レビュー
見た目こそ地味ながら,完成度はシリーズ史上最高だ
HyperX Cloud Alpha
最近,世界だけでなく日本のゲーマー向け市場でも存在感を増しつつあるゲーマー向け製品ブランド「HyperX」。そんなHyperXを展開するKingston Technology(以下,Kingston)から2017年9月21日に発売予定となっている最新のアナログ接続型ヘッドセットが,今回取り上げる「HyperX Cloud Alpha」(以下,Cloud Alpha)である。
世界市場におけるメーカー想定売価は99.99ドル(税別)で,これはLogitech G(日本ではLogicool G)の「G433 7.1 Wired Surround Gaming Headset」(以下,G433)や,SteelSeriesの「Arctis 5」といった,定評あるUSB&アナログ接続両対応ヘッドセットと同じわけだが,そこにアナログ接続一本で攻め込んできたHyperXの新製品は,競合製品に対する優位性を見せることができるのか? HyperX Cloud Alpha,じっくり見ていこう。
あらかじめお伝えしておくと,スペックは以下のとおりである。
●HyperX Cloud Alphaの主なスペック
- 基本仕様:アナログ接続型ワイヤードタイプ,密閉型エンクロージャ採用
- 公称本体サイズ:未公開
- 実測重量:約306g(※マイクブーム含む,ケーブル含まず)
- 実測ケーブル長:約1.4m(着脱インラインリモコン付き4極3.5mmミニピンケーブル),約2m(4極3.5mm
× 1→3極3.5mm × 2変換ピンケーブル) - 接続インタフェース:4極3.5mmミニピン
× 1(※標準アナログケーブル利用時),3極3.5mmミニピン × 2(※4極→3極変換アナログケーブル利用時) - 搭載ボタン/スイッチ:ヘッドフォン出力音量調整,マイクミュート
- 主な付属品:インラインリモコン4極3.5mmミニピンケーブル,4極
× 1→3極 × 2の3.5mmミニピン変換ケーブル,キャリングケース - 対応ハードウェア:PC,Mac,PlayStation 4,Xbox One,Nintendo Switch,Wii U,アナログ接続対応モバイルデバイス
- 保証期間:2年間
- メーカー想定売価:1万2981円(税込)
- 発売予定時期:2017年9月21日
- 周波数特性:13Hz〜27kHz
- インピーダンス:65Ω
- 出力音圧レベル:98dB SPL/mW(@1kHz)
- スピーカードライバー:50mm径ネオジムマグネット,ダイナミック型
- 方式:コンデンサ型
- 周波数特性:50Hz〜18kHz
- 感度:−43dBV(0dB=1V/Pa,@1kHz)
- インピーダンス:未公開
- S/N比:未公開
- 指向性:未公開
- ノイズキャンセリング機能:あり
HyperX Cloudの伝統を踏襲したデザインとなるCloud Alpha
つや消しのマットな黒と,メタリックな赤を基調としたツートーンは,ゲーマー向けヘッドセットとしてとても分かりやすい色使いだ。シリーズを通じてあまり変わり映えしないとも言えるが,ただ,そういう指摘を想定してかどうか,Kingstonは「エンクロージャ部のプレートには,通常,150ドル以上の製品にしか採用されていない,サンドブラスト加工を施してある」とアピールしていたりする。
長さ調整用として,アーム部の内側に数字なしの目盛りが打ってあるので,装着時の長さ調整ではここを頼ることになるだろう。なお,目盛りのクリック感は弱めだ。
左右エンクロージャの上部にそれぞれ5つずつ空気孔があるが,これは低域を増強するためのバスレフポートという理解でいい。
Kingstonによると,エンクロージャ内部にあるチャンバー(chamber,空間)の一層めを低域用,二層めを中域&高域用とすることにより,「音の違いが際立ち,歪みを最小限に抑えられる」そうだ。そのためか,仕様上の周波数特性は13Hz〜27kHzとかなり広い。
競合のLogitech G/Logicool Gがスピーカードライバーの自社設計にこだわっているのに対し,HyperXが「ドライバーをいい音で鳴らすためのエンクロージャ音響設計」にこだわって音響特性を向上させようとしていることは興味深い。
イヤーパッドのサイズは縦方向が実測最大約100mm,横方向が同80mmで,厚みが同15mm。十分な大きさが確保できていると言っていい。クッションはとても柔らかく,かつ弾力性のあるもので,しっかりホールドしつつも,側圧が強いとは感じさせないような配慮がある。
ちなみに,クッションの話が出たので続けておくると,ヘッドバンド部のそれは,イヤーパッド部と比べて少し弾力性が高くなっていた。
