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[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
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印刷2008/03/01 21:58

インタビュー

[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化

「2ちゃんねる」の管理人にして,ニワンゴの設立メンバーでもある,ひろゆき氏
画像集#011のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
 「2ちゃんねる」の管理人ひろゆき氏といえば,ここでくどくどと説明を並べ立てるまでもない有名人だろう。彼は「ニコニコ動画」のサービスを提供するニワンゴの,設立メンバーの一人であり,サービス運営に独自の役割を果たしている。
 そんな関係もあって,OGC 2008にはなんと,彼が登壇するセッションが設けられている。第8講「コミュニティが生み出す想像事例と,CGMの可能性」と題したフリートークセッションがそれで,話題の中心となるのはおそらく,ニコニコ動画のサービスとアップロード作品,そして「ニコニコ映画祭」の応募作品といったことになるだろう。

 このセッション自体,ある意味たいへん時宜を得たものといえそうだが,当サイトがひろゆき氏に話を聞くなら,その範囲に留めるのはもったない。彼が「ニコニコ動画」のサービスにどういった価値を見いだしているかを基軸に据えつつも,むしろ「2ちゃんねる」の運営経験を踏まえた,彼独自のコミュニティ観を広汎に語ってもらうことで,なぜいま彼が「ニコニコ動画」なのかも,自ずと見えてこようというものだ。
 そうしたわけで,PCゲーム/オンラインゲームの話題も交えつつ,ひろゆき氏との,ちょっぴり刺激的な会話の数々をお届けしよう。

■関連記事
[OGC2008#04]「ニコニコ動画は2007年最大ヒットのオンラインゲーム」ネット社会学の若手論客,濱野智史氏にネットコミュニティについて聞いてみた



「赤の他人とチャットしても,
面白いとは思わないですからね」


画像集#013のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。セッションでは基本的にフリートークということになっていますけれど,題材は「コミュニティが生み出す想像事例」ですよね? そうした意味で,最近印象に残った動画投稿とかって,ありましたか?

ひろゆき氏:
 うーん,最近はあまり見てないんですよね。「2ちゃんねる」も「ニコニコ動画」も。

4Gamer:
 ……いきなりそう来ましたか。意図的に距離を置いている感じですか?

ひろゆき氏:
 というよりは,ほかのゲームをやるのに忙しいって感じです。

4Gamer:
 ああ。ブログにも,コンソールゲームの話題がいっぱい並んでますよね。いまプレイしているのは,もっぱらコンソールゲームですか?

ひろゆき氏:
 そう。あとは携帯型ゲーム機のもやってますけどね。

4Gamer:
 PCゲームはどうですか?

ひろゆき氏:
 PCゲームは最近,ほとんどやってないですね。「Age of Empires」シリーズとか,「シヴィライゼーション4」くらいかなあ。

4Gamer:
 おお。「シヴィライゼーション4」は,やっぱりプレイしていましたか。そういえば,以前「エンパイア・アース」をかなりやり込んでいたと,どこかでお聞きした憶えがありますね。

ひろゆき氏:
 RTSは割と好きなんですよ。

4Gamer:
 そういえば「シヴィライゼーション」も,4でだいぶRTSに近くなりましたね。じゃあ,拡張パックの「ビヨンド・ザ・ソード」とかも?

ひろゆき氏:
 いや,まだやってないですね。買うかどうか迷っているくらいです。僕は拡張版というものがあまり好きじゃなくて。「三國無双」シリーズとかも,拡張版が出るじゃないですか。ああいうのが,なんかバッタものみたいに思えるですよね。

4Gamer:
 バッタものですか。手厳しいなあ。

ひろゆき氏:
 きちんと単体のゲームとして作っているわけではなく,もともとあるものの趣向をちょっと変えただけで,まるまる1本分とあまり変わらないお金を払うのは,ちょっと納得いかんというところが。

4Gamer:
 気持ちはよく分かります。とはいえ「シヴィライゼーション4」でいえば,拡張版の「ビヨンド・ザ・ソード」が出たタイミングで,ニコニコ動画にけっこうイカしたプレイムービーが上がったらしくて,それでだいぶ売れた,なんて話を聞きましたけど。あまりそういう話は聞かないですか?

ひろゆき氏:
 作品の概要を紹介したものは,見たことあると思いますけど,イカしたプレイムービーですか。「シヴィライゼーション4」ってすごそうなプレイって,あまり思いつかないなあ。RTSだと,すごく細かい操作とかで「この人すげえ」ってなるんですけど。

4Gamer:
 超絶プレイというよりは,おいしいシーンをつまんでいって,最後はこうなっちゃったとか,そういう感じらしいですが。

ひろゆき氏:
 ああ,リプレイを編集するみたいな。

4Gamer:
 ええ。あの「シヴィライゼーション4」に関して,そういう動画をみんなで見て楽しめる時代になったんだなあと,あらためて感心しました。

ひろゆき氏:
 でも,個人的にプレイしてたのはだいぶ前ですけどね。

4Gamer:
 まあでも,ニコニコ動画でゲームソフトのセールスが伸びるという構図は,「シヴィライゼーション4」に限りませんし。

ひろゆき氏:
 「アイドルマスター」は個人的に受け付けないですけどね。純粋にゲームとして見ると,いかがなものかと。

4Gamer:
 そういうものなんですか(笑)。

画像集#003のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
ひろゆき氏:
 まあOGC 2008に沿って話すと,そのオンラインゲームが面白ければ,動画を見ても「面白いや」と思えるかもしれません。ただ,個人的にはPCのオンラインゲームが,そもそも面白くないことのほうが問題です。

4Gamer:
 立場的に同意していいものかどうか微妙ですが,「ゲーム性」に話を絞る限り,私も個人的にはそう思っています。たぶん目指しているのがゲーム性を濃くする方向とは必ずしも一致せず,まったりと会話する方向に行っていたり,仲間内でネタを見せ合うような方向に行ってたりするのかなあと。

ひろゆき氏:
 ひたすらチャットするだけとか,パブリッシャがプレイヤーを“人質に取って”プレイせざるを得ない状況を作るとか,なんかいま一つ楽しんでいる感じがしないんですよ,オンラインゲームって。

4Gamer:
 言わんとしていることは,なんとなく分かります。

ひろゆき氏:
 そこは昔からずっと進化していなくて,「Second Life」でもまったく同じなので,僕は面白くないと思っているんですけど。

4Gamer:
 変な言い方ですが,ある程度お金になっちゃってますからね。

ひろゆき氏:
 ええ。ビジネスモデルが違う。ゲームって,ものすごい面白かったという思いができれば,プレイが10時間や20時間で終わっても,商売は成り立つはずなんですけど,PCオンラインゲームって,毎月お金を払ってもらう必要があるので,だらだらやり続けさせなきゃいけないという。『少年ジャンプ』で,人気が下がったのにやめさせてもらえない連載みたいな感じに,ならざるを得ないと思うんですよね。

4Gamer:
 そう。ある種の引き延ばしを計算してやらないと,投資を回収できない。また,アイテム課金が普及して基本プレイが無料になったらなったで,代わりにアイテムを買ってもらう必要が出る。そうすると,ますますゲーム性よりアバター性に寄っていくとかね。

ひろゆき氏:
 金払ったやつが強いみたいな?

