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[CEDEC 2014]ネット時代のおもちゃは,世界を変えることができるか? Moff Bandが示すイマドキの起業の姿
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印刷2014/09/06 19:40

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[CEDEC 2014]ネット時代のおもちゃは,世界を変えることができるか? Moff Bandが示すイマドキの起業の姿

画像集#001のサムネイル/[CEDEC 2014]ネット時代のおもちゃは,世界を変えることができるか? Moff Bandが示すイマドキの起業の姿
 2014年9月3日,神奈川県パシフィコ横浜で開催された日本最大のゲーム開発者会議「CEDEC 2014」でMoffの高萩明範氏による「ウェアラブルおよびセンシングプラットフォームが実現する新しい遊びの体験の実現」と題した講演が行われた。
 今回のCEDECではウェアラブル機器関連のセッションをいくつか見てきたのだが,このMoffは実際に製品を日本から発信しつつあり,ある意味で業界の最先端にいる会社でもある。

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 同社が扱っているMoff Bandとはなにかから紹介しておこう。一言でいえばウェアラブルな「「おもちゃ」なのだが,まずは以下の動画を見ておくといいだろう。



Moff 高萩明範氏
画像集#002のサムネイル/[CEDEC 2014]ネット時代のおもちゃは,世界を変えることができるか? Moff Bandが示すイマドキの起業の姿
 動画を見てもどういうものかよく分からないかもしれないので,先に説明しておこう。

 Moff Bandは,腕の動きに反応して音を出すおもちゃだ。もう少し具体的に動作を説明すると,スマートフォンでアプリを動かして動作モードを決めると,特定の腕の動きをトリガーとして(スマートフォンから)音を出す。機能としてはそれだけのものである。
 「剣」のモードにしておくと,剣を振ったようなアクションに対して,剣を打ち合わせたような音が出たり,「銃」のモードにして引き金を引くような動きをすると,銃声が出るといった具合だ。スマホ側のアプリによって,いろいろなものをバーチャルに再現できるわけだ。
 多少実用性のあるのはドラムセットで,最初に振り下ろした位置を基準として(タムになる),スネア,シンバルなどの位置が決定され,空間を叩くことでドラム演奏ができる。

Moff Bandの発売は10月が予定されており,現在は予約受付中だが,Amazon.co.jpのおもちゃ部門では妖怪ウォッチに次ぐ,人気第2位を記録したという。ただ,画像をよく見ると,かなりイレギュラーな存在といえる妖怪ウォッチとMoff Bandが仮になかった場合,その栄えある第2位に輝くのはバンダイのACアダプターだということも分かる
画像集#004のサムネイル/[CEDEC 2014]ネット時代のおもちゃは,世界を変えることができるか? Moff Bandが示すイマドキの起業の姿

 さて,そんな製品を展開するMoffだが,CEDECではウェアラブルの現状についてや,製品開発や企業に至るまでの過程,方法論などについて紹介していた。日本企業離れした話も多く,刺激になる人もいるかもしれない。

 まず,ウェアラブルの現状について。
 日本ではまだウェアラブルデバイスというと,海のものとも山のものともつかない感じなのだが,海外ではそれなりに出回っており,すでにブームは一度盛りを過ぎたといったところらしい。高萩氏がこの夏に講演したという国際会議「Bluetooth Asia」では,講演者の大半がそういった論調だったという。
 その第1次ウェアラブルブームの課題として以下の3点を挙げている。

  • ユーザーの行動に変化を起こさない
  • 同じような製品があふれかえっている
  • 技術的ハードルが低く,真似されやすい

 そのブームの中身はリストバンド型活動量計が大半だったようだが,これらは形も機能もどれも似たようなもので,腕につけていると加速度などから活動量を計算して,ネットワーク上で管理し,グラフなどを見ることができる。ただ,それだけなので,アドバイスなどがあるわけでもなく,スポーツやカロリー管理など,明確な目的を持っている人にはいいのだろうが,流行ものなので買ってみたという人を継続的に使用させるほどの魅力的な商品ではなかったようだ。