Cloud Alphaでは,マイクブームも,PC(など)との接続に使うアナログケーブルも着脱可能だ。いずれもロック機構はない |
ブーム部分の長さは実測約110mm。標準で取り付けられているウインドスクリーンはけっこう大きく,視界に入りやすいので,設置時は口元より低めにしたほうがいいだろう |
少なくとも筆者がテストに使っている最中はしっかり填まるものの,仮に頻繁に抜き差しするような運用において,どのくらいで緩み出すのかまではなんとも言えないところだ。早々に抜け落ちたりはしないだろうが……。
先端のマイクは喫煙具のパイプを小さくしたような,よくあるタイプで,先端部は実測で直径15mm,長さ15mmくらいの大きさである。口の側とその反対側の両方に空気孔らしきものが見える。
コンデンサ型で指向性があるとされるマイクは,仕様上の周波数特性が50Hz〜18kHzと,これまた広い。
ちなみにケーブルは,ヘッドセット本体と直接接続する仕様で,インラインリモコン付き,かつ両端が4極3.5mmミニピンのものと,4極3.5mmミニピン
インラインリモコンは,出力音量調整ダイヤルと,マイクミュートの有効/無効切り替えスライドスイッチを利用可能という,アナログ接続型ヘッドセットでお馴染みのもの。サイズは実測で長さ約50mm,直径約15mm程度と小さいが,それゆえ(?)クリップなどはない。
ただ,イヤーパッドのカバーが合皮なので,布系素材と比べると汗は吸わず,通気性の点で不利なのも事実だ。音響的には音漏れの少ない合皮製カバーのほうが低域再生において有利なのは確かなので,HyperXがエンクロージャだけでなくイヤーパッドも込みで音響特性を優先している可能性はあるだろう。
ちなみに本体重量はマイクブーム付き,ケーブル抜きの条件で実測約306g。G433より若干重く,Arctis 5とはほぼ同じくらいだ。少なくとも重すぎるということは全然ない。
かなりスムーズな周波数特性。低弱高強型だが,「単なる低弱高強」ではない!?
というわけで,テストである。
2017年9月時点において,4Gamerのヘッドセットレビューでは,
- ヘッドフォン出力テスト:ダミーヘッドによる測定と試聴
- マイク入力テスト:測定と入力データの試聴
を行うようになっている。ヘッドフォン出力時の測定対象は周波数特性と位相特性,そして出力遅延だが,アナログ接続型ヘッドセットで遅延計測はほぼ意味がないので,今回は周波数特性と位相特性を計測することになる。具体的なテスト方法は「4Gamerのヘッドセットレビューなどにおけるヘッドフォン出力テスト方法」のとおりだ。
一方,マイク入力の測定対象は周波数特性と位相特性で,こちらも具体的なテスト方法は「4Gamerのヘッドセットレビューなどにおけるマイクテスト方法」にまとまっているので,それぞれ参考にしてほしい。基本的には,それらを読まずともなんとなくは理解できるよう配慮しているつもりだ。
さて,いつものようにヘッドフォン出力から見ていきたい。ここではCreative Technology製サウンドカード「Sound Blaster ZxR」と組み合わせた状態の出力波形をダミーヘッドで出力することになる。
差分画像の最上段にある色分けは左から順に重低域(60Hz未満,紺),低域(60〜150Hzあたり,青),中低域(150〜700Hzあたり,水),中域(700Hz〜1.4kHzあたり,緑)中高域(1.4〜4kHzあたり,黄),高域(4〜8kHzあたり,橙),超高域(8kHzより上,赤)を示す。
さて,結果は下に示したとおりだ。60Hzくらいよりも低い帯域と,11kHzくらいよりも高い帯域でロールオフしているものの,重低域,超高域のいずれも−20dBくらいのところで持ちこたえている。その意味では,公称値で13Hz〜27kHzという周波数特性を反映したものだと言える。だが,Cloud Alphaで重要なのはそこよりも,8kHzを頂点とした5〜11kHzで大体10dBの乖離があり,そこを除くと60Hz〜5kHzと広範囲の帯域で高低差が非常に少なく,極端かつ狭小な凹凸がほぼないことのほうだ。
その意味において,「(エンクロージャの)アコースティックチャンバーを低域用と中域以上用とで分け,音響特性の向上を図る」というHyperXの目標が,少なくともグラフ上は達成できていると言える。歴代のHyperX Cloudシリーズ中,最も優れた周波数特性ではなかろうか。
一方,5〜11kHzの山があることからも分かるように,音質傾向自体はあくまでも低弱高強型だ。ゲームにおいて定位情報を得ることにフォーカスしたタイプであることが,波形からは読み取れる。