4Gamer:
 いや,それはプレイバランスの問題もあって想像するほどは多くないんですが,ゲーム内で自キャラが着られる衣装とか,そういう方向へ行くわけです。それは「ゲーム性」とは違うよねと。

ひろゆき氏:
 そういう意味では,チャットとかアバターとか,女の子型のゲームですよね。基本的に男の子が楽しいと思うものじゃなくて。「出会い」たい人にはいいんじゃないですか(笑)。

4Gamer:
 ……シャレにならない話だけど,それも否定できないなあ。では,御自身で普段やっているゲームは,「ゲーム性」重視の方向ですか。

ひろゆき氏:
 ええ。僕は赤の他人とチャットしても,面白いとは思わないですからね。

4Gamer:
 よもや「2ちゃんねる」の管理人さんから,そういう話を聞こうとは思わなかった(笑)。

ひろゆき氏:
 「こんにちは」とか話してても,しょうがないじゃないですか。今日こんなもの食べましたとか。そんなことに時間を費やすくらいだったら,別のことをやったほうが面白いと僕は思うんですけど。プレイに目的がないから,だらだらチャットするわけで。
 僕は「モンスターハンター」が割と好きなんですけど,あれはモンスターを倒しに行くという目的があって,そのためにチャットをし,倒したら終わるという,明確な流れがあります。
 そんなにMMORPGをやってないから,あまり決めつけるわけにいきませんがMMORPGだと,一応ちょっとずつクエストは進むものの,クエスト自体がプレイの目的じゃなくて,目的はチャットだったり,キャラの装備品を見せあうとかじゃないですか。僕にはあまり性格的に合わないなと。もちろん,それが好きな人は好きでよいわけですが。

4Gamer:
 うーん,愉快なパフォーマーに出会えるかどうかでも,オンラインゲームの楽しさは変わってきますからねえ。目的意識がない限り,絶対に面白くならないとはいえないけど,あまり「ゲーム性」じゃないかもなあ。

ひろゆき氏:
 まあ人それぞれだとは思うんですけどね。僕は,赤の他人の日常生活のことを聞くくらいだったら,映画とか見てるほうが面白いと思うタイプなんですよ。
 モンハンは基本的に友達としかやらないですね。まず「友達と遊ぶ」というのがあって,それが麻雀だったりモンハンだったりするという流れです。


「人間に興味があるんじゃなくて,
知識に興味がある」


画像集#015のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
4Gamer:
 うーんと,先ほどの驚きをそのままぶつけてみるわけですが,赤の他人と出会える場としての「2ちゃんねる」に対する関心と,「赤の他人と話してもしょうがない」という考えは,どのようにつながるんでしょうか?

ひろゆき氏:
 人間に興味があるんじゃなくて,どちらかというと知識に興味があるんですよね。「この話をしたい」とか「こういう情報を知りたい」とか,目的は人間じゃなくてあくまで情報なんです。情報のやりとりをする場として「2ちゃんねる」を作っているので。「いま発言しているこの人が,本業としては何をしているか」なんていう,「この人に関する情報」には興味がない。だから,それを削ぎ落とした形になってるんですよ。

4Gamer:
 そういった意味で,「2ちゃんねる」は,純粋な情報交換ができる場として価値があると。

ひろゆき氏:
 そしてその場合,肩書きは邪魔になります,例えば僕が言っちゃうと,もう正しいんだと思い込んじゃう人って,やっぱりいるんですよね。「私は大学教授です」って書いちゃえば,「大学教授が書いているんだから正しいだろ」って信じてしまう人がいるけれども,それと情報の信頼性は本来違うはずです。
 匿名でいながら説得力のある人って,結局情報ソースを持っていたりとか,合理的に結論を導いていたりとか,誰が見ても納得できる理由を持っているわけです。情報としてはそっちのほうが信頼性が高くなるんじゃないのかなと思っているんですけど。

4Gamer:
 なるほど。あくまで情報に関心があるから話すのであって,だらだら日常生活を話しているのとはまた違うと。

ひろゆき氏:
 まあ,それはそれで楽しいときもありますけどね。こんなアホな生活してる人がいるんだなあ,とか。よほど暇なときはやりますけど。……言われてみると,僕は理解しづらい言い方をしているかもしれないなあ。他人同士のコミュニケーションサイトやってて,自分はコミュニケーションが嫌いって(笑)。

4Gamer:
 それはそれで非常に面白いです(笑)。いまの説明できれいに話がつながりましたし。「2ちゃんねる」を回す興味として,私が勝手に想像していたのは,そもそも人がコミュニケーションを交わす場を設計すること,またそれを将来に結びつけることに興味を持っている,という感じだったんですが。
 例えばオンラインゲームの運営者って,コミュニティをいかに形成させるか,何が形成の契機になるかとか,そういうことを常に考えているんですね。そうか,あんまりそういう指向はなかったと。

ひろゆき氏:
 まあ,情報を得るという目的のほうが近いんじゃないですかね。僕が聞いたときに,答えてくれる人がいる場所があったら便利っていう。

4Gamer:
 あまり社会デザインとか,人の集団を将棋の駒のように動かして,ここにこういうものを足したらこう発展していくとか,そういう種類の関心ではないんだ。

ひろゆき氏:
 それはそれでたまに思いますけどね。こういうツールを出したらどういう風に使われるんだろう,「へー,こうやって使われるんだ。ふーん」とか。

4Gamer:
 まったくないわけではないが,中心ではないと。

画像集#004のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
ひろゆき氏:
 思いついて面白そうだったらやるし,面白くなさそうだったらやらないとか。僕の場合,場があること自体が目的なので。オンラインゲームとかだと,場を用意して収益化するのが目的なんでしょうけど,僕の場合は場が存続すること自体が目的だったりするんで。そういう意味ではなんというか,とくに新しいことをやって,決めたゴールに持って行こうという思考には,あまりならないですね。こういうツールを入れたらどう変化するだろうとか,そういう実験的な興味はありますけど。

4Gamer:
 「なにが起きるだろう」であって,「どうしよう」ではないんですね。

ひろゆき氏:
 んー。「どうしよう」で,どうにかできたことがないからじゃないですかね?

4Gamer:
 それは実のところ,すごく深い話ですね。

ひろゆき氏:
 社員とかだったら命令すれば聞くと思うんですけど,サービスの利用者にはなんの制約もないし,強制力も働かないので,「こうしてください」と言っても限界があるわけです。
 だとすると,彼らにやりたいと思わせるか,彼らがやりたいことをやるようにするかの二つだけが選択肢です。人の説得って,たいへんじゃないですか。時間をかければ一人は説得できると思いますけど,じゃあオンライン上に100人います,一人1時間かかるから100時間かかりますでは,とても説得なんてしていられない。そうした意味で,あきらめも早かったというだけだと思います。

4Gamer:
 あきらめたわけですか……。いや,ゲーム内の住人の要求に鼻面を引き回されるタイプのゲームってあるじゃないですか。さっきRTSがけっこう好きと言っていたので,そういう楽しみ方をしているのかなと思ったんですけど。

ひろゆき氏:
 RTSに関しては,忙しいのが好きなんですよ。戦場が三つとかになると,判断する余裕がなくなるじゃないですか。見た情報を瞬時に判断して,次に行ってまたやって……っていうので,そういうときの,何も考えないままずっと動かしている状態が好きなんですよ。反射神経だけで処理している状態っていう。
 あと,それを友達とやってゴネるのが面白いんです。お互いに文句言い合ったりとか。

4Gamer:
 RTSは感想戦が面白いですよね。

ひろゆき氏:
 RTSの対戦は,1 vs. 1ではやりません。コンピュータ対人間とか,2 vs. 2とか。1 vs. 1でやると,もめて終わるだけなので。ただそこに不確定要素が入ってくると,そこに対してどうするかという問題が出て,面白くなる。

4Gamer:
 そこは同意ですね。はっきり指摘している人があまりいないんですけど,マルチプレイのゲームって,各人の責任を明確にしすぎちゃうと,ハードルが上がるんですよ。だから不確定要素があったり,運が悪いと死んだりとか,それくらいのほうがむしろ気軽だという経験則あって。

ひろゆき氏:
 どこまでもシビアなゲームだと,自分がこれ以上上達しようがないという現実が,見えてしまうんですよね。

4Gamer:
 そうですね。あと,強い人と弱い人の差が明確に出ちゃうんで,100回やって100回とも勝敗が決まってるなら,やらなくていいじゃんとかなりがちです。その心理はよく分かります。

ひろゆき氏:
 そのあたりは不確定要素と,なんか努力をしたら上達できるかもしれない感みたいな幻想ってのと。もちろんルールとかシステムを理解すれば,多少は上達するんですけどね。

4Gamer:
 まあ,途中までは幻想じゃないですからね。2人だと監視する相手が一人しかいないから不確定要素は少ないですけど,4人とかになると,組み合わせの妙みたいなのが出てくるし。

ひろゆき氏:
 戦略とかになってくるから,ゲームというより心理戦になるんですよね。この人達はあまりアグレッシブなことはしてこないから,先に攻めたほうが有利とか,後半になるときっと守ってくるだろうから,あえて攻めの兵隊を作らないようにしようとか。この人の性格的にこうだろう,っていう心理戦が面白い。

4Gamer:
 やつはパニックに弱いみたいな。

ひろゆき氏:
 常時ちょっとずつ兵隊を送っていると,忙しくなってパニックに陥り,何もできなくなるタイプの人とか。


「属人情報をなくすと,コミュニティに参加しやすい」


画像集#005のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
4Gamer:
 なるほど,RTSはいかにもやり込んでいそうです。では,さっき引き合いに出した,ゲーム内NPCとかの要求に引きずり回される箱庭シミュレーションとか,そっちはどうですか?

