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[GDC 2012]歴史に埋もれたゲームから新たなアイデアが生まれる。「TRS-80」のタイトルを紹介するセッションに参加してみた
ここでは,スピーカーを務めたJim McGinley氏の「レトロゲーム愛」がたっぷり詰まったセッションの模様をお伝えするが,その前に,TRS-80の概要を軽く説明しておこう。
TRS-80は1977年に発売された家庭用コンピュータである。モノクロームのディスプレイが付属し,1色のみ,濃淡なしで128×48ドットの表示が可能だった。ドットは正方形ではなく,縦長になっている。
CPUのクロックは1.77MHz,メインメモリ容量は16KBで,ほとんどのアクションゲームは10〜20fps程度で動いていたとのことだ。
今からは考えられないような低いスペックだが,このコンピュータでプレイできたゲームにはどのようなものがあったのだろうか。以下で紹介していこう。
●Dancing Demon
最初に紹介されたのは,名前のとおり,悪魔が踊りまくるゲームだった。コマンドを打ち込んでBGMを作曲し,その曲に合わせたダンスを悪魔に振り付ける,という内容だ。
振り付けがなかなか充実していて,7種類のステップ,3種類のジャンプを含む18種類の動きが収録されている。実際のダンスもかなり滑らかな動きで,筆者は「TRS-80でここまでできるのか」と驚いた。
McGinley氏は「アニメーションの出来がいいため,低解像度を感じさせない」と,このタイトルを分析していた。
●Crazy Painter
Painterというタイトルがついているものの,お絵かきが目的ではなく,黒い画面を白く塗りつぶせばクリアというシンプルなゲームだ。塗りつぶした場所を食べてしまう敵が出てくるので,それらを倒しながらひたすら塗り続ける,というプレイになる。
McGinley氏が「人は何も描かれてないキャンバスを見ると,塗りつぶしたくなる」と,人間の本能的な欲求をうまく利用していることを指摘したほか,「低解像度が,塗りつぶす作業を楽しくしている」とも述べていた。
確かに,高解像度でこのゲームを作っても,細かな塗り残しができてストレスが溜まりそうだ。
●Outhouse
「宇宙船を操って,トイレからトイレットペーパーを盗もうとする侵入者を撃退する」という,ユニークな設定のシューティングゲーム。侵入者を撃ち逃すと残りのペーパー量が減り,0になるとゲームオーバーになるという,バカバカしい内容で,ゲームの紹介だけで会場が沸いた。
McGinley氏もこの反応に笑顔を見せていたが,このタイトルの紹介でもっとも強調したのは「すべての敵が1発で倒せる」という点だった。最近のシューティングと比較すると,このシステムは新鮮かもしれない。
●Space Warp
宇宙空間を飛び回りながら,敵機を撃墜するシューティングゲーム。特筆すべきはミサイルの発射方法で,一般的なタイプのシューティングタイトルなら自機を敵の方向に向け,ボタン1つで発射するところを,本タイトルでは発射したい角度の数字を入力する。もちろんリアルタイムで,である。
McGinley氏は子供のころに本タイトルをプレイしたことがあるとのことで,「角度なんて知らないころだったから,とても勉強になったよ」と笑いながらゲームを紹介していた。
●13 Ghost
景色がスクロールしていく中,次々と現れる幽霊を撃退していく一人称シューティングゲームのようなタイトルだ。
McGinley氏が「Great graphics」と言うとおり,128×48ドットの解像度とは思えないほどの映像表現と言えるだろう。
●Arex
一定以上のスペースを塗りつぶすとステージクリアという意味ではCrazy Painterと似ているが,こちらは上下左右の4方向にしか動けず,一度通ったスペースは通れないというパズル要素を含んだゲームである。McGinley氏は「狭いフィールドをうまく生かしており,濃密さを感じる」と評価している。
さて,ここまでセッションで紹介されたタイトルでもとくに印象深かったものをピックアップしてきたわけだが,McGinley氏はセッションのまとめで,TRS-80タイトル共通の特徴として「Nice Wrapped」という点を挙げた。
これはゲームがシンプルであることに加え,プレイ開始前に簡単なインストラクションがあり,登場するキャラなどがすべて分かるようになっていることで,誰でも迷わずにプレイできることを指している。これもグラフックス能力が未熟な時代だからこそ生まれた工夫だったと言える。
セッションに参加した開発者に,TRS-80のタイトルはどう映っただろうか。歴史に埋もれていたゲームシステムから,新たなタイトルが生まれることを期待したい。
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