※ 2kHz〜4kHz付近の周波数帯域。プレゼンス(Presence)という言葉のとおり,音の存在感を左右する帯域であり,ここの強さが適切だと,ぱりっとした,心地よい音に聞こえる。逆に強すぎたり弱すぎたりすると,とたんに不快になるので,この部分の調整はメーカーの腕の見せどころとなる。
ただ,高域に歪んだ印象まではなく,強調がかなり大きい割にはスムーズに聞こえる。ステレオの分離感や定位感も良好だ。音量も十分にある。
そんなわけで,50mmドライバーは,一般的にイメージされる低域の豊かさではなく,歪みのなさという名の余裕をCloud Alphaに与えているとまとめられるだろう。
計測結果どおりの低弱高強型である……というか,まず高域に“耳が行く”。位置を把握するのに重要な高域が強いので,3Dゲームにおいて音の聞こえる方向を把握したい人向けと言い換えることもできそうだ。
テストに使っているシーンでは右フロントスピーカーあたりでヘリコプターのローター音が鳴るのだが,その音も割と前で定位しているように聞こえる。
後方から側面くらいまでの定位が優秀なのはProject CARSも同様。後方のガヤ音はもちろんのこと,とくに敵車をパスするときの音源移動がとても分かりやすい。
音楽だとコンテンツによっては強すぎるきらいもある高域は,ゲームタイトルだと「鳴りっぱなし」にならないうえ,最近のRazer Surround Proでは仕様変更が入ったようで高域が若干落ちるため,耳に痛い感じがなくなって,とてもいい塩梅だ。
低域も要所要所でしっかり鳴り,とくにLFEチャネルで再生されるような重低域もかなりしっかり出てくる。先ほど示した計測結果で,確かに60Hzくらいから落ち込んでいるが,30Hzくらいでも依然として60Hz比で6〜7dB程度低いところに留まっているためだろう。
なので,音楽でよいとされる低域から中低域が強いわけではないものの,ゲームや映画の効果音に多く含まれるLFEチャンネルの帯域である重低域の再生はきちんとしてくれる出力特性だと言える。単なる低弱高強型ではない。
マイク入力も広帯域対応。ノイズは拾うのでユーザー側での対策を行いたい
台地の下では低域も超高域も下がっていくが,全体としてはなだらかに落ちていく印象。低域で勾配が強くなるのは70Hz付近からだ。この帯域はルームノイズも多いのでこのアプローチになっているのだろう。
超高域は15kHz以上でも大きくは落ち込まない,優秀な周波数特性で,結果として低域,高域とも仕様上の公称値である50Hz〜18kHzに近い。ただ,ここまできちんと超高域を拾う以上,エアコンなどのヒスノイズを多く拾う可能性も高い。
なお,位相は完璧なので,モノラルマイクと考えていいだろう。
実際にヘッドセットを装着した状態で自分の声を録音し,聞いてみると,全体的にクリアで,聞き取りやすい音が得られていた。わずかに鼻詰まるものの,全体的にはクリアで聞き取りやすい。
仕様上はノイズキャンセリングありとなっているが,これは指向性マイクのことをそう言っているだけのようで,エコーはけっこう入る。
また,上で指摘したとおり高域まで拾うため,ヒスノイズは多い。ボイスチャットシステム側の帯域が狭い場合はそのままでいいかもしれないが,基本的にはPCまたはサウンドデバイス側でノイズキャンセリング機能を有効化したほうがいいだろう。
よくも悪くも外観が地味だが,完成度はHyperX Cloudシリーズ史上最高
ゲーマー向け製品を本気で展開しているブランドのうち,スピーカードライバーの開発までできるような予算を持っているところが,Logitech G
G433やArctis 5といった競合製品では,スマートフォンなどと組み合わせて音楽再生する用途も想定した音質傾向チューニングが入り,屋外での見栄えを意識した外観デザインも採用されている。それと比べると,従来からのコアゲーマー路線で,音楽再生ではなくゲーム用途の使い勝手をひたすらに追求し,デザインも分かりやすい黒と赤ベースとなるCloud Alphaは,よりゲーム向けとして尖った仕様と言える。
頑丈さや耐久性の高さを追求したその外観は,よくも悪くもこれまでのHyperX路線であり,見た目の新鮮さは欠いている。音質を含む中身は意欲的なのだが,このルックスだと,従来製品との違いがゲーマーに伝わりにくい懸念は拭えない。
ただもちろんこれは,ゲーム特化型ヘッドセットらしい「分かりやすさ」を好むような人にとって,Cloud Alphaが有力な選択肢になるということでもある。よい品質のサウンドデバイスと組み合わせる限り,ゲーム用途を前提にしたときの音質傾向は1万円台前半で購入できるアナログ接続型ヘッドセットとして屈指なので,「低域がしっかり出ないのはダメ」という人を除けば,選択して後悔することだけはないだろう。
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