ひろゆき氏:
 どれ系ですか? ピニャータとか嫌いですよ。

4Gamer:
 だめですか?

ひろゆき氏:
 どこが面白いか分からなかったんですよね。RPGに多いですが,お使いゲーってあるじゃないですか。あれ僕やっぱりだめなんですよ。飽きちゃって。

4Gamer:
 ゲーム内で新しい物とか手に入れて,嬉しいと思えるか思えないかって,その場合けっこう大きなポイントのような気がしますね。

ひろゆき氏:
 新しい武器が手に入って,スペックが上がって楽しいかどうかとか。多少レベルが上がったら,ゲームの展開が楽になるので,楽しいかな,となるんですけど,そのために1回入ったダンジョンにもう1回入ってなんか取って来いみたいな,作業やらされてる感を持った瞬間に飽きちゃうんですよ。
 「シムシティ」とかは割と好きです。バランスの最適化をするのがけっこう好きで,その最適化した状態っていうのが,極端であればあるほど面白い。
 基本的にどんなバランスゲーでも,中庸を取っていれば,それなりにうまくいくじゃないですか。そこであえて中庸を取らないで,ものすごい極端な形でも,状態としてはバランスが取れているときってのがたまにあるんですけど。そういう状態をあえて作るのが好き。

4Gamer:
 うーん,じゃあ「ストロングホールド」とかご存じですか?

ひろゆき氏:
 知らないですね。

4Gamer:
 RTSなんですけど,城を作って人んちの城を壊すってのがメインで,コンストラクション的な要素とRTS的な要素が混ざっているんですよ。そうすると,事態によって判断しなきゃいけない部分と,自分で計画しなきゃいけない部分が混じってくる。

ひろゆき氏:
 ふーん。なんか「ランパート」みたいな感じですね。

4Gamer:
 全体的な構成要素ではそうかもしれませんね。あくまで採取/生産要素を持つRTSですけど。では「トロピコ」はいかがですか?

ひろゆき氏:
 ああ,「トロピコ」はやりましたよ。あれはけっこう好きではあったんですけど,いかんせんバランスを取るっていうのに注力するほどはやらなかったですね。割と好きなジャンルではありますけど。「ズータイクーン」とか,あとレイルコースター作るやつとか,ああいう系のやつは割と好きですけど。

4Gamer:
 「トロピコ」はコンストラクションだけれども,制約がいろいろあって,そこには計画の面白さと,事態に合わせる最適化の面白さが同時にあると思うんですね。

ひろゆき氏:
 「トロピコ」の場合,結局なんか勝ちパターンというか,単純に言われたとおりちゃんと作っていくとけっこううまくいくけど,偏ったことをやると失敗するっていう。僕的にはあまりこう,うまくいかなかったんですけど。

4Gamer:
 ああ,必要なことをカチッと求められちゃうという。なるほど,言われてみればそのとおりですね。
 直結してたり裏返ってたりとバリエーションはありますが,ゲームに対する興味と現実に対する興味って,けっこうつながってることが多いと思うんですよ。

画像集#010のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
ひろゆき氏:
 「シムシティ」と「2ちゃんねる」に対する興味の共通点は,極端な部分での安定じゃないですかね。ほかのコミュニティサイトは匿名性を排除して,ある程度制御できる,コントロールできる形で安定を求めるんですけど,「2ちゃんねる」の場合,コントロールしないことで安定してるんですよね。
 コントロールしないけど,最終的には文字書くだけなんだし,お互い攻撃的なら好き勝手書けば,というか。誹謗中傷も,やられて嫌だったらやり返せばいいし,それでイーブンでしょ,というところでバランスを取っている。そこはもう,使う人達が勝手に決めればいいじゃんねという。

4Gamer:
 ああ。自力救済の世界なわけだ。

ひろゆき氏:
 それがたぶん彼らの求めているものであって,ほんわかした雰囲気が好きな人達は,ほんわかした雰囲気の掲示板を作ればいいし,誹謗中傷や罵倒しあうのが楽しいと思う人達は,それで楽しめばいいし。
 作っている僕の目的がお金を取ることなら,コントロールする必要があるんですけど,中の人が満足しているなら別にかまわないというポジションを取っているので,そういう意味では全部安定しているという感じに,僕には見えるんですよ。

 例えば5人が1年間バイクの話をしているとしますよね? で,そこにそのバイクを好きな人が一人,たまたま入ったとします。5人がめっちゃ仲良くて,赤の他人が一人で入ったら,いきなり会話に参加できるかっていう状態になるじゃないですか。属人情報をなくすと,単にバイクの情報を書けば参加できる,参加しやすいっていうのがあるんですよね。

4Gamer:
 単に「6番さん」になるだけ,と。

ひろゆき氏:
 例えばバイクをすごくいっぱい乗っている人が「このタイヤいいよ」っていうと,本当は何がいいんだか分からないけど,いいっていうことが確定しちゃうじゃないですか。でも匿名の場合って,何がいいのか,こっちのタイヤとこっちのタイヤを比較して,スリップが少ないとか,これならタイヤの溝が少ないとか,いろんな情報を出して,見ている人がそれに納得するという形になるんで。

4Gamer:
 書かざるを得ないから,そこで初めて書くという。

ひろゆき氏:
 残った情報として価値が高いのはどっちかっていうと,たぶん属人情報が少ないほうじゃないかと,僕は思うんですけど。説得したければそうせざるを得ない。単にフィーリングが合うからっていう人なら,それはそれでいいと思うんですけど。


「コミュニティって,だいたい2,3年でつぶれる」


画像集#009のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
4Gamer:
 またいまの論点の外側から疑問提示をしたいんですけど,一方で「2ちゃんねる」を居場所として捉える考え方がありますよね。そうした考え方と,人がいられる/いられないという問題については,どう考えていますか?

ひろゆき氏:
 そこはたぶんバランスの状態で,「ニュース速報掲示板」ていうのがあるわけですけど,最初に「2ちゃんねる」が流行った頃は「ロビー」って掲示板が流行ってて,そこはいろんな情報をみんなが持ち寄って流行らせていたわけです。
 ところがそのうち,属人的な,要はハンドルを持っている人が会話をし始めて雑談が増え,そこにいたい人はそのままいた。でも,その場にいたい人の話って,面白くないんですよ。今日何食ったとかそんな話だから。そうすると他人から見て面白くない情報が多いので,新しい人が入ってこなくなって,新しい情報が少なくなって,廃れていくんですよ。
 で,その次に「ラウンジ」って掲示板がまた出てきて,でもやっぱ雑談が増えて廃れて,で「ニュース速報」ってのが出て,割と廃れそうになったので,いろいろ排除する仕組みを入れてみようとかで,いまいじったりしている,という感じです。

4Gamer:
 ああ,居着かせちゃだめなんだ。

ひろゆき氏:
 僕は基本的に第三者とか,まったく前提知識のない人が見て,面白いものであったほうが面白いと思うタイプなので。で,「ニュース速報」から「ニュース速報VIP」というのがうまくいって,でもそこもまた最近雑談が多くなって,廃れて始めているという。

4Gamer:
 不断の闘争ですねえ。もうそうなると

ひろゆき氏:
 こういうコミュニティって,だいたい2,3年でつぶれるんですよね。つぶれる理由ってやっぱり,常連が幅を利かせるからで。そうすると新しいところに行くっていうのが,いままでの解決策だったんですけど,そこをなんかシステム的にいじって解決できる方法があるかな,というのを,いろいろと試しているんですけど。

