks of Ferrari Spa. The body designs of the Ferrari cars are protected as Ferrari property under design, trademark and trade dress regulations.