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 上のスライドの下半分に写っているのは最近発表されたという中国・シャオメイ(シャオミ)のリストバンド型活動量計だ。スマホもそうだがこの手のジャンルの製品は,各社が同じような製品を出して市場が落ち着いてくると,最後にシャオメイが出てきて圧倒的な低価格で全部さらっていってしまうのではないかと国際会議でも笑い話になっていたという。
 では,「次の波」に備えてどうすべきかというと,ユースケース/ユーザー体験を明確にし,個人の行動様式を変えるようなインパクトを持つものを作り,簡単に真似されないような技術やアルゴリズムを使用するのがよいということになる。
 これまではハードウェア自体が商品の中心だったのだが,これからはソフトウェアが重要になると高萩氏は語る。さらに,得られたデータ処理でクラウドでどう情報を扱うか,ウェアラブル機器の戦いの場はクラウドに移ってきているという。

 ウェアラブルデバイスについては,次世代のキーテクノロジーになると目している人は多く,シリコンバレーあたりでは起業が相次いでいるという。では,もう日本から参入する余地はないのかというと,そうでもないのではないかと,高萩氏はシリコンバレーの傾向を紹介した。向こうで多いのは,活動量計などのアクティビティトラッカー,次にジェスチャーデバイス,そして北米特有の傾向かもしれないとしつつ,スポーツ&ヘルスケアでの用途だそうで,ウェアラブルデバイスに対する固定観念があるのではないかと指摘していた。つまり,エンターテインメントでの活用はほとんど見られず,そのあたりに日本企業が参入する余地を見出しているようだ。

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ユーザー体験を変えるインタラクティブデザイン


 第2の波に備えて,ユーザー体験を変えるような製品を作るにはどうすればいいのかについて,Moff自身の事例が語られた。
 そもそもMoff Bandは,課題を解決することを目標に作られたデバイスなのだという。これは後述のリーンスタートアップの方法論によるものと思われるが,人々が抱えている課題を解決することは,必然的にユーザー体験を変えることにつながるということであろう。
 では,子供の遊びにはどんな課題があるか? 
 一つには,子供はおもちゃ遊びにすぐ飽きるという問題が挙げられた。この結果,ゴミが増え,出費も多くなり,部屋もちらかるなどの弊害が発生している。もう一つは,このところ子供の遊びが,画面を中心としたものになってきている点だ。ある調査では,子供が画面に向かっている時間は,1日7.5時間に達するとのこと。これについては,別に気にしない人も多いのだが,同じくらいたくさん「問題ではないか」と思っている人もおり,これら二つの課題に取り組むために作られたのがMoff Bandというわけだ。

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 なるべく画面を使わないということから,デバイスの操作などでGUIに頼らないことが要求されることになる。実現したいのは,人間と人間のコミュニケーションを深めることなのだが,画面があると,どうしても機械とのコミュニケーションになってしまうのだという。しかし,そこにウェアラブルを介することで,機械を黒子として裏方に徹してもらうようなインタラクティブデザインができることが分かったのだそうだ。
 しかし,ウェアラブルデバイスというものが子供に向いているだろうかと考えると,さらなる課題が浮かび上がっている。そもそも子供の興味を引けるようなものを作れるのか,簡単に扱えるのか,おもちゃとして値段は高すぎないかといった事項だ。

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 とくに最初のものは重要だ。
 「物理的な実体のないおもちゃ」を実現するためになにが必要かと突き詰めたときに,最低限「動きと音」があればおもちゃとして機能することが分かったのだという。そこで,Moff Bandではこの2点に絞った体験を追求することに決めたのだそうだ。

 そんなこんなで作られたMoff Bandは各所で高い評価を得ているという。
 なかでも注目されたのはメンタルヘルスへの応用だ。これは開発時のフィールドテストでも実感していたことだそうだが,子供達のなかには,おもちゃなどを与えても集団にとけ込みにくい子もいる。しかし,Moff Bandのような身体を大きく使って遊ぶようなものだと,つられて一緒に遊びだすことが多いのだという。それで目に見えて明るい表情になることなどが報告された。
 また,想定外に問い合わせが多かったのは,身体の不自由な子供への対応についてだったという。盲人の子供にとっては最適なおもちゃだというメールをもらったり,障害で口のきけない子供達にとって,手話や筆談といったコミュニケーション手段しかなく,とっさに「ありがとう」などといった意思表示をすることが難しかったのだが,こういったデバイスを使うことでコミュニケーションが取りやすくなることが期待されているとのこと。

ゲーム関係の新技術としては,Oculus VRのRiftよりも高い評価を得ている記事
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“Internet of Things”すべてのものがネットにつながる世界でのハードウェア


 次に,同社にとって重要なキーワードだとする「Internet of Things(IoT)」についての話となった。IoTは,すべてのものがインターネットに接続されるという概念だが,Moff Bandもそうったものの一つとして注目されることが多いようだ。