4Gamer:
 なんというか,もうちょっと大きいモデルに当てはめると,すごく分かりやすいですね。業界の流行り廃りとか,雑誌の寿命10年説とか。その分野が立ち上がったばかりで専門家がいないと,いろんな業界から人が流れてきます。そいつらはある意味百戦錬磨というか,何がどうなっても対応できるやつしか入ってこないので,こいつらがいる間は栄えると。ただし,立派な専門家が揃っていくと,そこで寿命が決まる,みたいな。
 内輪の話にもなっちゃうし,物事は専門化してしまうしで,その人達に任せておけばいいんじゃない? って感じになり,外からの流入がなくなる。そんな構図にちょっと似ていますね。

ひろゆき氏:
 たいていのものは,成熟して廃れていきますからね。

4Gamer:
 じゃあ,快適な居場所であるべきだという考え方はないと。

ひろゆき氏:
 双方にとって快適な居場所を共存させるなら,それぞれ別の場所に作ったほうが早いかなあと。新しい人にとって快適な場所を別に作っても,古い人達にとって古い場所は快適なままなので,新しい人にとってみれば,古い場所を変えるよりも,新しい場所を作ったほうが早い。
 僕は出身が北区の桐ヶ丘ってとこなんですけど,桐ヶ丘団地というのがあって。そこは戦争で帰ってきたら家がなかった兵隊さん達が住み始めた街で,昔は割と活気があったんですよ。団地も50棟ぐらいあって。でもその人達が爺さんになりましたと。子供達はどんどん出て行っちゃって,いまは爺さんばっかりなんですよ。老人率がめちゃくちゃ高くて,街としては死んでますね。きっと,ある意味快適ではあるんだろうけど。

4Gamer:
 コミュニティもそういう経緯をたどると。「2ちゃんねる」としては,全体のエコシステムの中で新しいスレッドを立てていくことで,コミュニティを刷新していけるじゃないか,っていう考え方なんですか?

ひろゆき氏:
 スレッドというか,新しい掲示板になっちゃいますけどね。「ニュース速報大好き!」って人達がいると,もうそこはダメなので,じゃあ新しいところを作って,新しい人はこっちで楽しんでくださいと。

4Gamer:
 なるほど。それで全体としては回っていると。

ひろゆき氏:
 そうですね。その掲示板自体に飽きていなくなる人もいるし,「掲示板があるんだ,面白い」って,新しく入ってくる人もいるしで,回り続けるんじゃないかなと。


「自分の作ったものを勝手に変えてくる人が,
存在する文化」


画像集#018のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
4Gamer:
 じゃあ,そういう興味を持つひろゆきさんにとって,ニワンゴとニコニコ動画というのはどういう場ですか?

ひろゆき氏:
 ニワンゴ自体はもともと携帯電話向けのサービス会社として始まったんですよね。携帯のサービスって僕はやったことがなかったから,割と興味があって面白いのかなと思ってやってみたんですけど。あんまり面白くないというのが分かってしまって(笑)。

4Gamer:
 そんな早い時期から,本格的に関わっていたんですか?

ひろゆき氏:
 設立のとき一緒に作ったんで。ドワンゴと未来検索ブラジルって会社で作ったのがニワンゴで,3年前くらい。
 掲示板やっているのもそうですけど,僕は観察するのが好きなんですよ。ところが携帯電話って,サービスを提供します,サービスを使う人ですっていうのが,完全に分かれていて,使う人が面白いものを創る文化っていうのが,そんなにないんですよね。
 最近ようやくケータイ小説みたいのが出てきて,割とありなんじゃないかとは思っているんですけど,それもやっぱりブログと一緒で,書いてくださいってツールを提供して,そこでやるっていうだけ。予想外の使い方をしたりするとか,新しいものを作ってくるユーザーっていうのが出てこないんですよね。

4Gamer:
 ああ。そこは仕組みとして見ると,そのとおりですね。

ひろゆき氏:
 それはあんまり面白くないなと思っていたところに,ドワンゴで「動画みたいのを今度やるんだよね」という話が上がって,それは面白いんじゃないかなと。結局動画をアップロードするツールでしかないんですけど,その動画ってもの自体,コンテンツをユーザーがどう作っていくかで,面白い部分を含んでいる。
 ケータイ小説とかだと一人で作れたし,YouTubeもだいたい一人で作品を作ってる。それに対してニコニコ動画の場合,人が作ったものを勝手に変えるのもアリだよね,という文化圏なんですよ。ケータイ小説もYouTubeも,それはあんまりないんですけど。
 例えば他人が作った動画で勝手に悪ノリしてみましたとか,絵を付けてみましたとか,音声つけてみましたとか。著作権法上あり得ないことなんですけど,ニコニコ動画内に,当然のことだよね,文句言うのがおかしいよね,という文化圏を作ってしまうと,割と予想外のものがどんどん出来上がるっていうのが,見ていて面白いです。

4Gamer:
 なるほど。「電車男」のムーブメントと似たようなものと考えていいんですかね? それともあれとはまた違う?

ひろゆき氏:
 んー,「電車男」のムーブメントはどうなんだろうな? でもあれも似たような話ですし,相談しました,それにみんなが答えました,ていうのはけっこうあるんで。ネット上で起きていることを一般の人は知らなくて,すごく目新しいから「あ,面白いかも」と思った。で,それが一般の人に分かりやすい媒体である本やテレビというツールで提供されて,受けました,っていう形で。

4Gamer:
 ただ,実態としてそれを書き継いでいった,そのまた続きとかを書いちゃったみたいな人ってのが実際に出てくるじゃないですか。それ自体は既存の販売メディアに対しても存在して,例えばゲームとそのショートストーリーみたいな関係がそうですよね。
 まあそれはともかく,ニコニコ動画の面白さっていうのはさしあたり,他人のやった作業を引き継いだり,あらぬ方向に持って行ったりとか,そのへんにあるって感じですか?

ひろゆき氏:
 そうですね。たぶんそれって,見ている僕らにも予想外なら,作っている人にとっても予想外なんですよね。作っているものを見てください,で,そのリアクションはいっさい必要ないです,って芸術家もいると思うんですけど,そうじゃない人のほうがたぶん多いと思います。自分が作ったものに対して感想がほしいとか,どういう風に思ったか聞きたいとか,それくらいは本とかでもできるんですけど,自分の作ったものを勝手に変えてくる人っていうのが,存在する文化ってまだなかったと思うんですよ。

4Gamer:
 まあ,なかなかないですね。

ひろゆき氏:
 まあ,「2ちゃんねる」だとアスキーアートとかがその分野だったんですけどね。何か描いてみたら,なんか角生やすやつがいるとか,勝手にセリフ付けて流行らすやつがいるとか。そういう文化を動画で試してみたというのが,作る人の新しいモチベーションにはなっていると思うんですけど。

4Gamer:
 ムービー作品でも,何かを謝る場面に皇居前で泣き崩れている人の写真を持ってきちゃって「申し訳ございません」みたいなのがあったりしますよね。要するに,それをもっとアクティブに誘発できる仕組みであるところに,面白さを感じていると。

ひろゆき氏:
 まあ,割と。ミクシィとかで同じことをやると,削除されて終わりになると思うんですけど,ニコ動の場合は「面白ければいいんじゃねーの」で,これを削除する運営側が悪い,っていう意見が大多数を占めるんですよ。
 運営が悪いとは,なかなかならないもので,そこには「世の中とはこういうものです」ってあきらめがあると思うんですよ。これは完成品で,僕らがどうこうできるものじゃありませんと。
 ニコ動では割と,言われたら運営が「すいません失敗しました」ってすぐ謝るようにしているんですけど,ルール自体も別に僕ら,運営側が固定化する必要はないって考えているのが,たぶん違うとは思うんですけど。

4Gamer:
 そうすると,例えば全体が自力救済で成り立つコミュニティみたいなもの,というか,循環するシステムみたいなものを頭に置いているんですか?

ひろゆき氏:
 そのほうが楽だからというのもあるんですけどね。結局,ルールが守られるためには,全員にそのルールを教育しなきゃいけないんですけど,ユーザー同士が作ったルールであれば,ユーザー同士の中で勝手に「しつけ」を始めてしまうので,僕らが何もしなくて済むという。

4Gamer:
 UG文化(UGはUser Groupの略。BBS時代やWebの初期に,物事を議論したり,教え合ったりする場で自然形成された作法や価値観)ですね。

ひろゆき氏:
 体系的な,つまり陸軍的な指揮系統でなく,アルカイダみたいに個々のグループの中にルールがあって,実際はどういう風に展開しているか分からないっていう。
 たぶんアルカイダもそうだと思ってるんですけど,最終的な目的だけ共有してて,実際に個々がどう動くべきかなんて,勝手に判断しているじゃないですかね。
 ニコ動とかも,結局面白いものを作るためにみんな集まっているんだよね,っていうところの価値観だけは共有できてるけど,その方向性,何が面白いかっていうのはそもそも人によって違うから,コントロールしようがない。だけど,面白さを目指している限りはそれでいいよねっていう,最低限の認識だけはカッチリしているっていう。

4Gamer:
 近代っていう時代は,まず「大きな物語」があって,その中での位置取りを個々人が自覚することを主体性と呼び,それで社会がうまく回るんだというタテマエじゃないですか? それに対して,いま聞いた話では最小限の目的を共有したうえで,やり方をすべて個々人に任せるわけですから,もっと広い意味での「主体性」が求められる,と。

ひろゆき氏:
 そういう意味で,その「物語」という,体系化された大きなものが,もう納得できないという人がたぶん増えてきていて,ここだけなら納得できる,ここだけでいいんじゃねーのってところで,作り上げてみたという感じだと思うんですよ。

4Gamer:
 なるほど。それがポストモダン化なのかもしれないし,とりあえずニコ動というのはそうやって動いていると。

画像集#006のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
ひろゆき氏:
 著作権法っていうものがあって,人の物を勝手に変えてはいけませんって書いてあるんですけど,そこは納得できない。おまけに,もともと作った人の側からも「著作権法を守るより,面白い物が出来るほうが楽しいから別に気にしなくていいよ」って言い出す人がいる。するともう,既成のルールは無視して,「面白い物ならアリ,ただ,つまらない物を作るんなら,それはよくないよね」っていうところで,みんなが納得できる場。そういうことです。

4Gamer:
 もともと法というのは,社会が都合よく回るためのものであるからして,みんなが面白いほうがいいとか,みんなが儲かるほうがいいとか,そもそもみんながごはん食べられなきゃだめだろとか,そういったものから社会秩序が決まってくるはずですよね。

ひろゆき氏:
 まあ,成熟しちゃうと法律国家になって,法のための法になって,その法のための法に納得できない人が割と増えてきているというのが,いまの結果だと思うんですけど。
 実際,昨日(2月19日)ニコニコ映画祭の審査会があって,そこにサンプラザ中野さんが来ていたので,話をしてみました。サンプラザ中野さんの曲を使って,アップロードしている人がいる。サンプラザ中野さん的には「面白い,アリだ」と思っている物が,上げられたら削除されたんですよって言われて。確かにサンプラザ中野さんとしては面白いと思うけど,やっていいとも言えない。なぜならそれは,JASRACに登録されているし。
 そうなると,本人は面白いからアリだと思っていても,社会の法システムの中で許されないっていう行為が,やっぱり生まれちゃうんですよね。

4Gamer:
 システムは本来システムのために存在するわけではなく,便宜があって目的があってシステムがあるので……。

ひろゆき氏:
 のはずなんですけど,システムのためのシステムで生きている人もいるんですよね。
 社会システムって必ず経済とリンクしているのに対して,いまの僕らが面白いと思っている文化って,経済とまだそんなにリンクしていないんですよね。文化って,最初は面白いで始まって,それがいつの間にかビッグビジネスになっちゃったりするわけじゃないですか。だからたぶん経済はあとからついてくる。いまは文化を創る時期で,そのうち経済が回ってくれば,システム側の人も「回ってるんだからしょうがないよね」と,追従せざるを得ない状況になると思うんですけど。

4Gamer:
 その見方でいくと,ヨーロッパのカルチャーファースト運動とか,すごく皮肉で面白いってことになりますよね(笑)。

ひろゆき氏:
 あれは面白かったですよね。おまえが言うかって(笑)。すごい面白いと思うんですけど,いかんせん面白いと思ってくれる人があんまりいない。

4Gamer:
 伝達手段じゃなくて文化の中身が重要だから,それを創る人を保護しなきゃいけない。ついては伝達手段を制限しましょうみたいな話になってて。ある文化が生まれてくる背景には,そのときのインフラ条件があるというところを無視している。自分達がいま文化と認めているものの背景にあるインフラは許容するのに,新しいインフラは禁止できるのかあ,みたいな。

ひろゆき氏:
 あれを臆面もなく言うのがすごい。みんな冗談で言ってるんじゃないのかなと。エイプリルフールとかだったら納得できたんですけどね。

4Gamer:
 ある社会状況とか,ある人々の欲求に従って決まったルールって,その時代になかったテクノロジーが生まれて,その時代になかった欲求が生じたら,変わっても不思議はないんですけどねえ。

ひろゆき氏:
 その過渡期ではあると思うんですよね。社会情勢に合わせてシステム側も変化せざるを得ないというのを理解して,変化が始まっているので。そういう意味では,この先まだまだ変わっていくとは思いますよ。


「どっちが正しいじゃなくて,
作った人が納得できるのがいい」



BBA 長田克巳氏:
 去年の夏に,ゲーム会社で音楽を作っている人達に話を聞く機会があったので「自分がゲームで作った楽曲が,そうやって使われるのはどうですか」と聞いて回ったんです。ある方は「僕はそんなために作ったんじゃない,絶対に許せない」と。これは僕の作品だからと。ところが別のメーカーの人は,「僕はそうでもない」という感じで。
 例えば,「会社から給料をもらっている以上はプライベートでも作曲しない」「自分は才能なり技術を会社に預けて,対価として給料をもらっているんだから」という人がいる一方で,別のメーカーの方は「勤務時間内はそうだけど,日曜日にキーボードを叩いてちょっと作ってみたくなったりはする」とか。「仮に僕が作ったムービーに曲を作ってもらうことはできますか?」って聞いたら,できる/できないで言い合いになっちゃって。

ひろゆき氏:
 どっちが制度的に正しいとかじゃなくて,作った人が納得できるのがいい,と思うわけです。ただ,版権を守るシステムはある一方で,流用や改変を認める側の人のシステムが,いまいち確立していないっていうのが,たぶん現状になんじゃないですかね。

4Gamer:
 ただ,現状ニコニコ動画に動画をアップする場合でも,著作権法に抵触しないことという規定がちゃんとあるじゃないですか。その意味で,現在公的にどうしているかと,これからどうしていくべきかは,また別に考えないといけないわけですよね。

ひろゆき氏:
 うーん,ただ芸術祭のほうで言うと,例えば僕が曲を作りましたと言いますよね。でも,実際はほかから持ってきてるかもしれないじゃないですか。仮に,勝手に持ってきた曲で映画祭に出しました,それに賞をあげました,訴えられましたってことになると,ものすごい金額で負けるんですよ。
 善意でやっても,だまされたら損をしてしまう。その意味で運営側って,やっぱり保守的にならざるを得ないんですよね,いまのシステムだと。企業体がやる場合,どんどん保守的になってしまうのは,経済面がついてこないという理由です。もうちょっと時間が経てば,なんとかなるのかな,とは思っているんですけど。

4Gamer:
 ところが法体系というのは,さっき例に出た,個人的な作曲行為が就業規定に反するという考え方と,反しないという考え方の共存を,基本許さない。もし法廷に持ち込まれたら,どっちが正しいのか決定しなきゃいけないシステムだから,副業禁止規定に違反していますとか,いや基本的人権の一部ですとか,決めなきゃいけないわけですよね。

画像集#017のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
ひろゆき氏:
 そうすると,古い,経済が付いているところが勝っちゃうんですよね。既得権利であったり,経済システムが出来ているところが強いという。

4Gamer:
 とはいえ,旧秩序をすべて尊重していたら,イノベーションは起きないだろうし……っていうところが。

ひろゆき氏:
 たぶんそこらへんは,ニコ動みたいなもので,ある程度経済が回るようになったところで,こっち側の言い分も完全に無視することはできない,となるんですね。ある程度のところで均衡させたり,別のシステム作っちゃえばいいんじゃね? となったり。そういう変化が訪れると思うんですけど。

4Gamer:
 そういう側面だと,ニコ動の収支というか経営的側面に話題が飛んでしまいますけど,どうですか?