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 同社が作っているMoff Bandはハードウェアだが,それはあくまでユーザーとネットの接点にすぎないと割り切った開発をしているという。ソフトウェアを拡充することでサービスが拡充されるプロダクト構成になっているというのだが,これにはある人のアドバイスが大きく影響していたと高萩氏は語る。

 その人とは,シリコンバレーで世界中のベンチャーをデータベース化しているCrunchbaseという会社を経営するMatt Kaufman氏であり,「これからはハードウェアの時代だ。ただし,ハードウェアは主役ではない。シンプルでいいんだ。ソフトウェアでハードウェアを拡張しろ」というのがアドバイスの内容だ。高萩氏がよく分からない顔をしていると「お前達の国に“たまごっち”というのがあっただろう。ハードウェアはあんなものでいいんだ。昔1000万台売れたたまごっちの時代と現在でなにが違うか知っているか? スマートフォンがあるかないかだ。最初のハードはたまごっちでいいんだ。それがスマートフォンとつながることで,たまごっちからなにかに変わって,さらになにかに変わってと繰り返して,全然おもちゃじゃなくなって,いろんなものに変化する。それがIoTの魅力だ」と,諭されたのだそうだ。この言葉がその後のMoffの方向性に大きな影響を与えているという。

 MoffがIoTとしての製品展開をするに当たって考えたメリットを3点,続いてよりよいユーザー体験を作るためのポイントが2点挙げられた。重要なのは拡張性だが,いろんなものが使えるとはいっても,ユーザーと継続的にコミュニケーションしていないと拡張性にも気づいてもらえないと氏は語っていた。

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“課題”を解決するモノ作り:リーンスタートアップの手法とは


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 次に,同社が採用した方法論である「リーンスタートアップ」の手法について語られた。リーンスタートアップでは,課題を設定し,それを解決することを目的に事業が展開される。問題は課題の設定だが,これには十分な聞き取りが重要になると高萩氏は語る。
 課題を浮き彫りにできたとして,次の問題は,どうやってそれを解決すればいいのかだったという。リーンスタートアップを実際にやってみて分かったのは,課題に対する解決策はどうすれば見つけられるかということだったそうだ。リーンスタートアップの手法は,課題を見つけるための手法については詳しいのだが,解決策を見つける方法までは教えてくれない,
 そこで導入されたのがデザイン思考のエスノグラフィという手法で,とにかく「観察」することで解決策を探ることになった。その観察は,対象そのものだけでなく,その家庭環境やライフスタイルを含めて観察することが重要だという。かくして,高萩氏らは保父さんのようなマネをしたり,知り合いの家で子供とずっと遊んだり,徹底的に観察を続けることで糸口は見えてきたのだそうだ。
 スマホとつながることで,子供達の遊びをもっと楽しいものに拡張してやれればよいのではないかと,だいたいの方向性が決まったのだという。

 そして,事業化の際には,クラウドファンディングサイトKickstarterが利用された。これには,単に資金を調達するというだけでなく,はたして自分達が開発しているものは,世の中的に需要があるものなのだろうかということを問う意味もあったのだという。

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クラウドを使ったモーションデータベース


 次に語られたのはMoff Bandの技術的な部分についてだ。Moff Bandのハードウェアは,非常にシンプルで,加速度センサー,ジャイロセンサー,そしてBluetoothを搭載しているのみである。身につけられたMoff Bandの動きを検知してスマートフォンに送り,そこで3次元リアルタイムモーション解析が行われている。一定のパターンの動きに対して,特定の音を出すという仕組みは分かりやすいのだが,実際には,さらにデータをクラウドに送り,より多くのデータと組み合わせて解析精度を上げる仕組みが作られているという。

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 さらに,プラットフォームをオープンにして,コンテンツビジネスとの連携なども狙ったり,SDKを公開するなどの予定もあるという。一般の人と共同で製品を作り上げるエコシステムの構築を目指している。

 新しいものへの挑戦に満ちた,いろんな意味で「イマドキ」の企業であり,新しいものを作る手法については非常に新鮮な視点が多かったように思う。ゲーム開発と直結するわけではないが,これからの時代のモノ作りの姿ということでは刺激になったのではないだろうか。個人的には,バズワードっぽいものが満載なのにも関わらず,きちんと成功への道に乗っているぽいところに驚かされた講演だった。
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