ひろゆき氏:
 一応,ニワンゴの役員だったりするので(笑)。

4Gamer:
 先ほどの話でいくと,ニコ動のシステムが経済的な価値を持たないと,既存の経済価値を持つ人に負けてしまうという理屈になりますよね。

ひろゆき氏:
 まあ,とにかく戦うための武器がないっていう問題と,本当にお金が正しいのかっていう問題は別なんですけど,お金があると正しいって理解してくれる人が多いので。

4Gamer:
 そう,まず武器としての話ですよね。その武器が手に入る展望というのをご自身ではお持ちですか? つまり黒字事業化の展望ということですが。

ひろゆき氏:
 うーん,僕個人は来年だと思っているんですけど,会社としては年内の黒字化を目指してますね。

4Gamer:
 ほう,それはどちらにしてもすごいですね。

ひろゆき氏:
 まあ,単月収支で黒字化するかどうかってだけですけどね。実際,黒字化していればトントン以上で回り続けるので,あとはうまく内部留保していけば,なんとかなる。いまはまだ赤字垂れ流しモデルなので,経済的にはないほうがいい,ってレベルなんですよね。

4Gamer:
 まあ黒字化は,少なくとも需要があることの裏付けになりますし。

ひろゆき氏:
 社会的に,お金を払ってでも存続させたいと思う人達がいるっていうことにはなるので。

4Gamer:
 いや,正直思っていたよりも,近い将来に想定されていました。

ひろゆき氏:
 んー,僕も思ったより早いなとは思いましたけどね。こんなの赤字のままだろうとか思ってたんですけど。

4Gamer:
 そこは自信を持っていらっしゃる?

ひろゆき氏:
 僕個人はどちらかというと赤字期間がもっと長いと思っていたんですけど,思ったより赤字の減るペースが速かったので。

4Gamer:
 おお,そうなんですか。いま維持費が何億だとか,いろんなところで話題が出ていますよね。それを埋めるだけの収益が?

ひろゆき氏:
 有料会員が17万人くらいです。

4Gamer:
 税込みで月額525円。いま言われているところの規模と,有料会員からの収益を比べると……。

ひろゆき氏:
 まだまだですけどね。20万人来れば月に1億入るようになるので,支出を1億以下に抑えられれば,まあいいかなっていう。

4Gamer:
 で,抑えられそうですか?

ひろゆき氏:
 うーん,僕は今年中は無理だと思っているんですけど……。

4Gamer:
 というのも,無料会員も含めて拡大しているから,そのことによって有料会員も集まっている感じがするので。

ひろゆき氏:
 サーバーとかの設備投資の問題って,拡大が止まってしまえば必要なくなるので,そこはゼロになるんですよね。あとは維持のための回線コストだったり,実験費だったりで済むようになるので。

4Gamer:
 純粋なメンテナンスコストはそれほど大きくない?

ひろゆき氏:
 まあ,人件費と回線費だけなので。

4Gamer:
 ある意味,行き着いてしまえば安くなるんですね。

ひろゆき氏:
 まあそうです。たぶん2000万人になることはないと思っているんですよね,僕は。
 「2ちゃんねる」のユーザー,月に使う人がだいたい1000万人くらいで,ミクシィがいま800万人とかそれくらいかな? で,インターネット上で何か時間をつぶそうと思ってつないでいる人が4000万人くらいで,その20%くらいが限界だと思うんですよね。会社で使っていますとか,ネットは単なるツールでテレビが好きとか,人をナンパしているほうが好きとかって人は,いっぱいいるので。そこらへんで,たぶん2000万人くらいがMAXなんじゃないかって思うんですよね。

4Gamer:
 なるほど。会員数の伸びが止まれば,そこで支出が安定すると。

ひろゆき氏:
 支出が安定すれば,どこを切らなければいけないかとか,ある程度見えるんですけど,今は拡大期なので,ある程度余裕を持って設備投資をしなきゃいけないし,スタッフも増やさなきゃいけない。もうこれ以上増えません! ってなったら,サポートスタッフもこの人数でやる,問い合わせの傾向が把握できれば,このへんを合理化してシステムにしちゃえば人件費減らせるよねとか,いろいろできると思うので。
 割といま,ジャブジャブ使っている時期ではありますね。どっち側にどういう風にコストが必要か分からないので。

4Gamer:
 なるほど。なんか聞いている限りものすごい数字が出てくるので,本当に黒字になるの? みたいな気もするんですが。

ひろゆき氏:
 いやいや,本当にまだまだ赤ですよ(笑)。
 ただ,どこまで行けるかは,どこで満足するかで決まっちゃうんじゃないですかね。例えばライブドアにしても,オンザエッジの頃に上場して,そのまま回せば回っていたと思うんで。そこでいいやと思うか,新しいところに行くためにライブドアっていうのを買って,名前も変えたほうが効率いいのかっていう。どこをゴールにするかだと思うんです。
 ドワンゴには一応キャッシュはあるんですけど,着メロビジネスがだんだん下がっているので,じゃあここで低速回転でずっと残し続けてればいいよねと判断するか,もしくはまた新しい土壌を,溜めたキャッシュで作ってみようか,っていうところの判断だと思うんですけど。


「当たらないのが普通であるということ」


画像集#020のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化

4Gamer:
 これは本来杉本さんに聞くべきことかもしれないんですけど,最近ニワンゴさんが割と外にアピールしているのは,出資者求む,という感じなんですか?

ひろゆき氏:
 んー,どちらかというと人材募集ですね。結局サービス作るのは人なので,面白い人が「あ,この会社面白そうだ」と思って,手伝ってくれないと回らないですよね。なのでちゃんと「面白いことやってます」って言わないと。
 ご存じのとおり,ドワンゴってもともとゲーム制作会社だったんです。ところが着メロで当たっちゃったせいで,着メロ会社だと思われていて,エンジニアが入ってこない。昔からゲーム制作やってるんで,いまいるエンジニアはけっこう優秀なんですよ。
 そういうギャップが生まれてきて,優秀な技術者が入ってこない。で,ニコ動始めて,「こういうのやってますよ」と言うと,割と優秀な技術者が入ってくれるようになったんですよ。これはいい流れだっていうので,そちらに乗ってみようと。

4Gamer:
 またもやゲーム業界と引き比べてみるのですが,最近のオンラインゲームにおける基本無料/アイテム課金制は,要するにストリーミングコンテンツで言うところの“フリーライダー”を許容し,プレミアムサービスの部分でお金を取ろうじゃないか,という考え方がビジネスとして回った例なわけですね。
 ただ,それでもやっぱり客数が読めないとか,すべてがうまくいったときにうまく回るシステムであって,それまでの間も,タダでゲームをプレイできるようにしておくわけですから,出費がかさむ。総じて先が読めない。うまく回ったとしても,10何%かそこらの人が,残り80何%の人を支える仕組みのままだし,回線コストやサーバーコストは,無料でプレイしている全員の分を用意しなきゃならない。そう考えた場合に,ニコ動を黒字化するというのは,すごいことだぞ,と。

ひろゆき氏:
 たぶん,支えきれる余裕があるというだけだと思うんですけどね。大量のお金が必要で,おまけに当たるかどうか分からない。じゃあ出資を募ろうってことで,割とオンラインゲーム会社が上場したじゃないですか。実際それでうまくいっている。
 それでも,ユーザーが楽しんでお金を払いたいと思う時期って,たぶん読めないんですよ。どんな優秀な人でも。読めないっていうのと,お金を出した人に収益を返さなきゃいけないっていうジレンマの解決は,やっぱり無理なんですよね。早く回収したいというのと,ここはゆっくり育てなきゃいけません,で,どっちが正しいかというと,株主が正しいのが株式会社のシステムなので,普通はうまく回らないと思うんですよ。
 ドワンゴに関して言うと,株主が割と長期的に「別にいいんじゃね」って思っていることがあって,投資をしてても,すぐに利潤をとか言ってこない。余裕があるので,コミュニティを育てられるってことだと思うんですけど。

4Gamer:
 ゲームの場合は,純粋に「当て込む」としか言いようがないんですよね。当たることを前提に計画を組むしかなくて,実際当ててみせる以外に解決策はないという。
 結局弾切れをいつと見るか,それまでに戦争は終結するのかという話なんですよね。まあ,そういう問題がゲーム業界にはつきまとっていて,そういった意味で,やはり必然的にフリーライダーを抱え込むニコ動も,経営上の論点は同じだなあと。

ひろゆき氏:
 まあそうですね。

4Gamer:
 本当にそれでいけるのかなと。やっぱり予想以上にお金かかるんじゃないかとも思うんですが。

ひろゆき氏:
 オンラインゲームと違うのは,広告モデルがすでに動いていることかな。フリーライダーが増えれば増えるほど収益が上がるっていう手も,一応用意はしているので。そういう意味で,増えたから赤字に傾くというわけでもなくて,ある一線を超えると,会員が増えた=収益増となる可能性があるんで。それで株主が余裕を持って見やすいというのがあるかと思います。

4Gamer:
 確かに広告ビジネスはオンラインゲームでも注目されてはいるんだけども,まだ試行錯誤が続いていますね。

ひろゆき氏:
 本当はあまり広告に頼るべきではないと思うんですけどね。けっきょく広告って何かを見せて,その何かとは別のものを買ってもらうわけじゃないですか。結局,お金を持っている人がそこに直接お金を払いたいんじゃなく,たまたま出てきたいいものに対してお金を払っている。だから本来は,お金を払ってもいいと思えるぐらいの価値をそこで作るべきだと思うんですよ。なので,広告だけで頑張りますというのは,僕はちょっとどうかなとは思うんですけど。

4Gamer:
 つまり,ニコ動に面白いと思えるコンテンツが十分にあって,個々人がそれを面白いと思えば,会費を払うという形で,支えるのが理想と。

ひろゆき氏:
 まあ会費でもいいし,将来的には有料コンテンツも考えられます。「面白いからこいつには金払ってやれ」とかいう流れのほうが,たぶん健全だと思うんですけどね。

4Gamer:
 なるほど,それは一つの正論ですね。

ひろゆき氏:
 回りようがあるような気がするんですけどね。なんかブログ本が売れたりとか。いやまあ,全体で見るとまったく売れないのがほとんどなんですけど。ただ,実際に成功例が出れば,ブログを書いているだけで生活できるんだ,と考え出す人が出てくる。才能はあるけど,たまたまそれを世に出す機会のない人が,うまく世に出るとかっていう,期待感があるんじゃないですか。

4Gamer:
 スタッフ募集とはまったく違うレイヤーでの,人材発掘と。

ひろゆき氏:
 そこらへんで,ちゃんとユーザーに払う仕組みをやりたいとは思うんですけども,いまそれを実装してしまうと,なんかテレビ番組を上げてお金を受け取る人ってのが出てきちゃうんですよね。そういうのが出てきちゃうと,ニコ動自体が社会的に存在できなくなるので,そうならないようにしたうえで,きちんとユーザーに配布されるような仕組みを作れればとは思うんですけど。
 ただ,いくらこちらがシステム的にやれないようにしても,そういうことが何%か起こってしまうと思うんですよ。だから,もともとはこういう目的でやっているから,そういうのが出てもちゃんと「仕方ないよね」と見てもらえるような,社会情勢が出来ないと,まだちょっと難しいかなと。
 新しいことをやっているので,多少ひどい部分が出たとしても,これは仕方ないよね,と,既存の著作権者みたいな人達が生暖かい目で見てもらえるようになれば,いいと思うんですけど。

4Gamer:
 うーん,まさに世の中を変えていくことが必要って話ですね。ところで,ここまでの話だと,ニコ動で面白いことが起きる,面白いことを起こすという,そこをまず動機として話を進めてきたんですけど,御自身で,なんかこんなことに起きてもらいたいとか,こういうことをしたいとか,そういう目的意識はありますか?

画像集#007のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化

ひろゆき氏:
 いや,まさしくそのコンテンツ作っている人が,それだけで,動画を上げるだけでみんなが喜び,それで食える仕組みが出来たほうが,面白いものが増えると僕は思うので,そのほうが社会としてはいいんじゃないかなあと,思うんですけど。

4Gamer:
 それを抽象レベルでの理想といっていいわけですね。

ひろゆき氏:
 まあそうですね。

4Gamer:
 確かにすごく短期的に儲かるのかっていわれたら,儲けるつもりならほかのことやるんじゃない? って話ですよね,どうしても。

ひろゆき氏:
 僕もそう思いますよ。そういう意味ではまあ,ドワンゴもいまキツキツではないし,僕も別に生活に困ってないので,経営陣の間で,なんとかしてすぐお金を稼がなきゃいけないという危機感が,あんまりないんですよね。将来的にこういう道に行けばまあ,たぶん収益的には回るだろう,そのためには別に回り道をしても仕方ないよね,っていうコンセンサスが,取れているかどうかが,けっこう大きいと思いますけどね。

4Gamer:
 すごく遠くを見てもいい,会社だということですか。

ひろゆき氏:
 ええ。それはドワンゴの株主のおかげなんですけどね(笑)。
 いろんな要素がたまたまうまくいっちゃったっていうのもあるんですよね。株主もそうだし,社会的にもYouTubeみたいのが出てきて,これを誰かが止めようと思っても無理だということが分かった。そこで日本の会社だけ止めることはできないから,もう止めるのはあきらめたっていう。そういった外的要因もけっこうありますよね。

4Gamer:
 ドワンゴさんの大口株主さんって,なぜそれができるんでしょうね?

ひろゆき氏:
 筆頭がavexなんですよね。次が役員かな? たぶん50%以上はそこらへんで占めちゃっているんで,金のためにクーデターが起きる構造にはなっていないんですよ。まあavexさんが考えを変えれば,話は別なんですけど。
 avexさんが取り扱うタレントビジネスって,当たり外れが付き物ですよね。いっぱいやってみて,たまたま当たったらいいよね,っていう感じで。そういう回り道が当たり前と思っている会社なんで,そういう意味では運がよかったなと思いますよね。

4Gamer:
 確かに。ある種,金融の本質ですよね。

ひろゆき氏:
 まあ,大航海時代みたいな(笑)。何隻沈んでも,めぐり合わせの問題じゃ,しょうがないよね,みたいな。
 たぶん銀行とかだと,そういう判断はできないと思うんですよね。avexさんは当たらないのが普通であるというのを,肌身で分かっているので,1年とか2年という短期スパンでいちいち何か言ってきたりしないんだろうなあと。あくまで僕の想像ですけどね(笑),僕は別に役員会に出ているわけじゃないので。まあたぶんそうだとは思いますけどね。


「違法コンテンツは邪魔」


4Gamer:
 ではまた別の角度から。ちょっと無粋な質問になっちゃうかもしれないんですけど,ニコ動が大きくなっていくに当たって,現行法に抵触するコンテンツが,その推進剤というか牽引車になるってことは,はじめからある程度予想できたことですよね。

ひろゆき氏:
 まあそうですね,割と。

4Gamer:
 そのへんの過渡的な脱法要素の可能性を,どう考えていました?

画像集#021のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
ひろゆき氏:
 YouTubeに載ってるとき(SMILE VIDEOサービス開始前)は,たぶんそれで人気なんだろうなと思っていたんですが,いまは本当に減らしたいんですよね。テレビコンテンツを見たいのであればテレビを見ればいいし,Gyaoを見ればいいと思うんですよ。それなら別に僕らがやる必要はないわけで。
 僕らがやろうとしてるのは,ユーザーが作ったものをいじくって,ユーザーが楽しいと思える世界です。テレビってたぶん,出したら100万人が面白いと思えるものを作る場所ですけど,ニコ動って1万人にとって面白いものを100個作れば100万人じゃないか,っていう感覚なんですよ。
 っていうところで,ユーザー同士が他人の作品をいじり合うのも,著作権法的には基本的にアウトなんですけど,ユーザー同士ならアリにすべきだと僕は思っていて,そっちの方向に行きたいっていう。

4Gamer:
 そうですね。放送コンテンツを流したいなら,各コンテンツホルダーさんのところを営業して回るという,まったく別の会社になりますよね。じゃあ,明確な脱法コンテンツについてはシンプルに,基本排除していくと。

ひろゆき氏:
 そう,むしろ邪魔。例えばさっきの,ユーザーにお金を払う話とかも,そんなコンテンツがなければすぐできたんですよ。デメリットばっかりなんで本当に排除したいんですけど,僕がいくらこう言っても,たぶん理解してもらえない。それは,ニコ動をそういう違法コンテンツを見るために使っている人が,やっぱり出ちゃっているためで。

4Gamer:
 またいじわるな質問になりますけど,会員数号して500万,実際問題として,違法コンテンツがなかったら,この数字もまたないだろう,って思う人が多いと思うんですよ。

ひろゆき氏:
 まあ,多いと思います。でもたぶん,ほとんど変わらないと思いますよ。

4Gamer:
 変わらないというのは?

ひろゆき氏:
 ユーザー数がほとんど変化しない。違法コンテンツが完全になくなったことでユーザーが減るかというと,5%くらいしか減らないんじゃないですか。

4Gamer:
 ではそれが,立ち上げ時期だったとしたら?

ひろゆき氏:
 そもそも立ち上げ時期に,急速に会員を集める必要性を感じていなかったので。そもそも設備投資が高いっていうのがあるんで。そこを牽引する必要性はなかったんですよね,最初から。

4Gamer:
 じゃあ,ある種の脱法性,著作権者とぶつかることを折り込んだうえで全体を計画したわけではないということですか。そんな争いはまっぴらごめんだし,基本的には別にそれで客を引いたりとか,そういう風に考えたわけではないと。

ひろゆき氏:
 そういうのでやっても,あんまりメリットがないと思うんですよね。それやるんだったらGyaoさんみたいな形で,ストリーミングサーバーを用意し,要はツールとしての価格をテレビ局に払ってもらうっていう形しかない。それだったら新しくドワンゴと僕らがやる必要ないよね,っていう。

4Gamer:
 では,仮に違法コンテンツをはじめから削除できる体制を取っていたとしますよね。いまの500万人から何%減るかという話ではなく,ここまでの会員増加ペースにはどう影響していたと考えますか?

ひろゆき氏:
 会員増加はけっこう遅かったはずだと思いますね。そういう意味では。うーんでも,そんなにペース変わらなかったんじゃないかな……。どうだろう?
 「2ちゃんねる」が大きくなるときの上昇速度っていうのがあったんですけど,そういうサイトがありますよ,と周知されるのにけっこう時間がかかったんですよ。でも,いまはネットのメディアがニュースを流したりして,情報が伝わるのが早いんですよね。口コミで広がらなくても,こういう文化のものがありますよ,なら面白そうだなって入ってくる層が,割と知るのが早いので,そういう意味での上昇速度は,昔と比べてけっこう上がっているとは思いますね。

4Gamer:
 いまの会員数よりは規模の小さい,独自のメリットに特化したサービスになっていたはずだが,そんなに大きく減っていたとも思わないと。いや,どうにもですね,頭の中に500万人予定説みたいなのがあってですね,それを実現するためのツールが違法コンテンツだったんじゃないかと,陰謀論的な想像をしてしまうんですけど,そういうわけでは全然ないと。

ひろゆき氏:
 そういった動画を見たい人達は,収益に結びつかないんですよ。

4Gamer:
 でも仮定の話として,違法コンテンツがいっぱい放置されていて,それが見られるってなったら,月525円の会費で納得しちゃう人って,たぶんいっぱいいますよね。

ひろゆき氏:
 それはもちろんいると思いますよ。

4Gamer:
 だから,収益に結びつかないかどうかは疑問な気がします。

ひろゆき氏:
 でも,実際にそうすると訴えられて,損害賠償責任が発生して,お金はどんどん減っていくので。例えばほとんど売れていない映像作品が違法にアップロードされました,実際見ているのが10人でしたって場合でも,東京地裁に訴えて,これの損害は1000万円ですって言われたら,1000万円になっちゃいますからね。

4Gamer:
 なるほど,じゃあどだい成り立つはずがない,ということですね。脱法コンテンツの位置づけってそういうもので,いまは排除したいし,昔も別に入れるつもりはなかった。

ひろゆき氏:
 ただ,排除するためのスタッフのコストが高いとか,いろいろあるので。そういうのは月に数百万円かかりますからね。ちょっと不謹慎ですが,違法コンテンツはぜひ,ほかのサイトでやっていただきたい(笑)。
 本当に,ニコ動のトップページとかに「違法な動画見たいんだったら,こちらにどうぞ」って書きたいんですけど,それ書いちゃうと推奨していると取られて,怒られちゃうので(笑)。

4Gamer:
 確かに会員数とランニングコストが直結してますから,小ぶりなサイトとして回ることは考えられるんですよね。

ひろゆき氏:
 そう。とにかくいますぐ黒字化したいと思えば,いまの無料会員を全員切って,有料会員とそのための設備だけでやれば,黒字化できるんですよ。

4Gamer:
 なるほど,それはそうかもしれません。では最後になりますが,セッションを聞きに来てくれる人に向けて,PRをお願いします。

ひろゆき氏:
 いやあ,まだ何話すかも決まってないので(笑)。呼ばれて行くだけだし,どういう人がいるかも,まだよく分からないので……。どういう話題が望まれているかが分かれば,それに応えたいなとは思うんですけどね。講演って苦手なんですよ。何しゃべっていいか分からないから。聞いてくれれば答えるんですけど。そういうわけで,何に興味があるか言ってもらえれば,それにはお答えします。

4Gamer:
 当日はどんどん話題を振ってくれ,ということですね(笑)。本日はありがとうございました。


ひろゆき氏が来なかった会議スペースを,記念に撮影してみた
画像集#022のサムネイル/[OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化
 たいへん興味深い話が随所にちりばめられたインタビューになったと思うのだが,いかがだったろうか。話のついでに,このインタビューにまつわるエピソードを一つ披露しておこう。
 最初にインタビューのアポイントメントを決めて,担当者とBBA 長田克巳氏待がち合わせ場所に行ったところ,ひろゆき氏は約束の時間になっても現れなかった。「公判?」「いや差し押さえ?」「いや,我々を疑ってるのかも」とあらぬ想像を膨らませつつ,時間いっぱい待ったものの,彼はついに来なかったのである。すごすごと編集部に帰り「すっぽかされました」と簡潔に報告したところ,「それでこそ,ひろゆき氏だ」と,ネタの出来に感心する編集部員まで出る始末である。いや,単に寝過ごしただけのようなのだが。

 そんなイカしたプロローグに続くインタビュー本番は,お読みいただいたとおり,たいへん示唆に富むものとなった。例えば,コミュニティが必然的に併せ持つようになってしまう閉鎖性を意識し,情報の客観的価値を重視した結果として,匿名サービスである「2ちゃんねる」がデザインされているというくだりなどは,ある種の真理を鋭く突くものだろう。
 その確信にどこまでも忠実で,周囲に起こる軋轢を本質的な問題と考えない,ひろゆき氏ならではの手法には,もちろん読者の間でも賛否両論あると思うが,そこがまさに,荒々しいイノベーションを生み出す源泉となっているのは確かなようだ。

 質問に対する返答を,考えている時間がほとんどなく,文字どおりよどみなく答えが返ってきたことも,たいへん印象的だった。個々の論点への賛否は措いて,論理の一貫性で見るならば,彼の回答にはほとんどブレがないことに気づくだろう。これは物事について考え抜き,自分なりの理解を透徹させられた人にしか,できない芸当である。

 抽象論と,話題の反復が多い流れは,どうかご寛恕いただきたい。話のテンポゆえに,いったん聞き落とした関連事項を,あらためて拾い直す必要がしばしばあったのである。逆にいえば,あとで聞いて不要と判断した部分以外,かなり忠実に会話が再現されている。実に個性的な立ち位置にいるひろゆき氏だが,そのコミュニティ観には,さまざまな事柄へのヒントが隠されていると思う。ひろゆき氏が登壇するセッションは,3月14日の6:00PM〜6:45PM,会場B/Cで開催される。ぜひ本番も楽しみにしていてほしい。
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